混沌の試練
三日月が夜空を照らし薄暗い部屋で一組の男女が居た。
少年は自分より少し小柄な少女に詰め寄り、少々険しい表情で少女に手を差し伸べる。
「さぁ千歳、出してもらおうか」
「無理」
「無理じゃねぇよ。良いからさっさと出せ」
「無理だよ一真……」
少年の名は神童一真、そして少女の名は幼馴染の楠木千歳。
二人とも陰陽寮に在籍している物達だ。
そんな二人が、人気の無い薄暗い室内で二人きり………。
「お前があのクソ狐から買い取ったって情報は掴んでいるんだ!大人しく俺の“女装写真”を出せ!!」
……になったとしてもエロい展開とか、R18コースとか、リア充爆発しろコンちくしょう!!等と言う展開には残念ながらならなかった。
「無理!だってこれ、1枚で500円もしたんだから!!!」
「あのクソ狐、随分ぼったくったな!?ぜってぇ後で殺す!! とりあえず千歳、大人しく買い取った写真を全部寄越せ!!」
「大丈夫だよ一真!凄く似合ってるから!」
「そう言う問題じゃねぇんだよ!!!良いからつべこべ言わずに渡せ!」
「嫌ったら嫌!!!」
「良し分かった。其処まで言うなら仕方ねぇ。力ずくで奪い取るけど良いな?」
「良いよ?その代り、私が勝ったら一日何でも言うこと聞いてもらうから!!」
◆ ◆ ◆
一真と千歳が私闘を繰り広げている頃、自称か弱い子狐の安部隆浩に連れられて、竜ヶ峰颯とラディオン・メイフィルスは問題の寺の山門前にやってきた。
「さて、問題の現場に到着したわけだが、二人とも準備は良いかい?」
「なぁ、やっぱりうちも行かなあかん?」
「今更何怖気づいてるんだよ。大丈夫だって!お前さんならできるよ!…………多分」
「その言い方めっちゃ不安になるんやけど!?少しは女の子を気遣うとかそういうもんは無いんか!?」
「馬鹿言え、おいらの方がか弱いんだから。頼りにしてんぜ♪」
親指を立てにこやかに笑う隆浩に颯は僅かながらに殺意を抱いた。
そんな二人のやり取りを蚊帳の外から生暖かい視線で見守りながらラディは、そろそろツッコミを入れようか迷っていた。
「あのう…二人ともそろそろ行きませんか?」
「あぁそうだな、こんなじゃじゃ馬と漫才してる場合じゃ無かったな」
「誰がじゃじゃ馬やねん!このちび助は!!」
「あ゛ぁ゛?誰がマイクロ豆粒ドちびだゴラァ!!!」
「先輩、誰も其処まで言ってません」
等と、三人で会話をしながら山門を潜り、寺の裏手に在る墓地へと到着した。
取り敢えず三人は手分けして不審な所が無いか調べることにした。
「あぁそう言えばラディ、お前の好きなラノベの新刊有るんだが欲しいか?」
「マジっすか!?」
「あぁ、マジだ。証拠にほれこの通り持ってきている。ほらよ」
「うぉマジだ!ヒャッホゥ!」
《ハイハ~イちょっと良いですか変態さん、あなた今仕事中ですよね?何エロ本読んでるんですか?》
「バッ!セラフィム、これはエロ本じゃ無い!ライトノベルと言う作者の夢と妄想と願望で作られた書物だよ!エロ本などと言う卑猥な物では断じて無い!!」
《獣耳の女児が鼻に謎の白いクリーム付けてシャツ(セーラー服)とシマシマ模様のパンツ姿が描かれた表紙の時点で誰が如何見てもエロ本以外の何物でも無いじゃないですか!!》
「ちげぇよ!!一見するとこれはパンツだけども、これはズボンなんだよ!!」
《どう見てもパンツですよ!?あなた頭だけで無く目までおかしくなりましたか?》
「お前主人に対してホント失礼だよな!?俺は頭も目も正常だよ!!」
《頭が正常な人はシマパンをズボンだなんて言いませんよ!!》
「ちっげぇよ!!これは見た目はシマパンだけど、この作品では女性キャラのパンツは全部ズボンって設定なんだよ!!」
とまぁ一般人からすると全く理解できない事を自分の相棒に分からせるためにラディは約2時間ほど延々と言い争うのだがそれを延々と書き連ねてしまうときりがないので省略させていただきます。
そんな二人(?)をしり目に隆浩は時計を確認しながら今宵この場所に来た“本当の目的”の事を考えていた。
(そろそろ始まる頃か…はてさて如何なる事やら…クックック)
◆ ◆ ◆
ラディ達と別れ十字槍のガングニールを手に一人で墓場を散策していた颯。
今夜は満月であった為、月明かりによって夜でもそれなりに明るいため、それ程恐怖を感じてはいなかった。
「こないなとこにほんまにゾンビなんておるんか?」
