戦闘2
戦闘シーンは書くのが難しい。
「ハル、アスカ、カウス、定置に着いたか?」
『『『はい』』』
ブリッジからのゼルダの通信に三人は答える。
彼らのいる場所は人工都市のエターナルが遠目に確認できる。
「エターナルにマクシミリアンを近づけるな。エターナルの防衛システムを作動させるまで、なんとか堪えろ」
『『『了解』』』
彼らは答えると、マクシミリアンの襲来に備える。
「エターナルの自衛システム発動まで180秒」
「マクシミリアン、安全領域を突破……五体が限界領域に侵入しています」
「……誘導弾ミサイルの用意をしておけ、砲撃の準備もな」
ゼルダは言う。
「了解しました」
「……五体?」
ルミエールは考えるように呟く。
映像にはもっと多くいたような気がした。
『マクシミリアン確認、戦闘を開始します』
ハルは言うと、グレイドを変型させる。
アスカとカウスも変型させる。
『アスカとカウスはここを突破したマクシミリアンを撃墜してくれ』
『『了解』』
短い会話がなされ、ハルは装備しているランチャーを構えて撃つ。
―――ブォォ
マクシミリアンの一体に当り、断末魔の叫びをあげながら落ちていく。
『よし!』
ハルは次々とマクシミリアンにランチャー砲を撃っていくが二体程当て損ねる。
――オォォ
当たった二体は怒り狂ったようにハルに向かって突進してくる。
『シールドシステム作動』
瞬間、ハルのグレイドは青い光に包まれ突進してきたマクシミリアンは見えない防壁にぶつかる。
『ソードシステム』
ハルのグレイドは更に変型し、グレイドの手の部分にはレーザーソードが握られている。
『うぉぉ!』
ハルは気合いを入れながら、剣を振る。
―――ブォォ
一体のマクシミリアンは真っ二つに裂けて落ちていく。
その勢いのまま、もう一体を切りつける。
―――オォォ
もう一体は間一髪の所で剣を避けたが致命傷には至らず、ハルを避けるように後退する。
「……流石は次代のエース。見事な腕ですね。艦長の若い頃を思い出します」
ルミエールが画面を見ながら感心したように言う。
「……私より優秀だ」
苦笑してゼルダは言う。
『アスカ、カウス、そっちは?』
ハルは通信しながら様子を窺う。
―――ブォォ
―――ブォォ
通信からマクシミリアンの断末魔の叫びが聞こえてきた。
最初に逃した二体はアスカとカウスが見事に撃墜したようだった。
『……あと一体』
ハルは呟くと、残りの一体を切りつけようとする。
しかし、マクシミリアンは勢いよく後退していく。
『……逃がすか!』
ハルはマクシミリアンを追う。
「いかん!ハル、戻ってこい!」
艦長席から立ち上がりゼルダは言う。
ゼルダの通信が聞こえていないのかハルはなおもマクシミリアンを追う。
「……アスカ、カウス、安全圏にマクシミリアンが数体残っています。ハルを連れ戻しなさい」
ルミエールがアスカとカウスに通信する。
『『了解しました』』
二人はハルの方に向かいスピードを上げて発進する。
『ハル!深追いするな!』
カウスが通信をする。
『やつらを倒さなきゃ、多くの犠牲が出る!』
ハルはカウスに答え、なおも追撃しようとしている。
『待ちなさいよ、そっちにまだマクシミリアンがいるのよ!』
『だったら全部倒してやる!』
ハルは聞く耳を持たず、どんどんマクシミリアンに近づく。
「……艦長、ハルの処分をちゃんと考えておきなさい」
ルミエールはチラリとゼルダを見て言う。
ゼルダは画面を見ながらため息をつく。
「誘導弾をハル・ジェイドに向けて射ちなさい」
ルミエールはオペレーターに指示を出す。
「え?でも、当たったら」
アイは驚いてルミエールを見る。
「当たりません。画面を見ていなさい」
ルミエールは答える。
「……は、はい」
アイは言いながらエミリアをチラリと見る。
「了解しました。誘導弾発射」
エミリアは言いながら手元のボタンを押す。
レジェンド艦から無数の誘導弾がハルのグレイド、アルテミスに向かって放たれる。
「砲撃の準備、左舷120゜に」
ゼルダは指示をする。
「了解しました」
アイは答え手元の機器をを操作し始める。
「アスカ、カウス、ハルを頼む」
『『はい!』』
ゼルダの通信に二人は気を引き締めて答える。
『……うわ』
向かってきた誘導弾をハルは避けていく。
誘導弾は尚もハルを追いかけてくる。
ハルはグレイドを変型させ、マクシミリアンの後ろに回り込み、誘導弾をスレスレで避ける。
―――ブォォ
誘導弾はマクシミリアンに当り、マクシミリアンは断末魔の叫びをあげて落ちていった。
『……やった!』
『ハル、後ろ!』
アスカの声に反応し、彼が背後を見ると七体のマクシミリアンが迫っていた。
『ハル、避けろ!』
カウスの言葉にハルはさっと避ける。
誘導弾に紛れたカウスのランチャー砲がマクシミリアンに当たる。
―――ブォォ
誘導弾の残りも、音をたてながら次々にマクシミリアンに当たっていく。
