夢ではない現実
読んでくださりありがとうございます。サブタイトルはその内、変えようと思っています。
「……落ち着きました?」
アイは絶叫し終え、暫く呆然としていたシオンに声をかける。
「………普通、この絶叫で目が覚めて、夢かーってなるわよね」
シオンは声をかけてきたアイを見ながら疲れたように言う。
「何で覚めずに、美人なお姉さんに話しかけられているのよ。どうなっちまってるのよ」
未だに夢だと思っているシオンは頭を抱えたまま、特に裸を隠そうとはしなかった。
周りの男性達は見てはいけないと言うように、シオンから目を逸らしていく。
「……とりあえず、服を着させてあげましょうか?」
笑いながらルミエールはシオンに話しかける。
「……その声はセクハラ親父ね」
シオンは目だけ動かしてルミエールを見る。
親父と呼ぶにはまだ若いような気もする。
だが、今さら親父を消すのもなんなのでシオンはあえて訂正はしなかった。
「……まだ引っ張りますか。私はまだ親父と呼ばれる年齢じゃありませんし、せめてセクハラお兄さんがいいですね」
ルミエールは苦笑し、自分の軍服の上着を脱いでシオンにかける。
「……ねぇ、この歌を止めたいんだけどどうすればいいの?セクハラ親父」
シオンは不機嫌そうに聞く。
お兄さんと訂正する気はまったくなさそうだ。
「…とても素敵ないい歌だと思いますけど?」
「……駄目よ。この歌は失敗作なの。何で、この歌が流れてるかわからない。最悪よ、夢は覚めないし貧乳は晒されるし、何か濡れてるからケツは冷たいし」
シオンは口を尖らせて言う。
「………残念ながらこの夢が覚めることはないだろうな」
ゼルダがシオンを見ながら言う。
「……ムッツリ艦長め。アタシの夢は覚めないって?アタシ、明日はライブがあるんだから覚めないと困るの……よ?」
言い終わり、シオンは不思議そうに首を傾げた。
朧気な記憶だが、ライブ会場に向かっていた自分がいた。
「……お嬢さん、申し訳ないけど君を検査したいのだけど?」
爽やかな笑顔をシオンに投げかけながらレイスが言葉を発する。
「……嫌よ。アンタは絶対に腹黒な鬼畜眼鏡男よ。アタシの勘がそう言っている。爽やかそうに見せて後から人を地獄に叩き落とすタイプだわ!」
何の根拠があるのかはわからないが、シオンはレイス博士を見てビシッと指を指し言い放った。
シオンの言葉に何故かどよめきが起きた。
レイスの表情がスーッと変わり、周りの人間は固まった。
「……中々、人を見る目がある。優しく接しようかとも思ったがその必要はないな。鬼畜らしく地獄に叩き落としてやろう。これは現実だ。東城シオンよ、本当は気付いているのだろう?」
冷たい表情で言い放つレイスの言葉にシオンは嫌な顔をする。
「…いきなりラスボスですか?無理だわ、勝てる気がしない」
シオンは言うと、自分の右側の頬を右手で思いっきり叩いてみる。
――パァン
シオンの行動に周りの人間は驚いた。
腕を振り上げたせいで、シオンにかけてあったルミエールの上着はパサリと脱げたが誰も彼女から目が離せなかった。
レイス博士ですら驚いたようで、目を見開いていた。
これまでの会話から何故このような行動に出たのか全く理解できない。
「……覚めない」
呟くと、シオンは左側の頬を左手でもう一度叩いた。
――パァン
周りは呆気にとられてシオンを見ていた。
「………痛い。本当に……夢じゃない…の?」
シオンは赤くなった両頬を押さえて呆然と呟く。
「……現実と認めたということでいいのか?」
ゼルダは脱げた軍服をもう一度シオンにかけ直して問う。
「………認めたくないわよ。だけど、明らかに夢じゃないリアル感があるのよ。ほっぺが超痛いし。でも、アタシ、何でこんなところに素っ裸でいるのか、わからないわ」
シオンは遠い目をしながら言う。
「……とりあえず、健康診断をして。……精神や身体に異常がないかを調べて、着替えてもらってから詳しい話を聞かせていただきましょうか…ね?」
ルミエールが微妙な顔でシオンに言う。
シオンの行動は到底理解できないものだった。
「……頭なら正常だから」
シオンはため息混じりに言う。
周りの人間の目は、信じられないモノを見ている目だった。
どう考えても頭を心配されているのだろう。
「……意外だな。もっと、取り乱すかと思ったが…。頭の悪そうな言動の割には酷いわけではなさそうだな」
レイス博士が少女をマジマジと見つめて言う。
周りの人間はレイスの言葉にギョッとした。
「……レイス博士が、他人を褒めてる」
アイが真っ青になり、驚いたように小さく呟く。
シオンはポカンとする。
レイス博士とやらの発言のどこに褒めてる言葉があったか。
どう考えても超バカではないバカだと言われている。
「……アイ、君は一体、僕を何だと思っているんだ?」
薄ら笑いを浮かべたレイス博士に見つめられ、アイは更に真っ青になる。
「……レイス博士、アイさんを虐めるのはやめてください。それより、東城さんに色々聞いた方がいいんじゃないですか?」
カウスが脱線しそうな空気を元に戻そうと声をかける。
「……名字で、しかもさん付けで呼ばれるのって、何か新鮮ね」
シオンが感動したように言う。
「……名字?」
カウスは首を傾げる。
「日本では確か、家名が先にくるのでしたね?アリアクロス風に言えば、シオン・トウジョウになります」
エミリアがシオンに笑いかけながら説明をする。
「……こっちのお姉さんも綺麗だわね。やっぱり、ムッツリ艦長が顔で選んでるってことかしら」
シオンはポーッと頬を赤らめて、エミリアを見て言う。
「………いい加減、話を元に戻しませんか?」
ハルが呆れたように言う。
いつまで経っても話が進まない。
彼はいつになく苛ついていた。
「…アンタ、カルシウム不足?そんなにイライラしてると、禿げるわよ?」
シオンは心配そうに言うが、自分が苛つかせていることには気付いていなかった。
「……何なんだよ、お前!ふざけたことばっかり言いやがって!」
ハルはとうとう大声を出し、シオンを怒鳴り付けた。
「はあ?ふざけてなんかいないわよ!アタシがアンタに何したっていうのよ?アンタみたいな八つ当たり野郎は無惨に前方後円墳風に禿げ散らかすがいいわ!」
シオンはムッとして怒鳴り返す。
「……なんだと?」
ハルはシオンを睨む。
「……いい加減にしなさい。ハル・ジェイド。何を苛ついているのです、君らしくもない。本当に禿げますよ?それと、シオン・トウジョウ。君は黙っていなさい」
ルミエールが厳しい言い方で仲裁に入る。
「ハル、落ち着け。この娘はまだ状況がわかっていないのだ。それから君もだ。もう少し冷静になりなさい」
ゼルダは宥めるようにハルとシオンに言う。
「……すみません」
ハルは上司達に頭を下げる。
「…………」
シオンはムッとしたまま何も言わず、プイッと横を向く。
現実だと言っても、実感はわかない。
わからないことだらけだ。
ハルほどではないが、訳のわからない状況にシオンも苛つき始めているようだった。