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混沌の運命は廻り出す

さて、安倍兄弟と夏美そして颯の四人が絶賛大ピンチに陥っている丁度その頃、陰陽寮では――。


「このドワーフ女!よくも私の愛しのお兄ちゃんに汚らわしいものを見せつけてくれたわね!」


「誰がドワーフよ!あと誰の体が汚らしいものですって!?それとねぇ!私だって好きで見せた訳じゃないって何度言えば解るの!?このブラコン腐れ女!」


安倍隆浩の悪戯によって誤って女湯へ突撃してしまった神童一真はそこで幼馴染である楠木千歳のあられもない姿(どう言う姿かは読者の妄想にお任せする)を目の当たりにしてしまい、漫画のワンシーンの様な制裁を受けていると、騒ぎを聞き付けた一真の双子の妹である一美(かずみ)が現れ更に話しがややこしくなってしまう。

何を隠そうこの妹は血のつながった実の兄である一真の事を有ろうことか、異性として好いており熱烈を通り越した愛情表現をおこなう程の重度のブラコン。

例え幼馴染である千歳だろうと惚れた男が自分以外の女の裸を見て平気な者はいない。

否、恋のライバルである千歳だからこそ許せないのだ。


事情はどうであれ、自分以外の女の裸を見て、そこから漫画の様に恋が発展する事を恐れた一美は突如服を脱ぎだす。

自分の裸を一真に見せ先に見た千歳のあられもない姿の印象を打ち消そうという魂胆だった。

だが、そんな事を千歳が許す筈も無い。

直ぐにその魂胆を見抜き、はがいじめにして動きを封じる千歳。


「ちょっと!放しなさいよ!助けてお兄ちゃん!」


ほんのりと瞳を潤ませながら助けを求める一美。

しかし、残念な事に一真はノーマル。それに一美の行動と言動の方が常識的に考えても間違っているから一真が一美を助けることは断じてない。


「ちょっと、煩いわよさっきから」


一真達がワイワイと騒いでいると、二人の少女が現れたが現れた。

一人は一真と一美の実の姉、神童神無(しんどうかんな)。もう一人は、同じく神童家の末っ子の鈴蘭(すずらん)だ。


「まったく、あんまり煩いと近所迷惑よ!それにまだ仕事をしている人たちだっているの。分かった?」


「でもお姉ちゃん…」


「分かった?」



尚も一美が言い訳を述べ立てようとするが神無はそれを封殺する。

その時の神無の顔はそれはそれは清々しい程の笑顔だったのだが、千歳と一美の二人の目には神無の体からどす黒いオーラが見えたと言う。


「全く、一真は片付けもしないでこんな所で遊んでるんじゃないの」


「いや、姉さん。俺は別に遊んでたわけじゃ…」


「何か言った?」


「何でも無いです」


一真が言い訳を述べようとすると神無は爽やかな笑顔でそれを封殺する。

流石は神童家の長女である。


「ところで、三人とも隆浩見なかった?」


「あのチビ狐なら、さっきお兄ちゃんと鬼ごっこをしてる途中で外へ飛び出しってったっきりまだ帰って来てないわ」


「そう、それじゃ一真、これを明日までにやっといて」


そう言って神無は国語辞典三冊分ほどの厚さのプリントの束を一真に渡す。


「ちょと待ってくれ姉さん!これは何だ!」


「それはね、“隆浩さんがやる筈だった”今月に入ってからの妖怪の討伐報告書にその時の被害の始末書に計理や物品の購入と破損の名簿とそれに掛かった経費に、コミケで回る企業とサークルのリストと買う物のリストに、天文部への催促の手紙と人事部への人材要請書、それから陰陽博士への手紙だよ。」


