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独白2

地球に来たのはたまたま。


俺の故郷によく似た惑星だったから。


地球を見かけて無性に懐かしくなって降りてみた。


宇宙船とか俺には必要ない、本体だけあれば移動できるからね。


さすがに、姿は透明にした。


人間は俺の本体を見ると大体気持ち悪がるからね。


地球って不思議な惑星だよね。


国が違えば住んでる人間も違う。


人種と言語の多さに驚いた。


同じ国でも微妙に言葉まで違うし。


どこに行こうか悩んだくらいだよ。


俺が選んだのは日本。


故郷の環境に似ていたし、それに他の国に比べればダントツに住み易そうだったからね。


俺は寄生させてくれそうな人を探していた。


医者とか学者とか、そういう関係の人を吟味してたから大学にいた。


言語や知識も一気に吸収できるし、知識の共有もしやすい。


宿主からしてみても俺の知識は魅力的なはずだよ。


俺の知ってる知識は宿主の知識にもなるからね。


ある時、妊婦が運ばれてきた。


レストラードって胎内の様子も見ようと思えば見ることができるんだよね。


このままだったら胎児は死んでしまうってのは解っていた。


俺は悩んだ。


胎児に寄生するのは俺の主義に反する。


だって、胎児に寄生って胎児本人の意思なんてないじゃない。


俺は悩んだ末に胎児に寄生した。


もし、胎児が死なずに生まれてこれたら今まで通り片隅に住まわせて貰おうって。


結果、胎児は生まれてくることはできなかった。


悩まずに寄生してたら胎児は生きていられたかも知れない。


そんなことを言っても信じて貰えないかもしれない。


胎児を死なせて身体を乗っ取った。


その方が真実味があるしね。


実際、俺は他のレストラードが人間になりたいって気持ちを知りたいとも思っていたからね。


レストラードが人間に寄生し始めたのは、故郷の惑星を守りたかったからなんだ。


綺麗な惑星だった。


人類が誕生してから、故郷の惑星は破壊されていった。


人類は豊かな暮らしを求めて、自然を破壊し、動物を殺し、たくさんあった資源を枯渇させた。


ただ、滅びていく故郷を救いたかった。


惑星が救いを求め哭いていたんだ。


レストラードだからこそ解る、惑星の聲。


人間には解らないだろうね。


惑星にも心があるんだってこと。


レストラードは惑星の為に生き物に寄生することを覚え、人間に寄生した。


故郷の惑星を守りたかっただけだったのに、いつの間にか、人間になりたい、人間になれるって寄生するようになっていた。


そんなことをすればどうなるか、解るよね。


故郷の惑星より先にレストラードは滅びてしまった。


そして、故郷も滅びてしまった。


俺にはレストラード達が人間になりたいって気持ちを理解することはできなかった。


だって、レストラードであれば死ぬことはないんだよ。


人間には寿命があっていつかは死ぬ。


それなのに、人間になりたいって気持ちが解らなかった。


最後に会ったレストラードはお前も人間になれば解るって言ってた。


アイツの名前が宇宙史に載っていたんだ。


クランセルバの初代女王クラリス。


義賊から女王にまで上り詰めた、民衆のために戦った女傑。


宇宙史には書かれてなかったけど、宇宙創世記を編纂したのは彼女だ。


正確には彼女の前の宿主だけどね。


因みにクラリスがレストラードってことを知ってるのは俺とクランセルバの王家の関係者だけ。


クラリスの言ってた意味が解るかもしれない。


正宗に寄生したのには、そういう打算もあった。


胎内って不思議なんだよ。


胎外で話している言葉が聞こえるんだ。


両親は死にかけていた胎児が持ち直したと医者が言った時、泣いて喜んでいた。


その時は正宗は確かに生きていた。


両親が喜んでいることに正宗も嬉しくて堪らない感じで笑っていたんだ。


親子の絆とか情愛ってこんな時からある凄いものなんだって知った。


俺には無縁だったものだからね。


レストラードには親なんていなかったからね。


俺はそのまま正宗と一緒にいた。


彼の存在がいつなくなったのか俺には解らない。


生まれた時はもう居なかったんだ。


両親は本当の息子ではない俺に深い愛情を注いでくれた。


今まで味わったことのない幸福だった。


他のレストラードの気持ちやクラリスの言葉の意味がやっと理解できた。


それと同時に両親に対する罪悪感を覚えた。


だって俺は彼らの息子に寄生した宇宙人…いや、化け物じゃないか。


悩んで悩んで悩み抜いて俺は両親に告白した。


彼らにだったら殺されても構わない。


本体を見せたんだ。


彼らは驚いたようだったけど、俺の本体を大事そうに包んでくれた。


そして、俺がレストラードだって理解した上で息子として変わらず愛してくれたんだ。


お前が息子を殺したなんて思っていない。


お前は俺達の息子だって。


初めて生きてて良かったって思えた。


俺ね、故郷の惑星が滅亡してからいつ死んでも構わないって思ってた。


俺にとって、故郷がすべてだった。


かけがえのない宝物だったんだ。


〈シオン〉それが故郷の惑星の名前。


レストラードの言葉で幸福の種という意味があるんだ。


俺は人間に、いや正宗に寄生したことで、故郷以上に大切なかけがえのない宝物を手に入れたんだ。


人間になれて良かった。