一人疑問を口にしながらも颯は墓地を恐る恐る進んでいく。すると突然、寺の鐘がゴーン、ゴーンと鳴り響いた。
「フッフッフッフ。可愛らしい嬢ちゃんじゃねえか」
「誰!?」
鐘の音とともに突如聞こえてきた声に颯は警戒を強める。
心臓の鼓動が早鐘を打ち僅かに呼吸が速くなっていく。緊張と恐怖感が颯の警戒心を高めていった正にその時、颯の足元の地面から人の手が飛び出した。
「!?」
手が地面から現れる際の音により颯は足を掴まれる寸前の所で跳躍しガングニールの矛先を地面に突き刺し矛先から拳大の光の弾丸を4発打ち込む。
爆発によって土煙を上げながら颯は爆発の衝撃を利用し跳躍して距離を取る。
すると颯とは反対方向に土煙の中から飛び出す人影を見た。
「…ほんまに出よった」
颯は目の前に現れた敵に対し思わずそう口にしてしまった。
半信半疑ではあったがまさか本当にゾンビが出るとは思っていなかったからだ。
颯の前に現れたゾンビの身長はおよそ180前後、体格は筋骨隆々の大男。服装は迷彩柄の長袖長ズボン、腰に古びた軍刀を帯刀している。
「……中々やるじゃねぇか。俺の奇襲を回避するだけでなく、反撃までしてくるとは、大した嬢ちゃんだな」
「あんたがこの辺で人襲ってる言うゾンビですか?」
「そうだ、と言ったら?」
「何でそんなことするんですか?いったい何の目的が有ってそんな…」
「そうだな、強いて言うなら………救済、かな?」
ゾンビ男の返答に颯は小首を傾げる。
なぜ今僅かに間が有ったのか?とか、何故疑問形なのか?とか。色々とツッコミたい気持ちをぐっと飲み込んで取り敢えず聞き返すことにした
「救済?」
「そうだ。人間、生きていると色んな事に悩み、苦しみ、縛られる。将来への不安、人間関係、金銭、その他諸々。そんなことで悩み苦しむ人間達を、死をもって救済しているのさ」
「そんなん救済でも何でも無い!人殺しを正当化するただの言い訳や!!」
「ならば、俺を倒し、己が正しいことを証明してみろ!!」
そう叫んだゾンビは地面を強く蹴り一瞬にして颯との間合いを詰め拳を叩きつける。
颯はとっさに障壁を張り攻撃を防ぐもその衝撃までは防ぐ事は出来ず、颯はいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
墓石に叩き付けられるかたちで吹き飛ばされた颯は、息が詰まるほどの痛みに苦悶の表情を浮かべる。
「嬢ちゃん、君が手に持つその槍はとても強力で強大な力だ。そんな物君に必要なのかい?今まで平穏に暮らしてきたんだろう?めんどくさいと言いながら学校へ通い、仲の良い友人達と他愛も無い会話をし、家族と一緒に温かい家庭で暮らしてきたんだろう?その力を捨てないと言うのならこれから君は、その平穏を失うかもしれないんだぞ?悪い事は言わない、そんな物捨てちまいな」
「確かに、この槍を、ガングニールを手にしてから化け物に襲われるわ、口の悪いチビ助にコスプレ呼ばわりされるわ、挙句の果てに友達も化けもんに襲われ命落としそうになった」
槍を杖代わりにして立ち上がる颯。そんな颯をゾンビ男は目玉が無いものの静かに見ていた。
「ほぅ、中々ガッツが有るじゃねぇか。最近の若いもんにしては中々見どころが有るな嬢ちゃん」
「アンタに褒めて貰てもうれしくないなぁ」
「遠慮は…美徳じゃねえぞぉ!!」
ゾンビ男は近くにあった墓石を掴み上げ、颯に向けて投げつける。
「!?」
勢い良く飛んでくる墓石に驚きながらも颯は見事に躱していく。
「墓石投げるなんて罰あたんでぇ!!」
「ハッハッハ!今の俺はゾンビ、死人に天罰なんぞ有る訳ねぇだろ!!」
そんな事は無いだろう。死人にも罰ぐらい当たるだろうと内心思いながらも、颯は拳大の光球を四つ生成しその内の二つをゾンビ男に向け、放つ。
だが、放たれた光球は投げつけられた墓石によって相殺される。
小規模な爆発と噴煙で互いに姿が見えなくなったその僅かな隙をつき颯はゾンビ男との間合いを一気に詰めその懐へと飛び込みガングニールを横薙ぎに払い、胴を狙う。
しかし、その攻撃を紙一重に躱し、後方へ大きく跳び体勢を立て直そうとする。が、颯もこの隙を逃すまいと残していた光球を放ちながらも間合いを詰めガングニールで畳み掛ける。
(攻撃をされていながら迎撃して噴煙でお互いに姿が見えなくなったと言うのに噴煙を利用して間合いを詰めての反撃。判断力、度胸、ともに申し分ない。おいおい、本当に素人なのか!?)
