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幕間:ヴィオレットの日記#3

11月8日


 デイジーが中庭の花壇に水をやりすぎて根腐れを起こした。三鉢。注意したら翌日も同じことをしていた。水が足りないと思ったらしい。根が腐っているから萎れているのだと説明したら、目を丸くしていた。同じ失敗を繰り返せるのは才能だと思う。悪い意味ではなく。

 硝石の納入が遅れている。北部の街道が雪で止まっているとのこと。年末までに手配を終わらせなければ春の土木に間に合わない。代替の仕入れ先を当たるようネリーナに頼んだ。

 あの人が中庭の排水溝を見ていた。屈んで、石の隙間に指を入れて、詰まりを確かめている。また何か直すつもりだろうか。誰にも頼まれていないはずだけれど。



11月15日


 ルイス兄様が来た。半年ぶり。食事中も手帳を手放さない兄だった。相変わらず字が汚い。

 振動伝達に関する特許の話が出た。素材ごとの共鳴周波数を体系化すれば、伝令や早馬に頼らない遠距離の通信手段になり得る。商業的な価値は計り知れない。書類はこちらで整える。ルイス兄様は申請の手続きに興味がないから、放っておくと書きかけのまま机の上で埋もれる。

 あの人がルイス兄様の話をずっと聞いていた。メモを取っていた。何を書いていたのかは知らない。けれど、ルイス兄様が図を描いて見せたとき、あの人の手が一瞬止まって、それからまた動き出した。何かが引っかかったのだろう。あの人は気になったことがあると、黙って書く。



11月21日


 あの人がメルンヴァルト辺境伯領へ行く。先の戦の叙勲と、顔合わせを兼ねているらしい。良いご縁であれば何よりだと思う。

 長兄の件で確認すべき書類が溜まっている。帝都への出発準備を急がなければ。税制改正の草案が届いているはずだが、まだ目を通していない。サリーに護衛を任せた。剣は気に入ったようだった。

 屋敷が静かだ。


 「特許の書類、整えてございます。——日記も拝読いたしました。あの方の頁が、随分と増えておいでですね」



11月25日


 帝都行きの日程が決まった。年明け早々。アレハンドロ兄様の政務参入に伴う同行で、私は書記兼補佐として帯同する。必要な書類の一覧を作成した。税制改正の草案、領地間交易の報告書、特許関連の追加資料。ルイス兄様に送ったが返事がない。催促の手紙を書いた。

 硝石の代替仕入れ先が見つかった。北東の鉱山町から回せるとのこと。輸送費が嵩むが、春の土木に間に合わせるにはこれしかない。契約書の雛形を準備する。



11月29日


 縁談の申し出が二件。どちらもお断りした。

 帝都の屋敷の手入れをネリーナに頼んだ。半年留守にしている。護衛の配置も確認しなければならない。サリーに任せてあるが、念のため自分でも確認を取る。



12月3日


 あの人がメルンヴァルト辺境伯領に発った。ネリーナが同行している。叙勲と、辺境伯次女との顔合わせ。

 良いご縁であれば何よりだと思う。前にもそう書いた。

 帝都行きの荷造りを始めた。書類が多い。革鞄が二つでは足りない。



12月5日


 帝都向けの書簡の下書きを三通。アレハンドロ兄様の紹介状の文面を整えた。印章の確認。蝋の在庫が少ない。手配する。

 あの人の顔合わせは、もう済んだだろうか。

 蝋の手配を忘れないこと。


 「日記は続けてください。あとで読みますから」


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