火葬の村 3-1
その村には、煙が似合った。
ドームの膜を通して見える空は薄曇りで、村の中央にある広場からは白い煙がまっすぐに昇っている。煮炊きの煙ではない。もっと重く、もっと湿った匂い。
人が焼ける匂いだ。
「火葬か」
夢魘が肩の上で呟いた。声が低い。いつもの軽口を叩く気配がない。
「ええ。この村は、亡くなった人を火で送る風習があるの」
ドームの外で死ねば魔物になる。だからドームの中で死んだ者は、魔物にならないうちに焼いてしまう。合理的な風習だ。どの村にも似たような習慣はあるが、この村は特に火葬を大切にしている。死者を送る儀式として、村人総出で見届けるのだ。
荷台を広場の手前で止め、馬を繋いだ。商売は後にしよう。火葬の最中に店を広げるほど、私は無神経ではない。
§
広場に近づくと、村人たちが輪になって立っているのが見えた。
その中心に、薪が組まれている。高く積み上げられた薪の上に、布に包まれた人の形。炎はすでに上がっていて、布の端が黒く焦げ始めていた。
輪の中に、少年がいた。
十二、三歳くらいだろうか。痩せた体に継ぎの当たった服。泣いてはいなかった。ただ、炎を見つめている。その目には怒りとも悲しみともつかない、硬い光があった。
隣にいた老婆に小声で聞いた。
「あの子のお父さん?」
「ああ。三日前に病で逝ったよ。母親は去年亡くなってね。あの子、もう一人だよ」
老婆の声は淡々としていた。この村では珍しいことではないのだろう。病で死ぬ者、魔物に殺される者、栄養が足りずに弱っていく者。ドームの中は安全だが、豊かではない。
炎が大きくなっていく。布が焼け落ち、薪が爆ぜる音が広場に響く。村人たちは静かに見守っている。泣いている者もいれば、目を伏せている者もいる。
少年だけが、まっすぐに炎を見ていた。
夢魘が私の肩から離れ、広場の端の木の枝に移った。そこから火葬を見下ろしている。
「なぁ、闡釐」
低い声。振り返ると、夢魘が炎を見つめたまま言った。
「俺たちが死体を啄むのと、これと、何が違うんだ?」
不意を突かれた。考えたこともなかった。
「......どういう意味?」
「カラスは死体を食う。人間は死体を焼く。どっちも、死んだ者の体を処理してることに変わりはねぇ。でも人間は、カラスが死体を啄むのを忌み嫌う。なのに自分たちが焼くのは『送る』って言う。何が違うんだ?」
私は暫く黙った。炎が薪を舐め、白い煙が空に溶けていく。その煙の行方を目で追いながら、答えを探した。
「意味を込めるかどうか、じゃないかしら」
「意味?」
「カラスが死体を食べるのは、お腹が空いているから。でも人間が火葬をするのは、死んだ人を忘れないため。体は燃えてなくなるけれど、煙は空に昇る。あの人はあそこにいる、とみんなが空を見上げる。そのための儀式なのよ」
夢魘は黙った。嘴を閉じたまま、炎と煙を交互に見ている。
「......意味を込める、か。俺たちにはそれがなかった。ただ食っていただけだ」
「だから国を作るのでしょう?意味を込められるようになるために」
自分で言っておいて、少し驚いた。こいつの「国を作る」という夢に、こんなにすんなりと言葉を添えられるとは思わなかった。
「......ああ。カラスの国にもいつか、墓標が必要になるな」
夢魘が静かにそう言った。その声には、いつもの軽さがなかった。
墓標。死者を忘れないための印。夢魘がそれを必要だと感じたこと自体が、もう人間に近い。だが同時に、昨日の光景が頭を過った。村の屋根に止まっていた普通のカラスたち。言葉を持たない、ただの鳥。あのカラスたちは墓標を求めない。死んだ仲間を啄み、忘れ、飛び去る。
夢魘が作ろうとしている国は、そのカラスたちのための国だ。墓標を理解しない者たちに、墓標の意味を教えること。それは途方もなく遠い道のりだろう。
でも、こいつはそれを知った上で「必要だ」と言った。




