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聖なる槍と混沌の出会い

 その槍は聖なる力を持ち眩い光を放ち、闇を払い、魔を滅し、神をも殺す。その聖槍を、力を手に入れんと多くの人々が争い、奪い合い、殺し合い、終わりの見え無い戦争が長く続いた。多くの血を流し、多くの命を落とし、長き時を経て戦争は終わりを迎える事になった。ある時、槍を所有していた持ち主の手により槍は、封印される事になった。そして今、時を超え、再びその力が目覚めようとしていた。


 その槍の名は―――――――。



 ◆  ◆  ◆  


 AM11:00 陰陽寮(おんみょうりょう)


「ふぁ~…ぁぁ~…」


 安倍晶彦は大きな欠伸をしながらパソコンに向かい昨晩の報告書を書いていた。

 場所、時間、被害状況から敵の数に至るまで事細かに入力して行く。


 隣では神流月夏美が同じようにパソコンに向かって昨晩のアレが自然発生したものか、人為的に行われたものかを想定しての今後の対策などを打ち込んでいく。


 さて、そんな二人が居るのは、ジパングでも指折りの京の都を代表する魔導組織ギルドの一室。

 ギルドはジパングだけでも数千を超え、海を越えた他の国も合わせると、その数は数え切れないほど存在する。主にギルドでは一般市民(魔力や霊力を持たない者)からの依頼や国からの依頼で聖域と呼ばれる古代遺跡の調査及び聖域より発掘された古代遺産を調査し危険なものであれば回収・管理を請け負ったり、周辺地域の治安維持(悪霊払いや異形退治)等が主な仕事だ。


「ふ~ぅ、終わったぁ~……」


「僕も~………」


 データをファイルに保存し、念のためにバックアップを取り終えた二人は揃って机に突っ伏す。


「なんだなんだぁ、だらしねぇなぁ二人とも」


 さて、力無く机に突っ伏した二人へやれやれと言葉を投げ掛ける者が居た。

 その者は丸みを帯びた三角の耳をピコピコと動かし顔より突き出た鼻と口の横に長い髭を生やし、子犬か大きな猫ほどの体に柔らかい肉球と鋭い爪を備えた四肢を持ち、四肢よりも太くフサフサの毛で覆われた長い尾を生やした“一匹の狐”が体を丸めて大きな欠伸を欠いていたのだった。


「……うん、今の兄ちゃんにだけは言われたくないね」


「確かに…」


 そう言って二人はジト眼で狐に文句を言った。

 そう、先程晶彦が言った様に、何を隠そうこの狐、晶彦の実の兄である安倍隆浩なのだ。では何故、彼がこのような姿形になっているかと言うと―――。



「しょうがないだろ?今朝爺様と朝稽古をして霊力消耗して枯渇状態になってロストしちまってんだからよ」



 と言う事らしい。彼自身が持つ霊力は霊感のある普通の人より遥かに高いのだが消費量も桁違いで直ぐに枯渇状態になってしまう。そうなると彼はその血筋のせいかはたまた先祖の呪いかは定かでは無いが人の姿から狐の姿へと変わってしまうという体質を持っているのだ。


「兄ちゃんは後先考えずに大技出し過ぎなんだよ」


「何を言うか。おいらなりに計算はしている。ただ途中からめんどくさくなってるだけだ!」


「最後まで計算してよ!」


 キメ顔でアホな事を抜かす隆浩にツッコミを入れる晶彦。

 二人がそんな漫才みたいな事をしていると、どたどたと言う足音が近づいて来たかと思うや否や勢いよく扉を開ける一人の青年の姿があった。


「ぜぇ、ぜぇ、おい狐!俺をか、かくまってくれ!」


「どうしたんだ?ニートの様にダラダラしてるナマケモノこと神童一真(しんどうかずま)、そんなに慌てて」


 隆浩が飄々と尋ねると神童一真は息を整えながら、扉を閉め鍵を掛ける。


「それが、ぜぇぜぇ今、千歳に、はぁはぁ…追われてて」


「あぁ~もしかして、訓練の後にシャワーでも浴びようとしたら、間違って女子風呂の方へ入り込んでしまい、千歳殿の裸でも観たのかい?」


「…お前もしかして、風呂場の前に掛かってた暖簾(のれん)を入れ替えたりしたか?」


「…いや、して無いよそんな事。と言うかおいらには何の事だかサッパリ分からんのだが?」


 一真の問いかけに隆浩は一真から目線どころか顔を明後日の方へ向けて(しら)を切った。

 隆浩の態度に一真は事の真相を見破った。

 実は、朝稽古の後、汗を洗い流した隆浩は、千歳と廊下で擦れ違っており、彼女が風呂場へ入って行くのを目撃しており、遠くから一真の声が聞こえたので、稽古で爺様にボコボコニされた腹いせに風呂場に掛かっていた暖簾をすり替えると言う悪戯を決行したのだ。

 そうとは知らず男と書かれた暖簾通りに風呂場へと入って行く一真。

 そこから先はアニメや漫画やゲームではお約束な展開が繰り広げられ、一真は命からがら逃走し現在に至る訳である。



 そう、全て(こいつ)が仕組んだ事だと!


