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閑話4

読んでくださりありがとうございます。


「……」


シオンは黙ってルミエールの横顔を見ていた。


銀色より白に近い髪の毛が動く度にサラサラ揺れて通路の光に反射しキラキラ光って綺麗だと思った。


華麗な顔の造りは中性的で正宗とは違う美しさがある。


昔は女の子に間違われたに違いないと思いながら、シオンは見惚れていた。


「セクハラ顔が珍しいのかい?」


ルミエールはシオンの遠慮のない視線に苦笑しながら聞く。


「いや、眼福だなーって。ガン見しといて損はないわ。何つーか綺麗だわね、アンタ。髪の毛サラサラだし、白くてアルビノっぽいわよね?」


「さっきはセクハラ顔だと言ってましたよね?」


「あら?根に持ってるの?綺麗だって言ってるのに」


「…あまり、嬉しくはないね」


ルミエールはため息をつく。


綺麗だと言われ喜ぶ男はそんなに居ないことだろう。


「お兄ちゃんなら、ありがとう、シオンの可愛らしさには負けるけどね。くらいは反撃してくるわよ?」


シオンは笑って言う。


「確かに君の可愛らしさに勝てる気はしませんね」


ルミエールはシオンの顔をジッと見つめて真面目な顔で言う。


「うん、悪かったわ。美人にそれ言われるとやっぱキツイわ。つーか真顔で言われるとかキツ過ぎよ」


「…アルビノというのは間歇遺伝なのですか?」


ルミエールは話を変えるように聞く。


「完結遺伝?何か終わるの?」


シオンは聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「間違っています。完結ではなく間歇です。…隔世遺伝と言えば解りますか?」


「覚醒?何か目覚めたの?」


シオンの答えにルミエールは空いているもう片方の手で額を押さえる。


「何と言えば通じるんでしょう?そうですね…先祖返りと言えば解りますか?」


「ああ、そうなんだ。アリアクロスの人達は昔は髪が白かったの?アルビノは違うわよ。先天性の色素欠乏で白いのよ」


シオンは納得したように答える。


「そうですか。アルビノは間歇遺伝とは違うんですね。間歇遺伝と言うのはですね、さっきゼファスの話をしたでしょう?」


「…聞かない方がいい感じなら別に話さなくてもいいわよ?」


先ほどの一瞬だけ張り詰めた空気を思い出し、シオンは言う。


「構いませんよ。皆、私に気を遣ったのでしょう。君が眠るよりずっと昔の話です。ゼファスがアリアクロスを侵略してきたことがあると話しましたよね?」


ルミエールは歩きながら話を続ける。


「ゼファスの軍隊は強く、男は殺され女性は・・乱暴され、子供は拐われた。ゼファスは奪えるものをすべて奪っていったそうです。被害は大きくアリアクロスは疲弊し困窮していたそうです。その時は友好関係を結んでいたガリアやコラルドに助けられたそうです。その時からアリアクロスは軍事や自衛の為の開発に力を注ぐようになり、今日の発展があります」


シオンは黙ってルミエールの話を聞いている。


「その時に生まれた子供…ゼファスの血を引く子供達は髪が白かったそうです。アリアクロスは一方的に攻めてきたゼファスが許せず今も交流はありません。そして、その血を引く子供は蔑まれた。今でも私のようにその時の名残が出てくる者もいます。…やはり差別は受けますね」


「何それ?バカな話ね」


話を聞いていたシオンは呆れたように言う。


「バカな話…ですか?」


ルミエールは驚いたようにシオンを見る。


「だってさ、アタシが眠るより前に起こったってことは少なくとも四百年以上は経っているのよ?それだったらカンケツ遺伝を持ってる可能性がある人はかなり居るわ。ただ単に自分がそうならなかっただけじゃない。バカな話でしょ?それに国交がないって、子供が拐われてるのに何やってんの?賠償なり子供達の返還なり求めるべきだったんじゃない?ついでに言えば、その時に生まれた子供は被害者よ。それを蔑むとか怒りを向ける方向が間違っているわ。バカ過ぎる」


