プロローグ
小説家になろうでは初投稿です。稚拙な文章力ですが、よろしくお願いします。不定期更新になると思います。
――地球はもう終わる。
薄れゆく意識の中で血だらけの男は最後の力を振り絞り、目の前のスイッチに手を伸ばした。
目の前には百年以上も前から眠ったままの少女の映像が映し出されている。
幸せそうに眠る少女は美しく見え男は安らぎを覚える。
祖先から託された少女だった。
彼女は彼の持てる技術のすべてを詰め込んだ生命維持のための水膜に覆われ、カプセルの中に入っている。
地球が謎の宇宙生物の侵略を受け始めてからもうすでに百年以上の時が経っていた。
――シオンの歌をもう一度聞きたいな。
それが、彼女を護り続けてきた曾祖父の最後の言葉だった。
彼は彼女のことはまったく知らないが、曾祖父が彼女に惚れ込んでいたことだけは知っていた。
だから、彼は曾祖父の意思を継ぎ彼女を目覚めさせるために尽力してきた。
古いディスクから流れる彼女の歌声は曾祖父が聴きたがる訳がわかるほど心に響いた。
時に力強く、時に優しく、彼だけでなく聴くものは魅了される。
彼自身、彼女が目覚めた時は精一杯面倒を見ようと思っていた。
そして、曾祖父が聴きたがっていた彼女の歌を聞かせて欲しかった。
しかし、それが叶わぬことは明白であった。
地球はもう滅びる。
そして、自分の生命ももう終わる。
彼は最後の力を振り絞り彼の最高傑作でもある地球初、いや人類初であろうグレイドを宇宙に放つことを決めていた。
曾祖父の想い人であり、自分の初恋でもある彼女を護るために。
地球を救うことには間に合わなかったが、彼女のことは護れるだろう。
彼がスイッチを押した途端、宇宙に向かいカプセルは放たれたのだった。
――どうか、神よ。彼女が目覚めたときに世界は優しく明るいものでありますように。
神に祈ったことのない男の涙ながらの最後の願いだった。
次の瞬間、地球は大爆発を起こし消滅した。
宇宙生物のせいか、それに対抗しようとした人類の反撃の核兵器の為だったのかはわからない。
とにかく、地球は跡形もなく吹き飛んでしまった。
宇宙に放たれたカプセルは、誰の目にも触れることなく宇宙をさ迷っていた。
彼女が眠り始めてから、すでに百年以上は経過している。
地球消滅の話はすぐに宇宙の各惑星に伝わり、未確認生物から惑星を護るためにグレイドの実用化が勧められることとなった。
だが、地球でグレイドがひっそりと開発されていたことを知るものは誰もいなかった。
地球から放たれたカプセルが発見されることはまだずっと先のことであった。