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眠れる美少女

『艦長、ガリア人の乗ったカプセルを回収、これよりレジェンドに帰艦します』


通信モニターに映る映像に、アリアクロス星最大の人工都市エターナルに付随する戦艦レジェンドの艦長は小さく溜め息をついた。


今年に入り、ガリア星からの脱走者や難民が増えている。


「レジェンドは難民救出船ではないのだがな……」


「……言いにくいのですが、前方1000フィードの場所に生命反応確認しました。小型のカプセル型飛行物体と思われます」


「…通信せよ」


「何度も通信を申し入れているのですが応答がありません」


オペレーターの言葉に艦長のゼルダは眉をひそめる。


「…偵察を出すか」


通信に答えないとなると厄介な相手の可能性もある。


現在、母星であるアリアクロス星はマクシミリアンと名付けた宇宙生物体から攻撃を受けている。


名高い惑星が次々とマクシミリアンの脅威にさらされていた。


各惑星は対抗措置のため技術の提供をしあい、マクシミリアンに対抗すべくグレイドと呼ばれる人間の乗る戦闘用のロボットを開発した。


アリアクロスは膨大な資源と高い技術力のお陰でグレイドをいち早く実用化でき他星にも多く提供していた。


しかし、グレイドを実用化できない星は次々と滅亡の一途を辿っている。


現に300年前、最も美しい惑星と謳われた地球の消滅もグレイドがなかった為といわれている。


地球人の多くは他星に移住していたが、地球と運命を共にした者も少なくなかった。


今、まさにガリア星も地球と同じ道を辿っている。


したがって難民が増えるのは仕方はないが、あいにく敵はマクシミリアンだけではなかった。


グレイドを否定する人々も存在し、いち早くグレイドを完成させたアリアクロスに反感を抱いているものも多くいる。


マクシミリアンとの戦いにもさることながら、グレイドは星同士の戦いにも重宝される兵器になることは間違いないからだ。


ガリア人の中にもそういった思想が根付いており、マクシミリアンよりアリアクロスの方が厄介だと思っている人間もいる。


返答がないということは、そちらの線が強い。


ゼルダは小さくため息をつくと保護したあとのことを考え、頭を悩ませる。


「…偵察を出す。攻撃してくるようなら撃って構わん」


苦渋の選択である。


その言葉にクルー達の表情は暗くなる。


マクシミリアンならともかく同じ人間ならば後味は悪い。


「出れる者がいないなら私が行こう」


ゼルダはクルー達の表情を見て自らがグレイドを操縦すると言う。


人間を攻撃すれば責任を問われるだろう、いっそ、その責を自分が負った方がいい。


それが元グレイドのエースパイロットとしての責務だろう。


「貴方を行かせられるわけないでしょ。俺が行きます」


艦の最高責任者を行かせるわけにもいかず、グレイドパイロットの小隊長ハルが手を上げる。


ハル・ジェイドは16歳の次代の優秀なエースパイロットである。


できることなら行かせたくはないが、他に適任者もいない。


「…危険が伴うが大丈夫か?」


「グレイドパイロットには常に危険が伴うものでしょう?」


苦笑し、ハルは言う。


「……よかろう。油断はするな」


ゼルダは表情を引き締めて言う。


「油断はしません。もし、マクシミリアンならばカプセルごと吹っ飛ばします」


ハルも神妙な面持ちで答え、ブリッジを出て、グレイドの置いてある格納庫に向かう。


「…艦長、カプセルを遠隔解析したのですが、どこの星の物かわかりません。マクシミリアンとも違うような気がします」


解析を行っていたオペレーターの言葉にゼルダは眉根を寄せる。


『準備出来ました。ハル・ジェイド、グレイド〈アルテミス〉出ます』


暫くして、グレイドに乗り込んだハルから通信が入る。


ハッチが開き、ハルの乗ったグレイドは宇宙に飛び出していく。


「ハル、出所不明のカプセルだ。危険と思ったら直ぐに帰艦せよ」


『了解』


ゼルダの言葉にハルは短く答え、カプセルに向かって行く。


十分ほどして、カプセルが見え、ハルは一瞬戸惑った。


今まで見たことがないタイプのカプセルだ。


グレイドを飛行型から人型に変型させるとハルは慎重にカプセルに近づいていく。


『目標を捕捉。接触します』


ハルは言うとカプセルを覗き込んであっと声をあげた。


「どうした?ハル、大丈夫か?」


ゼルダは声を上げたハルにすぐさま声をかける。


『すみません、大丈夫です。……カプセルの中には裸の女の子が乗っています。ただ、水のような膜の中に入っていて眠っているように見えます。どうしますか?』


ハルは見たままを報告する。


声を上げたのは水の中の少女が裸だったからだ。


『それと、初めて見るタイプのカプセルです。何か、文字が書いてありますけど……。俺には読めない文字です』


ハルは女の子から視線を移しカプセルを観察する。


一通りの惑星の文字は勉強したがそれはハルが見たことのない文字だった。


「……マクシミリアンでも難民でもないとしたら、一体何者だ?ハル、簡易検査を」


『…試みていますが測定不能。それに登録証もないみたいです』


カプセルを触りながらのハルの返答にゼルダはため息をついた。


「……危険はないと判断する。ハル、カプセルを回収し帰艦せよ。医療班は格納庫に待機。カプセルの中の少女の回復を。レイス博士はカプセルの分析を」


『了解。アルテミス帰還します』


ゼルダの言葉に周囲は慌ただしく動き始める。


ハルはカプセルの取っ手を掴むと抱き抱えるようにゆっくりと動き出し、戦艦レジェンドにゆっくりと向かっていく。


ハルは眠る少女から目が離せずにいた。


とても可愛らしいと思った。


しかし、首を振りすぐに気を引き締める。


何者かわからない以上、敵の可能性もあるからだ。


彼自身、家族や何人もの仲間をマクシミリアンに奪われている。


敵ならば、然るべき処置をとらなければもっと多くの仲間を失いかねない。


敵でなければいい。


そう思い、ハルは眠れる少女を一瞬だけ見て笑うと、レジェンドに向かっていく。


このカプセルと少女が後に大きな変革をもたらすことを、今は誰も知る由はなかった。


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