一真の質問に対しそれまで静観を保っていた鈴蘭が書類の内容をつらつらと答えて行く。


「おいちょっと待て、今何か余計なものが混じって無かったか!?」


鈴蘭が今言った書類の中に何やら余計な物が混ざっていたようだがそんな事に一々気にしていたらダメだと言わんばかりに神無は、それはそれは清々しい笑顔でお願いした。

神無の有無を言わせぬその強引さに一真は、ハイとしか答える他無く、山の様な書類を抱えたまま項垂れてしまう。

そんな一真を置いて、神無は別の用が有ると言って鈴蘭を連れ、すたすたと廊下を歩いていく。


「……フ、フフフ」


神無の姿が見えなくなったその時、一真の中で何か糸の様な物がプツっと切れる音がしたと千歳は語るがそれはまた別の話し。

心配そうに声を掛けようとする千歳だったが、一真の体からどす黒いオーラが立ち昇って来るのを目の当たりにし、出そうとした言葉を呑み込んでしまう。


「朝起きたら一美が俺のベットに(裸で)潜り込んでいるわ、(仕事をサボって)昼寝をしようと書庫に行ったら本棚がドミノ倒しで倒れて来てそれの後片付けをやらされるわ、それが終わって風呂入ろうとしたら(隆浩が暖簾を入れ替えた為)男湯に千歳がいて桶やら石鹸やらを投げ付けられて体中痛ぇし、クソ狐は仕留め損ねるし、挙句の果てに今姉さんからクソめんどくさい書類を押しつけられる始末。」


ブツブツと今日一日自分の見に起きた出来事を愚痴る一真の体からどす黒いオーラがどんどん湧きあがって行く。

心なしか一真の足元の床にとても小さな亀裂が生じている。

その亀裂を見た瞬間、千歳と一美は本能的にそして無意識に一歩後ずさった。


そして一真は、書類の山を床に置き、廊下の窓から外へ飛び出す。

外に着地した一真は、己が愛刀である妖刀『黒月(くろつき)』を召喚する。

一真の後ろの空間に亀裂が生じ漆黒の刀の柄が顔を出す。一真はそれを右手で掴み、勢いよく引っ張ると一真の身の丈程も有る大きな片刃の大刀がその姿を現した。

一真は両手で柄を握り刀身に己が霊力を注いでいく。

刀身から赤黒い光が溢れ漆黒の電流が迸る。

そして一真は、ありったけの恨みと殺意を込め、気合と共に大刀を大上段から振り下ろす。


黒龍破(こくりゅうは)!!!!」


気合と共に振り下ろされた大刀から、漆黒の霊力の塊が放たれる。

それは瞬く間に蛇の様な龍へと変り、星が瞬く夜空へと昇って行く。

その光景を窓から見ていた千歳と一美は、恐らくあの放たれた龍の生き先に居る人物に揃って合掌をした。

だが一真は、先程自身が放った術が飛んで行った星が煌めく夜空を見上げながら露骨な舌打ちをし大刀を肩に担いで千歳達が待つ廊下へと戻って行く。

戻って来た一真が未だ不機嫌そうな顔をしていたので、千歳は一真に訳を聞いてみる。

すると


「……損ねた」


「「え?」」


「クソ狐を仕留め損ねた」


((殺す積りだったんだ……))


「まぁいい。あの駄狐が帰ってきたらキッチリ殺すからな」


「でもお兄ちゃん。その前にこの頼まれた書類の山を片づけないといけないわ。もちろん私は手伝うわよ。それで、密室で二人っきりと言う事を良い事にあんな事やこんな事を――――」