シオンは嫌そうに言う。


「…ゼルダと同じことを言う」


ルミエールは驚いた顔のまま言う。


自分に居場所を作ってくれた親友もかつてバカらしいと同じことを言っていた。


「可哀想ね、その時に拐われた子供達は。帰れる惑星があったはずなのに、そのアリアクロスという生まれ故郷に捨てられたんじゃない」


シオンの言葉にルミエールは押し黙る。


「おっと、アリアクロス人じゃないアタシが言える事じゃないわよね?ごめんなさい」


黙っているルミエールにシオンは謝る。


「いえ、君の言う通りです。アリアクロスは子供を宝だと言っていますが、当時の子供達はそのままゼファスに連れて行かれたままだったのですからね」


ルミエールは考えるように言う。


「ところで、このサラサラはどんなシャンプーを使ってるの?もしかして、特別なトリートメントでもしてるの?」


シオンはルミエールの髪を指先で摘まんだり梳いたりしながら聞く。


「君にとっては髪の毛の方が気になるわけですか」


ルミエールは苦笑する。


「だって、そんな難しい話をしたところでアタシにはどうしようもできないわ。そんなのは、国の外交以外どうにもならないじゃない。でも、髪の話ならアタシでもどうにか出来そうな気がするわ」


シオンの言葉にルミエールは噴き出す。


「君の黒い髪の方が艶があって美しいじゃないですか。私は特に何もしていませんよ」


ルミエールは空いている手でシオンの髪にそっと触れすぐに離すと柔らかく笑う。


正宗ほど長くはないが、艶があり指通りは滑らかだ。


「何もしなくてもサラサラか。羨ましい限りだわね。アタシの髪なんてアイロンしないと真っ直ぐにならないのよ」


シオンは自分の髪を掴みため息をつく。


正宗のような柔らかくサラサラな髪を目指していたがそうはならなかった。


「アリアクロスでは間歇遺伝の者に触れたり触られたりすると、同じように獣化するといわれているんですよ」


「アンタみたいに綺麗な髪になれるなら望むところよ。つーか、獣化と言いますと耳とか尻尾とか生えるわけ?もさもさの?」


シオンは興奮したような期待するような顔で聞く。


「…変わっている。それを聞いても嫌な顔しない。迷信なので君は獣化しませんよ」


ルミエールは苦笑する。


「で、もさもさ?ふわふわ?」


「さあ?私が獣化したのはかなり昔でその時のことは覚えていません。ゼルダ…艦長に聞けば覚えているかも知れませんね」


「アンタ達は昔から友達なのね」


ルミエールの答えにシオンは親友の夏生の顔を思い浮かべる。


「アタシとなっちゃんも小さい頃から親友なのよ。二人で巨乳になり隊とか結成して揉みあったこともあるけど効果はなかったわね」


「……君のほうがセクハラじゃないですか」


ルミエールはシオンの言葉に少し赤くなり言う。


「え?今、アタシとなっちゃんが揉み合う姿を想像しちゃったわけ?ホント、エロいわね。普通そこまで想像しないわよ?」


「…黙りなさい」


ルミエールは耳まで真っ赤になり、プイッと横を向く。


「つーか、トイレって遠いの?随分、歩いているわよね?」


シオンは話を変えるように言う。


「女性用のトイレは居住区の方にしかないのです」


ルミエールは話を変えたシオンにホッとしたように答える。


「別に男用でもかまわないわよ?」


シオンは気を利かせて言ったつもりだったが、ルミエールは眉間にシワを寄せた。


「女性なのだから少し発言には気をつけなさい。君はもっと慎みを持つべきです。悪い男に騙されて泣く事になりますよ?」


「ああ、バンド仲間達がよく言ってたわね」


シオンは遠い目をして言う。


「まさか、知らない惑星の人にまで心配されるなんてね。アリアクロスの女の人は慎み深いの?てか、それって、アンタ達男の理想像なだけじゃない?アンタ達が思っているほど慎み深い女性って少ないと思うわよ?」