「三つ数える間に貴様を殺す…!!」


「その前に貴様が死ぬことになるぞ?」




 隆浩の言葉に一真は頭の上に?マークを浮べ怪訝そうにしていたが、突如肩を叩く感触と一真の背後から発せられた声に一瞬、一真は硬直し油が切れたねじの様にギギギと音が出そうに首を回し、後ろを振り向いた。

 そして背後に振りかえった一真が見たモノは……。


「カーズーマーァ!やっと捕まえたわよ!!」


 怒髪天を突くとはよく言った物だとでも言わんばかりに左右で結ったツインテールの髪が見事に逆立ち、怒りの余り鬼の形相へと変化し鬼女(きじょ)と為り果てた一真の幼馴染、楠木千歳(くすのきちとせ)(身長:152cm 体重:41kg スリーサイズ:上から71/48/78)の女の子が居た。


「カーズーマー!!」


「待て千歳!俺は嵌められたんだ!この狐が全て仕組んだ事であって、って居ねぇ!?」


 一真が後ろを指差しながら振り返るもそこに居た筈の狐(隆浩)は忽然と姿を消していた。

 よく見ると、隆浩だけでなく部屋に居た筈の晶彦や夏美を始めとした他の者達の姿もいつの間にか居なくなっていた。

 皆痴話喧嘩のとばっちりは受けたくないのだろう。

 千歳が部屋に入って来た途端に皆一目散に避難していたのだ。


「一真、覚悟は良い?」


「ま、待て千歳!話せば分かる!」


「うん、だから今から“お話し”するんじゃない」


「話しをするのに指をバキバキ鳴らす必要無いよな!?」



「問答無用!!」


「ぎゃぁぁ!」


 部屋だけでなく外にまで聞こえて来るほどの一真の断末魔が響き渡る。

 時折、机や椅子、お茶の入った湯呑みやお皿、誰のかは知らないがクマのぬいぐるみや何故こんなものが在るのか不明な同人誌や更には、いったい何に使うの?と聞きたくなる様な品々が部屋の中を飛び回った。

 その後、二人の痴話喧嘩は30分程続いたそうな。


 因みに、痴話喧嘩が終わった後、一真と隆浩が某ネコとネズミの様な追いかけっこと言う名のリアル鬼ごっこをしたのは余談である。



 ◆  ◆  ◆


 PM17:30 


 夕日が西の空に沈み始め夜の帳が下りて来る頃、学校指定の制服に身を包んだ三人の少女達がワイワイとおしゃべりをしながら下校している。


「はぁ~・・・やっとテストから解放されたわ」


 一人は腰のやや上あたりまで長く伸びた群青色の髪を先の方で束ねた少女、早乙女陽菜(さおとめひな)

 陽菜は肩を回しながら大きく息を吐き呟く。そんな陽菜の行動を彼女の隣に並んで歩く、ショートボブの赤みがかった茶髪が特徴的な少女、龍ヶ峰颯(りゅうがみねはやて)は、全くだ、とでも言わんばかりに頷く。

 そんな二人に対し長髪の栗毛をポニーテールにした少女、クレア・ナイグスは明日の休みをどう過ごすか尋ねる。


「ん~そうねぇ。久々にゲームセンターにでも行かない?」


「あ、それえぇなぁ!」


 陽菜の提案に颯が賛成の意を示し、三人はゲームセンターで遊ぶことが決まった。

 待ち合わせの場所と時間を決めた後、颯は二人と家の方向が違う為別れ一人帰路に就く。


「さぁて、最近物騒やからな。早よ帰らんと」


 学校でHRの時間に担任から異形等の化け物が多数出没し通行人などが被害に遭うと言う大変物騒な事を聞いたため颯は近道をする為に公園を突っ切る事にした。そして後にこの選択が彼女を混沌の渦へ飛び込む事になるのだった。

