輝く混沌
前回までのあらすじ…?
セラフィム「ある日突然、とある社が壊され大きな穴が開いて、そこから不特定多数の妖怪が湧き出て来て―――」
ラディ「セラフィム、嘘は止めようぜ?と言うかそのセリフ、アウト臭いから少しは自重して」
鈴蘭「と言うか二人とも、今回も此処に居ると言う事は、私達―――」
ラディ「言うな!それ以上言うな!!」
セラフィム「そうですよ。神無さんと一美さんなんて、此処にすら出て来てないんですから」
ラディ「セラフィムゥ!お前、本気で黙ってて!!と言うか真面目に前回のお浚いしないと俺達まで出れなくされちゃうよ!?」
セラフィム「………前回どこまで進みましたっけ?」
ラディ「セェーラーフィームゥー!!ハッ倒すぞ!?」
鈴蘭「えっと、晶彦君と颯ちゃん達は、一応お友達を助ける事には成功したけれど、気持ち悪くてバカデカイ蟲の妖魔と戦闘で大ピンチ!そこへ白銀の雪と共に舞い降りた夏美さんが魔武器の雪羅で蟲妖魔を一刀両断。蟲妖魔を半分凍らせたんだって」
セラフィム「それに引き替え…一真さん達は、何やってんですかねぇ?」
ラディ「正確には千歳さんとアッシュさんだけどな」
鈴蘭「まぁいつもの事だけどね。千歳さんとアッシュさんだし、予想は付いてたけどね…」
ラディ「そして、そんな所へ!ついに現れた自称か弱い子狐の隆浩さん!!」
セラフィム「火にガソリンぶちまけた様な感じに場を掻き混ぜましたね?」
鈴蘭「あの中に本物が居れば良いんだけどね…」
ラディ「と言う訳で、今回も混沌渦巻く自由な感じで―――!!」
二人+α『スタートです!!!』
◆ ◆ ◆
ムーンライトビル一階、噴水広場で妖魔を始末しながら神童一真は自分のハンコを奪った張本人、安倍隆浩を殺す為に大刀の魔武器・黒月を振り回す。
「いい加減くたばりやがれやぁ!!!」
「アハハハ~♪捕まえられるもんなら捕まえてごら~ん♪」
鬼の形相で黒月を振り回しながら追いかけて来る一真を心の底から嘲笑いながら隆浩sは縦横無尽に逃げ隠れする。
此処に現れた時、隆浩は二十人程居たのだが今では五人にまでその数を減らしていた。
「黒龍斬!!」
黒月に漆黒の霊力を纏わせ高密度の霊力の塊を斬撃と一緒に飛ばす一真。
放たれた斬撃は、真っ直ぐに五人の隆浩の内の一人へ進みその猛威をふるった。
「ざ~んね~ん♪ハズレだよ~ん♪」
背後から迫って来ている霊力の斬撃を隆浩はいともたやすくヒョイっと避ける。
隆浩が避けた事で一真の放った斬撃は、そのまま直進し斬撃の軌道上にいた数匹の妖魔を消し飛ばした。
「このクソがぁ!逃げてねぇで俺に殺されろ!!」
「テメェみたいな」「ニートオブナマケモノに」「本物のおいらが殺されるかっつうの!」
「と言う訳で」「くらえ!近代的なHK21(ソイツ製マシンガン)!!!!」
そう言うや否や、物陰に隠れていた隆浩Aが――――何処から取り出したのかは不明だが―――手にマシンガンを持ち何の躊躇いも無く引金を引く。
連続で撃ち放たれる弾丸は一真に向かって飛んで行ったが一真が回避した為偶然後ろの方に居た妖魔数体を理不尽な程に蜂の巣にする。
それでも一真に向かって撃ち続ける隆浩。だが一真も短距離転移術で回避し目標を失った弾丸は、射線上に居た妖魔達を蜂の巣にしていく。
「だいたいよぉ!何でテメェが俺のハンコ持ってんだよっ!!」
「偶然拾ったんだよ」
「本音は?」