一美が妄想の彼方へとトリップを始めたと同時に一真はポケットからスマホを取り出し電話を掛け始める。


「………あ、もしもしラディ?俺だけど…」


『俺?俺って誰ですか?今、流行(はやり)のオレオレ詐欺ですか?』



「あぁ?オレオレ詐欺じゃねぇよ!つうか携帯から掛けてんだから分かるだろ!一真だよ!神童一真!」


『あぁ!一真先輩!お疲れ様です!どうしたんですか?こんな時間に』


「今姉さんから資料の整理頼まれたんだが手伝え」


『お断りします』


「そうか、じゃぁ棺桶を用意しておけ。今からお前をそれに入れてやるから」


『なんでそうなるんですか?!やめて下さいよ!それ脅しですよ!?』


「お前が断らなければ俺もこんな事を言わずに済んだし、こんな手段を取らずに済んだんだ。それにお前、暇だろ?」


『暇じゃないですよ!今漸くエリカちゃんルートに入ったとこなんですから!』


「どうせエロゲやってんだろ。つか誰だよエリカちゃんって………」


『僕は十二人の妹と恋をするって言うギャルゲのキャラですよ。エロゲじゃありません!!』


「同じだろ!?」


『同じじゃないです。全くこれだから一真さんは――――』


「何だ?」


『いえなんでも有りません。と言う訳で僕は今忙しいんです』


「そうか、そんなに死にたいか」


『だから、何で手伝うか死ぬかの二択何ですか!?』


「それはな―――」


『〈相棒に拒否権なんて無いに決まってるじゃないですか♪今さら何言ってるんですか?〉』


『ちょっ!セラフィム!?何で電話してる時に出しゃばってくんの!?つかさり気無く酷い事言うな!』


『〈だって事実ですから♪〉』


「セラフィムの言うとおりだ」


『一真先輩もセラフィムもひどっ!?と言うかセラフィム!僕はセラフィムの(マスター)でしょ!?』



『〈…あぁ、そう言えばそうでしたね〉』



『うぉい!』


「煩せぇよラディ。電話越しに怒鳴っているんじゃない」


『す、すみません…』


「じゃぁそういう事でよろしくな。……来なかったら、分かってるだろうな?」



『はぁ…分かりました。それではこのゲームをセーブしてから向かうんで待ってて下さいね』


その言葉を最後に通話は切れ、一真はすたすたと歩き出す。

そんな一真の後ろを、千歳と一美はそれぞれ左右に寄り添い互いの目から火花を散らして付いて行くのだった。



  ◆  ◆  ◆


「だからぁ、此処はお前等女子が一肌脱ぐ的な感じで服を脱いでいってあの化け物共の目を引きつけている間に晶彦が側面へ回り込んで一網打尽にしている間においらがとんずらするっていうのが最善だと言ってるだろ!」


「何処が最善よ!何自分だけ助かろうとしてるの!?」


「最低にも程があるよ兄ちゃん!!」


「うるせぇ!こちとら昨日の夜から一睡もしてねぇんだよ!だから早く帰って飯食って風呂入って寝てぇんだよ!!」


「寝て無いのは徹夜でモン狩りやってたからでしょ!」


「だって中々宝玉でねぇんだもんよ、仕方ねぇだろ!」


「いつか天罰喰らうよきっと」


「私もそう思う」


異形の大群から全速力で逃げながら安部隆浩、晶彦、神無月夏美の三人は場違いな口喧嘩をおっぱじめていた。

その横で不幸な偶然にも巻き込まれてしまった龍ヶ峰颯は荒い息でツッコミを入れる。


「そっそれより…ぜぇ…あんたら何でそんな…ぜぇ…余裕…」


「鍛えてるからね」


「あぁ、何でこんなに“か弱い”おいらがこんな目に合わなければならないんだ」


そんな事を言いながら隆浩は懐から手榴弾を取り出し手慣れた手つきで安全ピンを抜き、ゴミを捨てるような手つきで後ろへと放る。

隆浩の手から離れた手榴弾は地面を数回跳ね異形の大群へと転がって―――。


―――ドォン―――


手榴弾は迫り来る異形の大群を木端微塵に吹き飛ばした


「ホント、最近は物騒で困るよなぁ」


『いや、隆浩君/兄ちゃん/あんたの方が物騒だ』



しれっと言う隆浩に三人の容赦の無いツッコミが一斉に浴びせられる。

そんな三人のツッコミに尚も自分がか弱いと言いはる隆浩であった。

異形達の大群が現れてから既に15分程経っているのだが、その間隆浩は逃げながら手榴弾を12個、サブマシンガンを2丁、ショットガン3丁ロケットランチャー15発を使い迎撃しているのだ。

