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混沌へと落ちる心

ども~TOUDAです。

いやはやリアルで色々な出来事が有りましたがなんとか三話目が出来上がりました。


うぅ…長かったよぉ…(涙


カオス成分多めにして少しシリアスも加えて有ります。

それでは本編スタートです。



 一真(かずま)と某ネコとネズミの様な追いかけっこを繰り広げていた隆浩(たかひろ)は、やっとの事で一真から逃げ(おお)せる事に成功し、ほとぼりが冷めるまで何処かで時間を潰そうと“狐の姿のまま”適当に歩いていると公園に辿りつく。

 時間を潰すには丁度良いと思い隆浩は公園内へ足を踏み入れる。

 隆浩は公園内に足を踏み入れた瞬間、異変に気付いた。


「これは…外界と結界内を隔絶する封絶(ふうぜつ)タイプの結界…?何故こんなものが?」


 隆浩は疑問を抱きながらも周囲を見回してみる。この結界が在ると言う事はそれを張った何者かが近くに居るからだ。

 だが周りを見回しても人の気配は感じ取れなかった。

 恐らく、外から中に入るのは簡単だが外へ出るのは難しいタイプの様で隆浩が今公園に入って来た入り口は既に無く、今来た道は雑木林に変っていた。


「うわぁ~、なんだかめんどくさい事になったなぁ…」


 ポリポリと器用に前足で頭を書きながら取り合えず、外と連絡を取るべくフワッフワの毛で覆われた尻尾から携帯を取り出してこれ又気用に前足でボタンを押し晶彦に電話を掛け様としたところで画面に表示された一文が目に飛び込んで来た。


【電波が届きません圏外デス。なので貴方は前世からやり直せ】


 その一文を見た瞬間、隆浩は、携帯を近くの木に叩き付けた。当然の事ながら携帯は見事に壊れ使い物に為らなくなった。

 念話も試してみたが予想通り通じ無かった。


「取り敢えず、出口を探すしかないかなぁ……」


 外界との連絡を諦め出口を探すべく歩き始めると遠くの方で何やら爆発音がし空へ煙が上がる。


「うわぁ~、誰か戦闘しているのかよ…」


 爆発音は何度も怒りその度に濛々と煙が上がる。恐らく誰かが戦闘を行っていて、被害を最小限にする為にこの様な結界を張ったか、相手を逃がさない為に張った物に違い無いと判断する隆浩。