 しかし、未だこの時颯は、そんな事など知る術等無いのであった。


 ◆  ◆  ◆


 京の都の上空で(あか)く輝く星と(あお)く輝く星が何度もぶつかり様々な形の軌跡を描いて行く。


 二つの光は、ぶつかっては離れまたぶつかっては離れるを繰り返し、時折二つの光から多数の光球が迸り、爆発と爆煙をあげて行く。

 やがて二つの光はぶつかり合いながら地上へと落ちて行き激しい爆発により砂埃と風が吹き荒れる。


「ぐっ、貴様…目的はいったい…」


「………貴方の持っているその聖遺物、大人しく渡して貰うわ」


 薄い茶色の長髪を風に遊ばせ、紅いコートを身に纏った男が片膝をつき息も絶え絶えに口にすると黒いローブを頭から被ったもう一人の人物が口を開く。

 背格好で分かりにくかったが声から察するに女性と言う事が分かる。


「断る、と言ったら?」


「貴方を殺して、奪うだけ」


 男の問いかけに女は逆手に持った短剣を構えながら答える。

 男は手に持つ紅い宝石の付いた杖で体を支えながら立ち上がるとするも足元がふらつくも、なんとか立ち上がり、最後の力を振り絞り、左手に魔力で生み出した野球ボールほどの球体を作り出し女へ向けて撃ちだす。



「悪いが…俺も殺られる訳には…ハァ…いかねぇからな!!」


 男が毒づくのと略同時に放たれた光球が女の目の前で破裂し眩い閃光を放つ。

 そう、男が放ったのは閃光弾。目も眩むような激しい閃光に黒衣の女は腕で顔を覆って光から目を護る。

 光が収まり黒衣の女は、辺りを見回すが男の姿は何処にも無かった。


「……」


 黒衣の女は小さく舌打ちをし、自分の前に七角形の周りを二重円で囲み円と円と間に梵字が描かれた魔法陣を展開。すると陣の中心から複数の異形達が這い出て来る。



「まぁ良いわ。鬼ごっこが御望みなら思う存分逃げなさい」


 黒衣の女が口端を吊り上げながら、そう言うと魔法陣から這い出て来た異形達は声高らかに吠えた後、四方へと散って行った。


 ◆  ◆  ◆


 もう直ぐ日が沈み、夕焼けの紅から紺色の空へと変わり始めたちょうどその頃、颯は公園内を急ぎ足で歩いていた。

 よく使う近道であり、休日などには散歩コースとしてもよく来る公園だが、颯はほんの僅かだが違和感を感じていた。


「なんや…今日はやけに静かやなぁ……」


 普段なら週末の夕方は人通りは余り多くは無く、犬の散歩をする人と数人すれ違ったりする。

 しかし、今日に限って人と全くすれ違っていないのだ。ひと気の無い静寂の公園を歩いていると突如、冷たい風が吹いた。

 颯は思わず身震いをし、歩く速度を速める。心臓の鼓動が歩く速度に合わせて段々速くなっていく。しかし、この鼓動が速くなるのは、只単に歩く速度を速めただけでは無い。颯は普段と違う公園の雰囲気に本能的な恐怖を感じていたのだ。

 颯は疑問に思っていた。“いったい何がおかしいんだろう?”と。その疑問を抱いたのと何故か嫌な感じがして走りだしたのは同時だった。

 颯の抱いた違和感、その答えは静かな――否、静か過ぎる公園にあった。人とすれ違わないのは偶然かと思っていた。しかし、この公園には多種多様の野鳥が生息している。その鳥達の声や飛び立つ際の羽ばたく音が全くしない、それどころか鳥達の姿形が何処にも見当たらないのだ。


 この事に気付いた颯は自分が今居る状況が只事では無いと判断し急いで公園を抜けようと走る速度をあげる。だが幾ら走っても走っても一向に公園の出口が見えてこない。


「はぁ、はぁ、何で…何が如何なっとんのや…」


 颯は走り疲れて少し休む為に走るのを辞め立ち止まる。だが、立ち止まった事で余計に怖くなり、煩いくらいにどくどくと鼓動が早鐘を打つ。何故人が誰も居ないのか、何故鳥達が居ないのか、何故公園から出られないのか。

 それらの疑問が颯を不安にさせ、不安から恐怖が芽生え始める。早く此処から立ち去らねばいけないと直感が警鐘を響かせる。

 そして、その直感は残念なことに現実のモノとなって、颯の目の前に現れる。


「フシャァァ!」


 芋虫の様な体から長い触手を生やし頭には大きな一つ目の異形が茂みから躍り出たのだ。

 茂みから躍り出た異形を見て驚きの余り声も出ずその場に立ち止まった颯と異形の目が合う。そして異形が大きな口を開け奇声をあげると、颯は一目散に逃げ出した。

 走って、走って、走って。けれども自分以外にだれも居ないこの空間で彼女の助けを聴く者等居ない。

 故に走る。そうしなければ彼女にまっているのは、死だけなのだから。


 だが、んそれも長くは続かない。運動神経もそれなりに在り、体力にも自信があった彼女でも、疲労し足が縺れてしまい、転んでしまう。それでも彼女は諦めず立ち上がり再び走りだす。