「………」


シオンの答えにルミエールは深い溜め息をつく。


確かにシオンの言う通りかもしれないが、可愛らしい女の子の発言としては如何なものだろうか。


魅力的な可愛らしい女の子に理想を求めるのは男の性ではないか。


シオンはことごとく理想をぶち壊してくれる。


ハルなどの少年兵達は、シオンの言動はショックだったに違いない。


「君や君のお友達のナツミは周りの男を泣かせていそうですね」


残念そうにルミエールは言う。


映像に映っていた夏生もかなり可愛らしい女性で清楚に見えたが、シオンと同じく口が悪かった。


何しろシオンの親友だ。二人で突飛な発言をし、周りの男性を翻弄していたのだろう。


「…アタシもなっちゃんも、見た目だけで勝手な理想を押し付けられていたのよ。見た目と中身が伴わないとか、騙されたとかさ。こっちからしたらいい迷惑だわよ」


シオンの言葉にルミエールはしまったと内心焦る。


どうやら触れてはいけないところをつついてしまったようだ。


シオンの目が据わっている。


「いつだってそうよ。見た目だけは良いんだから黙ってろとか、可愛く振舞えとかさ。何でそんなこと言われなきゃいけないわけ?」


シオンはムスッとしながら言う。


「………」


今、口を挟んではいけない。ルミエールは黙って歩き続け、自分の発言を後悔した。


「アタシもなっちゃんも思い通り動く人形になれってか?冗談じゃないわよ、だったらリアルドールにモーターでも仕込んで楽しんでろってのよ。喋らない分、アタシ達よりマシなんじゃない?」


シオンはぶつぶつと文句を言っている。


自分に言っているのか、かつてそう言われたことのある相手に言っているのか、ルミエールには判断がつかなかった。


リアルドールとは何か解らないがそれを聞くことも憚られる。


「チクショウ、どいつもこいつもムカつくわ」


シオンは言い、キッとルミエールを睨む。


「…すみません。私の失礼な発言が君を傷つけたようですね」


ルミエールは謝る。


「取り敢えず謝っておこうってならいらないわ。いいのよ、アンタの言いたいことも解るのよ」


シオンは言い溜め息をつく。


「確かに可愛い女の子がオヤジっぽい言動してたらガッカリよね?」


「…自分で可愛い女の子って言っちゃうんですね」


「アタシ、ずっと可愛いとか美少女とか言われ続けてきたもの。可愛くないとか言ったら嫌味にしか聞こえないでしょ?アタシに慎ましいとか控えめとかないわよ。しょうがない、これがアタシなのよ」