「人手が足りない時」「お前の実印を餌にすれば、簡単に二人以上は」「来てくれるからな☆貴様が寝ている間に奪っておいた」
要するに、一真のハンコをネタに千歳とアッシュを釣り、その二人の手に渡るのを阻止する為に一真も一緒に来ると見越しての作戦だったようだ。まさに傍迷惑以外の何ものでも無い理由だった。
「だったらもう目的は果たしただろ!!今直ぐ返しやがれぇ!!」
「そう言う訳にもいかないんだよ」「だってさっきメールで」「手伝ってくれたら一真のハンコをあげるとあの二人に送ってしまった。」「今さらそれが嘘と言えば、おいらは確実にあの二人に殺される」
「自分で撒いた種だろうが。自業自得だ」
『グヌヌ!無いも言いかえせなんだ…!!』
図星を突かれ隆浩達は、わざとらしく目尻に涙を浮かべ泣いたフリをする。
これで同情を誘っているとは到底思えないが、その行動は同情を誘えるどころか、ウザイ事この上ない。
「だが!此処で引き下がる訳にはいかん!」「うけてみろ!最後の悪足掻き!」
『フォーメーション!五感封殺の陣!』
残り五人となった隆浩達が一斉に一真へ強襲を掛ける。
一真もそれに応戦し様としたが出来なかった。
何故なら隆浩達は、発泡スチロールを擦り合わせ更に何処から取り出したのか縦横三十センチほどの黒板を爪で引っ掻き、それをマイクとスピーカーでもって音を拡大させたからだ。
しかも自分はちゃんとヘッドホンや耳栓までしているしまつ。
ともあれそんな訳で、一真はこの“人が不快に想い、思わず耳を塞ぎたくなる音”によって両手で耳を塞ぐしか無かった為大きな隙を作ってしまう。
両手で耳を塞いだ一真に近寄った隆浩Bは懐からチューブに入ったワサビを取り出し、ニタァっとそれはそれはとても悪い事を考えている顔をした。
五人の隆浩の内一人(隆浩A)が一真の背後へ回り込みはがいじめにし動きを封じ、隆浩Bが手にワサビを持ちとても楽しそうな顔をしながら一真に近付く。
「必殺!鼻ワサビーム!!!」
説明しよう鼻ワサビームとは、相手の鼻の穴に摩り下ろしワサビを無理やり突っ込むと言うお笑い芸人的嫌がらせの事だ。
これにより鼻にワサビを突っ込まれた相手は、その余りの刺激によって暫らく嗅覚が封じられるのだ。
「は、鼻がぁ!のぉお…鼻がぁあ!!嗚呼ァ!」
鼻にワサビを突っ込まれた一真はその強烈な刺激に両手で顔を覆い、悶え苦しみ転げまわる。
「まだまだ行くぞ?必殺!イーターダークマター!!」
説明しよう、イーターダークマターとは。
どっかの誰かが料理に失敗し、モザイクが掛かる様な名状し難き何だかよく分からない未知の物体Xを無理やり口の中へ抛り込むと言う傍迷惑な嫌がらせである。
これによって、この世のものとは思えない名状し難き摩訶不思議な味が口の中に広がり味覚がおかしくなるだけでなく、酷い時には頭痛、吐き気、目眩、呼吸困難、痙攣等の症状が現れる場合がある。
「おっおえぇぇええ――――――。」
這い蹲って嘔吐し始める一真に近づいた隆浩CとDはこれまた何処から取り出したのかまったくもって不明だが、ナメクジが大量に入ったバケツを持ち、その中身を一真目掛けてぶちまけた。
この光景を見た千歳とアッシュは背筋を氷塊が滑り落ちた様な寒気と共に全身に鳥肌が立ち、数メートル一真から離れた事は余談である。
まぁ誰だって目の前であんなヌメヌメした生物を全身に浴びせられたりしたら当然の反応ではある。
それが被害者だった時には堪ったものでは無い!
