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にやける顔と自覚する気持ち

 2話目です。楽しんでいただけると嬉しいです。

 「うわぁ・・・。それは災難だったねぇ」


 今は休み時間。私は朝の出来事を友達の佐野麻里子に話していた。まりは高1からの仲のいい友達。いかにも清楚な美少女!って感じの見た目だが、全然清楚じゃなく、人のうわさなど面白いことが大好きで。大事なことも、くだらないこともなんでも話す仲だ。でも、今回はなんとなく気恥ずかしくて、谷原君の笑顔で嬉しくなったことは省いてしまった。

 谷原君にお疲れ様、と言われた後、ありがとう、朝から巻きこんじゃってごめんね、なんて会話をした。そしたらしばらくしないうちに廊下の二人はどこかへ行ったらしく、登校者が増えてきてなんとなく、じゃあ、と互いの友達のところに向かった。


 そして今に至る。


 「本当災難だったわ。私を巻き込まないで、って感じ」


 「でもぉ、そんなことがあった割にはなんかゆき嬉しそう〜」


 なんでこうこの子は無駄に鋭いんだろう。谷原君と話せたのはよかったな、なんて思ってたら表情に出てたらしい。

 ふわふわとパーマのかかった肩ぐらいの髪をいじりながら、わざとらしく間延びした口調でにやにやとまりが私を見る。


 「そ、そんなことないけど・・・」


 一気に歯切れが悪くなった私にまりはさらに楽しそうに問い掛けてくる。


 「そういえば、私が来るまで谷原君と話してたみたいだったけど・・・。なになに、新たな恋の予感?」


 「そんなわけないじゃない。確かに一緒に行ってくれたし、いい人だなとは思ったけど、それだけよ」


 本当にそうゆうんじゃないからね、と念を押そうとする。なのにタイミング悪く、担任の先生が来てしまい、朝のホームルームが始まってしまう。


 まりはまだにやにやしながら自分の席に戻って行った。


 まりってば絶対勘違いしてる。なんでも恋だの好きだのに絡めたがるんだから。まったく・・・。


 少し、一緒に歩いてくれたのが嬉しかっただけ。少し、自分の味方をしてくれたのが嬉しかっただけ。少し、お疲れ様の労いが嬉しかっただけ。少し、ほんの少しだけ、優しい笑顔に胸が落ち着かなくなったかっただけ。それだけ。ただ、それだけ。



 って私、朝は元彼の痴話げんかなんかに巻き込まれて最悪だったはずなのに。あのカップルのことなんかまったく考えもしずに谷原君のことばかり考えている。絶対まりが、あんなこと言うからだよ。


 全部まりのせいにして私は自分の思考回路に無理やり理由をつける。そうして、さっきからずっと今日の連絡事項をしゃべっている先生の話を聞こうとする。それでもなにかやっぱり気になって、窓側にある谷原君の席をちらっと見た。


 谷原君は暇そうに頬に手をついて窓の外を見ていた。ちょっと硬そうな短い黒髪はツンツンしている。部活のせいか冬なのに肌は少し焼けていて。通った鼻筋、大きすぎず小さすぎない二重の目。


 そういや、2年のクラス替え直後まりとあの人かっこいいねって話してたなあ。


 とか、思っていたらホームルームが終わってしまった。



 その日は一日中まりにいいじゃん、恋しちゃいなよー、楽しいよー、谷原君イケメンだしー、などとにやにやにやしながら言われ続けた。そうゆうんじゃないと否定しながら、なぜか目線は何度も谷原君を探してしまっていた。



 

 そんな最悪な朝から始まったのに少し嬉しくなったりして、そしてずっとまりにからかわれた続けた日から一週間がたった。その間は谷原君ともあのカップルとも特に関わりがなかった。まりは飽きもせずなにかと谷原君の名前を出してきたり、まだ二人はケンカ中というか彼女さんが怒っているらしい、と面白そうに話してきたけれど。 どうせ今日もまりはうるさいんだろうなぁ。そして、私は今日も谷原君の姿を目で追ってしまうのかな。


 今日は昨日睡魔に負けて終わらせられなかった数学の宿題をやるためにいつもより早く登校した。ドアを開けると、まだ教室には誰もいなかった。


 そういや、一週間前もこれくらいだったかな。なぜか早く目が覚めたから早く来ただけだったのに・・・。早起きは三文の徳っていうのはウソね。ま、もういっか。宿題やろ。


 自分の席に着き、机の上に勉強道具を出して、んーっと一回前に伸びをする。その時、がらがら、ドアを開ける音がした。目を向けると、そこには谷原君がいた。自然と目が合った。


 「・・・」


 「・・・」


 「・・・おはよ」


 目が合ったまま沈黙が続き思わず、声をかける。そして、急いで伸びたままの一時停止してしまっていた両手を戻す。すると、ふっ、と笑われた。


 「はよ。来んの早いね」


 「宿題やろうと思って。・・・なんで笑うの」


 じと、とまだひとり笑ってる谷原君を睨む。


 「いや、だって、なんか西條さんが伸びの状態なんかで止まるから。・・・つい、」


 「そ、そんなの気にしないでよ!た、谷原君がいきなり入ってくるから!」


 「ごめん、ごめん」


 謝りながらも、まだ体を揺らして笑ってる。

 

 うぅ・・・。笑いすぎでしょ。だって、だってさっきまで考えてた相手がいきなり現れたら!そりゃびっくりするでしょ!そりゃ思わず伸びのまま一時停止しちゃうでしょ!・・・そんなに笑わなくても。うああ、恥ずかしい・・・。あ、そういえば谷原君に西條さん、て呼ばれるのはじめてだ。いやだから、どうってわけじゃないけど!決してないけどね!


 思わずまりのにやける顔が思い浮かんで名前を呼ばれたのが嬉しいかもと思いそうになる自分の思考にストップをかける。


 「ごめんって。怒んないで。なんか西條さんって面白いね」


 「別に怒ってないし。それより面白いってどういう意味?」


 また、言った。なんだか気持ちが落ち着かなくなる。ただ、名前をというより苗字を呼ばれただけなのに。そんな自分の気持ちを押し隠すように不機嫌そうな顔を作って問いかける。


 「いや、なんていうかさ。この前の朝ので今まで思ってたような人じゃないんだな、って思って。そんで、今日の朝で、この前思ったような人でもないんだな、って」


 

 あ、あの時の笑顔だ。さっきまでの面白くて笑ってるような感じじゃなくて。あの時の頭を軽くたたいた時のような。優しい笑顔。私が、好きな笑顔。私が、好き、な――――?

 

 一瞬で胸に広がったその好き、の気持ちはどう考えても谷原君の笑顔にだけじゃなくて、谷原君全部に向けられていた。


 あの日までほとんど関わりもなかったのに。あの日少し助けてもらって、話しただけなのに。もう自分に言い訳なんかできなかった。


 私は、この人が、好き、なんだ。


 またまりのにやける顔が頭に浮かんだ。



 読んでくださってありがとうございます!

 

 はい、ゆきったら全く宿題してませんね。いけない子だ。

 自覚したゆき、これからどうなるのか。


 ってことで次話も読んでいただけたら嬉しいです。



 誤字脱字ございましたら教えていただけると助かります。

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