第八話 「妹エリス・カエリスの誕生」
次のヴェルナレス(春)の季節が来るまで、時間はあっという間に過ぎていった。
そのあいだに、母はセルと知り合った。
…けど、最初のころは、母がセルにヤキモチを焼いていた。
僕から『母を奪われる』みたいで、すごく複雑だったんだ。
だって、母は毎日のようにセルの話ばかりするんだ。
でも、時が経つにつれて、二人は本当に仲良くなっていった。
…いや、「仲良くなった」なんて生ぬるい。かなり親密になった、と言うべきだ。
母とミラは、セルに料理や家事のやり方を教え始めた。
二人の言い分では——
「女の人は、台所と『ベッド』で男の人を感動させなきゃいけないのよ」
らしい。
この最後の『ベッド』の部分は、父が口走ったものだ。
その直後、当然のように母にこっぴどく叱られていたけど。
そのときのセルの顔が、またすごく可愛かった。
トマトみたいに真っ赤で、でもイチゴみたいに甘い表情だった。
セルは緊張すると、いつも胸の前で両手をぎゅっと組む癖がある。
…正直、それもすごく可愛いと思う。
それから、あの謎の家の正体もわかった。
あそこには、セルとセルの両親が住んでいたのだ。
セルの話では、母親が「子どもたちにからかわれないように」って、村から少し離れた場所に引っ越したらしい。
もし誰かがセルをからかったりしたら——
そのときは、僕がそいつらの後を追いかけてやる。
僕のセルを殴るなんて、絶対に許さない。
…まあ、実際のところ、僕たちはまだ付き合っているわけじゃない。
でも、彼女がすごく綺麗なのは事実だ。
セルと一緒にいると、いつも胸が爆発しそうになる。
本当に言いたいことがあるのに、喉の奥でつかえて出てこない。
…でも、怖い。
彼女に拒絶されるのが怖い。
全部、うまくいかないんじゃないかって、不安になる。
だから、今は「待つ」ことにした。
少なくとも、お互いにそういうことを真剣に考えられる年齢になるまでは。
彼女は僕を待ってくれるだろうか?
それはまだわからない。
でも、一つだけはっきりしている。
——セルは、僕が一番守りたい人だ。
セルは内気で、とても緊張しやすい。
でも、自分が「やりたい」と思ったことには、全力で努力できる子だ。
そういうところが、僕は好きだ。
お金を持っているからといって偉そうにしない。
自分が特別だなんて思い上がらない。
彼女はとても謙虚で、暮らしぶりも僕たちとほとんど変わらない。
僕たちには、そこまで多くのお金はない。
けれど、貧しいわけでもない。
両親には、前の冒険で稼いだお金がまだ残っている。
それがなかったら、僕たちの財布の中身はかなり寂しかっただろう。
セルは、まるで最初から家族の一員だったかのように、いつも僕たちの家で過ごしている。
帰りは、母の指示で、僕と父が必ず彼女を家まで送っていく。
もちろん、母はいつだって僕のために一番いい道を選ぼうとしてくれる。
たとえ相手がセルであっても——大事な息子を、簡単に誰かに渡したくはないのだろう。
それでも母は知っている。
僕がどこにいようと、いつだって母のことを深く愛しているってことを。
***
一ヶ月が過ぎた。
五月も半ば、ヴェルナレスの頂上で、母は大きな発表をした。
——妊娠したのだ。
今回は、本物だ。
前みたいなことが起こらないように、しばらく様子を見てからの発表だった。
それでも、まだ少し不安は残っている。
けれど、それは当然のことだと思う。
僕たちは、お祝いのパーティーを開くことにした。
もちろん、セルも招待した。
もう家族みたいなものだと思っているから。
その夜は、とにかく盛大だった。
食べきれないほどの料理を食べ、夜遅くまで宴が続いた。
母は本当に幸せそうだった。
僕に、弟か妹ができることを、心の底から喜んでいた。
——僕も、そりゃ嬉しい。
でも、発表のあとから、母はことあるごとに僕を抱きしめては、同じことを何度も何度も繰り返してくる。
母、ごめん…
こういうこと言うのは良くないってわかってるけど……ちょっとだけ、うっとうしい。
ミラは、そんな母を僕から引きはがそうと必死だった。
…が、それはほぼ不可能だった。
セルは、自分の席で静かにその様子を見ていて、くすくす笑っている。
「セル…そんな余裕あるなら…母を僕から引きはがすの手伝ってよ!」
そう言うと、今度は本気で笑い出した。
くそっ、母!
