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夢ではない現実2

読んでくださりありがとうございます。次回からは不定期更新になります。

「……シオン、君にいくつか聞きたいことがある」


レイス博士はシオンに言うが、シオンは何も言わず、黙っていた。


「…副官、どうやらお前の発言が機嫌を損ねてしまったようだ」


レイスはルミエールを見る。


「……もう喋ってもいいですよ?怒ってすみませんでした」


ルミエールはシオンに謝るが、シオンは横を向いたままだ。


「…今度は黙りか。地球人と言うのはそういう面倒な種族なのか」


レイスはため息をつく。


「…こいつだけだと思いますが」


ハルは言う。


彼は移住してきた地球人の血を引いている。


シオンが地球人の代表のように言われるのは、彼としては納得がいかない。


「…シオン、別に答えないのは構わないが答えぬのなら君の記憶を勝手に見させてもらうが」


レイス博士は言うが、シオンは表情一つ変えはしなかった。


先程までとはまるで別人のような印象だ。


「…勝手にすれば?」


シオンは無表情のまま言う。


その返答にレイスは眉間にシワを寄せる。


「…それをしたくないから君に質問をしている。僕の気が変わらない内に答えることだ」


「あら、鬼畜眼鏡がそんな風に言うなんてよっぽど危ないことのようね?…アタシ的には別にどうなったって構わないわよ?」


シオンは挑発するように、レイス博士に向き直って言う。


「……艦長、こう言っているがどうする?構わないか?」


レイスはゼルダに聞く。


人の記憶を勝手に見ることは可能だが、それをすると殆どの人間は発狂してしまう。


元よりこの少女シオンを廃人にする気などはない。


「シオン、素直に答えてくれたら君の欲しいもの…勿論、可能な物ならば…だが、与えよう」


ため息混じりにゼルダが言う。


レイスがまさか手こずるとは思ってもいなかった。


大概の人間は彼の言葉に素直に従い答えてくれる。


だが、シオンは違った。


それならば、物で釣るしかないだろう。


「……何も要らないからアタシを地球に帰してよ。帰してくれるなら何でも話すわ」


シオンの言葉にゼルダの胸中は狼狽していた。


欲しいものの要求はまさに不可能なものだ。


地球が滅びたなどと言ったら、一体どうなるのか。


彼は副官を見る、ルミエールは胸に左手を当てていた。


これは彼が困っている時の癖だ。


ゼルダは一つため息をつき、シオンを見る。


「すまないが、それはできない。隠してもいずれわかることだから先に言うが、地球は三百年前に滅びた。もう存在しない」


ゼルダは表情を変えずに言う。


「………そう」


シオンは意外なほど冷静だった。


予想外の反応に、その場は静まり返っていた。


「……信じるのか?」


レイス博士が聞く。


「…泣き叫んで嘘をつくなとか、ショックで気絶した方がいい?やれっつーならやるけど?」


シオンは自嘲気味に言う。


「………何でそんなに冷静なんですか?」


ルミエールが聞く。


シオンはカプセルの文字を指す。


「……ここに、2118年に書き直したって書いてある。アタシの覚えている最後の記憶は2015年。約百年後に書き直してるっておかしいでしょ?三百年前に地球が滅びたってことはアタシは冷凍保存かなんかされて生きていたってことなんでしょうよ」


どうやら横を向いた時にその文字が目に入ったために、シオンはずっと黙っていたようだ。


そして、それを確かめる為に地球に帰して欲しいと要求したのだろう。


シオンは彼らが思うよりずっと聡い娘に思えた。


「…それでは君の記憶の限りで構わないが質問をいくつかする。当時の生活や政治、世界情勢、文化、それからマクシミリアンの兆候などがあったか。それと、人間を冷凍保存とかいうその話は?」


「聞かせるほど政治なんて知らないし、世界情勢だってよく分からないわ。それにマクシミリアンって何?冷凍保存に関してだってうろ覚えだし。つーか、アタシが今の状況を知りたい。誰がアタシを脱がせたとか、裸の理由とか、アタシのこの歌を誰が録音したのかとかさ」