颯の攻撃を躱しながら徒手空拳で迎え撃つ。颯もガングニールで捌きながら反撃に出る。
無手で戦うゾンビ男に対し敢えて懐まで入っての超接近状態での戦闘であるにも拘らず颯はゾンビ男の攻撃について来れていた。
いくらここ数日陰陽寮で基礎訓練を受けていたからってついこの間まで極々平凡な学生生活を送っていた少女が自分と此処まで戦えるなど思ってもみなかったゾンビ男は、内心驚きながらも颯の攻撃を紙一重で躱し鳩尾に右手で掌底を打ち込み、颯の身体がくの字に曲げ吹き飛ばす。
吹き飛ばされた颯は墓石を二つ三つ巻き込み地面に転がり全身をしこたま強く打ち付けながらもすぐさまバランスを立て直し、拳大の光球を五発放ち反撃まで披露するのだった。
「おいおいマジかよ!?」
ゾンビ男は颯の反撃を予想して居なかったため反応が遅れ回避が間に合わず、攻撃をもろに受けてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
爆発によってできた噴煙を颯は肩で大きく息をしながら呼吸を整え様子を窺う。その直後、強烈な悪寒が颯の全身を駆け巡り颯は大きく後方へ跳んだ。
噴煙が晴れて姿を現したゾンビは先程とは様子が大きく違っていたのだ。
変わったのは、姿形では無く、ゾンビが放つ気迫の様なものに颯は本能的に危機感を感じていた。
ゾンビが放つ気迫の影響か周囲の温度がガクッと下がったような気がする。
しかし颯はそれが気迫等ではなくゾンビ男が霊力を増大させている影響で、それはつまり、ゾンビ男が今まで手加減して居たということの表れである事をこの時になって知る事となった。
「そろそろ、遊びは終わりにしよう」
「っ!?」
ゾンビ男が只一言言葉を発しただけで颯は、本能的に大きく後ろへと跳び間合いを取りつつゾンビ男へ光弾を乱れ撃つ。
幾重にも爆発が起こり、煙によってゾンビ男の姿が見えなくなった瞬間に颯は近くの林へ一目散に逃げ込む。
息が上がり、鼓動が煩い位に早鐘を打つ。頭の片隅で「逃げろ」と警鐘が鳴り響く。
最近出会った化け物なんかとは比べ物に成らないほどの恐怖が颯にのしかかる。
一緒に来た隆浩とラディはきっとあのゾンビに殺されてしまったのだろう。
自分より戦闘経験がある二人がやられてしまったのだとすればついこの間、ガングニールと言う“力”を手にしたばかりの自分が敵う筈もないではないか。
颯は眼前の敵から一目散に逃げ出した。
走る、走る、走る。死に物狂いに走る颯の脳裏にふと家族と二人の親友の顔が過った。
ビタッ!!!
頭に過った家族と親友。もし此処で自分が死んでしまったら大好きなそれ等の人々を悲しませてしまう。
それだけでは無い、もし此処であのゾンビ男から逃げ出し家に辿り着いたとしてもゾンビ男が追って来たらどうなってしまうか?