…まあ、いい。
今日は、僕たち全員にとって特別な日だ。
お祝いのあと、母は僕に——とんでもない罠を仕掛けてきた。
セルが、うちに「お泊まり」することになったのだ。
自分の部屋に入ると、セルが僕のベッドの上に座っていた。
銀色の髪の色によく映える、柔らかな白い絹のドレス。
髪には、青いユリの花の飾り。
その姿を見た瞬間、僕は言葉を失った。
顔が一気に熱くなっていく。
恥ずかしそうに、緊張しながら、ちょこんと座っている彼女を見ているだけで、心臓がドクドクとうるさかった。
「セル…ここで何してるの⁉」
僕の声に、セルはびくっと肩を震わせた。
緊張は、僕ら二人にとって何の助けにもなってくれない。
「お、おばさんが……こ、ここで待っててって……その……」
僕は頭を抱えた。
母、これはさすがにひどい罠だよ……⁉
「あ、ごめん…その…すごく可愛くて、似合ってるって言いたかっただけ…!」
「えっ……」
セルは髪を指にくるくる巻きつけながら、顔と耳を真っ赤に染めた。
足先は、緊張で小刻みに揺れている。
「母、何て言ってたの?」
「え? え……ええ?」
「母が、なんて言ってたのか聞いてるんだよ」
「な、何も……何も言ってない!」
それだけ言うと、セルは恥ずかしさと緊張に押しつぶされたように、勢いよく僕の部屋から飛び出していき、ミラの部屋に逃げ込んだ。
僕は部屋の明かりを消し、そのままベッドに倒れ込んだ。
***
それから八ヶ月は、本当に一瞬だった。
妊娠が発表されてからというもの、セルは毎日のように僕たちの家を訪ねてきた。
彼女は、本当に優しくて、思いやりのある子だ。
どんな状況でも、彼女にだけはつらい思いをさせたくない。
セルは、弟か妹に何も悪いことが起こらないように、ミラと一緒に母の世話を手伝ってくれていた。
ある夜——
真夜中に、母の破水で家中が飛び起きた。
ミラはすぐに助産師を呼びに走る。
セルはバケツを持って、水を汲みに行った。
父は母のそばに付き添い、支え続けている。
僕は、苦しそうな母のすぐそばにいた。
「ママ……」
「大丈夫よ、アード……今回はちゃんと、無事に産むから……」
「うん……」
しばらくして、助産師が家に着き、すぐに両親の寝室へと入っていった。
僕は、セルが水を汲むのを手伝ってほしいと頼まれ、彼女と一緒にバケツを運んだ。
——そして、407年11月7日の夜明け。
部屋の中に、小さな産声が響いた。
お産は、何の問題もなく終わった。
僕とセルは顔を見合わせ、同時に叫んだ。
「生まれた!」
生まれてきたのは、女の子だった。
僕に、妹ができたのだ。
頬を伝う涙を止めることができなかった。
セルは、どう慰めていいのかわからないといった様子で、少し気まずそうにしていた。
父はといえば——
今日が自分の誕生日でもあるからか、心の底から嬉しそうだった。
「おめでとう、あなた!」
「おめでとう、お父!」
「おめでとうございます、ダリエン様!」
僕たちは次々と父に祝いの言葉をかけた。
母は、疲れ切った顔をしながらも、僕の方を見て微笑んだ。
「アード……妹を見においで」
妹は、母のすぐそばにいた。
僕はそっと彼女を覗き込んだ。
小さくて、壊れてしまいそうで——
けれど、大きく丸い、明るい青色の瞳をしていた。
その瞬間、胸の奥で何かが弾けた気がした。
妹に対するこの魅力は、この世界のものとは思えないほど強かった。
「この子が、あんたの妹よ……エリス。
名前は、私の母――エリゼ。あんたの祖母ちゃんからもらったの」
「エリス……すごく綺麗な名前だね……」
僕は彼女に指を差し出した。
エリスは、小さな手でその指をぎゅっと握りしめ——
そして、初めて笑った。
その瞬間から、僕はもう、彼女のそばを離れられなくなった。
「どんなことがあっても、僕は彼女をみんなから守るって約束する……
絶対に、誰にも傷つけさせない!
父、母……僕は最高のお兄ちゃんになるよ。約束する!」
それが、僕が両親に立てた誓いだった。
両親は、ただ静かに——
心からの笑顔で、それに答えてくれた。
日本語は完璧ではありませんが、一生懸命書いています。
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