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通路にて3

物凄く時間が経ってしまいましたが、なるべく更新するようにします

「…我々は君が思うほど良い人間ではないのだ。あまり感謝してくれるな。…話を戻すが我々は自分達の都合のために君を利用する。シオン、君が我々を選び仲間になるというのなら叶えられる範囲でだが・・君に快適な生活を約束しよう」


ゼルダは照れ臭さと罪悪感を誤魔化すように咳払いをすると腕を組みシオンをちらりと見て言う。


「…じゃあ、今のうちにお願いしとこうかしら?」


シオンは考えるように言う。


「何か要求があるのかい?」


二つの選択肢を選ぶことなく要求を言おうとする気の早いシオンにルミエールは苦笑する。


「プライベートの時間は欲しいわ。それから、アスカと買い物に行く予定だから日用品や服を買うお金も少しは欲しいわね。あとは美味しいご飯、三食おやつ付きは外せないわね。あ、アリアクロスの文字も教えてほしい。字が読めないとか困るし」


シオンの要求に二人はポカンとする。


アリアクロス移住希望者に与える最低限の保障よりも少ない要求である。寧ろ保護した自分達が施すべき当たり前のことばかりだ。


「それだけか?」


ゼルダは困惑したように聞く。


「普通に生活が出来れば十分よ。欲を出せば際限がなくなるでしょ?過ぎた欲は身を滅ぼすってお兄ちゃんがよく言ってたのよね」


「…謙虚ですね。もっと他に要求はないのですか?君の要求は少な過ぎますよ」


「あ!じゃあ、あのお姉さんに是非とも胸を貸してくれと命令してくれる?」


ルミエールの言葉にシオンは思いついたように願望を口にする。


「そんな命令できるか!」


「人類の未来がかかってるとかうまく言いなさいよ」


「うーん、それは人類の未来は守れるのかも知れませんけど、・・艦長の未来がなくなりますね」


ルミエールの半分本気のような声音にゼルダは顔をひきつらせる。


「いや、冗談だからね?つーか、政治家にそれを頼んだら実現するのかしら?」


冗談だと言いながらもシオンは考えるように呟く。


「貴族は・・政治家もだが醜聞を何より嫌う。間違ってもそんな命令はしないだろうし、ましてやそのような思考を持つ君を愛人にはしないだろう」


ゼルダは遠い目をする。


「要するにアタシ自体が醜聞ってこと!?」


シオンは驚いた顔をする。


「そこまで言っていない。ただ、君の思考はアリアクロス人にはないものだから受け入れ難いだろう」


「なるほど、そういう思考を広めてアリアクロス人に植え付ければいいのね!」


「何でそうなる!」


ゼルダは思わず突っ込む。


「一人だけなら頭のおかしい人間だと思われるけど、皆がそういう思考ならおかしいと思われないでしょ?」


「「・・・」」


その前に自分達がおかしくなりそうだと二人は何度目かのため息をつく。


シオンは何かがずれている。


前向きな様な気はするが方向性がどこか違う。


「ため息ばかりついてると幸せが逃げるわよ?つーか、こんな話をしてる場合じゃないわね。早く戻らないと鬼畜眼鏡がキレるんじゃない?」


シオンの言葉に二人は顔をひきつらせた後に盛大にため息をつき再び歩き出す。


「鬼畜眼鏡と言えば、あの人別の通路から戻るの?」


シオンは首を傾げてルミエールを見て聞く。


「医療室に戻る通路はここしかありませんよ。もう、戻っているんじゃありませんか?」


「別の方向に出てったわよ?」


シオンの言葉に二人は驚く。


本当によくシオンは人を見ている。


レイスは性格はともかく有能な男だ。


ベルツボーク本人に今回の事の顛末を確認するために別の方に出たのだろうと推測する。


「トイレではないか?」


ゼルダは前を向いたまま言う。


「あんなに続きを見たがっていたのに?つーか、それなら医療室の近くのトイレに行けばいい…あ、ウ〇コか」


シオンの言葉にいちいち驚くことはなくなり二人は深くため息をつく。


「女の子なんだからお花摘とか色々言い方があるだろう?」


ルミエールは呆れ混じりに言う。


「花畑で花を摘む鬼畜眼鏡か。シュールだわね。似合わなさすぎる」


「ブハッ、ちょ、面白いですね、それは」


ルミエールは笑い出す。


「そういう意味ではないのだが・・・。ククッ」


ゼルダは言うが、花を摘むレイスを想像し思わず笑ってしまう。


「…楽しそうだな、随分と」


後ろの方から聞こえたレイスの低い声に同期生二人は固まる。


「お腹の具合は大丈夫?」


シオンはにこりと笑ってレイスを見る。


「ずっと前から僕に気付いていたくせによく言う」


レイスはため息をつく。


レイスは三人の会話をかなり前から聞いていた。


同期生二人は全く気付いていないようだったがシオンは時折自分がいる方に視線を向けていた。


艦長と副官は後で軍人としての在り方を問い質した方が良さそうだ。いくらレジェンド艦の中だからと言って油断し過ぎだ。


「ずっと前から?」