 正直言って戦いに巻き込まれるのは心の底から願い下げだが、もしかしたら結界を張った人物に会えるかもしれないので隆浩は、煙の上がる方へと足早に駆けて行った。



 ◆  ◆  ◆


 異形達の猛攻に手も足も出ない紅いコートを着た男は障壁を展開しながら必死にチャンスを伺っていた。


「くっ、さっきの女の子は大丈夫だろうか…?」


 先程、異形達の攻撃によって崖の下へ落ちてしまった颯の事を心配する男は異形達に向け蒼い光の弾丸を撃ち放つ。

 放たれた弾丸は数匹の異形達の体を穿つものの致命傷には為らず異形達は尚も男に襲いかかって来る。

 それらの異形の群れを男は、手に持つ杖を使い捌いていく。

 だが数で押し込まれればにも隙が生まれてしまい右脇腹を異形のつ目が掠り血が滴り落ちる。

 脇腹に受けた痛みに顔を歪めながらも男は異形に向けて光の弾丸を数発撃ちこむ。

 数匹の異形を打倒す事に成功した男だったが、後から後から湧いて来る異形達に嫌気がさして来た。


「くっそ、切りがねぇ!」


 そんな時、林の影から黒衣の女が姿を現した。


「フフフ、無様ね。この程度の下等妖魔に手も足も出ないなんて」


 黒衣の女は男を嘲笑いながら、ゆっくりと男に近付いていく。

 男は異形の攻撃を掻い潜りながら黒衣の女へ向けて、先程異形達へ放った光弾の倍の数を放つ。

 放たれた光弾は見事に黒衣の女に命中し、幾つもの爆発と煙をあげる。

 男は荒くなった息を整えながら黒衣の女に一矢報いる事が出来た事にホッとする。

 だがそれが、その一瞬の気の緩みが、男に決定的な隙を作る事になる。

 煙が晴れるとそこには先程の攻撃をまるで何事も無かったかのように佇む黒衣の女、彼女の身に纏う黒いローブに焦げ目すらついておらず、攻撃が当ったのかどうかさえ不安に為る程、黒衣の女は全くの無傷で佇んでいた。

 その光景に男は信じられない光景を見る様な顔に為り呆然と立ち竦んでしまう。


「もうおしまい?つまらないわね。貴方程度の男がアレを持つなんて身の程知らずにも程が在るわ」


 そう言いながら黒衣の女は、右手を掲げ掌の先に魔法陣を展開し自身の真上に数百もの氷の弾槍を生み出す。


「さぁ、これが最後のチャンスよ。大人しくアレを渡してくれれば命までは取らないわ。さぁ!“ガングニール”を渡しなさい!」


「断る!あんな物の為に貴様はどれ程の人の命を奪ってきた!?あんな物を手に入れて貴様はいったい何をしようと言うんだ!!」


 黒衣の女の言葉に男は異形を薙ぎたいしながら女に喰ってかかる。男の言葉に黒衣の女は一つ小さな溜息をして掲げた右手を振り下ろす。


「そう、残念だわ。ならさっさとDEATH(デス)ッチまいなさい!!」


 黒衣の女の手が振り下ろされると男に向かって黒衣の女の頭上で待機していた氷弾が一斉に放たれる。

 放たれた氷弾を男は障壁を張り弾きながら回避する。

 林の中へ飛び込み木陰に身を隠し氷弾が止むのをじっと待つ。

 しかし、身を隠した木が氷弾によって抉り削られていく。

 男がもうだめかと思った正にその時、崖の下から立ち昇る光の柱が天を貫いた。



「何で……まさかガングニールが起動したとでも言うのか!?」


「そんな、まさかこの光は……」


 天を貫いた光に黒衣の女が気を取られた事により氷弾の雨がピタリと止む。

 女は慌てて崖の淵へと駆け寄る。光の柱は直ぐに消え、その直ぐ後に爆音が鳴り響く。

 その爆発を見て女は確信した。ガングニールが起動した事に。

 偶然か?それとも暴走か?はたまた誰かの手により偶発的に起動したのか?

 いずれにしろ早く奪取しなくてはならない女は、崖の下へと降りて行った。


 ◆  ◆  ◆


 隆浩(狐形態)は天を貫く光の柱と、突如発生した得体の知れない波動に薄ら寒さを感じていた。

 全身の毛が総毛立ち、頭の奥に警鐘が鳴り響く。

 それが一体何なのか、隆浩が知る術は無いが、兎に角あの光を発している物が碌でも無いモノだと言う事だけは本能的に察していた。


「ホント勘弁してくれよ……」


 心の底からうんざりとしながらそんな事を呟く隆浩。そして丁度、霊力が回復したことにより人の姿へと戻る事が出来た隆浩は、何処からともなく札を一枚取り出すとその札があっと言う間に狩衣と狩袴に変り身に纏う。


