帰る術 (1)
目が覚めると、そこはアンジの家で梨花が使っているベットの上だった。
夢の中で見た黒っぽい豹がすごく悲しそうな顔をした後、尾を垂らしてトボトボと歩いていくのをみて
追いかけようと思ったら、目が覚めたらしい。
そうだ。あの豹から全ては始まった。
あそこから何かが違うって、もう間違ってるって思わなきゃいけなかったのに、
わざと気付かないフリして東京へ帰る術を探していた気がする。
言葉が通じれば、船が飛行機に乗って成田に帰れるって。
表参道からタクシーで10分で森の中に突入した時点でそんなわけ無いのに。
何となく体が重くって思うように動かないけど、起き上がろうとしてベッドの上でゴソゴソと動く。
「起きたのか?」
突然、声をかけられてビックリしながら、声のほうを見ると久しぶりに見たクラウドがいた。
うんって言おうと口を開いたのけど、喉がカラカラで声がでないので、軽く肯く。
「声が出ないのか?水を飲むか?」
クラウドの言葉に梨花がうなずくと、クラウドがベッドサイドにある水差しから水をグラスに入れて持ってきてくれる。
「自分で飲めるか?」
クラウドの質問にもちろん、水ぐらい飲めるよと思ったけど、手がしびれた様にうまく動かなくてグラスをうまくつかめない。
クラウドがささえてグラスを持ってくれて、ようやく水が飲めた。
「ありがとう。」
クラウドにお礼をいうとビックリした顔で
「本当に言葉が分かるようになったんだな。」
といった。
「まだまだ、少ししか話せないけどね。なんか体がおもいな。」
「お前は倒れた後、5日ほど寝ていたらしい。店で倒れたと聞いたがなにかあったのか?」
ローレンに連れてってもらった店で倒れたんだ。
素手で掴まれた石鹸に、絶対違うって思ったんだよね。
『クシュン』
寝巻きのままで上半身だけ布団から出して話していたら、寒かったのかくしゃみがでた。
「悪かった。侍女をすぐ呼ぼう。それまでコレを」
クラウドといえばマントだよねっていう感じで、またまた身につけてたマントを梨花の肩に乗せると、
侍女を呼ぶために部屋の外に出て行った。
しばらくすると、侍女を呼びに行っただけのはずが、アンジやらローレンやら引き連れて総勢5人で帰ってきた。
侍女のロゼッタとリリは、マントを見ると顔を輝かせながら、それを外してガウンのような物をきせ、
ベットの近くに椅子を3脚用意すると退室していった。
枕元から、クラウド、ローレン、アンジの順に座る。
ローレンはいろいろ聞きたいことがありそうで、今にも口を開いて問い詰めたそうな顔をしているが、
クラウドがいるせいか、何も話始めない。
「突然倒れたみたいで、ごめんなさい。」
梨花が謝ると、やはりローレンは何か話したそうだったが、それを制してアンジがゆっくりと話し出した。
「いいのよ。でもローレンが意識の無いあなたを担いで帰ってきたときはビックリしたわ。
それに、5日も目を覚まさないなんて。もう体調は大丈夫?
ローレンの話では、商店で特に変わった様子はなかったといってるけど。」
「ちょっと体が重い気がするけどもう大丈夫です。」
そこまで言うと、一度3人を見渡してもう一度、梨花は口を開いた。
「ここは、私のいる場所ではありません。私はここからとても遠い場所から来たと思います。
『日本』という国にすんでいました。」
きっと違う世界から来たって言いたいけど、世界っていう単語が分からないし、そういう概念があるのか分からなくて。
「そうか。そうではないかと思っていた。」
クラウドに言われて本当に違うんだと実感した。