「ぶはっ、あはは」


シオンの言葉にルミエールは堪らずに笑い出す。


シオンの発言が残念を通り越し楽しくて仕方なかった。


自分の見た目の良さを解っている上であえて婦女子は言わないことを言う。


本当に面白い。


「…副官?」


訝しむような少女の声が聞こえる。


そちらを見ると戸惑ったようなアスカが立っていた。


居住区の通路で少女を抱えながら笑っている上官は異様に見えた。


笑いを収めたルミエールと目が合うとアスカは慌てて敬礼する。


「あ、暴力少女」


シオンはアスカを見ると呟く。


「ぼ、暴力少女?」


「ぶっ」


アスカがショックを受けるのと同時にルミエールは噴き出す。


「ちょ、副官?酷いです。私はアスカ。アスカ・エミルよ」


アスカは非難の目をルミエールに向けながら自己紹介をする。


「アスカ、良い名前ね。知ってると思うけどアタシは東城シオンよ」


シオンはにこりと笑い自己紹介する。


「アスカ丁度いいところに。シオンのトイレを手伝ってあげてくれませんか?」


「トイレ…ですか?」


ルミエールの言葉にアスカはきょとんとする。


一方、ルミエールは女子トイレに入らずに済むことにほっとする。


「アタシの身体すごく動き辛い上に、自分で着るのも脱ぐのもできないこの服を着てるの。で、悪いんだけど手伝って欲しいの」


シオンは申し訳なさそうに頼む。


「そういうことなら勿論」


アスカは笑顔で了承する。


「ありがとう」


シオンは嬉しそうに礼を言う。


「いくら美人のセクハラ親父といえど、女子トイレに侵入させるのは流石に悪いと思っていたのよね」


シオンの言葉にアスカは笑い、ルミエールは疑わし気にシオンを見る。


「あら?その目は何?さっきも男子トイレでもいいって言ったじゃない」


シオンは心外だとばかりにルミエールを見る。


「それとも堂々と百合が戯れているかもしれない秘密の花園を目視したかったの?」


「…意味が解りません。地球の女子トイレは花園のようになってるのですか?」


「ええ。女子高とかはそんな感じよ」


「素敵ね。ここも花が飾ってあればだいぶ違うでしょうね」


アスカは感動した様子で言う。


シオンは嬉しそうなアスカに良心が痛み、本当の意味を教えることを断念する。


ルミエールはシオンのバツの悪そうな顔に意味を理解し苦笑する。


「…さて、降ろしますよ」


ルミエールは言いながら、シオンを降ろしかけハッとする。


「履物を忘れていました」


「裸足で構わないわ。あとで拭けばいいし」


シオンは中途半端な格好で止まったルミエールに苦笑する。


ルミエールはすまなさそうにシオンを降ろす。


地面に立ったシオンはふらつく。


アスカがそんなシオンをすばやく支えてくれる。


「お年寄りの気持ちが解るわ」


支えられていてもとにかく歩き辛い。


「すまないねー、アスカさんや」


シオンは支えてくれているアスカに老人のように言う。


「いえいえ、構いませんわ。シオンおばあさま」


アスカは答えて笑う。


シオンもノッってくれたアスカに嬉しそうに笑顔を返す。


「アリアクロスでもノリがいい子もいるのね?ハゲルとか、何言ってんだくらいで終わりそうよね?」


「…ハゲル?」


アスカは一瞬考え誰を指してるかに気付き笑い出す。


「怒ったでしょ?ハル・ジェイド」


「いや、そんなに怒ってなかったわよ?最終的に何も言わなくなったし」


シオンはハルの様子を思い出しながら言う。


「君に言っても無駄だと思って諦めたんでしょう」


ルミエールは苦笑し言う。


「アリアクロスの人って凄いわよね。むっつりとかセクハラとか鬼畜とか言われてるのにそのまま話続けられるんだから」


シオンは感心したように言う。


「訂正したら直してくれるんですか?」


ルミエールはため息をつく。


「…そうね」


シオンはじーっとルミエールを見る。


「セクハラ親父とルウちゃん、どっちがいい?」


シオンはニコッと笑いルミエールに聞く。


その言葉にアスカがギョッとする。


どちらも自分や同僚たちは言えない呼び方だ。


副官は普段は優しいが怒らせると怖いことを身を以って体感している。


レジェンド、いや軍人でそんなことを言う人間はまずいないだろう。


「……いや、よく考えるとほぼ一択ですよね?」


「他の候補はサラサラ美人、エロ顔仙人、想像力パネェ、とかよ?」


シオンの言葉にルミエールとアスカは顔を引きつらせる。


「つーか、トイレはどこ?アタシ、そろそろやばいのよ。お漏らし女とか言われたくないんだけど?」


シオンの言葉にアスカは我に返る。


「すぐそこよ」


少しだけ早足でアスカはシオンを支えたまま進み、少し大きめな扉の前で止まるとボタンを押してから扉を手で押して開ける。


「トイレは自動ドアじゃないのね?」


「誰かが通る度に開いたら中が丸見えになってしまうわ」


「そうね、エロいルウちゃんとかガン見しそうだものね」


シオンの言葉にアスカは思わず噴き出す。


本人を前にして言えるのには感服する。


「………」


女子トイレに入っていく二人を見送りルミエールは深い溜め息をつくのだった。


どうやら、自分はルウちゃんとこれから呼ばれるらしい。


セクハラ親父よりはマシかと思いハッとする。


何故それで納得しているんだ、と。


ルミエールはもう一度深い溜め息をついて頭をかいた。


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