 だが、転んだ時に足を擦り剥いてしまったらしく、痛みで早く走れない。只でさえ体力が無くなってきているところへ怪我。それでも彼女の心は折れ無かった。死にたくない、今此処で自分が諦めて死を受け入れてしまったら、大切な友達との約束を破る事になり、悲しませることになるから。


「それだけは、それだけは嫌や!!」


 颯は、すりむいた足を引きずりながらも異形から逃げる。だが、異形との距離はどんどん縮まって行く。

 颯は茂みの中へ飛び込み木々の影を縫うように走りながら異形を撒こうと試みる。暫らく走っていると、木の根元の所で座り込んでいる男性を見つけたのだった。

 薄い茶色の長髪に紅いコートを


 颯はこの公園に入って初めて人の姿を見てホッと胸をなでおろしたが、後ろから聞こえて来る異形の唸り声にハッとし座り込んでいる男性に声を掛けようと近づいていく。しかし、男は頭から血を流しており、それを見た颯は驚きの声をあげてしまう。

 颯の声に男が気付き男も驚きその拍子に傷口に響いたのか、頭を押さえよろめいてしまう。


「あ、あの…大丈夫ですか…!?」


 男に慌てて駆け寄る颯は男の体を両手で支えながら尋ねる。そんな颯の問いかけに、男は右手を上げながら大丈夫と意志表示をする。

 だが、頭から血を流してあまつさえよろめきながら大丈夫などと言われても、全然、全く、絶対に誰がどう見ても大丈夫には見えはしない。


「えぇと…頭から血ぃを流して、あまつさえよろめきながら大丈夫などと言われても、全然、全く、絶対に誰がどう見ても大丈夫には見えはしないと思うんですが…」


「んまぁ…それもそうだけどな、痛っ・・!」


「やっぱり大丈夫や無いじゃないですか!取り敢えず、此処から離れましょう。うち今まで化け物に追われとって直ぐ近くまで来とるんです。さ、(つか)まって下さい」


 そう言いながら颯は男の腕を自分の肩に回して体を支えながら歩き始める。

 そんな颯に対し男は自分を置いて逃げろと口にする。それに対し颯は、一度足を止め男に向き直り、眉根を釣り上げ馬鹿なことを言うなと男に一喝し、再び男の体を支えるようにして担ぎ、再び歩き始める。

 背後から異形の唸り声が段々近づいて来る。しかも先ほど颯と遭遇した芋虫の化け物とは別の唸り声が聞こえてくる。さらに足音も聞こえてきて、一匹や二匹では無く、数十体は居そうな感じを颯は直感で感じていた。


「くっ、なんなんやいったい!なんであんな化け物がおんねん!」


 愚痴を零しながら男を担ぎ、颯は懸命に走る。走ると言っても自分より体の大きい男を担ぎ、更には片足を怪我しているので、その速度は歩くに等しいと言える。どれ程走っていただろう。無我夢中で走り、気付いた時には、公園の端に在る丘に出てしまっていた。

 丘の上は広場になっておりベンチや自販機などが在が、崖になっており人が落ちないようにと130cmほどの高さの木で出来た埒が備え付けられている

 崖の下には鬱蒼と茂る森が広がっているが問題はその高さだ。正確な高さは分からないが大凡8階建てのビルに相当する高さが有りそうだ。とても怪我人を担いで、怪我をした足で飛び降りるなど無謀と言えよう。引き返そうにも後ろの林からは異形達の声がどんどん迫って来ている。

 目の前は崖、背後には無数の化け物。颯は崖と林を交互に見る。颯に残された選択肢は二つ。異形に殺されるか、崖の下へ飛び降りるか。

 そんな事を考えている内に異形達が林から一斉に躍り出る。異形達から伸びた無数の触手が颯と男目掛けて一斉に襲いかかる。颯は恐怖の余り目を瞑り、自らの死を覚悟した。

 しかし、いくら待っても感じる筈の痛みも、苦痛も、何も来ない。もしかしたら痛みも、苦痛も感じずに死んでしまったのかとも思ったが、どうやらそれは違うようだ。何故なら、颯本人が未だ生きているから。

