目覚めた少女2
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「……君は何者だ?」
誰も言葉を発しない中、ゼルダは謎のグレイドに向かって通信を試みた。
『ぎゃあ!何?誰?……ああ、そうか夢だもんね。急に声が聞こえてもおかしくないか』
少女の答えにゼルダは眉間にシワを寄せた。
「…夢ではないと思うのだが?君の登録籍と名前を教えてくれないか?」
『……何か、アタシの夢の中なのに偉そうな感じね。つーか、登録籍って何よ?』
夢の中だと思い込んでいるのか、少女は随分とくだけていた。
「……惑星国籍のことだ。それからもう一度言うが夢ではない」
『裸で宙に浮いてるのが夢じゃなかったら何なのよ。アタシは露出狂じゃないわよ?てか、惑星ってまたでかく出たわね。アンタは宇宙人か!』
会話にならない相手に、ゼルダは眉間をグリグリと指先で押さえ、次の言葉を考える。
「おやおや、随分面白いお嬢さんだ。我々からとってみれば君も宇宙人だが?」
ルミエールが笑いながら声をかける。
『…タコ足は生えてないわよ?一応、人類だし。しかし、長い夢ね?明晰夢ってやつかしら?』
「……うん、じゃあ、きっとそれだ。因みに我々もタコ足は生えていないよ。で、君の名前は?夢なら教えてくれてもいいだろ?」
ルミエールが更に続ける。
「…何か、さっきの人とは違って小賢しい感じがするわね。ああ、アタシってこんなファンタジーな夢を見るタイプだったのね」
少女は感慨に耽るように呟く。
「……名前を教えてくれたら服を着せてあげるけど?」
『……セクハラ親父かよ!まあ、服は着たいわね。夢の中でもこの貧乳を晒すのは痛すぎるわ。巨乳でも晒したくないけどさ。アタシの名前は東城シオン。惑星で言ったら地球の日本が国籍よ』
少女の答えにゼルダとルミエールは顔を見合わせる。
『おかしいわ。名前を言ったのに服が出てこないわね。夢なのに』
少女はブツブツ言っている。
「……そうだな、君の近くにグレイド隊が見えるだろう?彼らについてきてここに来てくれたらすぐに服をあげよう。何なら着させてあげるけど?」
笑いながらルミエールは言う。
『……うわぁ、キモいわ。アタシの夢の中にセクハラ親父がいる。って、グレイド?……何、あれ、ガン○ム?いつの間にかSFチックになってるわね』
「……セクハラ親父か」
ゼルダは思わず噴き出した。
ルミエールにそんなことを言える人間はそうはいない。
「……あ、着替えさせるのは私じゃなくて艦長の方ですから」
『艦長……何か、ムッツリって言うイメージよね。格好つけてるけど実際は妻とも子供とも上手くいっていなくてどうにもならないダメ男的な?居るのよねー、仕事一筋で家族の中で浮いちゃう人ってさ』
「ぶはっ」
今度はルミエールが噴き出した。
「……とにかく、グレイドについてレジェンドまで来なさい」
ゼルダは微妙な顔で咳払いをし、少女に声をかける。
クルー達は笑いを堪えているのか肩を震わせていた。
『ついてこいって、どうやって動かすのよ?裸で宙に浮いてんのに……。あ、夢だから念力か。って念力が使えないわよ?』
「ハル、アスカ、カウス。お嬢さんをエスコートしてあげて」
ルミエールがパイロット達に指示する。
『『『はい』』』
『やっぱり……ガ○ダムみたいよね?やっぱり核燃料か何かで動いているわけ?夢ってスゲーな』
「……地球では核燃料でグレイドを動かすのか?」
驚いたようにゼルダは言う。
『……さあ?アニメの中ではそんなロボットが存在するけど?アタシはそんなにアニメは見ないからよくわからないわ』
「……アニメ?」
「…地球の文化の一つです。アリアクロスでも子供向けのアニメを移住者が作っています」
オペレーターが口に出す。
『…リアルな上に長い夢よね。早く目が覚めないかしら』
会話に飽きてきたのか少女が現実的な呟きを洩らす。
『……夢じゃない』
言いにくそうにハルは言い、謎のグレイドの後方に立つ。
アスカとカウスは言葉を発さずに謎のグレイドの両脇を固める。
『…夢じゃなかったら何なのよ?アタシが露出狂ってことなの?』
『……未確認グレイドを確保、今よりレジェンドに帰還します。ブースト許可を』
「……許可する」
少女の問いにハルもゼルダも答えずに短い会話がなされる。
眠っていた少女はとても可愛らしかったが、口を開けばかなり異質な感じがした。
喋らなければ美少女だ。
ハルは、少しばかりその少女にときめいてしまった自分を恥じていた。
「ブースト充填まで三十秒。カウントダウンをお願いします」
『……何?ブースト?』
『…黙って?何かにしがみついていて。怪我をするわよ』
アスカが少女に声をかける。
『……いや、まったく動けないんだけど?』
『…ホールド装置を作動させろ』
カウスが慌てて少女に言う。
『……なにそれ?よく分かんないんだけど?』
『…強制ホールド装置を作動。カウントダウン開始、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。発射』
ハルは言いながら緊急ホールドの光線を少女に向かって放つ。
―――ゴォァ
『……なに?のわぁぁぁ』
急激なスピードの中、謎の少女のシオンの変わった絶叫だけがこだましていた。
幸いと言うべきか、ハルのホールド装置は効いているようで、少女が急激な加速でカプセル内で打ち付けられるようなことはなかったが、彼女にとって衝撃的な出来事であったことは間違いなかった。