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ディスク解析2

読んでくださってありがとうございます。

医療室内に居る男性陣の目は映像に釘付けになっていた。


「……美しい」


「綺麗だな」


医療班の男性達も作業の手を止め惚けたような顔で薄い幕に注目している。


美人が多いと言われているアリアクロスでもここまでの美人は滅多に見かけない。


感嘆のため息が洩れる。


「こんなに美しく儚げな女性ならば求婚相手は多いだろうな」


「とても淑やかそうですしね」


「ああ、誰かと違って無駄口もなさそうだ」


男性陣の言葉に噴き出しそうになるのを必死に堪えてシオンは平静を装う。


ハルだけはそんなシオンを見て、この場にいる男性陣を気の毒に思い小さくため息をつく。


だが、事前にシオンに義理の父のことを聞いてなければ自分も賛辞の言葉を口にしていただろうと苦笑する。


顔だけならそれほど美しい。


普通は骨格など男性らしさが出るものだがそれがない。


だから余計に女性に見える。


『よし、これでいいかな』


映像から聞こえた男の声に、女性だとばかり思っていた男達の表情は固まる。


その人物はカメラから離れ椅子に足を組んで腰かける。


男達は驚愕の表情を浮かべる。


全裸だったからだ。


しかも、女性だとばかり思っていた人物に自分達と同じものがついている。


男であることに驚きを隠せない。


ただ呆然と薄い幕を見つめ、ハッとしたようにシオンを見る。


「あはは、ははっ。ひー、おかしー。騙されてやんのー、あははーうひひっ」


シオンは腹を抱え堪らないと言うように大笑いしていた。


シオンの止まらない笑い声に現実に戻され、呆然とする。


「…お前、いい性格してるよな」


ハルは呆れたようにシオンを見ながら言う。


「いひひ、ありがとう」


「…褒めてねぇよ」


ハルはため息をつく。


「ふぅ…紹介するわ、義父の東城正宗よ。アタシと違って超美人で儚げで淑やかで無駄口もなさそうに見えるから、よくナンパだの求婚だのされてたわよ?ま、見ての通り男なんだけどねー」