それが頭の中を過った瞬間、颯は振り返りガングニールを構える。
その直後、颯の目の前にゾンビ男が姿を現した。
「もう逃げるのは御終いか?嬢ちゃん」
「せやな。逃げるんはもう終いや。もう逃げたりなんかせぇへん!うちがアンタを……倒す!」
「…フッフッフッフ………フハッハッハッハッハッハ!!面白い!!為らばその力、試させて貰おう!!」
ゾンビ男は更に霊力の放出量を増大させ霊圧を上げていく。
それに伴い大気が震える。颯は恐怖心を抑えながらガングニールを構え、矛先に霊力を集中させていく。
力の差は戦闘経験の乏しい颯でも分かるほど差が有る。颯が勝つためには持てる力の全てをぶつけるしか無い。
今まではサッカーボールほどのサイズまでしか作り出せなかったが時間をかければもっと大きいサイズの光球を作り出す事は出来る。
しかし、それでは余りにも隙だらけになってしまうので今までやらなかった。
だが、不思議な事に目の前のゾンビ男は動こうとしない。
それどころか颯の攻撃を真っ向から受け止めようとしているのだ。
もしかしたら罠の可能性も捨てきれないが颯にとってはチャンスには変わりない。
例え罠だったとしても力ずくで押し通すのみ!
《ムーンライトブラスター、チャージ完了。ターゲットロックオン》
「ファイヤー!!」
ー轟ー
大の大人の三倍は有ろう光球から特大の砲撃が放たれる。
放たれた砲撃は地面を抉り、木々を薙ぎ倒し、真っ直ぐにゾンビ男へと向かっていく。
「これ程とは…だが!」
光の砲撃に飲み込まれようとしているゾンビ男は両手で未と午印を結んだ後、両の掌を地面に叩き付ける。
「防御結界!出でよ羅城門!!!」
――轟――
大気を震わせ爆発による轟音が鳴り響く。噴煙でよく見えないが颯の全力の攻撃は見事直撃した。だが―――。
「……うそやろ?」
それは心の底から漏れ出た言葉。今日までラディと模擬戦を幾度となくやってきた中で一度だけ彼から勝利をもぎ取った颯の砲撃。
その威力は地面を削り、木々を薙ぎ倒し、戦車が放つ砲撃の数百倍もの破壊力を有している。
にもかかわらず、颯の砲撃をくらったゾンビ男は傷一つ付いて居なかったからだ。
その理由は、ゾンビ男と颯を隔てるように現れた鋼鉄の門の御かげだ。
その門は見た目は鬼を連想させるほど厳つく、異様で、迫力のあるデザインが施された鋼鉄の門。
結界防御術・羅城門。その強度は“隕石にも耐えられる”と言われるほど頑丈なもの。
言うなれば“門の形をした盾”なのだ。
「いやはや心臓が止まるかと思ったぜ?ゾンビだけどよ」
ゾンビ男が肩を竦めながら羅城門の端から姿を現す。無論ゾンビ男は掠り傷一つついて居ない状態だ。
対して颯は先程全身全霊の一撃を放って満身創痍の状態。今ゾンビ男に対し颯は正に、なす術がない状態にある。
だが、颯は未だ完全には諦めていなかった。その瞳には未だ闘志が残っていたのだ。
「ほう、全力を出し切って満身創痍。碌に立てもしない状態で未だ諦めないのか?」
「はぁ…はぁ…」
もはや言葉を口にする力さえ颯には残っていない。けれども颯は目の前の敵に対し最後まで睨み敵意をぶつけていた。
けれどもそんな颯の気持ちとは裏腹に意識はだんだん遠退いていく。そして手に持っていたガングニールとともに意識をも手放しその場に倒れ伏すのであった。
そんな颯の戦いぶりを一羽の鴉が木の上で眺めていた。
夜に活動しない筈の鴉。これは隆浩が呪符で作り出した『簡易式』と言い、呪符を形代に作り出した式神であり、この鴉を通して今までの様子を窺っていたのだ。
(ほう、中々度胸は有るな…普通なら逃げ出すか腰を抜かして失神するかなんだが…まぁ一度逃げ出したとはいえ再び対じするとは……)
隆浩は水晶玉に映し出された映像を眺めつつ僅かに驚きの表情を浮かべる。
