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カオスの幕開け

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この作品はフィクションです。この物語に登場する人物、名称、団体、事件は実在する物とは一切関係ありません。



「はぁ…はぁ…はぁ…」


夜空に星が輝き時折雲に月が隠れては現れる夜の帳、少女は息を切らせ走っていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


彼女は近くの高校に通う女子高生。部活をしていたのか、それとも委員会でこんな時間まで何かをしていたのか?はたまた成績が悪く居残りをさせられていたのか?ともかく今日は群青色に変った空に星が掛かるこんな時間に家に帰らなければ為らなくなった訳で、だがそれが不幸にも今現在の彼女を襲う悲劇でもあった。


何故なら彼女は家に帰るのが遅くなったから走っている訳ではない。

彼女は今、異形の物から逃げている所なのだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…あっ…くっ…」


少女は石に躓いて転んでも直ぐに立ち上がり必死に走る、走る、走る、走る。

だが―――。


「嘘、行き止まり…」


追手来る異形の化け物を振り切る為に曲がった先は、不幸にも行き止まりだった。

慌てて引き返そうとするも、既に異形の影が今来た曲がり角から覗いていた。


「いや……こないで…」


目に涙を浮かべ後ずさる少女。だがもう彼女に逃げ道は無い。

彼女にまっているのは死だけだった。


「嫌…嫌…死にたくない…死にたくない……!」


眼の端から大粒の涙を流し首を横に振りながら少女は自身に降りかかる現実を拒絶する。

そんな彼女を嘲笑うかのように、数匹の異形達が彼女の前に姿を現す。


蜥蜴の様な頭に筋骨隆々の人の上半身、下半身は世界一大きい毒蜘蛛で知られるタランチュラのそれに似て居る者。鶏の頭に四つ腕(よつうで)、人の上半身に蝙蝠の翼を左右に二枚づつ計二対生やし、胴から下が大蛇の体をした者。

カマキリの顔にタコの様な触手を無数に生やしムカデの体を有する者、その他にも少女の目に見えている者だけで実に数十体もの、奇妙奇天烈な化け物達が、口から唾液を滴らせながらゆっくり、ゆっくりと少女に近づいて行く。


そして、とうとう異形達は少女の直ぐ目の前まで接近した。


怖気が走る程冷たく、吐き気がするほど恐ろしい異形達の吐息が少女に浴びせられる。

少女は余りの恐怖に目を瞑る事さえできず、只々涙を流すだけ。

消え入りそうなか細い声で必死に助けを呼ぶ。


だが、彼女のその願いを聞き入れる者など今この場に居はしない。

異形の手や口に付着している赤い物や爪に突き刺さっている物がそれを裏付ける。


異形達の爪に突き刺さっている物、それは……体から夥しい程の血を流して、事切れている人間だった。


少女以外の人間は、この異形達に殺され、喰われていて助けてくれる者が居ない。

それを目の当たりにしただけで少女は己の待ち受ける結末を悟った。


そして異形達が少女へ襲い掛からんと鋭い爪が並ぶ腕を振り上げた、

まさにその時だった!!



「さぁて、狩の時間(ショータイム)と行こうか!!」


少女の耳に何処からともなく聞こえた声、その声にハッと我に返った少女は両手で頭を抱え身を丸める様にその場に伏せる。


少女が地に伏せるのと同時に何かが地面に突き刺さるような音と、異形の形容しがたい悲鳴が少女の耳朶を打つ。

恐る恐る顔を上げると、無数の矢が異形と地面に突き刺さっていた。


体を矢で射ぬかれた異形はもがき苦しみ、矢を免れた異形達は、突然の事に混乱し辺りを警戒したり動揺したりしている。


「オイオイ、余所見なんかしてる場合かよっと!」


「ギャオァァァァァァ!!!!」


「ギャギャァァアア!!」


再び声がしたと思いきや、数匹の異形の首が瞬く間に“何かに斬られ宙を舞った”