ルミエールは言い背中に冷たいものを感じる。


先程のシオンの今後の話を聞かれていたならば、あとで色々なことを言われそうだ。


本人が了承しているのにバカではないのかと。


それにレイスに気付いていた上でレイスの話を切り出したシオンの発言もひっかかる。


「何で僕がいることに気付いた?」


レイスはシオンに聞く。


気配を完全に絶っていたのだがシオンに気付かれたことに驚いていた。


「アタシ、かくれんぼ得意だったの。鬼になったらすぐに全員を見つけられるし。隠れたら見つからないから最終的にいつもお兄ちゃんが見つけてくれていたわね」


「かくれんぼ?」


「鬼が目隠しして三十秒位数えている間に色んなところに隠れるの。それを鬼が見つけ出す遊びよ。子供の頃よくやったわ。今考えるとうちの地域の大人達は平成の時代によく子供達だけで外遊びをさせてたわね」


ゼルダの疑問にシオンは答える。


「…そうではなくて、何故僕だと気付いた」


レイスは言い換えて聞く。


「誰かがいることは分かっていたけどアンタかどうかは分からなかったわ。行き先が同じならアンタなんだろうなってくらいよ」


シオンは答える。


「僕が現れなかったらどうしていたんだ?」


「別に?お花畑の話を膨らませていただけよ」


「…言い方を換えよう。僕以外が立ち聞きしていたらどうしていたんだ?」


レイスはこめかみを押さえ言い直す。


「だから、どうしようもしないわよ。ディスクだって医療室内に人がいるのに見てるくらいだから、話を聞かれても困らない。それくらいここの人達は信用できるんでしょう?」


シオンは答える。


「医療室は特別なのだよ。アリアクロス軍には重要な会議を医療室で行う風習がありその場での話を口外しないのが暗黙の了解なのだ。まあ、レジェンドの者はどこの者であろうと口外しないだろうがな」


レイスは考えるように言う。


「つーかさ、聞かれて困る話なら偉い人二人はしないでしょ?」


シオンの言葉にゼルダとルミエールは視線をさ迷わせる。


正直油断していたのは事実だ。


裏切ることはないと思っていたベルツボークが政治家に情報を流したのだ。仲間達を信用していないわけではないがここですべき話ではなかったかもしれない。


そんな二人にレイスは冷めた視線を送るとため息をつく。


「とにかく戻ろう」


レイスの言葉に二人は同意し歩き出す。


「ねぇ、ところであれって月?」


シオンは通路の上方にある透明な小窓から見える光る物体を指差して聞く。


三人は足を止めシオンの指先の方向を見上げる。


「……ああ、カペラだね」


ルミエールが答える。


「カペラ?何それ?月じゃないの?」


シオンは首を傾げる。


「地球にも月と太陽はあったのだったな。カペラは人工のブラックホールのようなもので宇宙間にある塵を集めるものだ。これのお陰で塵や隕石との衝突事故は少なくなった」


ゼルダがカペラについて説明する。


「そうなんだ。カペラって月みたいで綺麗ね。アタシ、月ってすごく好きだったの。十五夜とか十三夜とかよく皆で月見パーティーをしたのよ」


シオンはカペラを見ながら懐かしむように言う。


「…本星なら月も見れます。君が本星に行く機会があったら見れるように手配しましょう」


ルミエールは嬉しそうなシオンに微笑んで言う。


月を見るだけで喜ぶなら見せてやりたいと思う。


ゼルダとレイスはそんなルミエールに驚く。どうやら本当にシオンのことが気に入っているらしい。


彼が特定の誰かを喜ばせようとするのは珍しい。


付き合っていた女性達にそれをしていれば良かったのでは、と、ゼルダは内心苦笑する。


一方レイスは思い付いた計画をすぐにでも実行出来そうだとほくそえむ。


「艦長と副官の故郷はアリアクロスの中でも月が一番美しく見える場所にある。二つの月が交わる場所なのだよ」


レイスは淡々と説明する。


「……はい?二つ?」


「ええ、双子月です。ああ、そういえば確か地球には太陽も月も一つしかなかったと歴史書には書いてありましたね」


「太陽も?」


「アリアクロスには四つの太陽が存在する。地球の太陽のように高温ではないが重なる時期は暑い日が続くな」


ゼルダが説明する。


「重なる?」


シオンは考え込んでしまう。


地球の太陽や月の概念とはかなりかけ離れている。


今更ながら地球と全く違う環境の惑星なのだと実感する。


「アリアクロスのことは追々説明するとして、いい加減ディスクの解析をしたいのだがな?」


レイスの言葉にゼルダとルミエールはその通りだと足を動かし始める。

それに話をするならば医療室が安心だ。

軍の医療に携わる者は守秘義務を遵守することを矜持にしている。中にはそうでもないような者もいるがレジェンドの医療室の者は信頼できる。


「話は医療室に戻ってからだな」


「医療室の人は色んな情報を握ってるのね。誘拐とかされたら大変ね」


ゼルダの言葉にシオンが考えるように言う。



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