「元に戻った途端に魔物退治って、ついて無いにも程があんぞ!!」


 振り向き様に右手で刀印を結び横薙ぎに払う隆浩。

 放れた霊力の刃が背後に迫っていた異形の胴体を真っ二つに斬り伏せる。


「やれやれ、今夜もまた大勢で。これじゃおいらの霊力も持ちそうに無いなぁ」


 異形が振った爪をひょいひょいと避けながら隆浩は小声で詠唱を始める。

 異形の攻撃を掻い潜りながら、異形達を一か所に集めたところで間合いを取り、両手を合わせ剣印(けんいん)を結び術を発動する。


火術(かじゅつ)魔炎弾(まえんだん)!!!」


 大きく息を吸って口から巨大な火球を吹く隆浩。放たれた火球は瞬く間に異形達を呑み込みその身を消し炭へと変える

 一撃で異形達を全て滅した隆浩は、先程の光の柱が上がった場所へと向かうのであった。


 ◆  ◆  ◆


 隆浩が異形達を一掃した頃、まったくの偶然でガングニールを起動させてしまった(はやて)はと言うと。


「ふえぇええええええええ!!」


 絶賛異形達との文字通りの鬼ごっこを再開して居たところだった。


 〈つかぬことお聞きしますが、魔法又は、魔術についての知識はお持ちでしょうか?〉


「全然!全く!!持ち合わせて無いです!!!」


 颯の頭の中に直接響く声。それは手に持つ十字槍の声と言う事を颯は何となく理解した。

 と言うのも、行き成り光に包まれたかと思いきや着ていた衣服がまるでファンタジーゲームのキャラクターの様なドレス甲冑に変っていて手に持つ十字槍の矛先から何だかよく分からないエネルギー弾が撃ち出され、挙句の果てにその放たれた光弾が襲ってきた(へび)の化け物を一撃で倒したのだ。

 そして、そんな事が続いて、頭に直接響いてくる声がすれば何んとなく察しはつくと言うものだ。


 〈分かりました。では、私の指示通りに〉


「分かりました!!」


 手に持つ十字槍、ガングニールとそんなやり取りをしながら走っていると颯の目の前の茂みから小柄な少年が飛び出してきた。


「きゃぁ!」


「へ?むぎゃっ!!」


 颯は急に出て来た人影に勢い良く突っ込み、その人影とぶつかってしまう。

 颯とぶつかった人影はカエルが潰れたような声を発した。


「いったぁ~…」


「いてて、すみません急いでたもので。大丈夫ですか?」


 ぶつかった反動で尻もちをついた颯にぶつかった相手が声を掛けて来る。

 颯とぶつかったのは長い黒髪が印象的な小柄な少年だった。


「こちらこそすみません。って、こんなのんびりしとる場合やなかった!」


 颯が慌てたちょうどその時、颯が通って来た茂みから異形達が姿を現す。


「ホンマしつこいやっちゃ。あんたもぼさっとしとらんで、逃げるで!」


「うん、良いけど、何あれ?お前のお友達?」


 ぶつかった少年は起き上がりながら異形の攻撃をひょいひょいと回避し、颯と並走しながら尋ねると颯は憤慨しながらバッサリと否定する。


「あんな化けもんと誰が友達に見えんねん!」


「ふ~んそうか。もう一つ質問良いか?」


「手短にな!」


「そのコスプレは趣味か?」



 ―――ズコォ――――


 少年の思わぬ質問に颯はすっ転びそうになるもなんとか踏ん張り体勢を立て直して走る。


「この状況でそれってどうなん!?」


「ちがうのか?」


「ちゃうに決まっとるやろ!」


「んじゃその手に持ってる槍ってマジ(もん)?」


「拾ったんやけどホンマもんみたいや」


「ならそいつを使って蹴散らしゃ良いじゃねぇか。あ~らよっと!」


 そう言って少年は襲い来る異形の腕を自身の腕で円を描く様に捌きがら空きになった腹と顔に左膝蹴りから右上段回し蹴りを連続で放ち、後からきた三匹の異形ごと吹き飛ばす。

 続けて左右から着た異形の攻撃を屈んだり体を反らしたりして回避し、首を狙ってきた攻撃をしゃがんで避けた後、下段回し蹴りで異形の体勢を崩し、前転宙返りからの踵落としで異形の意識を刈り取ると、もう一体のゴリラの様な異形の攻撃を横に転がりながら回避し、反撃で繰り出した蹴りの反動を利用して立ち上がると、異形が繰り出した正拳突きを体をずらして左脇で抑え込み圧し折る。

