表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/37

ディスク解析

読んでくださってありがとうございます。

「…あのー?アタシ待ちのとこ申し訳ないんだけど…」


シオンが仕切り越しに声を掛けてくる。


「どうした?」


ゼルダが答える。


「この服どっちが前なの?」


シオンはライダースーツのような服を見ながら聞く。


彼らが自分について話をしていることは解っていたが、服を着なければ話に参加も出来ない。


渡された服は白いライダースーツの上から同じく白い上着を首から通すだけの簡単なものだがチャックが前に来るのかか後ろに来るのかが解らない。


「チャックが後ろです」


ルミエールが答える。


「…ブルース・リーみたいになりそうね。つーか、チャック閉めれねーよ」


シオンは言いため息をつく。


下着を着けるのにも手間取った。


チャックが前ならともかく後ろとなると憂鬱になる。


「…早く着てくれないか」


レイスはため息混じりに言う。


「早速、鬼畜発言か。アタシ、身体動かし辛くて大変なのに…どんだけ自己中?アンタ、彼女居ないでしょ?或いは振られたんじゃない?よっと」


シオンは服を着ながら言う。


「…君には関係ない」


レイスは無表情に答える。


「多分、アンタには振られた理由とかわかんないでしょうね」


シオンは服と格闘しながら言葉を続ける。


「振られたこと前提なんですね」


ルミエールが苦笑する。


「まず、相手に対する思いやりが感じられない。愚痴を溢そうものならボロクソに罵りそう。そのくせ、自分が愚痴を言うときには相手にこんこんと聞かせて、嫌そうな顔をしようもんならまた鬼畜発言するんでしょう?彼女からしてみりゃ最悪な男で間違いないわ。気が狂うっつーの」