「仕上げだ、くらえ!必殺、玉葱切ってたら目が沁みて来ちゃうよなぁ?的なミスト銃!」
隆浩は玉ねぎを切った時にでる硫黄化合物(硫化アリル)を集めスプレーで顔にかけると言う良い子の皆は真似すんな♪的な悪戯である。
尚、今回使用したものは目に強い刺激を与え涙が止まらなくなると言うだけの物なのでそれ以外は全くの無害である。
聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして視覚。人が持つすべての感覚をしょうも無い悪戯で封殺してしまった隆浩。
その手際の良さには呆れを通り越して称賛を送りたくなる――――やられた方はたまったものではないが。
「さて、一真弄りもとい、挨拶も済んだ事だし千歳様お尋ねしたい事がございますけど、こちらに晶彦が来られたと思うのですが見かけませんでしたか?」
先程までの虐め以外の何ものでも無い行為を挨拶と称する、五人の隆浩の内の一人が何事も無かったかのような顔で千歳に質問を投げかける。
「晶彦なら上の階に女の子と一緒に行ったわよ?」
「ふむ、だとすると…今頃夏美と合流している頃か…」
「ところで安倍君、先程メールで言ってた品を早く私にくれないかしら?」
「隆浩、このワカメビッチの言う事なんて聞かなくて良いから。コイツみたいな痴女に渡さないで一真のハンコは私が預かって置くわ。べ、別に深い意味は無いわよ!?」
「あら、雌豚さん未だ生きてらしたの?てっきり肉塊になったのかと思ったのだけどとても残念だわ。今直ぐ死んでくださらない?そうすればカズ君のハンコは私の物になって書類手続きをしてカズ君との幸せな結婚生活を送れるのよ」
「寝言は寝て言ってくれない?と言うかそのまま永眠してくれれば、ちょっとは世界の為に役に立てると思うよ」
「まぁまぁ二人とも」「今は喧嘩をしている場合じゃないでしょ?」「このウザったい妖魔達を」「さっさと片付けてしまいましょうよ」
「その前に、テメェが死ねぇ!!」
ケンカする千歳とアッシュを窘めていた隆浩達を復活した一真が躊躇いも無くもの凄い殺気を放ちながら殺しに掛かる。
それでもなお抵抗する五人の隆浩達を一真は情け容赦無く嬲り殺しにする。
そして、ピクリとも動かなくなった隆浩達の服を調べ目的の物、即ち一真のハンコを奪取する事に成功した。
「フフフ、流石だ一真」「今日のところはこれぐらいで勘弁してやろう」「だが、此処でおいらが倒れても」「第二第三の悪戯をもって」「貴様にギャフンと言わせてやる!!」「それまで、せいぜいハーレムを満喫していだいだい!ちょっおまっ!刺さってる!刺さってるから!!これ以上は、ちょっ!まっ!ら、らめぇえええ」
何処ぞの悪人の吐くセリフと名状し難い悲鳴を残しながら五人の隆浩達はこと切れた。
そして、全ての隆浩達の体が砂の様に崩れ別の妖魔が姿を現す。
そう、此処に居た隆浩達は全て“偽物”。この妖魔達は、本物の隆浩が関節技で拘束し、術で操った挙句自分の姿に変化させていたものだったのだ。
「ったく、あんのクソ狐、こんな手の込んだ事しやがって…!!」
「ねぇカズ君、この婚姻届にそのハンコを押して欲しい。寧ろそのハンコを私にちょうだい!」
「さて、取り敢えずこの妖魔達をさっさと片づけるか」
アッシュの見事なまでの空気を読まない言動を華麗にスルーして一真は大刀型魔武器の黒月を肩に担ぎながら一真達の隙を伺っていた妖魔達へ視線を向ける。
此処にきて大分時間が経過しており何だかんだで相当数の妖魔を駆除してはいるが、その数が減る気配が無い。
そんな状況に盛大に溜息をついた一真は、隆浩にやられた屈辱的な攻撃に腸が煮えくりかえっており、この妖魔達に取り敢えずやつあたりをする事を決めた。
「最初に言って置く、今の俺は――――超が付く程、機嫌が悪い!!!」
一真の謎の宣言を皮切りに妖魔達が一斉に襲いかかって来る。
