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親友

医療室内の者は気遣わし気に肩を震わせるシオンを見る。


だが、誰も声はかけれなかった。


慰めの言葉が何の役にも立たないことが解っていたからだ。


『シオン、ごめんね。もしかしたらシオンはこんな状態は望んでなかったかも知れない。でも、俺はシオンに生きてて欲しかったんだ』


正宗は言いながら俯いてしまう。


膝に置いている握った拳が震え、ポツポツと涙が当たる。


『…シオンまで居なくなるの耐えられなかったんだ』


掠れた声で正宗は呟くように言う。


『大切なものを失うのはもう嫌だ』


正宗は涙を流しながら顔を上げる。


『いい年齢して情けないってシオンに怒られちゃうね』


正宗は言いながら着物の袂で顔を隠すように涙を拭う。


嗚咽が時々聞こえてくる。


『…何でパパ、号泣してるのよ?』


映像には映らないが、少女のような声が聞こえてくる。


「なっ…ちゃん?」


シオンが声に反応して顔をあげる。


『…何か色々喋ってたら泣けてきたんだ。なっちゃん、ちょっと、俺と交代してくれる?ついでに、ここの説明しておいて』


正宗は言うと立ち上がり画面から消えていく。


『つーか、面倒な説明を押し付けたわね?ま、いいわ。直ぐ戻ってきてよね?』


『…顔を洗ってくるだけだから』


画面外で会話が聞こえ、入れ替わるようにワンピースを着たシオンの親友の夏生が椅子に座る。


妊娠しているらしく下腹部が膨れている。


『……シオンの馬鹿ちんがっ』


座っていきなりの悪態にシオン以外は目をパチクリさせる。


悪態が似合わない清楚な感じの女性に見える。


『どんだけ心配かけるのよ。一緒に成人式行こうって約束したのに…。温泉旅行だって…シオンの馬鹿っ!』


言うと夏生はポロポロと涙を流す。


「…なっちゃん」


親友の涙に反応してか、シオンもポロポロと涙を流す。


『あーもう。泣く気なんてなかったのにシオンのせいよ』


夏生は言うとポケットからハンカチを取り出し涙を拭く。


ゼルダも胸のポケットからハンカチを取り出すとそっとシオンに差し出す。


「…ありがとう」


シオンは受け取ったハンカチで溢れる涙を押さえるように拭うと、そのまま鼻をかんだ。


「……。ぶっ」


ルミエールは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。


「…セクハラ親父、多分ここ感動的なお涙頂戴の場面よ?普通、笑う?」


シオンは唇を突き出し言うとため息をつきハンカチを見る。


「……洗って、いや、新しく買って返すわ。セクハラ親父が」


シオンはゼルダに言う。


ゼルダはそんなシオンを呆気にとられたように見る。


「……何よ。号泣してた方がいいわけ?」


シオンは目と鼻を真っ赤にして不機嫌そうに言う。


「いや、そうではない」


ゼルダは呆気にとられたまま頭を掻いた。


何故、この娘はこうも予想外の反応ばかりするのか。


いっそのこと泣いていてくれた方が慰めるなり対応しやすい。


「…我慢しないで泣いてもいいと思いますけどね」


「アンタがぶち壊したんじゃない」


笑いを引っ込ませ心配気に言うルミエールの言葉にシオンは顔をひきつらせる。


「…私のせいですか」


ルミエールは言いながら、彼女の機嫌を損ねてしまった理由を思い出す。


「…ぶっ」


思い出し、もう一度笑い出しそうになるのを必死に堪える。


まさか人のハンカチで鼻までかむとは思わなかった。


しかも、神経質なほど綺麗好きなゼルダのハンカチでだ。


笑う場面でないことは重々承知していたが、予測できない行動に出られてしまったのだから仕方がない。