 腕を圧し折られた異形は苦痛で悲鳴を上げるも直ぐに黙る事になる。

 少年が異形の顎を下から思い切り蹴り上げたからだ。

 少年が異形を次々に倒している頃、颯はガングニールの指示に従いながら異形達をなんとか撃退していた。


 〈利き手を前にして掌に意識を集中させて下さい〉


「は、はい!」


 颯は異形の攻撃をガングニールで防ぎながら、言われたとおりに利き手を前に出し掌に意識を集中する。

 すると、掌に光が集り野球ボールほどの大きさの塊と為る。


 〈撃って!〉


 ガングニールの指示に従いその塊を弾丸の様に飛ばす颯。

 放たれた光弾は異形の体に直撃しその巨体を吹き飛ばす。


 〈OK。今の感じ、とても良かったです〉


「そ、そうかな?」


「戦いの最中に気を抜くなよ!!」


 颯がガングニールと話していると少年から怒声がとぶ。

 その声にハッとした颯は背後からきた異形の攻撃を寸での所で回避し先程と同じ要領で異形を吹き飛ばす。

 その間にも少年は五匹の異形をまるでアクション映画さながらに打ち倒す。

 少年は異形を倒し終えると今度は颯に加勢に入る。

 颯が持つ十字槍を一緒に持ち、動かしているだけなのだが、これが面白い様に次々と異形達が倒されていく。

 背後から来た異形は少年が蹴り飛ばし、時には攻撃を避けながら二人の体を入れ替えたりする。


「ところで、お前誰かに恨まれる様な事でもしたのか?」


「そんなんなる訳無いやん!と言うか今それどころやないやろ!?」


「そうか?おっと危ねぇなっ!」


「そうや。と言うか、あんたは何でそんなに強いん?」


「えぇ~?おいらの何処が強いって?こんなにか弱いの…にっ!セヤァ!アチョウ!!」


 そう言って少年は瞬く間に三体の異形を打ちのめす。

 それを見て颯はすぐさまツッコミを入れた。


「いやいやいや、か弱い人間がこないな化けもんを涼しい顔して打ちのめすなんてするかい!」


「いやぁ~それ程でも」


「褒めて無い!」


 軽口を言い合いながら二人は異形達を次々に倒していく。

 とっても8割は少年が一人で倒して残りは少年に颯が手伝って貰っていると言う感じだ。


「ところで、うち、あんたの名前未だ聞いとらんのやけど」


「これは失礼。おいらの名は安倍隆浩って言うんだ。まぁ見ての通り――――」


 そう言って隆浩は、懐からボーイズ対戦車ライフル(口径13.9mm 銃身長910mm 使用弾薬13.9×99mmB 装弾数5発(箱型弾倉)ボルトアクション方式 全長 1.575m 重量16kg 発射速度毎分10発 銃口初速747m/s 有効射程91m)を取り出し手慣れた手つきで安全装置を解除た。