脇構えに黒月を構え、一真は黒月に霊力を注ぎ込んでいく。刀身から霊力が溢れ出し赤黒いオーラを放つ。
「龍爪破!!!」
襲い来る妖魔達に向け一真は黒月を大上段から唐竹に振り下ろすと赤黒い霊力の塊が鋭い斬撃と為って放れ妖魔達を一掃する。
一真の攻撃に妖魔達は一瞬にしてその大半を塵一つ残さずに消滅させたのだった。
残ったのは見事なまでに切り裂かれた壁や天井に残った破壊の爪後だけだった。
しかし、それでも尚も湧いてくる妖魔達を一真を筆頭に千歳、アッシュの三人は、無双の如く暴れまわったのだった。
◆ ◆ ◆
時を同じくして最上階にて、超大型蟲妖魔と激闘を繰り広げていた晶彦と颯。
しかし、蟲妖魔が突如脱皮をしたかと思いきや脱皮をする前とは比較にならない程の戦闘力に晶彦は一瞬にして壁に叩きつけられ意識を飛ばしてしまう。
朱雀、青龍、六合の三人の十二神将も別の大蜘蛛を倒すので精いっぱいで颯達の援護に回すだけの余力も無く、颯は蟲妖魔に追いつめられる。
だが、どんなに頑張っても素人同然の颯に日頃厳しい訓練や修行を行っていた晶彦が手も足も出なかった相手に勝てる筈は無い。
そして案の定、颯の命を断ち切ろうと振り下ろされた蟲妖魔のハサミ。
回避する事も防ぐ事も出来ない颯に残されたのは“死”だけだった。
だが、そんな彼女の危機を救ったのは、神無月夏美だった。夏美は雪の様な純白の妖刀・雪羅でもって蟲妖魔を氷漬けにしてしまう。
間近でその様を見ていた颯は、先程まで死の恐怖に竦んでいたが、氷漬けになった蟲妖魔と雪羅を鞘に収める夏美を交互に見て夏美は思わず見惚れてしまう。
「大丈夫?怪我は無い?」
「あ、はい!大丈夫、です」
夏美に声を掛けられ思わず声が上擦ってしまいながら颯が答える。
そんな彼女を見て一安心した夏美だったが、蟲妖魔によって壁に叩きつけられた晶彦が崩れ落ちた瓦礫の中から顔を出したのを見るや溜め息交じりに近づき手を掴み、引き起こす。
「イタタタ~。あ、夏美姉ちゃん」
「あ、夏美姉ちゃん。じゃないわよ!まったく油断しちゃダメでしょ?!」
「だって僕の雷術効かないんだもん」
「青龍達が居るんだから憑依術使えば良かったでしょ」
「あ、その手が在った」
夏美の指摘にポンと手を打ちながら晶彦が答えると夏美は頭を抱え深く溜息をつく。
夏美の言う憑依術とは式神を始めとする天使や悪魔、精霊や修羅神仏等を自身の肉体、又は道具に憑依させる術の事である。
まぁもっとも、晶彦は十二神将を自身の肉体に憑依は出来ないので今回の場合、青龍、六合、朱雀の何れかを薙刀型の魔武器・影光に憑依させればよかったのだが普段あまりやらない為、今の今まですっかり忘れていたようだ。
まぁ、それをしたくても当の青龍達は別の大型蜘蛛妖魔を退治しているので出来なかったというのが正しいが今の晶彦にそこまでの結論には残念ながら辿りつく事は出来なかった。
夏美と晶彦が会話している間に如何やら青龍達の方も見事蜘蛛妖魔を退治し終わった様で三人も晶彦達に合流する。
その時、青龍達の背後にとても無残に、惨たらしく、モザイクを掛けないといけない程のグロテスクな肉塊と血溜まりがチラッと見えたが、慣れない事をして疲れているから、きっと幻を見たのだろうと颯はそれを見なかった事にした。
「ところで夏美姉ちゃん。兄ちゃんはどうしたの?一緒じゃ無かったの?」
「ん?あぁ、隆浩君なら……あれ?」
此処にきて夏美は一緒に来ていた筈の隆浩が居ない事に気が付く。夏美は周りを見渡したが隆浩の姿は何処にも見当たらない。
「もしかして、逸れた?」
「そうみたいね……」
眉間に青筋を浮べ頭痛がする程呆れる夏美。隆浩には十二神将の中でも最強の騰蛇と二番の勾陳、更に白虎も付いているから心配はいらないがこんな非常事態に何処をほっつき歩いているのやら。
そんな風に夏美がイライラしていると突如天井を突き破ってドォンと言う音と共に何かが降って来た。
「GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
