帰る術 (2)
クラウドの考えとしては、召還された可能性が高いとのこと。
乙女度が明らかに低い梨花でも知ってるような、異世界トリップの王道『召還』らしい。
この世界には、魔術者が一割程度いるが、そのほとんどの魔術者は、攻撃的な魔力や強力な魔力を持つことは無く、魔力を使って仕事をしているらしい。
例えば、ずっと謎に思っていたトイレも、魔術者によって、汚物を排出した後、トイレの蓋をすると家の近くの肥溜めに自動的に入る!!仕組みらしい。
梨花の感覚からして、汚物が空中を移動するような気がして汚いと思ったけど、
空中を飛ぶのではなく、その地点から瞬時に別地点に移動するのだから問題はないとローレンに言い切られた。
他にも、不思議だったお風呂等々にいたるまで、魔術者というのは大工のように人々の生活に密着したとてもよい仕事として存在しているようだ。
でも、中には強力な魔力を持って生まれてくる物もいて、彼らは攻撃に至るまで様々な魔力を鍛錬によって操ることができるようになるらしい。
今回は、そのような者が梨花を召還した可能性が高いとクラウドは言った。
「どのような目的で召還したかは定かでないが、今回の召還は完全に成功したわけではないことが分かっているから、他国の術者が探しているに違いない。
ここでは、守るのに適していないから王都へ移動する。」
「どうして他国って分かるの?完全に成功していないって?」
「この国では召還技術は規制されているし、この国の術者が召還したような形跡もない。
召還術というのは、呼び出した地点に召還物が正確に届いた時点で成功とされるが、森の中に現れたであろう。」
「だからって王都に移動するの?王都に移動したら日本に帰れるの?」
「王都に移動するのは安全のためだ。そなたを来た世界に戻すことは多分無理だ。
召還した術者がどのような指定をして、梨花を呼び出したのか分からないが、その術者にもできるのかどうかわからない。」
「だったら、私を召還した国を見つけて、その国の術者にあって、日本に返してもらうようにしたい。」
「なぜ、召還されたのかわからないのか?召還するには、多大な魔力を必要とする。
それでも召還するのは、それに期待する何かがあるからに違いない。
たとえば、過去には異世界で生きるモンスターが召還されたことがあったが、召還は完璧に成功し、召還部屋に現れたモンスターはその場に立ち会った人間を一瞬にしてほぼ全滅させたのだ。
そのような危険まで冒して異世界から女を召還したのに、易々(やすやす)帰すわけ無いだろう。」
うーん。難しい。
でも、人間追い込まれると、語学習得能力がアップするのかしら?
明らかにこのおきてから時間で、単語力アップした感じがする。
召還されたモノは全て、何らかに使用する目的があって、それは明らかにいいことじゃないってこと?
例えば、生贄とかかしら???
あああああ、それだけはいや。
すぐに日本に帰れなくても、生きてればそのうち帰れるかもしれない?
でも、そのうち帰って居場所があるのかな?
うーん。。。。
でも、生贄は嫌だよね?
「梨花、体調はどうだ?熱とかはなさそうだが。問題なければ今夜にでも出発する。」
クラウドの突然の宣言に、梨花だけでなくアンジたちも驚いたようで
「なにも、今夜でなくても明日の早朝でもいいのではないでしょうか?」
とアンジは言ってくれた。
っていうか、王都に行くとはまだ言ってないよね?
「ちょっと待って。私、まだ王都にいくって言ってない。だって王都に行ってもどうすればいいの?」
「王都についたら、王宮で丁重に保護する予定だ。体の調子は戻ってきているか?」
「王宮で丁重にって、そんなのわからない。
ココではみんな優しく保護してくれたけど、そんな保障どこにあるのかしら?
第一、私絶対に不審者なのに、王宮になんか入れるわけない!
分かった!!牢屋に入れられるの?小娘じゃないんだから、騙されない!!」
と、熱くなってしまった。
でも、乙女的異世界トリップの王道って、女子高生が主人公だったりするのよね。
だから、すぐに召還元のイケメン王子と結婚したり、世界を平和に導く旅に出かけたりできるのよね。
でも、30を目前にしたオンナにそれは無いと思わない?
森の中にいるよりは、明らかに安全そうな人間のクラウドについてきた。
だからと言って、次もクラウドについて行ってイイコトが待っているか分からない。
もしかしたら、見世物小屋に売られるのかもしれない。
だったら、ココでアンジにお願いしてした働きでもしながら、この世界を知って帰る術を探したほうが安全じゃない?
梨花の啖呵にビックリしたのか、ローレンとアンジがクラウドに相談を持ちかけているみたい。
3人が何を話しているのか、梨花に話す時の速度と違いすぎて分からないけど、3人とも梨花がクラウドの提案を蹴るとは思わなかったに違いない。
段々、意見が割れているのか、みんなの声が大きくなって、ローレンが立ち上がったクラウドを制し使用としているけど、
「黙れ!!」
と言って、クラウドは梨花のベットの横に片膝を立てて跪き、梨花の左手を取った。
「私のこの命の続く限り、そなたを守ることを誓います。」
というと、クラウドは腰にさしていた剣を抜き、自分の親指に一筋の傷を付け、
あまりのことに声が出ない梨花の手を持ち上げ
「失礼。」
と言って、チクッとした痛みを梨花の親指に与えた後、二人の親指の傷同士を重なり合わせた。
その瞬間、梨花の中でなんともいえないような感覚が起こった。