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読んでくださりありがとうございます。

今回はシリアスです。

「つーか、とんでもなくもの凄いカミングアウトだったわね?お兄ちゃんって、サイ〇人の比じゃないわ」


シオンは冷静に言う。


正宗の悪戯については言及する気はないようだ。


「ああ、全くだ。とんでもないことを語ってくれたな」


レイスが同意する。


シオンと同じく悪戯については何も言う気はないようだ。


正宗が話したことは歴史的にも重要なことばかりだった。


彼の話していた故郷の惑星〈シオン〉とは創世記で語られた栄華を極めた移動の民の惑星のことだろう。


創世記を書いた人物は移動の民に寄生されていた。


そして、寄生していたのはクランセルバの初代女王となったクラリス。


彼女が移動の民だったなど、歴史学者たちが歓喜しそうな内容ばかりだ。


そして、移動の民が実在していたことその生態まで説明されている。


正宗は何十億という年月を生きていた更に移動の民は核さえ傷付かなけれは不死であるらしい。


人類とは違う知能を持った神秘の生命体。


生物学者たちまでも歓喜するだろう。


このディスクは地球に起こったこと以上の情報が入った貴重なものだ。


紛失損失は絶対にさせられない。


「厄介なことですね」


ルミエールが左手を胸に当てながら呟く。


「このディスクとシオンは間違いなくクランセルバに狙われます」


「…初代女王が移動の民だったことを隠したいから?」


シオンは聞く。


「いえ、隠すことは無理でしょう。現にもう我々は知ってしまった。君を初代女王の縁の者であるとでも言い保護の名目でも使って手に入れようとするかも知れませんね」


「滅茶苦茶だわね。アタシはクラリスなんて知らねーわよ?つーか、クランセルバはアタシをどうするのよ?」


シオンはため息をつく。


「地球人というだけで利用価値がある。それに、君の乗っていたグレイドもマクシミリアンとの戦闘において有利になる」


ゼルダが腕を組みながら答える。


「…マクシミリアンって何?」


シオンは首を傾げて聞く。


「マクシミリアンは、俺達のいや人類の敵だ。人間を喰う化物。お前の親父さんが言ってた侵略者のことだ」


ハルが忌々しそうに答える。


「マクシミリアンって人間の名前じゃないの?」


「…一番最初に化物に喰われた人間がマクシミリアンと言う人物だったと伝えられている。喰われた人間もまた化物になる」


ゼルダが顎に手をやり説明する。


「…グロいわね。何かお兄ちゃんが借りて観てたバ〇リアンとかエイリ〇ンの映画を思い出すわ。リアルにあんなのと戦ってるってことなのね」


シオンは考えるように言う。


そして、ジーっとゼルダを見る。


シオンに見つめられゼルダは若干身構える。


「何だ?」


「アンタは最初にアタシを監視するって言ってたわよね?」


「…ああ、言ったな」


ゼルダは考えるように答える。


「それは、アタシが地球人だって言って、グレイドとやらに乗っていたからよね?」


「ああ、その通りだ。宇宙間を移動できる文明を持つ惑星に住んでいる者は惑星連盟に登録籍がある。そして、カプセルやグレイドにも登録証があるのだが、君の乗っていたグレイドにはそれは無かった。我々にとって君はまさに未知の存在だ。その君をこの艦に保護した。この艦には難民を含め多くの人間を乗せている。君が危険人物だった場合、この艦にいる者の命を危険に晒してしまう。だから、監視下に置くと言った」


「……ちゃんと喋れるじゃない」


シオンの言葉にゼルダは面食らう。


自分で質問しておいて、その答えはどうなのだ、と。


「監視されるのは構わないわ。一番偉い人の判断としたら当たり前よね。問題はその後よ。もう一度聞くけどアンタ達はアタシをどうしたいの?いい加減考えは纏まったんじゃない?」


シオンはゼルダを真っ直ぐに見つめて聞く。


「それとも、最後までこれを見てからにする?」


シオンは言うと目の前のコンピュータを、ルミエールやレイスが操作したように進んだ映像を戻し停止させる。


目の前で何度も操作されていたので動かすことくらいならシオンにも解るようになっていた。


「…見てから答えよう」


ゼルダは思案するように答える。


シオンが頭の良い娘だと言う事は充分解っている。


シオンの納得できる言葉を紡ぐことができなければ、彼女の信用を得ることは出来ないだろうと感じる。


ゼルダは小さくため息をつく。


「じゃあとりあえず、続きを見ましょうか」


シオンは軽く言うと、映像を再開させる。


「…数回見ただけで操作出来るとは」


「アタシ、パソコンはよく使ってたのよ。ゲームもだけどネサフが好きだもの」


レイスの言葉に答えるとシオンは薄い幕に目をやる。


「ねさふ?一体何だそれは?」


「レイス博士、それは後でじっくり聞けば良いのでは?」


ルミエールが苦笑する。


「……そうだな」


言うとレイスも幕を見つめる。


シオンの話も聞きたいが正宗の話も彼の興味を惹き付ける。


『シオンは俺にとって故郷以上に大切な宝物になった。全然笑ってくれないシオンに笑って欲しくって色々やったけど、最終的に全裸が一番ウケてたよね』


正宗の言葉にシオンは衝撃を受ける。


確かに一緒に暮らし始めた頃は、正宗は服を着ていたような気もする。


『全裸って開放感があるし、ある意味俺も目覚めた。シオンと一緒に俺も成長したよ』


正宗の言葉に微妙な空気になる。


そこは成長しなくて良かったのではないだろうか。


『…結局、お父さんって一度も呼んでもらえなかったね。お兄ちゃんってのはある意味大ヒットだったけどさ。妹信奉者とか気持ち悪いとか思っていたけど、あの気持ち解っちゃった。気持ち悪いとか言ってごめんなさい、だよ。でも、一度でいいからお父さんって呼んで欲しかったな』