「あ、耳塞いでろよ?」


「へ?」


 隆浩の言葉に颯が頭に?マークを浮かべるのとほぼ同時に隆浩は、銃口を異形に向け引金を引いた。


 ――ズドーン!!―――


 雷でも落ちたかのような轟音が鳴り響く。

 颯は咄嗟に両手で耳を塞ぎ体を丸める様に縮こまる。

 フッと視線を滑らせると頭や肩等を穿たれた異形が数匹、列をなして倒れ伏していた。


「とまぁ、見ての通り、ただの通りすがりの陰陽師だ」


 銃口から煙を上げる対戦車ライフルを肩に担ぎながらしれっと答える隆浩。

 そんな彼に颯はジト眼でツッコミを入れた。


「うちの知っとる陰陽師は、銃火器なんぞ使わへん」


「それは、大昔の奴を題材にしたアニメや映画を見てたんだろ?今の陰陽師はインターネットだって朝飯前だぜ?」



 颯のツッコミに隆浩は異形を蹴っ飛ばしながらしれっと答える。

 更におまけとばかりにもう一発対戦車ライフルを発砲しあっという間に襲ってきた異形を殲滅するのだった。


「よし、今のうちに此処を離れるぞ」


「せやな、あの化けもんがまた来るともしれんし」


 二人は異形達を見事撃退しその場を後にした。


 ◆  ◆  ◆


 異形の大群からなんとか逃げきった二人は公園の遊具施設が在る場所へつくと、近くに在った自販機で飲み物を買おうとするも、お金を持って居なかった。

 すると、隆浩が助走を付けて自販機に飛び蹴りをかますとガタンと音を立てて缶ジュースが出て来る。

 出て来た飲み物を隆浩は颯へと放り投げ、もう一度同じ事をして自分の分を手に入れる。

 缶ジュースを受け取った颯だったが明らかに犯罪行為な事を平然とやる隆浩にジト眼で尋ねた。


「これ明らかに泥棒とちゃうん?」


 颯が尋ねると隆浩は缶ジュースを一口飲むとしれっと答えた。


「どっかの政治家が言っていた。自分がやっている事が犯罪でも、ばれなければ犯罪では無い、とな。だから問題無い」


「それダメやん!」


 しれっととんでも無い事を口にする隆浩へ、颯は間髪入れずにツッコミを入れる。

 そんな颯のツッコミをどこ吹く風と言わんばかりに隆浩は手にした缶ジュースをぐびぐびと飲んでいく。


「そう言えば、お前魔道師か何かなのか?」


「魔道師?」


「さっきおまえが、あの化けもん倒す時に使ってたあれだよ。変った術だったが、あれは何だったんだ?」


「さぁ~?うちはこの槍の言うとおりにしただけやで?」


「へぇ~…」


「ほな、今度はうちが質問な。あんた、何もんなん?」


「さっき言っただろ?通りすがりの陰陽師だよ」


「陰陽師ってあの妖怪退治専門の?」


「そうだよ。妖怪退治に悪霊祓いに始まり、星占いに天気予報。縁結びに立身出世に安産祈願に病魔退散快復祈願の禁厭(まじない)に呪詛返しに魔除けグッツの製作及び販売に※作暦(さくれき)に祭り行事の運営、更にはHEROショーのバイトに同人誌の即売参加、演劇公演に戦興行運営及び参加等々、他にも幅広くこなす魔道師の事をこの国では、陰陽師と称するんだ」


 ※カレンダー作りのこと。


「その陰陽師が何でこんな所におんねん」


「だから言っただろ!通りすがりだって!つまり偶々偶然巻き込まれただけだっつの!ったくおいらは只、爺様にボッコボコにされた腹いせにナマケモノな神童一真(しんどうかずま)(おとしい)れただけなのに何でこんな目に遭わなければならないんだ…」


 隆浩がブツブツ愚痴をこぼしているのを聞いてしまった颯は心の中で自業自得なのでは?と思ったが敢えて口にはしなかった。

そんな時、突如茂みから何かが動く気配が生じた。

颯は思わずビクッと身構え隆浩が空かさずに対戦車ライフルを構える


シーンと静まり返った茂みをじっと見つめる二人。又先程の異形が出て来るのではと言う緊張で颯の心臓は煩いぐらいに早鐘を打つ。

息を潜めて茂みの影に隠れ潜む存在に身構える颯。隆浩はゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ茂みへと近づき隠れ潜む存在の正体を暴こうとする。

颯が危ないと注意するも大丈夫と頷くだけの隆浩に颯は少々心配に為る。

まぁ、少なくても対戦車ライフルを平気でぶっ放せるのだから心配なんぞ要らないかもしれないが…。


そして、隆浩が茂みに残り二~三メートル程の距離に近付いたその時だった!!!