何処にそんな物騒なものを隠し持っていたのかと問いただしたくなった颯だったが、そんな事を聞いている余裕は残念ながら今の彼女には無かった。

爆発から免れた異形達が迫って来るのを見てあからさまな舌打ちをするのだった。


「ちっ。しつこい奴らだなぁ~。さっきので護身用の銃火器は使いきっちまったと言うのに。仕方が無い、やはりここは女子二人が服・・・もとい一肌脱ぐの作戦で」


「「誰がするかぁ!!」」


「ダメか?」


「ダメに決まってるでしょ兄ちゃん!!と言うか少しは真面目にやってよ!」


「そうか、ならしょうがない」


そう言うや否や隆浩は反転しその場に留まり、両手で素早く(うし)(とら)(いぬ)の順で印を結ぶ。

そして結び終わると両の掌を地面に付け霊力を一気に開放する。


土術(どじゅつ)土龍槍(どりゅうそう)!!」


手を付いた地面からほの白い光が浮かび上がったかと思いきや、地面が盛り上がり円錐状の鋭い槍を次々に道を塞ぎながら形成されて行く。

そして、瞬く間に土の槍が異形達の体を穿ち串刺しにしていく。


「ふぅ、これでしばらくは大丈夫だろう」


「…あんた、それが在るなら最初から何でやらへんの?」


「ん~簡単に言うと霊力っつうエネルギーを一定量溜まるのを待ってたんだよね。おいら未だ未熟でか弱くて脆弱だからさっきみたいな術はそう何度も連続ではできないんだよ」


颯の問いに隆浩は懇切丁寧に説明してやる。そんな隆浩を晶彦と夏美は半眼でねめつけていた。


「コホン。呪符や護符を使えばさっき位の術なら簡単にできるよね?隆浩君。何で使わなかったのかな?」


「……」


一つわざとらしく咳払いをした夏美が笑顔で隆浩に問いかける。すると隆浩はだらだらと汗を流し始め無言のまま明後日の方を向き夏美と顔を合わせようともしなくなる。

そんな隆浩に夏美は笑顔のまま更に詰め寄り再度質問をぶつける。

その時の夏美の笑顔には何処か影が差しており何故か怖く見える。


「いや、えっと、そのですね…いつもはちゃんと持ち歩いてるんだよ?ただね、今日は偶々…そう!偶々、護符や呪符の代わりに銃火器を持っていたと言うだけの事であって、別に後で護符に霊力をチャージするのがめんどくさいとか、一枚一枚術式を入れるのがかったるいからとかそういった理由で出し惜しみをしていた訳でも使わなかった訳でも無いんだ。偶々偶然的に持って無かったから使えないと言うそう言う事なんだ。持って無い物を使う事は出来ないだろ?」