天井を突き破って降って湧いたのは、8メートル程は在ろうかと言う巨体に人の倍の太さは在る腕と脚。しかも、腕は四本あり、肘の関節が二つ有ると言う奇妙な体をしており、頭の毛は無くギョロリと跳び出た四つの目に左右と下の三つに分かれて開く口顎。更にそこから伸びる長い舌と言う君の悪い顔を持った人型妖魔だった。地震にも似た振動が起こる程の雄叫びを上げた人型妖魔は飛び出た四つの目玉をギョロギョロと動かし夏美達の姿を捕捉する。
その形相に颯は小さく悲鳴を上げ肩を竦める。夏美と青龍、朱雀、六合は得物を構え臨戦体制をとる中、晶彦だけは深々と溜息を吐き露骨にめんどくさそうに振舞う。
「一真兄ちゃんじゃないけどさぁ、正直めんどくさく為って来たんだけど」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLOOOOOOOO!!!!!!」
晶彦を注意する夏美と巨人妖魔の咆哮が上がるのは略同じだった。
「来るぞ!散開!!」
青龍の号令と共に四方に跳ぶ夏美達。しかし颯だけがほんの僅かに出遅れ、そんな颯を六合が抱えて跳ぶ。
普段陰陽師として修業を行っている夏美と晶彦はこれぐらいの事は慣れているが颯に関してはつい昨日までごく普通の女の子。それが昨日今日でまともな戦闘が出来る等、漫画やアニメやラノベの中だけの話である。その為最低限の援護が必要なのである。
「あ、ありがとう、ございます」
「……」
巨人妖魔から距離をとってから降ろされた颯が礼を言うも六合は無表情で無言のまま小さく頷く。
寡黙でいささかコミュニケーションが取りづらい神将に颯は困惑しながらも眼の前の巨人妖魔へと視線を向ける。
颯の視線の先では素早い動きで飛び回りながら巨人妖魔と戦う晶彦達が映っていた。
晶彦の放つ雷撃の閃光に朱雀の放つ紅の劫火によって巨人妖魔の体を爆炎が包んでいく。
雷撃と劫火によって体を焼け爛れらせている巨人妖魔へ青龍が三日月の様な大鎌を振いその巨体を切り裂いていく。
幾重にも体を切り裂かれた巨人妖魔だが瞬く間に傷が治って行く。
その様子を目の当たりにした晶彦と夏美は頷き合い夏美が巨人妖魔を引きつけている間に晶彦は一度巨人妖魔と距離を取る。
「憑依、青龍!In影光!!」
晶彦の近くに控えていた青龍は、その身を人霊に替えるとその人霊を晶彦は影光へと憑依させる。
すると影光の形状が見る見るうちに変化し始める。刃は一回り大きくなり柄の部分には緑色の龍の装飾が。柄尻に龍の爪の様な装飾が其々施されていく。
「倶装式憑依術、青龍円月刀」
晶彦は青龍を憑依させた影光を振い、巨人妖魔へと斬りかかる。振り下ろされた影光の刃が巨人妖魔の左腕を斬り飛ばす。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
腕を斬り飛ばされた巨人妖魔は、唸り声を上げ四つの目玉を一斉に晶彦へと向ける。その瞳は苦痛と怒りでギラギラと血走っており、巨人妖魔はその獰猛さを激しく向上させていく。
そして、巨人妖魔が晶彦へ右の二つの腕で殴りかかろうとした時、突如氷の柱が伸び巨人妖魔の顎を打ち抜く。
夏美の雪羅は氷や雪を生みだし操ると言う能力を持った妖刀。その能力を持って巨大な氷柱を作り上げたのだ。
夏美の生み出した氷柱によって顎を打ち抜かれ頭からひっくり返るようにして倒れる巨人妖魔に晶彦が止めを刺そうとしたが突如飛来した群青色の光弾に阻まれ出来なかった。
「ぐあぁ!!」
「晶彦君!」
群青色の光弾を受け吹き飛ばされる晶彦に夏美は驚きと心配の入り混じった声を上げる。そんな彼女の頭上に夜の様に黒く染まった氷の塊が落ちて来た。回避しようにもその氷塊の大きさと落下速度は既に夏美の逃げ場を奪うには十分な大きさと速さを有しており、防御をしようにもその質量で押し潰されてしまう事は明白だった。
(しまっ…!?)
