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仲裁

シオンは室内を見て呆然としていた。


どうせなら自分も外に居たかったとも思う。


先程までBLネタでからかっていた艦長が怖い顔をして銃を構えていた。


銃声は彼が起こしたものなのだろう。


そして彼に対峙する男は無表情に立っていた。


一見して料理人だと解る格好をしている。


この部屋の中にはシオンを含めた四人以外誰も居ない。


カウスが艦長の言い付けを守った成果だろう。


「…ルミエール、何故連れてきた?」


ゼルダはシオンを見てため息をつく。


「何をしているんだ?」


ルミエールはゼルダを睨む。


ルミエールはシオンを近くのテーブルの上に座らせるように降ろすとつかつかとゼルダの元に行くといきなり殴り飛ばす。


ゼルダはテーブルと椅子を巻き込みながら倒れる。


「…っつ。相変わらず馬鹿力だな」


ゼルダは頬を押さえながら上半身を上げる。


「こんなところで銃を撃つ馬鹿がいるか!」


「情報を政治家に売った」


ベルツボークが自嘲気味に言う。


「裏切ったのですか?」


ルミエールは驚いたようにベルツボークを見る。


「ああ」


「理由は?」


「言い訳にしかならん」


ベルツボークの言葉にルミエールは眉間にしわを寄せる。


「理由すら聞かずに撃ったのか!」


ルミエールは怒りを顕に振り返りゼルダを睨む。


「…空砲だ。理由くらいは聞くべきだろう?」


ゼルダは答えため息をつく。


「艦内を混乱させるだけだ。今は難民も居ることを忘れたのか?」


シオンはそんな緊迫した三人の様子を見ながらもテーブルに置いてある手の付けられていないホットサンドが気になって仕方なかった。


食欲のそそられる良い匂いがした。


こんな状況で空腹を満たすのはどうだろうと空気の読めるシオンは葛藤していたが、どうせ自分には解らない何かがあるのだ。


彼らの問題に口出しする気もなければするべきでもない。


それに今は自分の存在は彼らの眼中にない。


自分に銃口が向くことも多分ないはずだ。


そう納得し抑えられない食欲を満たすことにした。


「ベルツボーク、情報を売った理由を言え」


ゼルダは立ち上がるとベルツボークを見据える。


「言い訳をするつもりはない。艦長、俺を撃て。俺が裏切ったのは間違いない」


「またそれか。理由を聞いているのだ」


二人の会話にルミエールは額を押さえる。


「つまり、艦長は理由を聞くために空砲を撃ったと?」


「当たり前だ」


「偉そうに言うことか!馬鹿か、お前は!…ベルツボーク、何の情報を売った?」


「そこの嬢ちゃんの・・」


ベルツボークは言いながらシオンを見て口を開ける。


ゼルダとルミエールも途中で言葉を止めたベルツボークの視線の先を見て唖然とする。


シオンはこんな状況の中でテーブルの上に置いてあったホットサンドを美味そうに頬張り、更に置いてあった飲み物を流し込んでいる。


とても満足そうだ。


この状況を理解していないのだろうか。


それとも解っていてやっているのか。


ゼルダとルミエールは後者だと断定し顔をひきつらせる。


三人が自分に注目していることに気付くと、シオンは慌ててホットサンドと飲み物を置く。


「あ、あら?話し合いは終わったのかしら?」


「…よく、この状況で食べれますね」


ルミエールは顔をひきつらせたまま言う。


シオンの行動は予想外過ぎる。


「いや、ほら、アタシ、アンタ達の内輪揉めとか関係ないし?これすごく良い匂いして何かお腹が空いたし?」


シオンはテーブルの上で姿勢を正して目を泳がせて答える。


「おいおい関係なくはないだろう?おっちゃんは嬢ちゃんの情報を売ったんだぞ?」


ベルツボークは呆れたように言う。


よっぽどの大物か馬鹿なのか、信じられない行為に驚いた。


「アタシの情報なんて頭がおかしい地球人で未知のグレイドに乗ってたってことくらいでしょ?そんなの首長に会えばすぐ広がるし、大した情報じゃないんじゃない?」


シオンは言う。


「確かにそうだな」


ゼルダは考えるように言う。


ベルツボークが政治家に売った情報にはシオンの詳細情報は何一つないはずだ。


自分たちもあのディスクを見るまで詳細など何も解らなかったのだから。


シオンの言うとおり首長に面会すればアリアクロス中の人間が地球人のシオンと未知のグレイドの存在を知ることだろう。


「頭のおかしいってところは訂正してくれてもいいんじゃない?」


自分で言っておきながらシオンは言う。


「……だが、この男が我々を裏切ったことは間違いないのだ」


ゼルダは言い、ベルツボークを冷たい目で見る。


「つーかさ、アンタらバカなの?まずおっちゃん、理由が言い訳にしかならないっていうなら最初から完全黙秘しときなさいよ。許してもらうつもりがない。だから撃てってばっかじゃないの?マジありえないわ。そんなのはおっちゃんの我侭よ。死にたいなら撃たれるんじゃなくて、首でも吊れば?で、ば艦長は突っ走り過ぎ。銃声なんてアタシもだけど難民の皆様も恐怖に震えるわ。超怖いんですけど?てか、おっちゃんは裏切ったって認めてるんだから理由を聞きだしてどうすんの?許すの?許さないつもりなら聞く必要もないでしょう?許すつもりなら銃なんか使わないで、穏便に済ませなさいよ。周りの皆さんも迷惑してるんじゃない?」


