表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

俺が女を愛す時、それは

作者: 蛇喰奴

「おはようございまーすっ!!」

高校を卒業してすぐGSガソリンスタンドでバイトを始めた俺は、元気だけが取り柄だと言われる。

彼女と出会うまでは…。そう…彼女と出会うまでは…。

その日の朝店長に

「今日から新人のバイト入るから、崇(俺の名前)、おまえ面倒みてやれ!」

と言われた。

どんな人がくるのか、ドキドキしながら待っていると、ピカピカの作業服を着て現れたのは、ロングヘアーの女の子だった。

「よろしくお願いしまぁ〜す♪」

こいつイタイ子かな?

そのしゃべり方は天然を匂わせ、少しひいてしまった。

まずは挨拶!

「はじめまして、杉山崇(すぎやまたかし)です。よろしく」

すると

「はじめましてぇ、金井瞳(かないひとみ)でぇ〜す。よろしくです。えっと…たかし♪」

完璧になめられてる…はぁ〜、俺はこの先こんな子と仕事しなきゃならんのか。

「あ・あぁ・それじゃまずは、挨拶と接客。俺がやってみせるから、後ろに付いてきてしっかり見ててね。」

しばらくして車が入ってきた。

「いらっしゃいませー!オーライ、オーライ、ハイ、オッケーです。」

運転席横まで走ると彼女も付いてくる。

「いらっしゃいませ、こんにちは。現金ですか、カードですか?」

「あー、カードで。はいよ」

「レギュラーですか?ハイオクですか?」

「レギュラー満タンで。」

「はい、ありがとうございます。レギュラー満タンはいりまーす。」

給油も終えて車が出ていき、

「どう?こんな感じだけど簡単でしょ?」

「はい!大丈夫そうでぇす。あと…笑顔がかわいいね!たかし。」

この女、男をかわいいなんて言いやがって…。

「ははは。金井さんも笑顔で接客を心がけてね。」

「金井さんじゃなくてぇ〜。ひとみって呼んで」

「…ひとみさん。」

「まぁいいです、私がこの仕事馴れるまでには、呼び捨てで呼んでね」

完全に彼女のペースのまま今日の仕事は終了。

帰宅しようと片付けていると、先輩が

「一杯飲みに行こう」

と言う。断る理由もなく

「行きましょう」

と言った。

いつもの居酒屋で肩を並べて飲んでいると。

「どうだ、あの子は?」

「最悪ですよ…」

コップを強めに置いてみせた。

「そうか?仲良さそうに見えて羨ましかったぞ。」

「先輩!!冗談やめて下さいよ。」

何故かわからないけど、少しだけうれしかった。「まぁいいや、しばらくがんばってみて。よし今日は俺のおごりや、近所にバーができたらしいから、行ってみないか?」

「ゴチになりまーす」

バーのドアを開けると、スローなテンポの音楽が聞こえてきて、薄暗い空間を進み、カウンターに腰かけた。

クールなマスターがこっちを見ながら。

「いらっしゃいませ」

ほぉー、よくドラマで見る光景だ、かっこいいなぁ。

じゃぁ

「ウイスキーを」

注文をすると同時ぐらいに後ろのテーブルから、泣いてる女の声が響いてきた。

「なんでなの?信じられない。ばかっ。もういい」

なんだ、なんだとそっと目を向ける。えっ!?

「あっ、先輩。あいつ、今日来たバイトの子ですよ。」

「本当だ。かわいそうにフラれたか…」

一瞬彼女の目がこちらを向くと、目が合った。

はずかしかったのかどうかわからないが、彼女は走り去っていった。

昼間はただの子供のように見えたのに、普段は大人っぽいんだなと驚いた。

―次の日―

「おはようございまぁーす。」

相変わらず元気の良い挨拶が、寝起きの俺を刺激する。

「おはよう。大丈夫?」

「何がですかぁ?」

「何がって、昨夜バーで泣いてたじゃん」

「やっぱバレたか…でももう大丈夫です、彼とは別れますから。」

「そか、まっがんばって。早速今日から一人で行動してみようか?ちゃんと覚えてるかな?」

「はいっ。まっかせて下さい。」

いつも元気な彼女を見ていると、気持よく仕事できる。

今日の彼女を見ていると、体がグワァ〜ッと熱くなる。

…好きなんだろうか?この気持は好きって事なんだろうか?

