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ディスク解析5

「お兄ちゃんがよく言ってたわ。相互理解ってのは、相手の言葉の意味を汲み取ることから始まるって。自分の意見だけが正しい訳じゃない、いろんな人の話を聞いて正しいと思える答えを出しなさいってね」


シオンは何かを思い出すように言う。


「君の柔軟な思考は父親の影響が大きく作用しているようだな。だが、しかし、もし相互理解できない相手に出会ったらどうするのかね?」


レイスが興味深そうにシオンを見る。


「考え方は個々に違うものよね?相互理解だってなかなかできるものじゃないわ。でも、それで相手を否定するのも、自分が正しいと主張することも違うと思うわ。どうするかって言われたら、妥協点を探すんじゃないかしら」


「妥協点を探すか。ふむ、だが、妥協点すら見つからない相手ならどうする?」


「関わり合いにならなければいいんじゃない?」


「どうしても関わり合いにならなければならない相手が妥協点すら見つからない時は?」


ルミエールが考えるように聞く。


「あら、エターナル首長とやらは、相互理解ができない相手なの?面会がどうのこうの言っていたわよね?」


シオンの言葉にルミエールは驚く。


確かにそれを踏まえた質問だったが、そのような返事がくるとは思っていなかった。


シオンは思っている以上に頭の回転が速いようだ。


「その通りだ、エターナル首長は相互理解が難しい相手と言える。しかも、陰険で性格もよくはない。嫌味も多いし、人を褒めることもない」


レイスが腕を組みルミエールの代わりに答える。


「何か、アンタみたいね」


シオンはレイスを真っ直ぐ見て言う。


シオンの発言に周りの者達は絶句し、息を呑む。


「シオン、レイス博士はエターナル首長ほど陰険ではない。謝りなさい」


ゼルダが慌ててシオンを叱るように言う。


「ほぉ、エターナル首長ほど陰険ではない、か」


レイスは薄ら笑いを浮かべる。


「いや、そういう意味では」


ゼルダは困ったように言う。


「そういうところが、陰険だって言われるんだと思うわよ?」


「…シオン、ちょっと黙ってなさい。大体、君は思ったことを言い過ぎなのです。それこそ、相互理解の妨げになるのではないのですか?」


「…悪かったわ」


ルミエールの言葉にシオンは素直に謝る。


「友達にも、言わなくてもいいことまで言い過ぎって、よく叱られたわ。ついこの口が言っちゃうのよ。悪気はなかったの、ごめんなさい」


シオンは唇を摘まんで言う。


「……随分と素直に謝るのだな。別に怒ってはいない。陰険だやら性格が悪いと言われるのには慣れている」


レイスがため息をついて言う。


「…何かそれも微妙だわね。で、そんな相手に出会ったらって話だけど、そういう時は相手のペースを乱せば良いってお兄ちゃんが言っていたわ。あるいはマシンガントークで相手につけ入る隙を与えさせないとかね」


「うん、それなら大丈夫ですね。我々は君にペースを乱されてばかりです」


ルミエールが苦笑する。


「だが、それでは済まない時もある」


ゼルダは考える仕草をする


「でしょうね。つーか、結局、アンタ達はアタシをどうしたいわけ?」


シオンはゼルダを見て言う。


「どうしたい、か」


ゼルダは考え込んでしまう。


「……え?何も考えてないの?」


シオンはゼルダの態度に驚く。


「…何も考えてないわけないでしょ」


ルミエールがため息をついて艦長を見る。


ゼルダは説明や考えなどを人に伝えるのがあまり得意ではない男だ。


頭で考えを纏めてからでないと言葉にすることができない。


不確定なことは言わないが、それが、人に誤解を与えてしまうこともある。


「ああ、成る程。人と喋るのがあまり得意じゃないのね。解るわ、アタシも人と喋るのが苦手だもの」


「どの口が言うんですか」


シオンの言葉にルミエールが思わず突っ込む。


「……あの、とりあえず続き見ませんか?かなりディスクが進んでます」


ハルが顔をひきつらせながら言う。


上官の会話を遮るのは申し訳ないと思うがいつまでも終わりそうにない。


結局、上官達はシオンのペースにハマってしまっている。


確かにディスクは進んでいた。


レイスは頭を掻いてシオンの前のコンピューターを操作し見ていた場面まで戻すとそこで停止させた。


「そうだな、取り敢えず、続きを見るとしよう。レジェンドの艦長は口下手だと言い触らされたくなかったら、その間に考えをまとめておくのだな」


誰もその意見に反対はしなかった。


「言い触らさないわよ。それに、ムッツリ艦長は口下手じゃなくて会話下手なのよ。自分で言わなくてもいい面倒なことは大体セクハラ親父が説明するんでしょ?」


「観察力が高いな」


レイスは感心したように言う。


「…つーか、見てれば解るでしょ?」


シオンは苦笑する。


「いや、君のように頭の回転が早く観察力の高い人間はそうはいないと思う。先程も君は頭の良さを見せつけていた」


レイスの言葉に一同はポカンとする。


「レイス博士がここまで人を褒めるなんて、厄災の前触れか?」


ゼルダが驚愕の表情を浮かべる。


「……ちっ」


ゼルダの言葉にレイスは舌打ちする。


「ハル・ジェイド。僕の話から君は移動の民が宇宙創世記を書いたと直ぐに解ったか?」


「…いいえ。俺は創世記の中に移動の民のことが書かれているのだとばかり思っていました。こいつが言うまで気付きませんでした」


ハルは考えながら答える。


「…先程の艦長や今の君の意見が普通だ。僕は創世記の内容を少し話したが、書いた者については何も言わなかったのだからな。シオン、君は何故、創世記を書いたのが移動の民だとすぐに思ったのかね?」