シオンは早口で言うと再びホットサンドを口に運ぶ。


口出しするつもりはなかったが、つい言ってしまったことにシオンは内心焦っていた。


実弾で撃たれてもおかしくないことを言った自覚もある。


それに全く知らないベルツボークに首を吊れと酷いことも言っている。


シオンの言葉にベルツボークは唖然とし、ゼルダは難しい顔になる。


「ぷ、ふふ、あはは」


ルミエールが腹を抱えて笑い出す。


予測不能のシオンの言動が面白過ぎる。


普通ならこの状況で相手を刺激する事は言わないだろうし、その後に食べ物を食べたりしない。


「これ、美味しいわね。優しい味がするわ。食べやすいし、食べる人のことを考えてる。作った人はきっと他人を思いやれる人なんでしょうね?見たところ、おっちゃんしか料理人はいないようだけど、首吊って死ぬ前にレシピ教えてよ」


シオンはおもむろにホットサンドの感想を言うとベルツボークを見る。


喋り続けなければ心が折れそうだった。


おかしなことを言っているのは十分解っていたが止まらない。


唯一この状況を何とか出来るはずのルミエールが大笑いしていて役に立ちそうになかったからだ。


「首を吊る前にレシピを教えろって・・ははは、ありえない」


ルミエールは目に涙を溜め笑いながら言う。


「つーか、ルウちゃん。笑い過ぎよ?アンタがアタシをこんなとこに連れて来るから言わなくていいことまで言っちゃたのよ。アタシが、ば艦長に撃たれそうになったら助けてよ?必ず守るって言ってたし!」


シオンは残った飲み物を飲み干してルミエールに怒ったように言う。


「ば艦長が君を撃ったら仇はとってあげますよ」


ルミエールは笑いを収めると、艦長とベルツボークを見据える。


シオンはその言葉に助ける気はないのだと解釈し顔をひきつらせる。


「さて、ベルツボークは首を吊る前にレシピを教え、艦長は恐怖に震える難民に謝り、迷惑をかけた皆にバカだと罵られるということで構いませんか?」


ルミエールは微笑んで言うが目は全く笑っていなかった。


「処分なら俺一人で・・」


「ベルツボーク、お前が決めれることは何もないよ」


ルミエールはベルツボークの言葉を遮る。


「艦長が裏切りを許さない男だと解っていて裏切った。弁解の場を与えられているのにも関わらず理由も言わない。挙句の果てに撃てと?ふざけるな!悪いと思うなら弁解位しろ!」


ルミエールは怒っていた。


「ゼルダ、お前もだ。撃てと挑発され何で空砲だ?許せないなら心臓を狙え。昔のお前なら平気でやっていただろうが!」


ルミエールの言葉にベルツボークもゼルダもバツの悪そうな顔をする。


「シオン」


「はい?」


ルミエールに突然名前を呼ばれシオンはきょとんとする。


「レジェンドには特殊ルールがあります」


「はあ」


「おい、ルミエール、それは・・」


ゼルダは言い掛けるがルミエールに睨まれ黙る。


「艦内において私闘または乱闘があった場合、上官や最高責任者またはそれに準ずる者が仲裁する。しかし、上官や最高責任者がそういう事態を引き起こした場合は全く関係のない第三者が仲裁をすることになっています。ここに居る第三者は君だけですね?」


ルミエールの言葉にシオンは勢いよく手を上げる。


「はい、それならルウちゃんの方が適任だと思います。大体、アタシの情報を売ったことが原因ならアタシ当事者ね。ついでに言えばルウちゃんは何も引き起こしていない。バカ二人の仲裁はルウちゃんがすればいいのよ」


シオンは面倒なことを言うなとばかりに口を尖らせる。


「当事者、そこにも特殊ルールが発生します。君は当事者であるにも関わらず勝手に私闘の原因にされている。そして、そのバカの一人は艦内を混乱させるような発砲までした。本来なら、私が二人に処分を下さなければなりませんが私の処分は両名とも監房行き。しかし、それでは業務に支障が出ます。バカ二人は中々代わりの人間がいない役職についているのでね。そこで、特殊ルールです。当事者は意味も解らず巻き込まれているのですからね。迷惑ですよね?」


ルミエールはにこりと笑いシオンに同意を求める。


「いや、別・・」

「そうですよね!迷惑でしょう」


迷惑は被っていないと答えようとしたシオンの言葉を遮りルミエールは話を続ける。


「そんな当事者は第三者として仲裁に入れるのです。君の好きなように処分してかまいませんよ?私が許可します」


「………」


シオンはジト目でルミエールを見る。


好きなようにと言いながらも業務に支障が出ないように丸く治めろと言われた様な気がする。


本当に自分が決めてもいいのだろうか。


シオンは思案するように三人を見る。


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