第5話 甘い罠に気づかずに
アレクの視線が――
私を通り抜けていった。
扉が開き、リリアが姿を現した瞬間だった。
「お姉様、少しお邪魔いたしますね」
その声に、アレクの表情がふっと変わる。
柔らかく、ほどける。
まるで恋人でも見るみたいに。
「リリア、君が来るなんて嬉しいよ」
……今、なんて言った?
アレクはすっと立ち上がり、
私ではなくリリアへ歩み寄り、
迷いなくその手を取って、触れた。
「アレク様ったら、相変わらず紳士ですこと。」
嬉しそうに笑うリリア。
その笑顔は――どこか冷たい。
私には向けられない種類の笑み。
「セリーヌ、座ってて。
リリアの椅子を用意してあげないと」
どうして?
私は、貴方の婚約者。
隣に座るのは私だけでいいはずなのに。
アレクの視線は終始リリアへ向けられ、
私の存在はまるで空気のようだった。
リリアは、わざとらしくアレクの腕にすがる。
「まぁ…力強いのですね、アレク様」
アレクは微笑む。
そして――私を見ない。
胸の奥がぐちゃぐちゃに捻じ曲がっていく。
「アレク様、今度街へ連れて行ってくださいます?
お姉様は最近お疲れですし…」
わざとらしい。
けれどアレクは頷く。
「いいね。君となら楽しめる」
私と、じゃなくて?
リリアが私にだけ聞こえる声で囁く。
「ねぇ、お姉様。
アレク様の視線、どこに向いてます?」
私は答えられなかった。
だって――全てを奪われていく音がしたから。
チリ、チリと。
私の心が蝕まれていく。
リリアは私のカップへそっと触れ、
紅茶を飲むよう促す。
「大丈夫ですわ。
少し眠れば、忘れられますもの」
(忘れる?何を?)
喉が渇いて、紅茶を飲んだ。
その瞬間――
視界がにじみ、アレクが遠のく。
アレクの声も、笑顔も、
リリアの指先も、
全部がゆっくり溶けていく。
最後に見えたのは、
アレクの視線が、リリアに恋をしている光景。
爪が食い込むほどに手を握る。
心臓が裂けそう。
(アレクは私のものよ…)
闇が迫る中、
リリアだけがしっかりと私を見て微笑んだ。
「ねぇお姉様。
ちゃんと見ていてくださいね?」
瞼が落ちる。
甘くて苦い匂い。
――どうして。
どうして私じゃないの。
落ちていく意識の中、
ひとつだけ確信した。
これ以上、奪わせない。
絶対に。
絶対に――。
読んでくださりありがとうございます!
アレクの視線がどんどんリリアに…ෆ
セリーヌ、負けてられません。
次回、アレクの“変化”が始まります。
どうぞお楽しみに…
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