シオンの言葉にレイスは眉間の皺を深くしていく。


「……そんなことはない」


小さく答えるレイスは僅かに動揺していた。


確かに心当たりはある。


「…シオン、君には超能力でもあるのですか?」


ルミエールが驚いたように言う。


「え?マジで当たってるの?」


シオンは服を着ながら驚いたように言う。


「…当たってなどいない」


レイスは不機嫌に答える。


その言葉にルミエールは思わず噴き出す。


彼がオペレーターのアイと付き合っていたことは周知の事実だ。


そして別れたことも。


「さすがの博士もシオンには勝てませんか」


レイスは楽しそうに言うルミエールに射殺しそうな視線を送る。


シオンはもがきながらやっとのことで服を着、後ろのチャックに手を伸ばす。


だが、重い腕を動かすことが出来ずチャックを上げることは難しかった。


「……。あの、誰でもいいからチャック閉めてくんない?」


シオンは仕切り越しに声をかける。


恥じらいが感じられないシオンの言葉に同期生三人は思わず盛大なため息を洩らす。


「我々は一応男なのですが?年頃のお嬢さんなんですからもう少し恥じらいを持ちなさい」


ルミエールは呆れながら言う。


「知ってるわ。アンタ達は最低最悪の鬼畜変態親父連盟1、2、3号よ。アタシの裸を散々見てるのに、今さら恥ずかしいとかないわよね。チャック閉めるくらいいいじゃんよ」


シオンの答えにルミエールは諦めたように大きくため息をつき、薄い仕切りを開けてシオンの側に行く。そして、素早く背中のチャックを上げた。


「ありがとう。さすが、セクハラ親父。脱がすのも着せるのも早そうね。よ!エロ大将っ!」


「……怒ってもいいですか?」


シオンの言葉に、ルミエールは口許をピクッとさせゼルダを見る。


ゼルダは曖昧に笑う。


怒ったところで疲れるだけのような気がしてならない。


「で、後はこれを被れば良いわけね」


シオンは言いながら、残りの服を頭から被る。


「しかし、何か、センスのない服だわね。アタシ好みのパンクな服はないわけ?」


シオンは自分の着た服を見回して言う。


「ふっ…アリアクロスの一般的な子供服だな」


ゼルダが噴き出しながら子供服を強調して言う。


メルはシオンを見た目で子供だと勘違いしたに違いない。


自分達も年齢を聞かなければ、子供だと思っていた。


「あははっ、よく似合ってます」


ルミエールも笑いながら言う。


「…一般的なって、皆、同じ服を着てるわけ?」


子供服と言うことに気分を悪くするわけでもなくシオンは聞く。


「ああ、柄や色は個人の自由だが大体が同じ服を着ている」


「ふーん?つまらないわね。個性が無さすぎる。女の子だったら好きな服を着たいと思うけど…、アリアクロスの父親って嫌われて終わりね」


シオンの言葉にゼルダの表情が変わる。


「…ちょっと待て。何故、そこで父親が嫌われる?」


「違う服が着たいと言った時、周りと同じもので良いじゃないか。とか言うのが父親。その時点で、父親の株はダダ下がりよ。ついでに離婚とかした日には父親なんて元々いなかったくらいになるわ」


「……」


ゼルダは絶句する。


確かに娘に周りと同じ服で良いじゃないかと言った覚えもある。


「…そ、それだけで嫌われるものですか?」


ゼルダに気を遣ってかルミエールが聞く。


「普段からの積み重ねがあるわ。例えば殆ど家に居ないとかもマイナスよね。あとは、たまに会った時に説教とかも駄目。あとは父親のせいで母親が泣いてたりしたら完璧にアウトだわ」


