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my sense  作者: 桜井 璃衣
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森の中 (4)

男は、梨花の声が聞こえたはずなのに、一瞬動きを止めただけでそのまま近づいてきた。


梨花は、怖さのあまり両手を上に挙げたまま、一歩、また一歩と後ずさった。

そのたびに男は梨花に近づくので二人の距離は一メートル弱が保たれていたが、

それが数回繰り返された後、梨花は先ほどまで自分が座っていた、切り株に躓き、

切り株に座るようにして、その場に尻餅をついた。


男は、逆に少し切り株からはなれ、切り株に座ったままの梨花の顔を容易に見れる位置にたった後、

何か短い文章のようなものを話し始めた。


「×××××××××××」


語尾が上がるので、何かを尋ねているようであるが、全く検討の付かない言語である。


月明かりに照らされる男の顔は、鼻筋が通り、あごのラインがはっきりしている男らしいを顔立ちだ。

その顔が十分に小さく見えるような、ガッシリとした肩とその体躯である。

無駄な脂肪など少しも感じられない。


何回か繰り返した後、あまりに梨花が何も反応せず、男を眺めるだけのことに業を煮やしたのか

男は、むき出しの剣を右手に持ったまま切り株にすわる梨花の前にたった。


このまま一振りで殺されるのかと思い、下を向いて覚悟を決めようと思ったが、

梨花の目の前には、剣を持たない左手が差し出され、思わず見上げて目で問うと、

『つかまって立ち上がれ』というようにうなずいたので、その手につかまり立ち上がった。


どうやら、殺されることは無いらしい。


梨花が立ち上がると手を離し、梨花の荷物を見て、あごしゃくったので、

『自分の荷物です』という意味を込めてうなずくと、

紙袋とバックを彼はいぶかしそうに見ながら持ち上げた。


男が馬の方を見ると、男が馬に合図を送ったのか分からないが、馬が二人の近くまでゆっくりと歩み寄ってきた。

近くで見ると、その馬は途轍とてつもなく大きく見えた。

馬を近くでみるのは初めてだが、たぶん世界一大きいのではないかと思われるほど大きい。


梨花のちょうど顔の位置と同じくらいまで、足の長さがあるのである。

馬の大きさの測り方はよく分からないが、人間と同じで立った状態の足から頭の天辺までを身長とするならば、

3メートル近くありそうなのである。


乗り手である男も大きく、並んで経つとヒールを履いて170cmぐらいある梨花が男の肩ぐらいまでしかないから、

男は、2メートル近く身長がありそうだ。


馬が近づいてきたのは、梨花と男を乗せるためだと思うが、梨花は馬になど乗ったこともなく、

ましてや、自分の身長ほど足が長い馬に乗るなど、できるはずも無い。

馬を眺めることしかしない梨花を見ていた男は、梨花に紙袋とバックを手渡すと、

いつの間にか鞘に剣を戻していたのか、両手を梨花の脇の下に手をいれ、

赤ちゃんを持ち上げるかのようにそのままヒョイと馬の背に梨花を乗せ

自身も、難なくその後ろに跨り馬を歩かせ始めた。


梨花は横向きに座ったまま、男が梨花の腰を支えてくれている状態であるが、

見ず知らずの男の手が腰にあることより、初めての乗馬がいかに怖いものであるか思い知らされ、

知らずと全身を男に預ける形になっていたが、恥ずかしさなど、皆無であった。


馬も、そして男も梨花が馬に乗りなれないのを悟ったのか、相当ゆっくりと歩んでくれているようである。


突然、水滴が一粒梨花の顔に当たった。

見上げてもよく分からないが、雨が降ってきたほうである。

男が背後で、舌打ちをしたのが分かった。

どうやら、男の計算外の雨と速度で、足止めをさせることになるのかもしれない。


意外と、人間極限状態であれば、言語は無くても通じあえるのかもしれないと、

不安定な乗馬から考えをそらすように考えていると、小雨ぐらいの降りかたになっていた。


馬は、若干歩みを早め始めたので、もはや梨花にはなにも考える余裕がなくなり

目を瞑り、硬く石のように固まっていたら、しばらくして歩みがとまった。


目を開けると、小さな小屋がある。

男は馬から降りて、小屋の扉を開け中の様子をチェックした後、

梨花を馬から下ろして、小屋の中に入るように促した。




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