入城 (1)
眼下に広がるのは、中世ヨーロッパを彷彿とさせるような街。
あと、1時間ほども走らせれば王城に着くという。
ここまで、長かった・・・・
日本にいる時に『旅行に行きます』っていうと、ほとんどの人に羨望の目で見られたし、
自分も旅行に行く人を見送るとき、どんな目的地であっても羨ましいと思っていた・・・
その認識を撤回したいと思うほどの過酷さ・・・・
もう二度と旅はしたくないと言いたい。
やっとの思いで王都についたのは、出発してから10日後。
日中ひたすら、馬をはしらせ、草原やら林の中やら森の中やら道なき道をひたすら進む。
二人は王都への行き方を知っているのか、地図を見ることも無くただ進んでいく。
それも、日中のみだ。太陽の場所で方角を確認しているのかどうなのかわからないが、日が傾き始めると
二人は少し相談して、川の近くまで進みそこを野宿場所確保するのだ。
クラウド殿下自ら川で魚を釣り、ローレンが調理して食事にする。
その後、どちらかが見張りをしながら夜を過ごし、朝日がでると共に軽く食事をし、また馬上の人となるのだ。
梨花は、クラウドの馬に同乗させてもらい、食事を出され、野宿するのみなのだが、
都会女子には、マジできつい事この上ない。
山ガールや、釣女ならまだ耐えられるかもしれないが、タクシーをこよなく愛用する都会派だったのだ。
トイレの仕組みまで、魔法によって制御されているというのに、なぜ地道な移動手段しかないのか疑問ではあるが、連れて行ってもらう身の上のため文句すらいえないのは、社会人のさがなのか。
王都をぬける間、周りを見ると黄色人種らしき人は一人もいない。
皆、クラウドやローレンのような見た目ヨーロッパの方が多い。
王都に入る前日よけとして被っていた布をクラウドに深く被せられたのはそのせいかもしれない。
視界が若干さえぎられる中で見た景色は、10日前までいた村がいかに田舎であったかを気付かされるには十分だ。
道には人々があふれ、家やお店が立ち並び活気にあふれている。
きっと生活水準が豊かで、穏やかな暮らしぶりなのだろう。
立ち話をしている人が多いせいか、無機質な東京とはまた違った温かみがあるような気がする。
梨花が、そうこう観察するうちにどうやら目的地についたらしい。
堀が城を取り囲むようにあり、橋がかかった門の近くには、橋の前に、橋を渡ったところに、門の外に、門の中にというように、衛兵が立っている。
厳重な警戒がされている。
門のなかには、欧風の大きなお城が控えていた。
私を乗せたクラウドの馬は、全く躊躇することなくその橋を渡り中に入っていく。
クラウドが入っていくと、兵たちは一様に敬礼の姿勢を取った。
城内に入ったからといって、ついたわけではないらしい。
庭園やらなんやらを通り過ぎ、馬はそのまま歩みを進める。
早く、椅子に座りたい。