シオンの言葉にゼルダの顔色はどんどん悪くなる。


「母親が再婚して幸せそうなら、完璧に前の父親は消えるわ」


その言葉にゼルダの頭は真っ白になる。


「…でも、たまにその父親に会いたいなーって時だって」


「あるでしょうね。でも、母親や新しい父親に気を遣って言えないわよね。でもさ、父親の株下がってたら会いたいとも思わないんじゃない?」


「……」


ゼルダはよろけて近くの椅子に腰掛け頭を抱える。


「どしたの?え?まさか、ビンゴ?アンタ、今、アタシの言ったこと全部やっちゃった?」


「…シオン、艦長は娘さんに会うことだけが唯一の楽しみなんですよ」


ルミエールが困ったように言う。


「あー、ごめん、ごめん。でも、実際アタシは本当の両親なんてわからないから全部想像よ?うん、大丈夫。アリアクロスの人は家族大好きだし、きっと大丈夫!」


シオンはフォローにならないことを言うと、親指を立ててゼルダに笑いかける。


ゼルダは心底疲れたようにため息をつく。


自分は娘に嫌われているのか。


そればかりが脳裏をよぎる。


「…さ、さて、そろそろディスクの解析を始めましょうか」


ルミエールはこの話を変えた方がいいと、コンピューターをシオンの前に持ってくる。


「…何か地球のパソコンとは違う感じだわね」


シオンは観察するようにコンピューターをまじまじと見る。


画面にはアリアクロスの文字が浮かんでいる。


「地球のコンピューターを元に作られたものです。中々優れものなんですよ。じゃあ、親指から画面に指をつけていってください」


シオンは言われたままに指さされた部分に一本ずつ自らの指を当てていく。


タッチパネルのようだとシオンは感じた。


「アタシの携帯はタッチパネルだったのよね」


「携帯?何ですか、それは?」


「電話よ、携帯電話。アリアクロスにはないの?」


「興味深いな、後でその話も詳しく聞きたいな」


レイスが携帯電話に興味を持ち言う。


「言っとくけど細かい仕様は解らないわよ」


『指紋解析完了しました。人物認証に移行します』


無機質な声がコンピューターから聞こえ、思わずシオンはビクッと仰け反った。


パソコン自体が喋るとは思わなかった。


「では人物認証ですね、画面を見ていてください」


シオンは言われるままに画面を見つめる。


いつの間にかモニターに自分の顔が取り込まれている。


『人物認証、読み込み、完了しました。パスワードを入力あるいは発音してください』


先ほどの無機質な声がコンピューターから聞こえシオンはジッとコンピューターを見つめる。


「…誰も入っていませんよ」


「わ、わかってるわよ。人工知能でもついてるのかと思ったの」


シオンは顔を赤くし言い訳するように言う。


「…ふふっ。では最後はパスワードですね。何か心当たりのある言葉はありませんか?」


ルミエールは笑いながら言う。


こういう可愛らしい反応も出来るのだと少し安心する。


「…ないわね。あ!『露出狂』はどう?」


シオンの言葉に医療室の面々は顔を引きつらせる。


そんなパスワードがある訳ない。


「お前、何言ってるんだよ?そんなふざけたパスワードがある訳ないだろ」


ハルが呆れながら言う。


「…冗談に決まってるでしょ。パスワードなんて思い付かないわ」


ハルの言葉にシオンは肩を竦めて答える。


『パスワード、認証完了。ロックの解除をし、ディスクを読み込みます』


「マジでかっ!」

「何でだよっ!」


シオンとハルが思わずコンピューターに突っ込みを入れる。


まさか認証されるとは思わなかった。


「…どんなパスワードだよ」


ハルが呆然として言う。


「…ロックをかけた人物の人間性が疑われるな。それとも、声紋分析か?シオンの声に反応するものかも知れない」


レイスが考えるように言う。


キーワードでなくシオンの声なら言葉は関係ない。


露出狂などと言うふざけたパスワードは否定したい。


「残念ながら、声紋は関係ないようです」


ルミエールが画面を見ながら苦笑する。


本当に露出狂がパスワードだと言うことに、何となく微妙な空気が医療室内に蔓延する。


『ロック、解除しました』


―ピリピリ


無機質な声と共に小さな電子音がその中で響く。


「あっさり解除されましたね」


ルミエールが拍子抜けしたように言う。


すべてのディスクのロックが解除された。


「まあ、これでディスクを解析することができるな」


ゼルダは言いながら、画面を覗き込む。


「…何かおっさんたちに囲まれてむさ苦しいんだけど?」


シオンの言葉にルミエールは苦笑し、薄い幕をシオンのベッドの前方に引き下ろす。


それに伴い、おっさんと称された面々は前に出る。


薄い幕は映写機になっている。


アリアクロスでは一般的なものだった。


「では、ディスクの1から押してください」


「……ねぇ、アタシ、この文字は解らないって言ったわよね?」


シオンは画面を見ながら言う。


「一番左上が1だ」


ハルがシオンの前のコンピューターを身体を乗り出し覗いて言う。


シオンは言われた通り左上の部分を押してみる。


薄い幕に映像が浮かび上がってきた。


浮かび上がってきた人物にシオンは目を見開く。


シオンだけではなく、ゼルダやルミエール、レイスやハルも思わず見入ってしまう。


とてつもない美女のアップが映っていた。


長い黒い髪を手で纏めながら、カメラの位置を調節をしているようだ。


シオンはその人物を見て泣きそうな顔をする。


隣にいたハルだけが、シオンのその様子に気付き、その人物が義理の父なのだと思った。


シオンが絶世の美女と表現したのが納得できる美しさだった。


「…綺麗な女性ですね」


ルミエールは思わず呟く。


その言葉に泣きそうな顔をしていたシオンは笑いを堪える顔になっていた。


「知り合いか?」


ゼルダがシオンを振り返り聞く。


シオンは一瞬で無表情に戻り、小さく頷く。


ハルは苦笑する。


どうやらシオンは艦長たちを驚かせたいようだ。


このイタズラっ子のようなシオンがよく解らない。


一体、驚かせて何の得になるのだろうと思う。


だが、女性だと思い込んでいる上官たちの真実を知った時の反応は少なからず興味はあった。


「この女性は何者だ?」


レイスは映像の中で一生懸命にカメラの調節をしている人物を見ながら聞く。


「……見てれば解るわ」


シオンは言い幕を見続ける。


懐かしそうに目を細め、カメラを調節する人物を見つめていた。


そんなシオンに無理に聞くことも出来ず、その場に居る者たちも薄い幕を見続けていた。


美しい女性を見ていることはそんなに苦ではなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