「まったく今夜は、やけに多いな」


「ほらほら、サボってないでやっつけてよね!」


「そうそう兄ちゃん、僕の分まで頑張ってよ」


「テメェ……足引っ張んじゃねぇぞ、晶彦」



いつの間にか、そして何処から湧いて出て来たのか少女の傍らに三人の人影が現れた。

更に不思議なのは少年の出で立ちが普通の洋服などでは無く、着物の様な物を身に纏い、頭に縦長の変な帽子【俗に言う烏帽子】を被っていたのだ。


訳も分からず混乱する少女を余所に晶彦と呼ばれた少年は右手の人差し指と中指を立て刀印を作り、何やらぶつぶつ言い出す。


「破邪退散!」


怒号一喝。右手を横一文字に薙ぐと異形の大群の一角を薙ぎ倒す。


「え、え、何?なになに?!何が起きてんの!?」


少女は何が起きてるか分からずパニック寸前に陥る。

まぁ、常人がこんな訳の解らない出来事に出くわせば、当然の結果と言えよう。


「ハイ、それじゃあ兄ちゃん、後よろしくね」


「オゥ、任せとけ!夏美に全部!」


「ちょっと!?少しは手伝いさない・・よっ!!」


異形の群れを薙ぎ倒した少年が、目の前で残りの異形達を次々に手に持つ得物で斬り伏せて行く二つの人影に軽く声をかける。

少年の傍らで脅える少女の目には、怒りに目を血走らせる異形達とそれに悠然と立ちはだかる二人の人影。


一人は栗色の肩ほどまで伸びた長髪を左右で結い、整った顔と琥珀色の瞳が印象的な可愛らしい少女。

手には一振りの日本刀を持ち、白い胴着と朱色の袴に身を包んでいる。


もう一人は腰まで伸びた漆黒の長髪ポニーテール、女と間違われる程の顔立ちに漆黒の瞳に上下共に純白の狩衣と狩袴に身を包んだ少年。

手には五枚の札が添えられており左腰には太刀と小太刀を一振りづつ差している。


「はぁい、そこのお譲さ~ん。呆けてないで今の内に逃げな」


「は、はい!」


軽口の様に逃げる様促す隆浩の言葉に少女はハッと我に返って一目散に走る。

そんな少女を逃がさんと言わんばかりに追うとする異形数匹を晶彦が薙刀を振い、数匹の異形の内、3匹の首をはねて立ち塞がる。


「おっと、此処から先は通行止めだよ」


「さぁて、異形の化け物共!此処でおいら達に会ったが運の尽き。貴様らは、この、半人前で、ドジで間抜けで、バカで、平でペタンコで、大平原の様な、寂しい胸が特徴的な、将来多分、きっと、何時かその内、大層立派な陰陽師に為るかもしれないけどその内なる予定の、神無月夏美(かんなづきなつみ)が退治する予定で居るから、覚悟しろよ!!」


「ちょっと待って隆浩君、今の台詞もの凄く変じゃ無い!?」


「安心しろ!間違った事は言っていない!!」(キリッ)


「と言うかアンタドサクサに紛れて私の胸が小さいって三回言わなかった!?」


「大事なことだからな、三回言ったんだ。それに事実だから問題ない!」


異形達の攻撃を避けながら少年、安倍隆浩(あべたかひろ)は親指を立て余裕の表情でサムズアップする。

そんな隆浩の態度にうがぁー!と吠えながら少女神無月夏美は手にした得物で異形達を斬り伏せて行く。


「だ・れ・の・む・ね・が・まな板かぁ!!」



怒号一喝、手にした日本刀で上段から唐竹に振り降ろす夏美。

事実とは言え、己が一番気にしている胸の事を言われれば乙女心は傷つくと言うものだ。


幾ら、壁の様に平べったくても一応女なのだから。



「煩い!!」


「いや、おいらは何も言ってないけど……おっと危ねっ」


暢気に夏美の戦闘を高見の見物極め込んで見ていた隆浩だったが異形の爪を紙一重で避け異形の顎へ掌逞を打ち込む。顎を打ち上げられ仰け反った異形の腹部に回し蹴りを放ち異形を蹴り飛ばす。


その後暫らく二人で異形達の大群と接戦を繰り広げていたが如何せん圧倒的数の前に段々苦戦を強いられていく。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。流石に数が多過ぎるわね」


「どうした?もうへばったのか?だらしねぇ奴」


「うっさいわね!じゃぁ、あんたこの状況如何にかしなさいよ!!」


「えぇ~めんどくさい。お前がやれば良いだろ?まな板」


「また言ったわねぇ!寄せて上げればC位あるわよっ!!」


「寄せてあげなきゃCもねぇんだろ?」


異形達を蚊帳の外に言い争いを始めた二人。

そんな二人に、異形達も思わず二の足を踏んでしまうが直ぐに気を取り直して二人に襲いかかる。


「はぁ~・・・やれやれ、途轍もなく、果てし無く、とんでも無く、限りなく、滅茶苦茶とてもめんどくさいが、このか弱いおいらが一肌脱いでやろう。と言う訳で、時間稼ぎ、宜しく」