「……ルミエール、お前が悪い」


ゼルダは溜め息混じりに言う。


だが、ルミエールが笑わなくてもシオンはこのような反応を示したのではないかと思っている。


『ちょっと、シオン、聞いてよ!慎のやつ酷いのよ?私の料理食べたらパパが倒れるとか言って厨房から私を追い出したのよ?信じられない、ムカつくわよねー?』


夏生はハンカチを握りながら悔しそうに言う。


先程まで泣いていたとは思えない程の元気さに医療室内の者は苦笑する。


シオンで免疫ができた為か、多少の口の悪さは気にならなくなっていた。


『でも、パパの料理よりは食べれる筈なのよ?つーか、パパ、シオンが居ないと死ぬわ。カップラーメンすら作れないってどこのお姫様よ?どんだけセレブよ?アンタね、嫁に行かなきゃならないんだから、パパに料理くらい仕込んでおきなさいよ』


夏生は一気に捲し立てる。


『そりゃ、シオンが料理上手だってことは解るわよ?でもね、パパにせめてカップラーメンはお湯を入れるだけでいいとか教えてよ。私、カップラーメンをそのままバリバリ食ってるパパを見て泣けたわよ?』


夏生の言葉にシオンは驚く。


「…マジですか?アタシ、教えたような気もするんだけど」


夏生の言葉にシオンは顔をひきつらせる。


確かに正宗は料理が出来ない。


正宗に引き取られた時は大体、出来合いの弁当か外食だった。


それではいけないと思いシオンが料理を作り始めたのだ。


そのせいか、料理ならかなり出来る部類だと自負している。


自分が居ない時、正宗は何を食べていたのだろうと今更ながら心配になる。


『一度だけパパが料理を作ってくれたんだけど凄かったのよ。パンと目玉焼だったらしいんだけど全てが炭化してるの。ダークマターよ。あんなもん食えるかってーの。どうすれば、ああなるの?それから慎がパパを厨房立ち入り禁止にしたのよね』


「他人様には絶対に振る舞うなって言っておいたのに」


シオンは頭を抱えてしまう。


正宗の料理は見た目も味も破壊的だ。


一度だけ食べたことがあるが二度と食べたくないものに認定した。


『シオンはあのダークマターを食したんでしょ?アンタは勇者よ。パパね、それがすごく嬉しかったんだって。だから、私と慎にも振る舞ってくれたのよ。私ね、どんなに不味くても我慢するつもりだったんだけど、あれは無理。死ぬわ。ご飯食べて三途の川が見れるとは思わなかったわよ』


夏生は力説する。


医療室内は呆気に取られている。


「…なあ、ダークマターって何だ?あと、三途の川って?」


ハルが不思議そうにシオンに聞く。


「元々の意味は地球の宇宙論にある存在自体あやふやな、本当にあるのかどんなものかも解ってない暗黒物質のことよ。三途の川ってのは生と死の間にあるって言われてるものよ」


「…え?お父様の料理の話がそんな壮大な話になるのですか?」


ルミエールが驚いて言う。


「うん、そんなに深く考えなくていいわ。お兄ちゃんの料理が食べたら死にそうなくらい超不味いってだけの話だから」


シオンは苦笑いする。


「君もそうだが、このお嬢さんも随分とよく喋るのだな」


レイスは呆れ混じりに言う。


「なっちゃんなら一分で終わる話を一時間位は持たせられるわよ?」


「どうしたらそんな無駄な話が出来るんだ」


シオンの答えにレイスは思わず言う。


「アンタね、だから振られるのよ?」


「それは関係ないだろう」


「解ってないわね。女子の会話に無駄なんて言葉はないのよ?」


シオンの言葉に医療室内の男性陣は微妙な顔をする。


「モテる男はうるせーなって思っても黙って聞ける男よ。逆に無駄な会話だなんて言う男は後であいつ最悪とか言われるのよ。あ、でもイケメンなら超クールとか逆に好感度が上がる場合もあるわ」