「うぉおおおおおおお!?」


「ふ~やれやれってうおぉぉおおおおお!?」


「ぎゃぁああああああああああ!!!」


突如茂みの影より姿を現した紅いコートを身に纏った男にビックリした隆浩が声を上げたのを皮切りに、茂みから出て来た男もつられて驚き、二人の叫び声に颯が悲鳴をあげたのだった。


「お、おぉ…ビックリしたぁ……」


「いやそれは俺の台詞だよ!?道に迷って暗い林の中を突っ走ってやっとまともな道に出たと思ったら行き成り銃を突き付けられてんだからな!?」


「いやまさか人間が出てくるとは想わなかったからさぁ~」


対戦車ライフルを下ろして何事も無かったかのようにけらけらと笑う隆浩に男は何か言いたげだったが颯が居る事に気付いて軽く手を上げる。


「おぉ、さっきのお譲ちゃんじゃないか。無事だったんだな」


「あ、えっと、はい。こちらの安部隆浩さんに助けて貰ってなんとか無事です」


「安部隆浩です、よそしく」


「こちらこそ。そうですか貴方が……」


颯に紹介され、隆浩は軽く自己紹介をする。


「貴方も無事で何よりです。えっと…」


「あぁ、そう言えば未だ名前言って無かったっけな。俺の名はケイン。ケイン・フェドリックだ。宜しくな」


「あ、私龍ヶ峰颯(りゅうがみねはやて)言います。先程は助けて頂いてありがとうございます」


颯とケインの会話を聞いていた隆浩だったがケインが颯を助けたと言う事から彼も魔道師なのかと推測する。


「それにしても驚きました。まさか貴女(あなた)がガングニールを起動させてしまうなんて」


「ちょっと待て、今ガングニールって言ったか?」


「あぁ、言ったが」


「何や、この槍の事知っとるんか?」


「いや、全然知らん」


隆浩が急に険しい表情を浮かべながら問うてきたので二人は緊張しながら何か知っているのかと尋ねてみると即答で知らんと言う隆浩。

そんな隆浩の態度に颯とケインは見事なまでにズッコケタ。


「知らんのかい!?」


「ガングニールって名前をどっかで聞いた様な気がしただけだ」


「ややこしい言い方せんといて下さい!」


「な、殴ったな!しかも二回も殴った!親父にだって殴られた事無いのに!」


隆浩のボケに対し容赦無いツッコミを入れる颯。そんな二人の漫才を見ていたケインだったが、話しを進める為にわざとらしく咳払いをする。


「二人とも、そろそろ俺の話を聞いて欲しいんだが?」


「そやった。で、このガン何んとかっちゅう槍はいったい何なん?」


「それはな、古代遺跡から発掘された代物でな。俺はそれを輸送中だったんだが、そいつを狙う奴等が襲って来やがってよ、俺はなんとかガングニールを持って逃げて来たって訳だ」