シオンは、彼らの反応に満足し笑いを納めると映像の人物を義父だと紹介する。


勿論、自分と比べた彼らに嫌味を言うのも忘れていない。


その言葉に同期の三人は顔を引きつらせる。


段々と怒りが込み上げてくるが、シオンを怒ることは出来ない。


シオンは見てれば解ると言ったのだから隠していたわけではない。


医療室には諦めに似た疲れたようなため息が伝染したようにあちらこちらから聞こえる。


「ちょっと、解析するんでしょ?そんなに暗くならないで、テンション上げてよ?」


シオンはどんよりしてしまった室内の空気を変えようと言う。


誰のせいだ、そう思うが誰も口にはしない。


シオンの義父の正宗は、顔だけならば全く男には見えなかった。


だが、ふざけたパスワードを設定したのはこの正宗なのだろう。


何しろ、全裸だ。


娘に対してのメッセージを残しているのだろうに裸でいる神経を疑ってしまう。


シオンの言う変態という言葉も何となくだが頷ける。


「…何となくですけど、シオンが残念なのは、このお父様のせいなのだと感じます」


ルミエールは疲れたように言う。


その言葉にここに居る者達は心の中で同意する。


「失礼ね。アタシの何が残念だってのよ?アタシは普通よ」


シオンは唇を尖らせる。


最早、それには誰も答えない。


答えたところでシオンには通じないだろう。


「…何故お父上は裸なのだ?」


聞かない方がいいとは思いつつもゼルダは聞く。


「趣味…かしら?」


シオンは考えながら答える。


その返答に一同は顔をひきつらせる。


「家では常に全裸だったわ。でも常識は程々にあるの。人前では服を着る人だから、ここは自分の敷地内とかなんじゃないかしら?」


「年頃の娘が一緒に住んでいるのに全裸…ですか」


ルミエールは呆れたように呟く。


シオンが裸にこだわるのはきっと義父が原因なのだろうと思う。


「……この映像はいつ撮られたものだ?君の父上は僕たちと変わらない年齢のように見えるが」


話を変えようとレイスが腕を組みながら言う。


「若く見えるけど、アンタ達より年上よ?2015年で49歳だったわ。化け物よね…。初めて会った時からあんまり変わってないもの」


シオンの言葉に医療室内の視線は映像に釘付けになる。


正宗はどう見ても、二十代後半から三十代前半にしか見えない。


年齢を重ねない人間などいないはずだが、正宗には加齢と共にくる肉体の衰えが見受けられない。


「…お兄ちゃん、シオンのお父さん若くて格好良いって言われたい一心でアンチエイジングとジム通いをしてたわ。まあ、でも一緒にいると大体母親かお姉さんに見られたけどね」


その場の人間達の疑問を感じ取ったのかシオンが正宗が若い理由を苦笑いしながら話す。


「アンチエイジング?」


「若さを維持するためにサプリ飲んだりマッサージしたりすることよ」


シオンは大まかに説明する。


「それでも、若過ぎるような気がするが」


「アジアの人種は実年齢より若く見えるのが特徴らしいわよ?」


「確かに君も幼く見えますね。しかし、実年齢よりも20歳以上若く見えるなんてあり得ないかと思うのですが?」


ルミエールがシオンを見て言う。


「今、アタシの胸見て言ったか?貧乳だと子供に見えるって?つーか、マジでセクハラかっ!」


シオンの言葉にルミエールは笑い出す。


「確かに胸も子供のようですね」


「も?も、って何よ?」


「確かに大人ではないな」


「成人間近だと言う割には性格が子供っぽい。アリアクロスの子供の方がずっと大人だ。ハルを見習うがいい。君よりもずっとしっかりしている」


ルミエールに続いてゼルダとレイスが言う。


「俺は子供じゃありません」


ハルはムッとしてレイスを見る。


「…そんなこと言っちゃって〜。アンタ、アレがお兄ちゃんだって気付いてて黙っていたでしょ?アンタもこいつらの反応を楽しみにしてたんじゃないの?」


シオンはニヤニヤ笑ってハルを見る。


ハルはそんなシオンをギョッとした顔で見る。


気付かれていたことに驚いた。


しかも、それをこのタイミングで言うかと内心焦る。


「……ハル?」


シオンの言葉にゼルダは顔をひきつらせてハルを見る。


「ハル、知ってて黙っていたのですか?」


ルミエールもハルを見る。


「……いや、あの。…その」


ハルは困り果てて口ごもる。


「…アンタ達、子供を虐めるのはやめなさいよ。いい大人なんだからさー。アンタ達の方が子供みたいだわよ?」


シオンは大人を強調し、クスクス笑って言う。


「そう仕向けたのは誰だ?全く、あんまり大人をからかっていると痛い目を見るぞ?艦長、副官、シオンに乗せられている。大人気ない。いい加減、ディスクを解析したいのだが?」