 颯は恐る恐る目を開けると、自分と異形達の間に立つ男が右手を突きだし、蒼く輝く八つの角をもつ魔法陣を展開しそれが壁となり異形の攻撃を阻んでいた。

 颯は驚きの余り声も出ずただ茫然と立ち竦んでいた。颯が呆然としている間に魔法陣に罅や亀裂が入って行く。

 男は顔をしかめながら懸命に魔法陣を維持し攻撃を防いでいく。

 だが、一際大きい鹿の様な角の生えたワニが口から火炎弾を吐きだし二人の直ぐ目の前の地面で爆発する。


「きゃぁぁ!!」


 颯は爆発で起きた風圧により崖底へ飛ばされてしまう。

 颯の悲鳴に男は一瞬意識を異形達から逸らして、颯へと向けてしまう。そして、その一瞬の隙をついて異形達が一斉に襲い掛かり男は反撃する暇も、先程の様に攻撃を防ぐ間も無く、異形達の攻撃をその身に浴びてしまう。


 この時、男の懐から小さな箱が崖の底へ零れ落ち落ちて行った。


 ◆  ◆  ◆


「痛たたぁ……あれ…?うち、生きとる……?」


 頭や体中に木の葉や枝をくっつけ、体に走った痛みに颯は眼を開ける。崖から落ちた時木の枝がクッションとなり地面と激突する時の衝撃を和らげたことが幸いし、なんとか大きなけがも無く無事に済む事が出来た様だ。


「そや、あの人は何処に…」


 一緒に居た男を探す颯だが、男の姿は何処にも見当たらなかった。


「まさか、うちだけが落ちてあの人は化け物に…」


 颯は最悪のケースを想像し急いで男の許へ向かおうと立ち上がる。しかし、そこでふと冷静に考える。

 自分が戻って何が出来るのか。相手は化け物の群れ、只の学生である自分が如何こうできる相手じゃ無い。

 それにあの男の人は魔法を使える様だった。きっとあの力で化け物を蹴散らして無事な筈だ。

 それだったら自分が態々戻って助けようとするのは、かえって迷惑ではなかろうか?

 そんな事を考えていると、ふと足元に小さな箱が落ちているのに気付く。

 颯は、その箱を拾い上げたまさにその時、一匹の異形が地面から躍り出たのだ。


「あわわ!」


 地面から出て来た異形によって地面が波を打つように膨れ上がる。その影響で颯はバランスを崩しそうになたもののなんとか踏ん張り転ばずに済む事が出来た。


「今度は蛇の化け物やなんて……」


 颯の前に現れたのは蝸牛(かたつむり)の様に目が飛び出した巨大な大蛇。

 大蛇は、飛びだした目玉をぎょろりと動かし颯を凝視すると大きな雄叫びをあげる。

 後ろは崖、前には異形の大蛇。先程の様に助けてくれる者はだれも居ない。もう逃げ場の無い颯に為す術は無かった


「どうすれば、どうすればいいんや!」


 颯はこの時、心の底から自分の運の無さを呪い、神を恨み、近道しようとして公園を通った事を後悔した。

 そして同時に、親友の二人との約束を果たせない事を酷く嘆いた。

 そんな時突然颯の耳に声が響く。


 〈諦めないで。大丈夫、私が力を貸してあげる…〉


「え?きゃぁああああああ」


 突如聞こえた声に反応する間も無く、颯が持っていた箱が光を放つ。

 箱から放たれる光は一瞬にして颯を包み込む。

 更に光は、天を貫く黒い柱と為り、空気を震わせる。光を放つ箱に掛かっていたロックが“内側から破られ”中の物が飛び出してくる。箱から出て来たのは剣の様に先のとがった十字架に紅い宝石が付いたペンダントだった。

 光が収まると颯の良服が変っていた。学校の制服から一転して、紅いラインの入った黒地のジャケットにロングスカートさらに頭には黒地に黄色のリボンのついたベレーボーを被っている。

 そして颯の身の丈より頭一つ分も長い十字槍を手にしていた。


 そして、目を開けた颯が驚く暇も与えないと言わんばかりに十字槍の矛先に光が集り、そして―――。


 ――轟――


 そして、矛先からバスケットボールサイズの光の砲弾が異形の頭目掛けて放たれ、異形の頭を抉るようにブッ飛ばしたのだった。頭を吹き飛ばされた、異形は大きな音を立てて地面に崩れ落ちると、塵となって消えた。


「はぁ、はぁ、はぁ…はぁ…」


シーンと静まり返った空間に残されたのは、驚きの余り早くなった呼吸を整えながら十字槍、“ガングニール”を手に只ただ茫然と立ち竦む颯だけだった。



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