「成程、さっきの異形共はそいつ等が放ったものか」


ケインの説明に隆浩が合点がいったらしくふむふむと頷く。

この時の隆浩の頭にたんこぶが二段重ねでくっ付いていたが気にしてはいけない。


「奴等が何が目的でこの槍を狙うかは分からないがガングニールが無事に見つかって良かったよ」


そう言いながらケインは颯にガングニールを渡す様に右手を差し出す。

その行動を見て颯はガングニールを手渡そうとする。当然だ、これは元々彼が持っていた物。それを偶然自分が拾ってしまったのだから持ち主に返すのは当たり前のことだ。

しかし、突如聞こえて来たこの世のものとは思えぬ程の不気味な唸り声が聞こえて来た。


「……一応確認するけど、二人とも今何か聞こえたりする?」


「えっと、不気味な唸り声の様なものが聞こえたな」


「うちも聞こえた」


「あぁ、つまりおいらのきのせいとか、空耳とか、聞き間違いとか、幻聴では無いと言う事だな」


「残念な事にそうなるな」


「うわぁ!それもの凄く残念やぁ!!」


ケインが告げた現実に隆浩は深い溜息を吐く。溜息を吐いてから隆浩は、めんどくさいだの、かったるいだのブツブツと文句を言っている。

颯は現実を突き付けられて己自身の不幸を呪った。神様なんぞ生まれてこのかた信じた事の無い颯だが、もし神様が居ればぶん殴ってやりたいと思っていた。


「なぁ、またあの化け物ぉ?」


「おそらくな」


「実は猫とかだったりしない?」


「うちもそれがえぇなぁ」


「二人とも現実観ようぜ!?」


現実逃避をし始めた二人を窘めつつ、ケインは恐る恐る声のした方へ進んでいく。先程の唸り声が異形であるならその位置を把握せねば対応が遅れ、命取りになりかねない。


「ちょっと見て来るから二人は此処を動くなよ」


「一人で行くの危なくね?」


「そうやで!さっき見たいな化けもんよりごっつ強い奴かもしれんのやで!?」


「なぁに、心配無いよ。俺、今日の血液型占いランキングで1位だったんだ。だから大丈夫だって。」


そう言ってケインは暗い林の中へと飛び出していった。


「よし、それじゃあおいら達はケイン殿が戻るまで此処で大人しく待つ事にしよう」


「いやいやいや、早よ追いかけた方がえぇって!一人になってまた化けもんに襲われたらどないすんねん!」


「じゃぁこうしよう。取り敢えず5分だけ待ってみる。5分経っても戻ってこなかったら様子をおいらと君、二人で観に行く。それなら良いだろ?」



「まぁ、それならえぇか」


なんて事を二人が話し合っていると、暗闇の中に光が数回点滅し更に爆発音が木霊する。

隆浩と颯の二人は互いに顔を見合わせ頷き合い、ケインと同じように真っ暗な林の中へと駆けて行くのだった。

暫らく獣道を進んで漸く少し開けた場所に出た颯と隆浩の二人。

先に辿りついた隆浩が目の当たりにした光景は想像を絶する物だった。


―――――グチャ、グチャ、バキポキ――――


数匹の巨躯の異形達がハイエナの様に肉を貪っていた。

だが、問題なのはその異形達が貪っている肉に先程ケインが来ていた深紅のコートの切れ端が付いてた事だ。

そう、奴等が貪っているのは、ケイン・フェドリックなのだ。



「はぁ…はぁ…あ、アンタ、早すぎ…はぁ…はぁ」


後からやって来た颯が大きく肩で息をし途切れ途切れに言葉を口にする。

そして隆浩の肩越しに目の前の惨状を目の当たりにすると口を押さえながら小さく悲鳴を上げる。

颯は腹の底から込み上げて来る吐き気をグッと堪える。

今此処で音を立てれば自分が“あのように為る”と理解しているからだ。


「もう嫌や・・・・・・何で、何でうちがこんな目にあわなあかんの?!」


「泣きたいのは分かるんだが、取り敢えず後にしてくれ。でなきゃ死ぬぞ?」


「もう嫌や!もうこんなん沢山や!うちらはあの化けもんに食べられて死んでまうんや!!」


目から大粒の涙を流しその場にへたりこんでしまう颯。

颯の泣き声に異形達が気付き口から唾液を垂らしながら近づいて来る。


「立て!生きる事を諦めるな!!」


へたり込む颯に隆浩の怒号が飛ぶ。しかし、颯の耳にはその声すら届かない。

先程目の当たりにした光景によって絶望と恐怖が颯の心を蝕んでいく。

深い深い闇の泥沼にはまってしまった颯。

そんな颯を異形達の魔の手が伸びる。

隆浩は異形達から颯を護りながらも必死で呼び掛ける。

けれども颯はそれに応える事は出来ない。

彼女の心は絶望と恐怖によって深い闇の底へと沈んでしまったのだから。


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