正宗はしょんぼりと言う。


「…お父様がそのように呼べと言ったんじゃなかったのですか?」


ルミエールが首を傾げて聞く。


シオンの話では正宗がそう呼べと言ってたような気がしたからだ。


「……どうしても呼べなかったのよ。だから、じゃあお兄ちゃんって呼んでって」


シオンは小さく答える。


不思議に思いながらもそれ以上は誰も理由を聞かなかった。


『……いつか、呼んで貰えると思ってた。俺ね、シオンと一緒にいた時間は本当に幸せだった。シオンもそう思ってくれてたら嬉しいな』


正宗は言うと、またポロポロと涙を流し始める。


着物の袂で拭うが次から次に溢れる涙を拭うことは出来ないようだった。


『…ごめん、止まんないや』


正宗は俯いて着物の袂で目の辺りを抑える。


暫くして漸く顔をあげた正宗の目は真っ赤になっていた。


『…あのね、シオンって名前、気に入ってくれた?』


正宗は掠れた声で不安そうに言う。


その言葉に意味が解らず、シオン以外はポカンとする。


「シオンって名前はお兄ちゃんがつけてくれたのよ」


シオンが周囲の呆気にとられた空気を感じたのか説明する。


「…父上は君の名前を捨てさせ新しい名前をつけたのか?」


シオンの言葉にゼルダが厳しい表情で聞く。


名前は人にとってなくてはならないものだ。


そして、生まれてきた我が子につける親としての初めての仕事だ。


どんな理由があるにしろ子供の名前を変えることは、親の存在を消してしまうようなものだ。


我が子を捨てたと言っても、たった一つの繋がりくらいは残してやってもいいのではないかと考えてしまう。


「……アリアクロスって本当にいい惑星なのね」


シオンは嘲笑するよう小さく言う。


「三つ子の魂百までってリアルにその通りよね。三歳くらいまでの記憶って残っているもの」


シオンの言葉の真意が解らず、ゼルダは眉間のシワを深くする。


「アタシね、両親のこと覚えているわ。多分、三歳くらいまで一緒に居たのよ。虐待されてた。殴られて蹴られて、お前さえいなければとか言われて誰も来ないような山奥に捨てられたわ。寒くてひもじくて身体中痛くて…。それでもあの人達は迎えに来てくれる。そう信じてた。死にかけてたアタシを見つけてくれたのはたまたま山菜を取りに来た人。病院で名前を聞かれて、名前って何だろうって解らなかったのよ。笑えるわよね?アタシ、両親に名前で呼ばれたことは一度もなかったの。それどころか戸籍すらなかったわけよ。生まれたことすらないことになってたわけ」


自嘲するように話すシオンにゼルダも周囲の者も絶句した。


そしてゼルダは自分がした質問を深く後悔した。


アリアクロスでは子供の虐待などありえない。


能天気に見える少女がそこまで凄惨な目に遭っていたなどとは思っていなかった。


捨て子だと言っていた時点で気付くべきだった。


思い出したくないような悲しい記憶を呼び覚まさせてしまった。


己の配慮の足りなさに深く反省する。


「…すまない」


掛けるべき言葉が見つからず謝罪の言葉だけをゼルダは言う。


「別にいいわ。アタシ、お兄ちゃんの子供になれてすごく幸せだったのよ。それにシオンって名前、気に入っているもの。だから、お父さんって言えなかったのよ。言ったら、また、あの人たちみたいになっちゃうんじゃないかって」


シオンは言うと映像の正宗を悲しげに見つめる。


本当はお父さんと呼びたかった。


勿論、正宗が実の親のようになるとは思えないが、もし優しい正宗が豹変したらと思うと恐くて仕方がなかった。


幼い記憶はトラウマとなりシオンの心を深く傷付けていた。


正宗と最後に交わした言葉は他愛ないものだった。


なぜもっと想っていたことを伝えなかったのだろうと後悔する。


シオンにとっても正宗はかけがえのない大切な宝物だった。


普通の親子には遠かったかもしれないが、彼と過ごした日常は楽しく暖かく愛おしいものだった。


正宗だけではない、友人たちと過ごした日々も、シオンにはかけがえのない大切なもので、それがずっと続いていくのだと思っていた。


「バカだな、アタシ」


呟き俯くと、後悔が涙に変わりとシーツに染みを作っていく。


泣いても戻れないことは解っていたから泣かなかった。


義父には伝えたいことは多くあったが照れ臭くて言うことができなかった。


ライブが成功したら言おう、そんな風に思っていた。


もう伝えることはできない。


お父さんと呼ぶこともできない。


その現実が重くのし掛かる。


「…夢だったら良かったのに」


シオンの小さな呟きは大粒の涙に変わっていく。


俯き唇を噛むシオンの肩は微かに震えていた。


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