回避も防御も間に合わない状況に夏美は降りかかる氷塊に押し潰されそうになった正にその時、朱雀が夏美の前に立ちはだかり紅炎を纏った大剣を持って落ちて来る氷塊を真っ二つに切り裂く。
鋭い斬撃と炎によって氷塊は朱雀と夏美の両脇に落下しその4分の1が溶けて水へと変る。
「大丈夫さ?夏美譲ちゃん」
「あ、ありがとう朱雀、おかげで助かったわ」
「気をつけるさァ、新しい客人がお出ましみたいさぁ」
朱雀の言葉に夏美は顔を上げ朱雀が見つめる先を見上げる。
その視線の先には黒いローブを頭から被った人間が舞い降りていた。
「まったくどいつもこいつも使い物にならない役立たずばかりね」
舞い降りて来たその人物は呆れたように溜息をつきながら瓦礫の上に降り立つ。
その声で女である事を認識した夏美達は武器を手に身構える。
「貴女いったい何者?」
雪羅を構えながら夏美は女に問う。けれども女は夏美では無く彼女の後ろに居た颯へと視線を向けており、颯以外は全く目に入って居ないと言う体で佇む。
その態度に夏美は腹が立ったが理性でぐっと堪える。
「はぁ~あ。陰陽寮の陰陽師達がどの程度かと思ってみたら大した事無さそうね」
「それじゃあその身で確かめてみたらいいと思うよ?」
女の挑発的な言動に晶彦が瓦礫の中から飛び出し、影光に青白い稲妻を帯電させ女に跳びかかる。
「雷術、雷鳴烈破斬!!」
振り下ろされた刃から何重にも連なる青白い稲妻が放たれ黒衣の女を襲う。
けれど晶彦が放った稲妻は起き上がった巨人妖魔の腕に遮られてしまう。
「邪魔よ」
「ぐあぁ!」
攻撃を防がれた晶彦に黒衣の女は群青色の光弾を4発浴びせ吹き飛ばす。
「晶彦ぉ!」
「五月蠅いわよ」
晶彦を心配する朱雀に巨人妖魔の手が伸びその体を掴み上げる。巨人妖魔に捕まった朱雀に意識が傾いてしまい隙が出来てしまった夏美も同様に巨人妖魔に捕まってしまう。苦痛に顔をゆがませる朱雀と夏美を颯は心配し二人の名を叫ぶ。
そんな颯に黒衣の女は口も後笑みを浮かべながらゆっくりと颯に近付いていく。近づいて来る黒衣の女に颯は更に警戒を強め手に持つ聖槍、ガングニールの矛先を向ける。
そんな二人の間に六合が膝まで隠れる夜色の霊布で作られたマントを靡かせ銀槍を手に割って入る。
だが、そんな六合の事など意に介さずに黒衣の女は颯へと視線を向け揚々と言葉を紡ぐ。
「さぁて、残った邪魔者はそのイケメンな式神だけ。大人しくその手に持ってる槍を渡してくれたら貴女とこいつ等の命だけは助けてあげるわよ?」
口元に妖艶な笑みを浮かべ、黒衣の女は颯へ使い古された常套句を口にする。
その悪魔の囁きに颯は一瞬心が揺らぐ。
誰だって命が助かるなら訳の分からない槍を手放す事など当たり前過ぎる位当然の心理。
だが颯は、こういうセリフを吐くような輩が約束を守らないという事を理解している。
なのでここで颯が言うセリフは、
「断る!!」
拒絶の言葉だった。
「そう、なら全員仲良くあの世に送ってあげるわ!!」
黒衣の女が颯に向け群青色の光弾を放つ。放たれた光弾を六合が銀槍で弾くも続いて放たれた第二射に直撃し後ろの壁に吹き飛ばされてしまう。六合が庇った事により颯は吹き飛ばされずに済んだものの状況は更に悪くるだけ。
だが、そんな状況下でも颯の瞳にはまだ僅かばかりの闘志が残っていた。
それは無関係な人々の命を奪い、大切な友人を苦しめた者に対しての純粋な怒りだった。
そして今も友人を助ける為に手を貸してくれた人たちが目の前で苦しんでいる。
倒す事は出来なくともせめて一発殴って一矢報いる事ぐらいしないと颯の気が済まなかった。
黒衣の女は右手を掲げ群青色の光弾を生みだす。今度はご丁寧に先程の人一人が隠れてしまう位の大きさの物を作り出す。あれを喰らえば颯の体は後片も無く消し飛んでしまうだろう。
このまま為す術も無く死んでしまうのか―――――。
そんな事が頭に浮かんだ時、颯は己がてにもつガングニールに心の底から願った。
力が欲しい、力が欲しい。眼前の敵から夏美達を助けられるだけの力が欲しい。初めて手にした時の様にもう一度、力を貸して欲しいと。
颯が願ったその時、ガングニールが目も眩むほどの光を放つ。颯は驚き、困惑しながら咄嗟に右腕で両目を覆う。そして瞬く間にその光に飲み込まれるのだった。