カラスが鳴いた 1-3
「百年以上むかし、人が世界を牛耳っていた時だ......」
カラスは語り始めた。
「俺達も人の住処に居場所を作っていた。嫌われちゃあいたが、要は棲み分けが出来なかったのが問題だ」
「しかし、現在の人類はどうだ?世界中の大気が汚染されて外に三日もいりゃ魔物になっちまう。外気から遮断した膜を張って暮らしちゃいるが、昔と打って変わり酸素供給の為どこを見ても緑豊かな村しかない。衰退が目に見えるぜ」
自慢げに語るカラスに少しむっとなるが、言っていることに間違いはない。
通信手段が限られ、村をつなぐ情報のほぼすべてが私たち行商人に頼り切っている。技術者が知恵を出し合える場所がないのだ。
眉間に皺を寄せ考え込んでいると、カラスが小さくカァと鳴いて私を引き戻した。
「すまない、少し高圧的だった......。誤解しているかもしれないが俺は人が好きだ。尊敬もしている。アンタらに早く追いつきたいと思っているだけさ」
カラスは少し反省する態度を見せた後――
「さて、ここからが本題だ。俺は」
――今度は真剣な面持ちで私に向き直る。
「俺達カラスの国を作る」
先ほど冗談を話していた時と違い、ただの一点の曇りない表情。その大きな嘘を本当にするという意思が伝わり――瞬間、胸の穴を風以外の何かが通り抜けた。驚きに似た、もっと温かいもの。
「だがな、国には文化や法律が必要だ。そして残念ながら俺にはまだその知識がない。だから行商人のお前について行って、村の風習や規律を学ばせてくれ」
なるほど――しかし全く私のメリットが思い当たらない。
暫く黙っているとカラスは頭を下げた。
「迷惑はかけねぇ!頼む!」
「良いわよ」
存外あっさりと許してしまった自分に、自分でも驚いている。実際、納得のいく理由なんて持っていない。ただ、胸の奥の穴が、ほんの少しだけ狭くなった気がした。その変化が何なのかは分からない。
まあ、いいか。暫くこいつと行動すればいずれ分かるだろう。
ただ、いまは笑いたい気分だ。
「私は十慧闡釐。貴方は?」
するとカラスは少し戸惑いながら答えた。
「そうか、人には呼び名が必要だったな......。よし、闡釐!友好の証だ......!付けてくれ!カッコイイ名前を頼むぜ!」
「カラス」
「おいおい......!そりゃ種族名じゃないか!人間って呼ぶみたいなもんだ!?」
「カラスはカラスでしょ?」
眠たい。先ほどまであった緊張感が途切れて、瞼が重くなった。そんな時に名前なんて考えていられるか。私は馬を止め、荷台に寄りかかった。
「それじゃあ、少し寝るわ......。おやすみ、危なくなったら起こしてね?」
そう言い瞼を重く閉じる。
「貴方を連れていく理由は目覚ましに丁度いいからよ」
「鶏や鳩と一緒にするなよ......」
寝息が聞こえると諦めがつき、カラスは再び男の頭の上に昇った。
星が散らばる空の下。カラスが一羽、生首の上で羽を休めている。その影が闡釐の寝顔を見下ろしていた。
明日から、少しだけ違う日が来る。
そんな予感がしたのは、夜のせいだろうか。
――丁々発止が鳴り止まない。