人間にならなければ解らないことが沢山あった。


他のレストラードの方が人間を解っていたんだよね。


寿命があるからこそ一瞬一瞬を精一杯生きている。


他者との関わりによって善にも悪にもなる。


他者を理解することされることによって得られる充足感。


それが人間。


クラリスも、俺の両親のような理解者がいたのかもね。


彼女は人間として最期を迎えられたんだから。


俺も正宗として生きて最期を迎えよう。


育ててくれた、人間の生き方、愛を教えてくれた両親に恩返ししようって。


そんな時に両親が事故で亡くなった。


苦しくて悲しくて心が張り裂けそうだった。


故郷が滅亡した時よりも喪失感は大きかった。


やっと手に入れた安らげる居場所が一瞬でなくなってしまったんだ。


不思議だよね、レストラードである時はこんな痛み知らなかった。


両親は俺に手紙を遺していてくれた。


彼らは自分達が死んだ後の俺のことを心配してくれていた。


彼らより長く生きているから処世術だって知っている。


そんな俺に、小さな子供に教えるように人間との関わり方やら生き方を書いていてくれた。


あの人達にとって俺は息子の正宗なんだって、実感できた。


悲しくて仕方ないのに嬉しかった。


彼らに愛されていた。


彼らは愛していてくれた。


彼らを愛していた。


愛していたからこそ、心が壊れてしまいそうだった。




正宗の独白を医療室内の者は黙って聞いていた。


正宗はポロリと涙を流すと苦笑して着物の袂で目を押さえる。


『涙脆くなったな』


正宗は言いながら、呼吸を整える。


『そんな時にシオン、君に出会ったんだ。俺は驚いた。小さな女の子が一寸前の俺と同じ瞳をしていたから。誰も何も信じられない瞳。何十億年も無駄に生きてた俺ならともかく、生まれて何年も経ってない子供がそんな瞳をしてた』


正宗は悲しそうに俯く。


『俺はその時に決めたんだ。両親に返せなかったものを、この子に返そうって。この子に愛される幸福ってのを知って欲しいって』


正宗はカメラを見て照れたように言うと頭を掻いた。


『とりあえず、一目惚れしたから結婚しようって言ったけど、ちょっと言葉を間違えたよね』


正宗の言葉にシオン以外は固まる。


ちょっとどころかかなり違う。


普通の子供ならあまりの異常さに泣いて逃げ出すことだろう。


『シオンは丁重に断った上に近くの心療内科を教えてくれたよね。五歳の女の子にしては冷静だった』


正宗は唇に指を当てながら言う。


『君は孤児院で会ったのが初めてだと思ってるけど、実は違うんだ』


正宗の言葉にシオンは首を傾げる。


正宗のような容姿ならば、どこかで会っていたら忘れることはない。


『俺ね、ほぼ毎日お墓に通っていたんだ。シオンはお墓に供えた大福をムシャムシャ美味しそうに食べてた』


その言葉にシオンはあっと声を出す。


「…誰にも見られてないと思ってたのに」


「墓に供えてあるものを食べるなよ」


ハルは顔をひきつらせる。


大福とやらは解らないが、常識から考え死者のために供えたものを食べてしまうのはあり得ないことだろう。


「……だって、もの凄くお腹が空いてたの。施設で食事抜きだったからさ…。悪いとは思ったけど」


シオンはばつが悪そうに小さく言う。


「……あ、ごめん」


自分は幼い頃、当たり前のように食事を摂っていた。


シオンがそういう状況ではなかったことを思い出しハルは謝る。


『あ、怒ってる訳じゃないよ?両親だって喜んで大福をシオンにあげてると思うし。それにシオンは食べた後にごめんなさいって墓に謝って、宝物のビー玉を置いていってくれた』


正宗は何かを思い出すように言う


「だから、おやつは大福が多かったのか。嫌いじゃないけど週3はきつかったのよね」


シオンは苦笑いをする。


まさか、施設を抜け出し空腹に耐え兼ね手を出した大福が義父が供えたものだったとは思いもしなかった。


そう言えば、墓参りには連れていってもらったことがない。


『因みにプロポーズは本気だった』


正宗の言葉に医療室内は時が止まる。


同期生三人は眉間に皺を寄せ、映像とシオンを交互に見る。


不敵に笑う正宗と驚いてポカンとしているシオン。


正宗の真意が解らない。


五歳の幼女に本気でプロポーズなど、正気の沙汰ではない。


「お前、本当に…何もされてないのか?」


ハルが心配そうに隣のシオンに聞く。


正宗の発言は常識を持つ人間には理解しがたいものだ。


「うん、何もされてないわよ。多分、お兄ちゃんが言ってるのはそういう意味じゃないと思うんだけど…。でも本物のロリコン?お兄ちゃん、変態だしな」


答えるシオンは、ブツブツ言いながら考え込んでしまう。


『遺してくれた手紙に、幸せにしたいと思う女にはプロポーズって書いてあったからね』


正宗は言い、騙されたと言わんばかりにいたずらっぽく笑みを浮かべる。


どうやら、ディスクを見ている者をからかっているようだ。


医療室内は疲れたため息に包まれる。


シオンも正宗も誰も得しない悪戯を仕掛けるのが好きなようだ。


この親子はどうもズレている。


不快感はない、ないのだがかなり脱力してしまう。


文句を言う気力すら起きなくなる。


『幸せにしてもらったのは俺の方だったけどね』


正宗は言うと柔らかい微笑みを浮かべる。



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