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最悪な朝とはじまる予感


 最悪、だ。最も悪いと書いて最悪。なんて今の状況に合っている言葉だろう。



 なんで高校2年生の私、西條ゆきが冬真っ只中で寒い階段で、朝からこんなことを考えなきゃいけないのかと言うと。


 上の階つまりは私の目的地の自分の教室がある階から聞こえてくる男女の話し声が原因である。ごめん、訂正する。もうこれ話し声っていうかケンカっていうか、主に女子のヒステリー声っていうか。そういやあの子束縛が強いらしいって噂だったなていうか。


 ぶっちゃけ男子の方私の元彼っていうか!なにこれ。なにこの状況。朝からケンカになることもあると思うよ。うん。そのカップルが元彼と、私が元彼にフラれてから10日後にできた元彼の彼女、ってこともあると思うよ。うん。・・・もう半年前のことだからどうでもいいけどね。


 でもさ、でもさ、何も私の登校のタイミングで私の教室への廊下ですることないじゃん。私、これどうすればいいの!?ねえ!?誰か、誰か助けて!なんでこんな時に限って私とあの2人以外誰もいないの!



 あの子と話しすぎだの、あの子と関わりすぎだの、断片しか内容は聞こえないもののどんどんヒートアップしていく女子の声。それをなだめようとする男子の声。まだまだ終わりそうにない。あの横を一人で通る勇気と度胸は私にはない。けれども今は1月中旬、冬真っ只中。生足の女子高生スタイルで階段に突っ立ているには寒すぎる。早く暖かい教室に行きたい。せめて一人じゃなければ。



 その時――。

 コツコツと階段を上がる音が下から聞こえてきた。


誰だろう?もうこの際誰でもいいから、あの2人のところを私と一緒に通ってください。


私の願いが通じたのか通じてないのか現れたのは同じクラスだがあまり関わりのない谷原遼だった。



 「何してんの、こんなとこで?」


 音楽プレーヤーをいじりながらイヤホンを外す谷原君。まだまだ廊下のヒステリーは続いている。それが耳に届いたのか途端、顔をしかめる谷原君。


 「ああ、・・・・・・いろいろドンマイ。」


 私と元彼とその彼女の話はけっこう周知のことで。たぶん今のいろいろ、にはそういうのも含まれているんだろう。


 とかいうのはまあどうでもよくて。


 「谷原君は、これから教室に行くよね?」


と問い掛けると。


 「まあ、行くね。」


とのお返事が。


 チャンス、チャンスだ。これはもう付いていくしかない。赤信号、皆で渡れば怖くない。今は2人だけど。1人よりずっとまし!


 「もしよかったら1人で行く度胸はないんで、お供させてください、お願いします。」


 「お供って・・・。まあいいけど。」


 快くかどうかは別として了承してくださった!


 「ありがとう!もう本当ありがとう!」


 谷原君がこんなにいい人だとは!すごいね、まだ声のする廊下へと進んでいくその背中が眩しく見えるよ!あ、てか待って、置いてかないで!


 焦って谷原君を追いかけようとしたその瞬間――。



 「ふざけないでよっ!!ゆきちゃんと話してるのだって前見たんだからっ!」



 今までよりも格段と大きく鋭い声で自分の名前の入った衝撃的なセリフが聞こえてきた。うん。話したね。確かに話したよ。私のクラスの担任を探していたみたいだから「先生なら、もう職員室行ったよ」「あ、そっか。ありがとう」みたいなのを。

 まじでか。これもだめか。元カノだし過敏になるのもわかるけど。なんだかカルチャーショックを受けてたら、谷原君がこちらを振り返って見てる。


 「・・・どうする、行くの止めとく?」


 「いや、行きます。もうここ、寒くてやだ・・・」


 そうだよ、忘れちゃいけない。ここ寒いんだよ。とても寒いの。通り過ぎさえすればあとは暖かくて平和な教室だもの。大丈夫。知らないふりしてさっさと通り過ぎればいい。


 そう決意して谷原君と共に廊下、つまりは2人の前に姿を現した。


 二人が人の気配に気づいてこちらを見た。うん、ばっちし目が合った。主に彼女さんと。元彼は気まずそうにすぐに目をそらしたが、彼女さんはより一層鋭いまなざしでこちらを見てくる。


 なんか、君そんなキャラだったけ。記憶にあるその子は可愛らしい顔立ちと華奢な体でどちらかと言うと大人しめな、その子の柔らかい笑顔を見ると癒されるような、そんな子だったのに。実はかわいい女の子が大好きだったりする私は、全く繋がりがない頃から、その子の姿に癒されていた。あわよくば仲良くなれたら、なんて思ったりもしてた。まあ半年前のことがあってからはそれは諦めたけど。でも、元彼は嫌というかどうでもいいけれど、彼女さんにはまだ好感を持ってたりする。・・・持ってたりするんだけどなぁ。