怒りを笑顔で覆い隠した表情で詰め寄る夏美に目線をそらしながら隆浩は口八丁手八丁な言い訳を並べ立てる。

隆浩の言っている事が本当であれば、それはまぁ仕方が無いなと思う颯。

彼の言う通り無い物は如何する事も出来ない。有る物を使うしかないのが正しい。そんな彼を責める事は出来ないと颯は思った。

だが夏美と隆浩がした問答により、その考えはひっくり返されるのだった。


「そう、ならなんで式神を呼ばなかったのかしら?」


「だって“あいつ等”呼んだら朝やった悪戯の件でおいらが怒られるだろ!!」


「でもどうせ家に帰っても怒られるよね?兄ちゃん」


「うぐっ!」


晶彦に図星をさされ何も言えなくなる隆浩。

事も在ろうに、この(たわ)けの【自分が怒られたくないからというくだらないプライドの為】に颯は今まで危機的状況に晒され続けていたのだ。

そんな余りにもあんまりな事実に、颯だけで無く夏美すらも沸々と怒りが込み上げて来た。


「おいおい!二人ともどうしたんだ?!そんな怖い顔して。確かにおいらの式神を呼べば事は簡単に済んだ筈だけど、式神に頼り過ぎては行けないと思うんだよ。だからさ、その手に持っている物騒な物をしまって頂けると助かるんだけど!」


良く斬れそうな日本刀にして妖刀、白雪(しらゆき)と良く刺さりそうな十字槍のガングニールを手に夏美と颯がにじり寄る。



「いやほら!ちゃんと異形共を蹴散らしたからそれで良いじゃないか!終わり良ければ全てよしって良く言うだろ?」



隆浩が必死に説得をするも二人は全く聞く耳を持たずじりじりと迫る。

そんな二人に流石に恐れをなした隆浩は二人が一歩近づく度に一歩下がる。



「いや待とう!と言うかこの距離マジでしゃれに為らないって!そんな怖い顔してると折角可愛い顔が台無しになっちまうぜ?人間笑顔が一番だって昔誰かが言ってたよ?だから笑って、怒りを収めて、武器をしまって、もう暗くなってるんだし家に帰って暖かいご飯でも食べようじゃないかってうぉ危な!そんな刀や槍で攻撃何かすんじゃねぇよ!おいらか弱いんだよ!?脆弱でひ弱で最弱なおいらを虐めて楽しいのかって危ないから!今掠ったよ!切っ先が髪の毛に掠ったよ!!よし、先ずは落ち着こう二人とも。吸ってぇ、吐いてぇ。ほら、ひっひっふぅ――」


二人の攻撃を紙一重でひょいひょいと、まるで嘲笑うかのように綺麗に避けて行く隆浩。

そんな三人のやり取りを、蚊帳の外へと追いやられた晶彦は、懐から水筒を取り出し、中に入っている緑茶をのんびりと飲みながら綺麗な景色を楽しむように眺めていたのだった。

途中隆浩が助けを求めていたりするが、自業自得とバッサリと切り捨てお茶を啜るのだった。


――――そんなこんなで10分程が経過した。―――――



「ぜぇ…ぜぇ…」


「はぁ…はぁ…」


「やれやれ、二人ともこれぐらいでへばるなんてそれでもまだ十代かい?全く、これだから近ごろの若者はダメだって言われるんだよ。ほら二人とも、これで汗でも拭きなよ」


そう言いながら隆浩が差し出したのは―――――




薄いピンクのシルクのパンティと、白地に可愛らしくデフォルトされたパンダの顔が描かれたパンツだった。



「「……///」」


隆浩が手に持つそれを目の当たりにした二人は、何かを確かめる様に自身の下半身―――主に股の間―――に手を当て見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げて行く。


「夏美、いつの間にお前こんなの履く様になったんだ?」


「「返せ!の変態!!!」」


隆浩の持つ下着を奪い返す為に、ほぼ同時に跳びかかる夏美と颯。

そんな二人を嘲笑うかのように手に持っていた下着を手から放し、サッとその場から離れる隆浩。

ひらひらと空中へ放たれた下着を引っ掴み先程とは比べ物にならない位の殺気を込め睨みつける二人。

しかし、手に持つ下着は二人が先程まで身に付けていた物なのは火を見るよりも明らかなこの状況で追撃が出来る程の余裕は今の二人には無いのであった。


「このスケベ!変態!」


「最低だよ隆浩君!!」


追撃が出来ない二人は顔を真っ赤に染め目尻に涙を浮かべながら思い付く限りの場等を隆浩へ浴びせる。

先程までの威勢は何処へやらとでも言いたげに隆浩はそんな二人を鼻で笑う。


「ハッハッハ、ホンの軽いジョークだよ。そう怒るなって。良く言うだろ?『スカートを履いた女子を見かけたら挨拶代りにスカートを捲る。パンツを履いた女子が居たならパンツを脱がせる!』だから…お い ら は 悪 く 無 い !!」