今夜飲みに誘って話しだけでもしてみようかな。「ひとみさん、今夜暇かな〜?」

「特に用事は無いけどぉ…もしかしてデートの誘い?いいよ♪」

「飲みに行こう」

こうして二人で初めてのデートをすることになった。

「おまたせぇ〜。おお〜、たかしの私服姿かっこいい」

「あ、ありがとう。ひとみもかわいいよ」

あっ!やばい、呼び捨てで呼んでしまった。

「ははは。恋人みたいだねぇ、私達。」

「そうだな。ひとみは好きな人いるのか?」

今まで明るかったひとみの顔から笑顔が消えた。

「好きな人…かぁ。わかんないや。実は彼が海外へ出張になって、私は親の面倒もみなければならないし、一緒に付いていけないって言ったら、別れようって!」

「それで昨夜?」

「うん。でもおかしくない?外国だって地球の上なんだよ。いつも同じ太陽を見る事ができるし…私より仕事を選ぶなんて…。たかしだったらどうする?やっぱ仕事選ぶの?」

げぇ〜、この手の質問苦手なんだよな〜。

「どうかな〜。好きな人と一緒にいたいけど、夢があったり、やめたくない仕事も男ならあると思うし…」

男の夢は、女より強い時があるし、それは、仕事でもそうなのである。

「ばか。たかしのアホ。女の子の気持ち、何もわかってない」

「あっ、ちょっ」

走り去るひとみ。

俺は何てバカなんだ。何故、仕事よりも彼女と普通に言えないのだ…次の日、ひとみは体調不良を理由に休みだった。

その日から俺の胃は爪楊枝でつつかれてる気分で、やる気も何もなかった。「どうした?元気だけが取り柄じゃなかったのか?」

と先輩。

「あ〜はい。」

としゃべる気力すらない俺。

明日彼女が来たらもう一度話そう、そして、機会があれば想いを伝えてみよう。

だが、次の日も、その次の日も彼女は来なかった。

もうだめだ、我慢できない。

「先輩。体調悪いので早退します。」

「えっ!?あっ、おぉ〜?何を言って、ちょ待てよ!」

仕事なんてどうでもいい。今はひとみに会いたい。

店長の机からひとみの履歴書を拝借し、住所をメモる。

今ひとみに会うのはいいが、まだ彼の事が好きなのかもしれない。

色々な不安が頭をよぎる。

気がつけば履歴書に可愛らしい文字で書かれた住所の家の前。

どうしようという気持ちと早くしゃべりたい気持ちが交差する。

えぇーい。ピンポーン!

「はぁーい♪」

思いきり開くドア。ガチャ!!

「あっ。ごめん」

「たかし…」

「今いいかな?」

「仕事はどうしたの?」

「ひとみこそ仕事はどうしたんだ?俺は、仕事より彼女だから!」

「はは♪何言ってんだか。」

彼女に笑みが。

彼女が照れて少し顔を横に向けた瞬間、俺は彼女を引き寄せ、抱き締めた。

「何!どうしたの?」

「一つ聞いていいか?」

「う、うん」

「今好きな人いる?」

「…わかんないよ。彼が外国に」

彼女がまた彼の話しを持ち出そうとした頃

「俺の事…好きになれ」

「…」

「彼の事はしゃべらなくていい、もうずっとしゃべらなくていい。俺だけを好きになれ。」

沈黙が続く。頬を赤らめたひとみが言う。

「たかし、仕事と私どっちとる?」

「ひとみに決まってるじゃないか。今日だって仕事抜け出してきたんだから。」

「あはは。じゃ、たかしを好きになる。」

体のそこからフワァ〜と何かがこみあげてきた。

今まで生きてきた中で、これほどうれしかった事はないぐらい、うれしかった。

男が夢を捨てる時。それは、女を愛する事を夢に変えた時。

人生はカメレオンじゃないから、夢も恋も待つだけでは掴めない。

男が女を愛す時。それは…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分と同姓同名の女の子でびっくりしました。
[一言] こんな青春時代に帰りたいですね〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