もしも
サブタイトルを名付けるのは、難しいですね。
『……ねぇ、貴女、大丈夫?』
アスカはすっかり大人しくなってしまったシオンに声をかける。
『………何か、乗ったことないけどリニアみたいなものかしら。ちょっと頭がふらふらするわ』
シオンは律儀に答える。
『…今から、戦艦レジェンドに帰艦する。怪しい動きをすれば直ぐに拘束する』
ハルがシオンに言う。
『素っ裸で怪しい動きをするってアタシは変態か!つーか、すでに拘束されてますよね?明らかに逃げれねぇよね?この状態!』
『……変な奴だな。何なんだよ、お前は?』
カウスが呆れたように言う。
『は?アタシはアタシよ。アタシ以外の何者でもないわ。本当にリアルな夢ね、現実みたい』
シオンは基本的に言われたことには返事をするようだ。
ただ、答えになっているかと言えばかなり微妙だ。
少女の返答にパイロット達は困惑していた。
シオンと名乗った謎の少女は本気で夢だと思い込んでいるようだからだ。
『……ねぇ?もし、夢じゃなくて本当に現実だとしたら貴女はどうするの?』
アスカはムクムクと沸いた好奇心に耐えられずにシオンに聞く。
『………そうね。とりあえず、何で裸なのかを考えるわ。誰に脱がされたとか何人に裸を見られたとか?いや、それより、ここはどこなのか?とか、うーん、わかんないな』
シオンは考えるように答える。
『……随分、裸にこだわるのね』
アスカは苦笑して言う。
『だってさ、知らない内に裸になってるって嫌じゃない?貴女はまったく知らない人間に裸を見られて平気なわけ?』
逆に聞かれ、アスカは戸惑う。
『…確かに嫌よね。私も耐えられないかも』
『でしょー?夢じゃなかったら悶死しそうだわ』
アスカはシオンの言葉に何も答えられなかった。
これは夢などではなく、間違いなく現実なのだから。
『……とにかく、中に入る』
ハルは二人の会話を遮るように小さく言うと、アスカとカウスを促して開いたハッチから艦の中に入っていく。
グレイド四体を収艦すると、ハッチは閉じる。
『……うわっ』
シオンの小さな叫び声が上がり、ドスンと音が聞こえた。
『……いったー。しかも何か濡れてるし…どうなってんのよ?』
どうやら無重力状態だったカプセルは艦に入ったために重力を元に戻したようだった。
―――♪♪♪
落ちた時にどこかに触ったのだろう、カプセルから音楽が聞こえ始めてきた。
『……げ、ちょっと、止めてよ。アタシの歌じゃん!』
シオンは慌てたように言うが、パイロット達に止める術はない。
ただ、流れる音楽と歌声は美しく聞き惚れてしまう。
――この空に届け、僕らの想い。
――いつか夢の続きを探しに行くから
――♪♪
『何なのよ?何で、夢の中でアタシの歌が流れるのよ!』
シオンは真っ赤になり頭を抱えて顔を隠してしまっていた。
だから、ハッチを進んだ先の格納庫に大勢の人間がいることには全く気付いていなかった。
彼女が大勢の人間に裸を見られていることに気付き絶叫するのはもう少し先のことだった。