閑話
「……地球の2118年は、消滅した年だな」
レイスは様々な器具を用意しながら言う。
「…消滅前に完成されたが、マクシミリアン討伐には間に合わなかったグレイド…ということか」
ゼルダは呟く。
「……最古のグレイドってことですよね。でも、正直、我々の技術より進んでいるように思えます」
ルミエールもグレイドを見ながら言う。
一瞬でマクシミリアンを消し去ることなど、最新のグレイドを持つアリアクロスでも技術的に困難である。
見たことがない型をしているが機能性はかなり優れているように思える。
なにしろ三百年はこの状態なのだろうから。
「…艦長と副官、暇なら荷物を取り出せ。あの娘の持ち物だ」
レイスがカプセル内から顔を出して、二人に言う。
「…腹黒鬼畜眼鏡は人使いが荒いですね。一応、私達は上司なんですよ?」
ルミエールは言いながら、レイス博士が出してくる荷物を受け取っていく。
「……しかし、確かに人を見る目はありそうだな」
ゼルダは小さく呟く。
「……それはつまり、僕が腹黒で鬼畜眼鏡だと?」
ニッコリと笑いレイスはゼルダを見る。
「………」
ゼルダは何も言えず、レイスから目を逸らす。
レイスのことは士官学校時代から知っている。
パイロットになる前から様々な実験と称した嫌がらせを受けた。
はた迷惑な同期生。
それがレイス博士だ。
体に染み付いたレイス博士への畏怖は今もある。
立場上は上司だが普段から彼には気を使っていた。
ルミエールも同じだった。
過去にレイスに報復を試みて、死ぬ思いをしたことは今や伝説となっている。
「……一瞬で本質を言い当てるんですから、大したものだと思いますよ」
ルミエールは苦笑し、荷物をゼルダに持たせる。
「……服か?」
ゼルダは渡された見たこともない布地を見ながら言う。
「…着物ですね。過去の日本ではよく着てた服らしいです」
機体の文字を書き写していたエミリアが艦長に言う。
「……動き辛そうだな」
「観察は後にしろ。ディスクが何枚かある。すべて調べろ」
レイスは言いながら、ディスクをまとめた箱をゼルダに渡す。
「……了解した」
「…どっちが上司だかわかりませんね?」
ルミエールが苦笑する。
「荷物は以上だ。僕はこれから、グレイドを調べる。誰も邪魔はするなよ」
それだけ言うと、レイスはカプセルの中を黙々と調べ始める。
「…では、私たちは所持品とそのディスクを調べましょうか」
ルミエールの言葉にゼルダは頷き格納庫を後にした。
「……ハルはどこに行ったのかしら?」
アスカはカウスに聞く。
「ブッ飛ばすのか?」
「……そうしたいけど、ハルの気持ちはわからないでもないわ」
アスカは神妙な顔をする。
ハルの家族はマクシミリアンとの戦闘に巻き込まれ亡くなった。
あの時の彼の落ち込み様は酷いものだった。
「…でも、アイツがイラついてたのはもっと別の理由だと思うけどな?」
カウスは言う。
「……?」
アスカは不思議そうにカウスを見る。
「……東城さんはすげぇ可愛いと思うんだけど、でも、ちょっと残念な感じがするだろ?」
カウスは頭を掻きながら、同意を求めるように言う。
「…要するに、見た目と中身のギャップにイラついたわけ?」
「平たく言えばな。アイツってけっこう、夢見るタイプだからさ」
カウスは苦笑する。
「……やっぱブッ飛ばしてもよさそうね。ハルの方が最低だわ」
アスカは指をポキポキと鳴らして言う。
「そうか?俺はハルの気持ちの方がわかるけどな」
カウスの言葉にアスカの鉄拳が彼の脇腹に飛ぶ。
「〜〜ってぇ。ブッ飛ばすのはハルじゃねえの?」
「…アンタも同罪よ」
格納庫にいるハルやカウスと同じことを思っていた男性陣は、その様子を見てアスカの鉄拳が飛ぶのを恐れ口を閉じるのだった。
「……しかし、すげぇよな。東城さんは。艦長や副官、博士にまであんな風に言えるなんてさ」
「…確かに、すごいわよね。思ってても私たちには口に出来ないものね」
「……アスカ、博士が」
「大丈夫よ。あの人、集中してる時は人の話なんか聞いてないんだから」
アスカの返事にカウスは顔をひきつらせアスカの後方を見る。
「……アスカ・エミル。中々いい度胸だ」
「……あはは」
アスカはその声に乾いた笑い声をあげて振り返る。
「…君たちにあのグレイドの操作性を見てもらいたいのだが?」
その言葉にアスカとカウスは目を輝かせる。
未知のグレイドは彼らにとっても興味の対象だった。
「鬼畜博士としては、アスカは遠慮してもらってもかまわんが?」
「……すみませんでした!そんな意地悪なこと言わないでくださいよ!」
アスカは必死に謝る。
「…これでは、鬼畜と言われても仕方がないか。……ハル・ジェイドも連れてこい。それからだ」
レイスは小さくため息をつき二人に言うと、未確認グレイドの方に戻って行く。
二人は顔を見合せ、嬉しそうにハルを探しに格納庫から走り出していく。
「……若いわね」
「本当、羨ましいわ」
それを見ていたエミリアとアイが話をする。
「お前達も用が済んだなら出ていくがいい」
「………腹黒鬼畜眼鏡ってぴったりの表現だわ」
アイは横目でレイスを見ながら言うと格納庫を出ていく。
「……博士、ちゃんと謝った方がいいですよ?かなり根に持っていますよ」
エミリアはレイスに言う。
「…僕は悪くないと思うんだが」
「……それがわからないんだったら、当分許してもらえませんよ」
エミリアはため息をつき、メモした文字を確認する。
「………」
レイスは頭を掻いて、アイが出ていった扉を見つめる。
そんなレイスに呆れつつ、エミリアはメモを持って格納庫を出ていった。
「……わからないな」
ポツリと呟くと、レイスは作業を再開しはじめた。