戦闘
――ビービー
歌のリズムに乗りながら作業していた整備士たちの手が警報音に反応し止まる。
格納庫の中が慌ただしくなる。
「……マクシミリアンか。先輩たちがいないってのに最悪だな」
カウスがため息をつく。
「仕方がないだろ。先輩達は本星に戻っているんだから……今は三人だけだけどやるしかないさ」
ハルは気合いを入れるように両頬を軽く叩く。
「そうよ、協力すれば何とか撃退はできるでしょ!」
アスカも気合いを入れて言う。
何曲か歌を聴いていて自然と力が湧いてくるようだった。
「ハル、カウス、アスカ、無理はするな。……絶対に死ぬなよ」
カプセルから顔を出して、レイスが三人に言う。
「「「はい!」」」
三人はレイスや頷く整備士達に力強く返事をする。
『マクシミリアンがエターナルに向かっています。パイロット達は直ちに迎撃準備をし、定置についてください。間もなく警戒領域にマクシミリアンが到達します』
ブリッジからの指示に三人は各々のグレイドに乗り込む。
『マクシミリアンをエターナルには侵入させない、ヴリュンヒルデ小隊、出撃する』
『『了解』』
ハルの掛け声と共に三人の乗ったグレイドは宇宙へと飛び出していく。
「……大丈夫かな、あいつら。ミリアム隊長もいないし」
整備士の一人、トーイが心配そうに、三人の飛び出したハッチを見る。
「……大丈夫さ。ハルは首席で卒業したんだぞ?アスカやカウスだって優秀だし」
他の整備士、マリオンが答える。
「教習と実戦は違う。彼らはまだ未熟だ。ほんの少しの油断が命取りになる。状況判断、こればかりは死なずに実戦を重ねるしかないのだ」
レイスが静かに言う。
「…あいつらは生き残ってくれますよね?」
トーイは小さく言う。
幾人ものパイロットを送り出し還ってこなかった者もいる。
「……ああ、そう願いたいな」
レイスは答える。
「ミリアム隊長達はいつ帰ってくるんですか?」
マリオンが聞く。
「……わからん。本星は、いや政治家達は艦長と副官をかなり邪魔に思っているからな。ミリアム達が戻りたいと思っても何かにつけて引き留めているんだろうな」
「……それは何でですか?」
「艦長と副官はあれで中々強気でな、彼らの軍の改革により甘い汁を吸ってた連中は処分され、政治家と軍の癒着を一掃した。それが気に入らなかったんだろうな、新たな将軍を据え置き、左遷してしまうんだからな。艦長と副官には最低限の人員しか与えず、自滅するのを待っているんだろうな」
「……政治家にとって、軍人やエターナル市民の命はどうでもいいってことですか?」
マリオンは言う。
「……彼らの大事なのは、自分達の命と利権だろう。本星が危機に陥れば、レジェンド艦を呼び戻すのだろうな」
「……最低っすね」
マリオンは言う。
「そしたらエターナルはどうなっちゃうんですか?」
トーイが心配そうに言う。
彼は生粋のエターナル生まれで故郷はエターナルだ。
「艦長と副官がエターナルを見捨てるとは思えん。首長は……まあ性格は陰湿だが、市民の安全が第一、軍の活躍を祈ってる一人と言えるからな」
「博士の叔父上でしたよね?」
マリオンが顔をひきつらせ言う。
「……ああ、嫌なことにな。あの男のせいで僕まで鬼畜やらなんやら性格を疑われてしまう」
レイスが真面目に言う。
「………」
二人は何も言わず苦笑する。
「とにかく、本星の政治家を黙らせるにはマクシミリアンに負けずに勝ち続けるしかないということだ」
レイスは言う。
「……俺たちにできることはグレイドを強くすることだけです」
マリオンは言う。
パイロット達の負担を少しでも軽減できるよう整備することが、今できる精一杯のことだ。
それしかできないことを歯痒く思う。
「このグレイドを解析できれば、圧倒的に戦闘は楽になるはずだ。お前たち技術者には頑張ってもらわなければならない」
レイスがカプセルの外に出てグレイドを見ながら言う。
彼なりの励ましのつもりなのだろう。
「「はい!」」
トーイとマリオンは返事をすると自分達の持ち場に戻る。
レイスはそんな彼らを見ながら、格納庫をあとにした。