シオンは質問に答えながら最後に頭を抱えてしまう。


「………やっぱりそこなんだ」


アスカが小さく言う。


「何でよりによって真っ裸よ?何の罰ゲームよ!あの曲まで流れ始めるし……最悪だわ。畜生、誰だか知らんけど許せん」


シオンは半泣きになり、ブツブツ呟いている。


「……中々、図太い神経を持っているようだな」


レイス博士が呆れたように言う。


普通はもっと別のことを口にしそうなものだ。


友人や家族、シオンの口からはそれらを心配する言葉などは出てきていない。


何よりもまず家族や友人の安否を気にするのがアリアクロス人だ。


シオンの考えは彼らには理解できないものだった。


「……最悪だな。家族や仲間のことが心配じゃないのかよ?」


ハルは軽蔑するような眼差しをシオンに送る。


「…最悪で結構よ。存在しない家族や友達を心配しろって?」


シオンは笑う。


「……悪いけど、アタシは感傷にひたるタイプじゃないわ」


シオンの言葉にハルが激昂しそうなのを察してか、カウスとアスカが二人の前に立ちはだかる。


「……大丈夫だ。そんな奴は相手にする価値もない」


ハルは言うとどこかに行ってしまう。


「……アタシにはよくわからないんだけど、あんなに怒る程、家族とかって大事なもの?」


シオンは誰にともなく不思議そうに聞く。


「……どういう意味?家族や仲間が大切なのは当たり前でしょ?」


アスカはムッとして、シオンを振り返る。


余りにも信じられない言葉だ。


「…アタシ、捨て子だったの。発見された時なんか死にかけてたらしいし、本当にアタシが要らなかったんだろうね。そのせいかな?家族とか大事ってよくわからないのよね」


「………え?」


シオンの発言はアリアクロスではあり得ないことだった。


周りの人間はざわつく。


子供を捨てる親などいるわけがない。


何があっても守るべき家族は唯一無二の存在だ。


だから家族の心配をしないシオンをハルは軽蔑したのだ。


「……で、でも、お兄ちゃんって言ってなかった?」


「うん。引き取られた先のお父さんがそう呼べって。気持ち悪い行動ばかりする変態だったわ。手は出されはしなかったけど、ロリコンだったんじゃない?あ、でも、大好きだったのよ?一応、父親だしね。たまにまともなことも言ってたし。それに、友達も沢山いたし大好きだった。メッセージは皆が書いてくれたみたいだし…でも、考えても心配しても…会いたくても……もう誰も…あの変態のお兄ちゃんすらいないのよね」


そう言うシオンは酷く儚げに見えた。


四百年が経って、誰も知ってる人間はいない。


それを現実だと認めたのだ。


今の状況を理解し、誰よりも不安なのはシオン自身だ、知人達を心配してないわけがない。


それに、大好きだったというのが大切と彼女の中で同意義であることは予想がつく。


それに気付いた周りの人間は申し訳ない気持ちになる。


「………ごめん。何か、私はあなたのことを誤解してたわ。後でハルはブッ飛ばしておくわ」


「…別にいいわよ。アイツは禿げればいい、ていうか禿げろ。そして後悔するがいいわ」


「……君は強いんだな」


カウスが眩しいものを見るように言う。


もし、自分が知らない場所に放り込まれたら彼女のようにいられるだろうか。


きっと無理だ。


現実だと認めることはできない。


「…まあ、一応、成人間近だし?図太い神経してるってよく言われるわよ」


シオンは答える。


「成人間近?」


「ええ、19歳よ。あ、もう422歳になるのかしら?」


「……驚いた。もっと子供だと思っていたのだが」


衝撃を受けたようにレイスが口にする。


シオンはハル達と同じかそれより下に見える。


「…何?子供っぽいってこと?」


「…若く見えるってことですよ。お得ですね」


ルミエールが笑って言う。


「アタシは特売品か何かかってのよ」


「……取り合えず、医療班はこの娘の精密検査を、エミリアはカプセルの文字を解析、レイス博士はカプセルの解析を。パイロットと整備士はグレイドの整備。次の戦闘に備えろ。それと、シオン。君は我々の監視対象になる」


ゼルダは次々と指示を出していき、最後にシオンに宣告する。


「……真っ裸で?」


「……服は与える。…何故、君はそこまで裸にこだわる?」


呆れたようにゼルダは言う。


「ムッツリ艦長とセクハラ親父、腹黒鬼畜眼鏡ならやりかねないと思っていそうですよね。いっそ、そうします?」


笑いを堪えてルミエールは言う。


「……畜生め、か弱い女の子になんつーことを言うのよ。よってたかって最悪だわ。鬼畜の他に最低最悪の変態親父連盟の称号もつけてやるわ」


シオンは悪態をつきながら、段々と目蓋が閉じてくるのを感じる。


疲れた、とても眠い。


シオンは意識を失うようにカプセルの中に倒れ込んだ。


驚いたのは周りの人間だ。


今まで元気よく話をしていたのにシオンが急に倒れてしまったのだから。


「医療班、何をボーッとしているんだ。すぐに検査を」


ゼルダの指示に、医療班はすぐさま行動に移す。


シオンをカプセルの中から抱き上げて出すと担架に横たわらせすぐに医療室に向かっていった。


「…喋らなければ美少女なんですけどね」


運ばれるシオンを横目に見ながらルミエールは残念そうに言う。


「……そうだな」


ゼルダは答えながら、見たことのないグレイドを観察する。


「……この歌はあの子が歌ってるって本当ですかね?随分、印象が違いますけど」


流れている歌声は心地よく耳に入ってくる。


優しい歌声だった。


シオンは失敗作だと言っていたがまったくそんな気はしない。


「…この歌は興味深いと思うぞ。α派が出ている」


手元の計器を見ながらレイス博士が言う。


「……それにあの娘も中々興味深い。夢だと思う判断も早かったが現実だと認識してからの切り替えの早さも異常な程だ。これまでの生活環境の影響だろう。それと、あの思考はアリアクロスにはないものだな」


「……捨て子か。地球は美しい惑星だったと聞いたが、人の心は荒んでいたのか」


ゼルダは呟くように言う。


離婚はしているが、元妻のことも娘のことも大切に思っている。


させてはくれないだろうが、できる限りのことはしたいと思っている。


特に娘は可愛くて仕方がない。


捨てることなど考えられない。


アリアクロスでは家族は心の支えである。


そう思うと、過酷な状況で育ったのであろうシオンが不憫でならない。


聞こえてくる歌声は優しいものだが、哀しい歌のような気もしてくるから不思議だ。


しんみりした雰囲気の中、グレイドからは歌が流れ続けていた。



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