「…女性は話好きなものですからね。それより、続きを見ましょう」


ルミエールは苦笑しながら言う。


早くこの会話を終わらせなければ、本格的に語り出しそうだ。


「中にはアタシみたいに会話が苦手な女子もいるわよ?」


「………」


シオンの言葉に医療室内の者は深い溜め息をつく。


「ちょっと、その反応は何よ?」


シオンの言葉に答えず一同は映像に目をやる。


『あ、ここの説明だったわね。えーとね、海の中なんだけど膜を張った平行世界なんだって』


夏生の説明に一同はポカンとする。


意味が全く解らない。


『パパも人選を間違ってるわよね?私に難しい説明が出来る訳がないのに』


夏生は溜め息混じりに言う。


『この場所自体はシオンは解るんじゃない?アンタがいた孤児院よ』


「…なんとなく見たことある場所だとは思ってたけど…そっか」


シオンは呟く。


『つーか、シオン、言ってよ。孤児院でひどい目に遭ってたとか。私、パパに聞いて初めて知ったのよ?早く教えてくれたら元職員共にお礼参りに行ったのに』


夏生はムスッとしながら言う。


夏生の物騒な言葉にシオンは苦笑するが、自分の為に怒ってくれている親友に嬉しさを感じる。


『この孤児院ね、職員の態度が悪いからってシオンを引き取った後、パパが買い取ったらしいのよ。職員一掃して、すごくいい孤児院って有名だったのよ?』


夏生の説明にシオンは驚いた顔をする。


初耳だった。


『因みにオーナーはミスターダンディー。ほら、パパがああだからさ、ダンディーが心配して夫婦でここやってたのよ。知らんかったでしょ?私は保育士目指してたからここでよくボランティアしてたんだ』


「知らんかったわよ。おじさんまで絡んでたのか」


夏生の言うミスターダンディーとは、よく小遣いをくれた正宗のおじだ。


『パパにシオンが気にするんじゃないかって、シオンには内緒にしておいてねって言われていたのよ。因みにここにいた子供たちは全員がパパは女の人だと思ってたわよ。超ウケるわ』


「君と君の友達はよく似ているな」


若干遠い目をしてゼルダが言う。


結局、居場所の説明はされていない。


「一緒にいると双子なの?ってよく聞かれたわよ。なっちゃんだけは全裸のお兄ちゃんを気にしないで遊びにきてくれてたのよ。マグナムに点数つけてお兄ちゃんを泣かせたのはなっちゃんだけよね」


シオンの言葉に医療室内の男性陣は顔をひきつらせる。


「因みになっちゃんはBL大好きな妄想腐女子だからアンタ達は完璧なおかずよね」


シオンの言葉にゼルダは寒気を感じる。


「びーえる?」


レイスは首を傾げる。


「レイス博士、それは知らなくて良いことだ。シオン、君も答えなくていいからな?」


ゼルダがこの話題を避けるために先に口にする。


「…プッ。ちょっと、アンタ必死すぎよ」


シオンはからかうようにゼルダを見て言う。


「艦長を虐めないでください。ほら、お友達が話をしてますよ」


ルミエールは苦笑しながら映像を指差して言う。


『で、続きだけど。うーん、上手く言えないんだけど、ほら、ドラ〇もんの道具で鏡の世界の裏側みたいなとこにいくやつあったじゃない?要はそんな感じなのよ。膜を通して平行した世界を作ったみたいな感じ』


夏生の説明にシオンだけが納得したような顔をする。


「…レイス博士、解るか?」


ゼルダがレイスに聞く。


「膜を使っていると言うことだけは解るがあとはよく解らない」


レイスは腕を組み答える。


『膜宇宙的なものだってパパは言ってたけど、私にはさっぱりだわ』


夏生はケラケラ笑い出す。


正宗は確かに人選を間違ったようだ。


医療室内のシオン以外は苦笑するしかなかった。

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