『そんな訳有るかぁ!!!』


キメ顔でバカな事を口走った隆浩の台詞に対し夏美と颯だけで無く、それまで傍観を決め込んでいた隆浩の実の弟でもある晶彦までもが揃って力の限りツッコミを入れた。


そんな三人をしり目に盛大に嘲笑う隆浩。そんな時、夜空の彼方から何かが近づいて来るのを隆浩以外の三人が気付き目を凝らしてそれを確認する。

それは夜空に溶け込んでいて見えにくかったが蛇の様なものだと言う事が分かった。

それが段々と近づいて来るにつれ、それが蛇では無く、漆黒の龍である事が分かった。

その龍を目の当たりにした夏美と晶彦はその龍の正体が霊力(エネルギー)の塊であると言う事と、それを放ったのが誰なのかが分かり、颯を連れてその場から少し離れた次の瞬間、突如上空で漆黒の龍が見えない何かに当り、その場で一瞬止まったが、直ぐにガラスが割れる音と共に再度降下を開始し始める。


そして馬鹿笑いをしている隆浩(バカ)を漆黒の龍が隆浩を呑み込んで行く。

だが、呑み込まれる寸前でその存在に気付いた隆浩は両手両足で龍の顎を閉じない様に踏ん張り、見苦しい抵抗をする。

やがて、隆浩が口につっかかった状態で漆黒の龍は、暗い茂みへとその身を躍らせながら消えて行った。

そして、数秒後。大きな爆音が夜闇に轟き、頭がアフロになり焼け焦げた隆浩が空から降って来たのだった。

それを見届けた夏美と晶彦は、隆浩を回収し、颯は事情聴取をすると言う事で陰陽寮へ同行するのだった。


  ◆  ◆  ◆


さて、何はともあれ颯達四人は無事に公園から陰陽寮へと向かう丁度その頃、公園の茂みに生える一本の木の枝先に颯の手に持つガングニールを手に入れんが為に、この騒動を引き起こした張本人である黒衣の女が無様にぶら下がっていた。

何故彼女がこのような事になっているかと言うと、時は少しばかり遡る。

晶彦と夏美が妖牛車で彼女が張った結界内に侵入したのを感知し、邪魔をされても困るので異形を数匹放ち排除を試みるも、見事失敗。

そしてバランスを崩した妖牛車が勢いよく落下し、なんとか地面に上手く着陸したものの、落下の際のスピードが上手く殺せずそのまま疾走。

そして、運悪く彼女はそのスピードの増した妖牛車に撥ね飛ばされてしまう。

まぁそれだけだったらまだ良かった。彼女は腹いせに更に異形達を召喚し自分を引いた不届き者達の始末を命じる。

だがそれらはすべて安部隆浩の手によって排除されてしまい地団駄を踏んで悔しがっていると何処からともなく霊力の塊の漆黒の龍が飛来し、自分が張った結界を食い破られてしまう。

そして、その飛来した霊力の塊が隆浩を口につっかえさせながら狙い澄ましたかのように彼女の元へととんで来て隆浩諸共大爆発。

その爆発により吹き飛ばされて今に至ると言う訳でございます。


「お、おのれぇ……よくもこの私をこけにしてくれましたわねぇ……見てなさい、次に会った時にはヒィヒィ言わせて差し上げますわ…!」


まるで悪の中ボスの様な小物のセリフを口にし、復讐を誓う黒衣の女だったが彼女が高笑いをした瞬間木の枝がボッキリと折れ彼女は地面にその身を打ち付けるのだった。



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