「確かに、普通ならすぐには出てきませんよね」


ルミエールもシオンを見て不思議そうに言う。


レイスは老師の授業の時とほぼ同じように話をした。


その時は誰も移動の民が創世記を書いたとは答えられなかった。


だが、シオンはすぐに移動の民が創世記を書いたと答えていた。


「一番最初にセクハラ親父が伝承が事実だった場合の学者の提唱とか言ってたじゃない」


シオンの答えに一瞬周りはポカンとする。


「宇宙の歴史の話なら宇宙史があるんだから伝承の創世記とか別に必要ないわ。なのに鬼畜眼鏡はわざわざその内容を話し始めた。アタシはそれがひっかけ問題みたいなものだと感じたわ。実際、ムッツリはひっかかってたし。だから書いたのが移動の民なんだろうなって思ったのよ」


シオンの答えにレイスは目を見開く。


レイスだけでなくルミエールも驚いていた。


シオンは聞いていないようで、人の話をしっかりと聞いている。


観察力だけでなく僅かな情報から話し手の意図まで推測し正しい答えを出した。


シオンはかなり頭がきれるようだ。


「ふむ、成る程な。君はなかなか良い研究材料になりそうだ」


レイスは満足そうに言うと停止させていた映像を再開させる。


「…何かとっても嫌なんですけど?」


シオンの呟きに答えることなく一同は映像に目をやる。


『お前だったらゼファスに行きたがるんじゃないか?なんつってもお前の大好きなもふもふ獣人の惑星なんたぜ?確かにあれは可愛いな』


映像の慎は笑って言う。


「マジで?ゼファス人、超見たいんですけど!」


シオンは興奮したように言う。


「……シオン、申し訳ないがアリアクロスはゼファスとは親交がない。多分、これからもないだろうから、見せてやることはできない」


ゼルダが眉を寄せて淡々と答える。


「そうなの?つーか、セクハラ親父、なんか、…顔色悪いわよ?」


シオンはルミエールの様子に気付いて声をかける。


「…大丈夫です。アリアクロスは過去にゼファスに侵略されかけたことがあるのです。それで、今も親交がないのです」


ルミエールは笑って答えるが、顔色は優れないままだった。


「…そうなんだ、じゃあ、仕方ない。さっさと続き見ましょう」


シオンは言うと薄い幕に目をやる。


一瞬だったが、ゼファスと言った瞬間に周りの空気が張り詰めた様な気がした。


「…随分、あっさりとしてますね?物凄く興味ありそうだったのに」


「見れないつーなら仕方ないじゃない。それより、慎ちゃんの話を聞きたいだけよ。つーか、早く見ないといつまで経ってもこれからの話とか出来ないわけでしょ?」


シオンは何事もなかったように答える。


触れてはいけない何かがあるのだろうと感じた。だから、早々と切り上げたのだった。


「そうだな。我々も話が進まないと困る」


ゼルダはどこか安堵したように言うと映像に目をやる。


『あー、そうだ。お前には言っとかないとな。夏生と結婚したんだ。もうすぐ子供も生まれるんだぜ?』


慎は照れ臭そうに言う。


「マジで?うわぁ、おめでとう!」


シオンは言うと、ため息をついてしまう。


もう祝いの言葉を直接伝えることはできない。


『それからな、夏生と俺は地球に残ることに決めた。正宗さんは、宇宙に行けって言うけど、お前が起きたときに側にいる。そう二人で決めたんだ」


慎は言うと照れ臭そうに鼻の頭を指先で撫でる。


「あ、それからお前の入っている水は、正宗さんが言うには細胞の死滅を防いで活性化させるものなんだと。しかも、眠った時のままの状態を維持させるものだってよ。お前が起きたときにお婆ちゃんになってたら可哀想だっていう親心液だなんだとか言ってたぞ?…お前が俺達の生きてる間に起きてくれたらいいんだけどな』


慎はどことなく寂しそうに言う。


「なるほど、だから君は眠った時の状態のままだったのか」


レイスは考えるように言う。


『あ、……裸なのはより効率よく全身に親心が染み込むようにだって、決して趣味じゃないってさ。できるなら、お前の裸を誰にも見せたくないって言ってたぜ?…しかしお前って本当に色気のねぇ身体してるよな?黙ってりゃ顔は可愛いし、性格も悪くねーし、…でも、色気が足りねぇんだよなぁ』


慎のため息混じりの呟きにシオンの表情が変わる。


「……何か超ムカつくわ。だから、慎ちゃんってモテないのよね。なっちゃんがいなかったら、一生独身だわよ。大体さ、胸がないから色気ないって酷くね?」


そして、ぶつぶつと文句を言う。


「…君の場合はその性格のせいで色気がないのだと思いますよ?」


ルミエールが半笑いで言う。


「…アンタって、見た目ほどモテないでしょ?平気で女の子を傷つけるタイプだわよ。顔は良いけどデリカシーとかなさそうだわ」


シオンは唇を尖らせる。


「…確かにモテませんよ。恋人は艦長だと言われるくらいですからね」


ルミエールは楽しそうに言う。


「…ああ、それなら納得だわ」


「納得してもらっては困る。断じてそういう趣味はない」


ゼルダは疲れたように答える。


「つーか、親心液って何かキモいんですけど?」



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