領主の家 (3)
中に入ると、照明などなく薄暗い店内にカウンターのような物が置かれていて、後は後ろに棚があるだけだった。
この国なのか、この村だけなのかはよく分からないけど、電気が通ってなくて電化製品のようなものも見当たらないのよね。
扉を開くときになった鈴のせいか、奥から店の人なのかおじさんが出てきてくれた。
なんともまぁ、レトロな感じよね?
おじさんは、にこやかに出てきてくれたんだけど、ローレンの顔を見ると引きつったような顔になり、後ろへずりさがった。
おいおい、ローレン。。。
強盗でも、そこまで引かれない気がするのに何をしたんだ・・・・・
「少し買い物をさせてもらう為に来た。私のことは特に気にしなくていい。
この女に何か見せてやってくれ。」
ローレンがそういうと、明らかにおじさんは、ホッとして
「お嬢さん、何がご入り用ですか?」
と聞いてきた。
ゲームの中か、英語の教科書のスキットでしかお目にかかったことの無いような会話にビックリしたが、どうやらこの店では普通のことらしい。
何がいるか??
うーん。。服や食べ物は困ってないし・・・・
やっぱりココは職業柄もあってアレよね。。
こういうとこでこそ、肌が綺麗になるような石鹸やシンプルな化粧水に出会えたりするのよね?
ちなみに、アンジの家にはメイク落としはなさそうなので、初日にメイクを落として以来メイクは全くしてないのよね。
「洗顔用の石鹸が欲しいです。あと化粧水なども見せてもらえますか?」
おじさんは、ちょっと難しそうな顔をしてチラっとローレンを見ながら、棚の中からいくつか石鹸やら瓶を取り出した。
「洗顔用の石鹸は、今あるのはコレだけですが、通常はもう一種類あります。」
といい、石鹸を直接カウンターにのせる。
「この二つは洗顔用石鹸ではありませんが、とても人気があります。」
といい、また石鹸を二つ直接カウンターにのせる。
「こちらが化粧水ですが、この一番大きいボトルは、月末に買いにくるというかたがいらっしゃって・・・」
と、ローレンをチラッと見ながら、持ってきた3つの瓶をカウンターの上に載せた。
要するに、固定客の予約済みなんだけど、ローレンが怖くてとりあえず、持ってきてくれたのね。
ありがとう。おじさん!
そんなにおびえなくてもいいけどさ・・・
「あの、この石鹸で包んであるものはありませんか?」
なんとなく、おじさんが素手で触った石鹸って嫌じゃない?
とりあえず、パッケージに入った物がいいよね。。
「お売りするとき、包みますが・・・・・」
おじさんの回答って、何か問題ありますか?って感じなのよね。
この村の女性は、それでOKなのかしら?
「どんな、成分でできてるとか書いてないんですか?この3つはどう違うのですか?」
そうそう、日本だと配合成分とか使用法とか一応書いてあるよね?
「うーん。私は売っているだけなのでよく分かりません。3つの石鹸は違う修道院で作られています。
えっと、コチラがメディス修道院で、こっちがアリマス修道院。で、コレがリディーレ修道院。」
えええ?
そんな違いなの?製造元が違うってだけ?
ってかなんかおかしくない???
化粧品って乾燥肌用とか脂性肌とかないの?
みんな一緒?同じ肌ってこと?
それにそれに、後進国の東南アジアに旅行に行った時だって、全部ビニールに包まれてたり、包まれてなくてもショーケースに入ってたりしたよ。
それが、何も無くて、しかも素手つかみってどういうこと?
外国産の商品とかないわけ?
なんか、ひたすら気付かないフリしてたけど、ココって日本じゃないだけじゃなくて、私の知ってる世界じゃないのかも?
ねぇ。。。。
どうすればいいの?
同じような人間が住んでいるし、同じようだけど、自分はどうやって帰ればいいの?
ココはどこ?
石鹸なんてどうでもいい。
でも、本当に違うんだってなんか分かっちゃった。
言葉が通じないから、勉強して日本に帰る方法を教えてもらおうとした。
でも、そんなの全然意味無いのかもしれない。
メイク落としでビックリされた時点で、悟ってなければいけなかったのかもしれない。
ココは何かがおかしい。
梨花のいた世界じゃない。
そう、思ったら恐怖で足元がぐらついてきた。
あまりのことに悲鳴をあげたいんだけど、悲鳴すらでない。
喉が僅かな引きつられるような音を出しながら、梨花は顔を手で覆ってそのまま意識を失った。