辺りには煙幕が上がっていた。
『……しまっ!?』
煙に紛れ一体のマクシミリアンが近付いていることにハルは気付かなかった。
彼はマクシミリアンの強烈な一撃に吹っ飛ばされ、頭をコクピットに打ち付けてしまった。
意識を必死に保つ。
顔に生暖かい感触を感じ、血が出ていることに気づく。
少しずつ意識が遠退いていく。
『『ハル!?』』
二人は驚き、マクシミリアンを見る。
―――ギ、ギ、ギ
かなりの大きさだ。
「エターナルの自衛システムが発動しました」
「アスカ、カウス、ハルを回収し直ちに帰艦しなさい」
ルミエールが声をかける。
『『…はい』』
二人の声が微かに震えている。
「落ち着きなさい。大型のマクシミリアンは動きは鈍い。大丈夫です。ハルは死んでいない」
ルミエールが冷静に言う。
二人は飛ばされたハルに向かう。
ルミエールの言った通り大型のマクシミリアンの動きは遅かった。
二人がハルのグレイドに着いた時はかなり離れていた。
『ハル、大丈夫か!』
『……う』
カウスのかけた声に呻き声が返ってくる。
激しく飛ばされたハルが生きていることにホッとする。
『ハル・ジェイドを回収。これよりレジェンドに帰艦します』
アスカが通信する。
――ギギギ
いつの間にか大型のマクシミリアンが三人のすぐ後方に近寄っていた。
『え、いつの間に?』
「カウス、ランチャーだ」
ゼルダの指示にカウスはランチャーをマクシミリアンに向けて放つが威嚇ぐらいにしかならない。
「アスカも出力を最大にしてランチャーを」
アスカも言われた通りランチャーの出力をあげ、マクシミリアンに向けて放つ。
カウスも出力を最大にしてランチャー砲を放つ。
―――ギ、ギ、ギ
マクシミリアンを撃ち落とすことはできないが二人のランチャー砲はマクシミリアンを押し返すように距離を拡げていく。
「今だ、撃て!」
ゼルダの合図にレジェンド艦から凄まじい砲撃が放たれる。
「カウス、アスカ、ハルを連れて離れろ!」
『『了解しました!』』
二人のグレイドはアルテミスを脇に抱えて素早く砲撃の範囲から避難する。
――ズドォォ
轟音と共に放たれた砲撃はマクシミリアンを断末魔の叫びもあげさせず消し去った。
『……終わったの?』
『……ああ、終わったな』
アスカとカウスはマクシミリアンが消え去った場所を呆然と見ながら会話をする。
「マクシミリアンを殲滅、残党も居ません。……我々の勝利です」
エミリアがホッとしたように戦闘の終了を宣言する。
「……お前たち、よくやった。さあ、帰ってこい」
ゼルダの声は厳しさがなくなり優しいものだった。
『『はい!』』
アスカとカウスは返事をし、ハルを抱えながら、仲間の待つレジェンド艦に戻っていった。
「医療班、格納庫に待機してください」
ルミエールが指示を出す。
ブリッジが再び慌ただしくなる。
「……ハルの処分は叱責と……副官の部屋掃除だな」
ゼルダがルミエールに言う。
「……まったく、貴方は甘過ぎです」
ルミエールは呆れたようにため息をつく。
「……そうか?私ならお前の部屋の掃除は地獄だがな」
ククッと笑いゼルダは言う。
「貴方の部屋が綺麗すぎるんですよ。私の部屋なんて普通です」
ルミエールがムッとして言う。
「……お前の結婚できない理由はそこだと思うがな」
「結婚しても離婚されるのは几帳面過ぎる部屋のせいでは?」
ルミエールの反撃にゼルダは頬をかく。
「…くだらない口喧嘩はその位にしておけ」
二人の元にレイスが呆れながらやってくる。
「未知のグレイドはシオンが起きてからでないと解析はできない。ディスクの解析は?」
「同じく、だ」
ゼルダが答える。
「……そうか。ならば、僕はこれから水膜を調べることにするか」
レイスは言うとさっさとブリッジを出ていった。
「……じゃあ、私は難民の照合でもしてきますかね」
ルミエールは言うとブリッジを出ていこうとする。
「……私も」
「艦長は首長の相手をしてくださいよ。今から緊急通信が入ってくるはずですから」
ルミエールが扉から顔だけ覗かせて言う。
その言葉にゼルダは大きくため息をつく。
「…未知のグレイドとシオンのことはまだ言わないでくださいよ?まあ、基本的に貴方が一方的に責められるだけだと思いますけど」
彼が言い終わり扉が閉まるのと同時に、首長からの緊急通信が入りゼルダは心底疲れた顔をする。
「……出来れば、無視をしたいのだが」
「…頑張ってください」
弱気な発言をする艦長にアイは笑顔で言いながら、緊急通信を開いていく。
「………」
ゼルダは無言で遠い目をするのだった。
エターナルの首長の嫌みは本当に疲れる。
レイスとルミエールが早々と通常業務に戻ったのは絶対に首長から連絡がくると踏んだからだ。
自分だけに面倒を押し付けた同期生たちに心の中で毒づいた。
回線が開いた瞬間に彼は軍人の顔に戻り、首長の相手をするために考えを纏めるのだった。