レイスがため息混じりに言う。


シオンにかまっていたらいつまで経っても進まない。


解っているだろうにシオンに乗せられている同期生達に呆れと同情の眼差しを送る。


「そうですね、お子様には大人の常識は通じないものですよね」


「そうだな、子供相手にむきになることもないな」


ルミエールとゼルダの大人気ない発言にレイスは小さくため息をつく。


これがアリアクロス軍の元参謀長官と元将軍の言葉か、と心の中で毒づく。


「シオン、こう言っているが何も言い返さないのか?」


レイスは片眉を下げてシオンを見る。


「言い返す必要はないわ。言い返したらアタシも大人気なくなるからね」


シオンの言葉にレイスは噴き出し他の二人は顔をひきつらせる。


「…それより、お兄ちゃんがさっきから何か喋っているわよ?」


シオンは映像を見ながら言う。


「…誰のせいだか」


レイスは苦笑して言うと、シオンの前のコンピューターを片手で操作する。


薄い幕の映像が、一番最初の状態に戻る。


「で、ハゲルはどこでお兄ちゃんっだって解った訳?」


シオンは興味深そうにハルの方を見て聞く。


「さっき、言ってただろ?絶世の美女だと思ったって」


正直に言えばシオンの表情で気付いたのだが、そんなことを言えば何を言われるか解らないのでそれだけハルは言う。


「ね、綺麗でしょ?」


シオンは嬉しそうに言う。


「ああ、綺麗だな。顔だけだったら男には見えないよ」


ハルは答えて映像を見る。


「お母さんが欲しいって言ったら女装してくれたわ」


「……女装」


「モテない訳じゃないんだけど綺麗すぎて女の人からは敬遠されちゃうのよね」


シオンは映像を見ながら言う。


『よし、これでいいかな』


先程の男性陣が驚愕した場面になったが、今度は誰も言葉を発することはなかった。


正宗は、暫く何かを思案するように視線をさ迷わせていたが、カメラを見てにっこり笑う。


『やあ、シオンお目覚めかい?』


映像からのんびりとした声が聞こえて全員が映像に注目する。


『おはようって、シオンに直接言いたかったな。これを見てるってことは俺の生きてる間には目覚めなかったってこと…だよね』


言うと正宗は悲しそうに目を伏せる。


「つーか、素っ裸で言われてもねぇ?モザイクかかっていても何かあれだけどさ」


シオンは唇を尖らせながら残念そうに言う。


『……モザイクいらない。お兄ちゃんのマグナムは猥褻物じゃないし?どうせ、シオンってば俺のマグナムにモザイクかけろとか言ってるんでしょ?』


「…流石はシオンを育てただけはありますね。言ってる内容は兎も角、シオンの言いそうなことを予測しているようですね」


ルミエールは感心したように言うと、何かに違和感を感じ首を傾げる。


「…どうした?」


「いえ、何かとっても重要なことを見落としているような」


ルミエールはゼルダに答えながら違和感について考える。


『…シオンが眠ってから色々あったんだよ。日本が…いや北半球の殆どが海に沈んだり、宇宙から侵略者が来たり、他の惑星の人が助けに来てくれたり、お兄ちゃんが女と間違われて、宇宙人に結婚申し込まれたり…。それを見てた慎ちゃんたちに爆笑されてちょっと傷ついたり、別の宇宙人にも求婚されて、更に爆笑されたりしてさ…ブルーだよ』


映像の正宗は言いながらため息をつく。


「相変わらずモテモテね、男に」


シオンは笑いながら言うが、他の人間は笑ってはいなかった。


侵略者とはマクシミリアンのことで、助けに来たと言うのはその頃地球と交流のあった祖先達や他の異星人のことだろう。


そうなれば、このディスクが撮られたのはマクシミリアンが現れてからということになる。


それに北半球の殆どか沈んだと言うのなら、どうやって助かったのかや何処に居るのかなども知りたい。


地球の災害や当時の生活についての記録はマクシミリアンが現れてからは殆ど残っていないからだ。


『俺ってさ、女に生まれれば勝ち組だったよね。因みに振られ記録は更新中。自分より顔の綺麗な男を見ながら暮らすのなんか耐えられないって…。俺、整形した方がいいのかな?』


正宗は遠い目をする。


「…話が逸れている。流石はシオンの父と言うことか」


レイスがため息混じりに言う。


シオンには悪いが、研究者としてはそんな話ではなく、マクシミリアンの話や当時の地球の様子を知りたい。


「どういう意味よ?」


シオンはムッとした顔をする。


「…君とお父様は似てるってことですよ」


ルミエールが苦笑して言う。


話が逸れてしまうのはシオンと一緒だ。


「まあ、…親子だからね」


シオンは嬉しそうな顔をして満足そうに言う。


「……ふっ」


その様子にゼルダは小さく笑う。


決して褒められているわけではないのだが、父親と似ていると言われ嬉しそうな顔をする少女は可愛らしい。


どうやらシオンは義父を本当に好きでいるらしい。


そのことに安心し、娘に慕われる正宗が羨ましい気もする。


「……あ、わかりました」


ルミエールはシオンと映像を見てハッとした顔をして言う。


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