 そんな私の気持ちなどつゆ知らず、谷原君に続いて通り過ぎようとする私を無言の圧力をかけてくる彼女さん。あ、なんかつい二人に見られて反応しちゃったけど、だめじゃん私。知らないふりで教室に向かう予定だったのに。谷原君はもうさすがと言うか、二人のことなんか、もしかしたらさっきの私のお願いさえも気にせずにどんどん歩いていく。この人、マイペースな人だなぁ。今はすごく助かるけど。この調子なら案外簡単に教室に行けるかも、なんて思っていたら。どうやら甘かったらしい。


 

 「なによ!黙ってないで何か言ったらいいじゃない!」


 できれば黙っていたいんだけどなぁ。でも女の子を無視するのもどうだろうと思って、立ち止まって振り返る。すると、後ろで谷原君が止まってくれてのが分かった。あ、私のお願いは覚えててくれたんだね。さすがです。


 「ひ、人の彼氏に手出すの止めてよね!だいたいゆきちゃん男子と仲良すぎるんじゃない!」


 これ、カップルのケンカじゃなかったの。あなた、自分の彼氏に文句があるのでは。それもう、ただの私へのいちゃもんなんだけど。それにそんなに特別男子と仲良くしてるつもりもないんだけどなぁ。とりあえず、どうやったらあなたの隣で黙って立っているだけの元彼なんかには興味ないことがわかってもらえるかと考える。そしたら、その間が我慢できなかったのかさらに鋭い声が飛んできた。


 「無視しないでよっ!それに、なんか、ゆきちゃん来年は理系クラス希望してるみたいだけど、それだって男子が多いからなんじゃないの!?」



 あ、この言葉は無理。今までのは彼氏のことで興奮しちゃってちょっと混乱しているからしかたないのかなぁ、とか思ってたけど。まあ女の子に嫌われるのは嫌だし、できるだけ不快に思われないような言い方で自分の意見を、とか思ってたけど。


 こつこつ、と足音を響かせて、彼女さんの前まで目を合わせながら進む。ちょっと息を呑んだのが分かった。

 ふう、と息を吐いて自分を落ち着かせてから、口を開いた。



 「馬鹿にしないで。私ね、なりたい職業があるの。やりたい仕事があるの。それをかなえるために大学に行きたいの。そのために今、勉強してるの。そのために来年、理系クラスで頑張ろうと思うの。そこに男子が多いとか少ないとか関係ない。私は、私の夢のために、頑張ってるの。」


 できるだけ優しい口調を心掛けて、にっこり笑いながら言った。でも口調も表情も相手を気遣うというより、自分の余裕を見せつけるためだ。この場で私がこんな反応をするとは予想していなかったのだろう。元彼と彼女さんが目を瞠った。


 まだまだ言いたいことはあったけど、一番気に入らなかったとこは訂正できたからまあいいか、と思って二人に背を向けて歩き出す。谷原君は相変わらず教室には入らず、そこで待ってくれていた。ちょっと驚いた顔をして私を見てる。うっ・・・。やっぱ、あそこであの反応は引かれるかなぁ。ちょっとこの人に引かれるのは嫌だな、と思いながら谷原君のとこまで歩いていくと。


 「ば、馬鹿にしてるのはどっちよ!なによ、その態度!?そんな夢とか、カッコつけないでよね!」


 「朝から廊下で通りがかりの人に叫んで迫ることが、馬鹿にされない行為だとでも思ったの?」


 軽く振り返りながら、笑顔を作って問いかける。


 「なっ!?」


 「だいたい朝からこんなとこでヒステリー起こしてるとか普通に迷惑だっての。」


 あまりの怒りに彼女さんが出した声に、谷原君がかぶせるように冷たく言い放った。


 「谷原君。」

 

 私は、わざと咎めるように谷原君を呼んだ。


 「なんだよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ?」


 

 うん、わかってるよ、谷原君。だからね、


 「うん、だから、谷原君、その通りだね、って言おうと思ったの。」


 彼女さんたちには一瞥もくれないで満面の笑みで谷原君に言った。


 谷原君はびっくりしたように目を見開いて、にやりと笑った。


 「だよな。じゃ、そろそろ教室入るか。」


 「うん。」


 

 後ろの二人のことはもう気にせずに二人で教室に入った。


 「お疲れ様。」


 谷原君はそう言って、ぽん、と私の頭を本当に軽く叩いた。その顔にはさっきとは違う優しい笑みが浮かんでいて。


 なんだか、最悪なはじまりの朝だったけど、こうして谷原君と関わることができて、悪いだけじゃなかったような、そんな気がした。


 

 

 私が谷原君が好きだと、ちゃんと自覚するのはそう遠くない未来のお話。

読んでくださってありがとうございます!

新連載一話目楽しんでいただけたでしょうか?

前々からいちゃもんつけられる女の子のシーンが書きたかったんです。

うまく表現できたかわかりませんが(汗)


しばらく続くのでこれからも読んでいただけたら嬉しいです。



誤字脱字ございましたら教えていただけると助かります。

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