「アンタねぇ…式神召喚するとかしないの!?」


「こんな雑魚に式神の手を借りるのは、なんか…負けた気がしてな」



一体全体何と何の勝負して何に負けるのか問いただしたい衝動にかられる夏美であったがぐっとこらえて異形を斬り伏せて行く。


「オンアビラウンキャンシャラクタン、オンバサラバサラバジリ、ホラマンダマンダウンハッタ」


隆浩は両手に持った刀を鞘に収め、眼を瞑り、両手を胸の前で組み両手の人差し指と中指を伸ばした印を結び、詠唱を始める。

そんな隙だらけの隆浩を異形達は当然の如く狙いをつけ牙を剥く。


だがそれら全ては尽く夏美の振う刃によって一刀の下斬り伏せられていく。


「オンアビリティ、オンギャシャラ、ウンタラタ」


「はぁぁあ!!」


隙を見て隆浩へと襲いかかる異形達、それを斬り伏せて行く夏美であったが奈何せん数が多い。

近づかねば攻撃が当らぬ刀ではどうしても手に余る。


「嘗めんじゃないわよぉ!!」


夏美は懐から呪符を数枚取り出し弩喝一声の下、呪符を異形達へと投げ放つ。

放たれた呪符はたちまち光りの矢と為り異形達の体を次々に射抜いていく。


「臨める(つわもの)戦う者、我が声が聞こえるならば我が(もと)に来たりて(じん)()せ。その身を盾とし我を護り、その身を刃に敵を討て!」


隆浩は両手で結んだ印を解き、左手の親指と薬指で輪を作り残りの指をぴんと伸ばして“矛の印”を組み右手で懐から一枚の呪符を取り出す。

中指と人差し指で呪符を挟む様にして持ち、顔の前に持って来て呪符に霊力を込める。

霊力が込められた事により、呪符が淡く光り出すと右手を大きく掲げる。


万魔調伏(ばんまちょうぶく)!!!!」


隆浩の足元から五芒星の魔法陣が広がり、隆浩を中心に眩しい程の光が溢れ出しドーム状に広がって行く。陣から立ち上る光に触れた異形達が次々に後片も無く消滅させられていく。



「ふぅ~…やれやれ。一先ずこれで終わり…かな?」


「…そうみたいね。と言うか、もう少し真面目にやってよね!!」


「そうガミガミ、ドナル○ダックみたいに怒鳴るなよ~。皺と白髪が増えるぞ?」


「今度そんな口きいたら、真っ二つにするわよ」


「刀振り下ろしておいて言う事かい!?」


笑顔のまま隆浩の頭上へ刀を振り下ろす夏美の攻撃を真剣白刃取りで防ぐ隆浩。


「しかし、こう連日連夜で異形共が出て来てるのは流石に異常だよな」


「そうね……誰かが裏で糸を引いてるのかも………」


顎に手を当て考え込む夏美を隆浩は何処か感心した風情で繁々(しげしげ)と見つめる。


「な、なによ?」


「いやなに。お前と初めて会った時より大分戦い方がマシになって来たなぁ、と思っただけだ」


訝しげに問う夏美に隆浩はクツクツと笑いながら答える。


「そうね…誰かさんのお陰で近接戦闘が上達してしまったわよ!!」


「まぁもっとも、剣の腕に比べ、胸は相変わらず残念だがちゃんと成長はしてるんだなぁ☆」


「安倍隆浩!そこへなおれぇえええええええええええええええええ!!!!」


怒号一喝と共に髪の毛が怒りの余り総毛立った夏美は正に怒髪天という言葉が相応しい程の怒りをたぎらせて、刀を抜き、大上段から振り下ろす。が、勢いよく振り下ろされた刃を隆浩はひらりと避し、怒り狂う夏美を嘲笑いながら逃走を図る。



「まぁーてぇー!!!!」


「待てと言われて待つ奴が居るか!ヴァーカ!!」


突如始まった鬼ごっこを晶彦は顔に手を当て溜息を吐きながら呆れかえって見守るのだった。



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