因みに、隆浩の背後ではラディが隆浩から貰ったラノベを黙々と読んでいる最中である。
「さて、叔父上、彼女の実力は、まぁ見て頂いた通りではあるのですが如何ですか?」
「ん~そうだねぇ~。」
隆浩に問われ顎を掻きながら思案するのは隆浩の叔父で陰陽博士の阿部昌和。
何故彼がこのような場所に居るのかと言うと、隆浩が颯に持ちかけた話は全て嘘で颯の実力を測るための試験を行うためのでまかせだったからだ。
因みに何故その様な嘘を吐く必要があるのかと言うと、実戦に近い状況での心構えや危機的状況に対しての対応等を見極めるためだからだ。
そして、昌和は少し考え込んだ後、水晶に映る颯に向けにこやかに口を開いた。
「運動神経は標準位だが反射神経が良いねぇ。相手の攻撃を躱してからの反撃、アレには僕も驚かされたよ。普通は素人が其処まで出来るなんて思わないからね。中々良い眼をしているよ。それに最後の逃避、アレは一見、敵前逃亡でしかないが彼女は敵が“行動を起こす前に逃走を行っている”。自分よりも各上の相手に瞬時に敵わぬと判断し逃走を図った。これはこれで正しい判断だね。」
「ですね。自分と相手の実力の差が解りきっているのに戦うのは自殺と変わらないですからね」
「まぁ、自分の実力を把握しての状況判断は良い。がしかし、そのあと彼女は逃げるのをやめ反撃に打って出た」
「実力の差は素人ですら解るほど明確、それなのに彼女は立ち向かった…血迷ったか、或いは逃げ切れないと諦め自棄になった、と言う訳では無さそうですね」
「そうだねぇ。先程の彼女の眼。アレは覚悟を決めた眼だねぇ。中々胆の据わった娘だよ」
「まぁ結果はご覧の通りですがね…ハハハ」
「まぁそこは仕方がないでしょ。彼女じゃ“彼”には如何足掻いても勝てないさ。だが、最後の彼女の攻撃…」
「まさかこの短期間で集束砲撃を会得していたとは思いませんでした。」
「高い反射神に敵との力量差を測る判断力、そして敵に立ち向かう度胸と集束砲を扱う技術。これは、文句なしの合格だね♪」
◆ ◆ ◆
さて、時は少々遡り颯が戦いに奔走している頃、陰陽寮の訓練場では千歳と一真の夫婦喧嘩によってあちらこちらに火の手が上がり、クレーターが出来ていた。
ガキン!ガキン!と甲高い金属音が幾つも鳴り響き、時折火花を散らせる。
「いい加減、諦めて写真寄こせ!!」
「一真こそ、男なら潔く諦めたらどうなの!!」
「男だからその女装写真を寄こせって言ってんだよ!!」
一真の大刀『黒月』と千歳の日本刀『安綱』の刃が重なり鍔迫り合うたびに火花が飛び散る。
互いに一歩も引かぬ激しい攻防を繰り広げ気が付けばもう既に30分は経とうとしている。
たったそれだけの時間で、しかもたった二人で辺り一面を焼野原状態にしてしまう二人の喧嘩は、陰陽寮では日常的な事なので近くを通りかかっても誰も止めに入ろうとはしない。
むしろ、『巻き込まれて被害を被りたくないので近づかない』と言うのが正しいかもしれない。一部の例外を除いては…。
鍔迫り合いから互いに跳んで距離を取り再び斬りかかろうとしたその時、一真と千歳の首筋を氷塊が滑り落ちたかのような寒気を感じた。
油の抜けた機械の様に恐る恐る振り返る二人。二人の視線の先には一真の実姉、神童神無が眉間に十字路を浮かべそれはそれはすこぶる笑顔で二人を眺めながら佇んでいた。
「一真、私いつも言ってるわよね?弱い者虐めと喧嘩は駄目って」
「姉さん!これは喧嘩じゃない!!!決闘だ!!意地とプライドを賭けた決闘なんだ!!」
「言い訳無用!!」
必死に弁明しようとした一真であったがバッサリと切り捨てられ千歳と共に約二時間程、“肉体言語によるお話し”を受けるのであった。
「あの狐ぇ!今度会ったらぜってぇぶっ殺してやる!!!」
説教もといお話を受けた一真の叫びが月夜の空にこだまするのであった。




