第五話 「最初の訓練」
夜。
お母さんがすべてを打ち明けたあと、僕たちは彼女の回復を祝うことにした。
お父さんの表情は、ここ最近では見たことがないくらい明るくなっていた。
夕食は、お父さんが近くで狩ってきたイノシシだ。
お母さんはまだ以前のように笑顔を見せることはできないけれど、顔色はだいぶ良くなってきている。
僕が「大丈夫だよ」と何度も言ったのに、それでもずっと謝り続けていた。
「あっ!」
思わず声が漏れた。
大事なことを思い出したのだ…。
そう、大事なこと――
魔法の訓練だ!
それこそが、僕が二年間もずっと待ち続けていた理由だった。
「ママ、質問してもいい?」
「うん……?」
「明日、魔法を教えてくれる?」
「おい、アード! お前のお母さん親は、そんなことができる状態じゃない!」
お父さんは険しい顔で、真剣に僕を見つめた。
お母さんは黙ったまま、何かを真剣に考えているようだった…。
「ママ、それはママのためにもなるよ。
きっと気分も良くなると思うんだ。
僕は、その痛みがどんなものか全部わかるわけじゃないけど……
でも、ちょっとしたことでどんな痛みも少しは和らぐと思うんだ」
「……うん……」
「僕は兄弟……あるいは姉妹を失ったのかもしれないけど、またもう一度、挑戦してみればいいんじゃない?」
「……うん……」
「それに、ママは僕が4歳になったら魔法を教えてくれるって、約束してくれたよね……?」
「……うん……」
僕が質問を重ねるたびに、お母さんの体が小さく震えた。
まず、両腕をぎゅっと自分の体に抱きしめ――
次に、指先が震え、
脚が、
足が……。
そして、突然ふっと力が抜けたように、落ち着きを取り戻した。
「……あなたには勝てないわね、アード。
わかったわ。ママは約束通り、あなたと一緒に練習する」
やった‼
明日は、きっと僕の人生で一番幸せな日になる!
「ママ、愛してる!」
お母さんは僕を胸元へぎゅっと抱き寄せた。
何か柔らかいものが、僕の顔に触れる。
お父さんはあからさまに嫉妬している……。
だから僕は、わざと顔を反対側に向けて、お母さんにもっと強く抱きついた。
それにお母さんも気づいた。
「ダリエン!」
お父さんは、少し嫉妬したような顔をしながら姿勢を正す。
「な、なんだい、リリエン……?」
「またアルドをそんな目で見たら……どうなるか、分かってるわよね?」
お父さんは「チッ」と舌打ちしたが、そのあとは夕食のあいだ大人しくしていた。
***
翌朝。まだ肌寒かったが、空には太陽が出ていた。
窓のそばで聞こえる小鳥のさえずりで、僕は目を覚ました。
服を着て、キッチンへ向かう。
ミラに挨拶した。
「おはよう、ミラ!」
僕の笑顔は、誰の目もごまかせなかったと思う。
朝食を食べながら周りを見回したが、お母さんの姿が見当たらない。
「ミラ、ママは?」
ミラは窓の外を指さした。
そのとき——外からお母さんの声が聞こえてきた。
「アード! 外にいるわよー!」
僕は家の外に出た。
お母さんは外でストレッチをしていて――そこで、ある人物に気づいた。
その人物とは、お母さんのお尻をいやらしい目つきでじっと見つめている、僕のお父さんだった。
息子の前だというのに、その感情を隠そうともしない。
お父さんの日記に書いてあったとおり、お父さんはお母さんを触るのが好きらしいが、あまり運は良くない。
別に変態というわけではない――ただ、自分の妻に対してそういう欲望を持っているだけだ。
もちろん、今回も運は良くなかった……。
「水の冷たい精霊よ、汝の息吹を刃に変えよ。
大地を貫く槍のように刺し貫け——『アイス・ランス』」
水晶のような氷の槍がお父さんへ向かって飛んだ。
詠唱に気づいたお父さんは、慌ててお母さんのお尻から視線を外し、必死で許しを請い始めた。
僕も止めようとはしたが、無駄だった。
これは夫婦の問題だ。
僕が口を出す余地はない。
お母さんは外壁をかなり派手に破壊し、両親の寝室の中が丸見えになってしまった。
お父さんは……まあ、ノックアウトだ。
「アード、こっちへおいで!」
僕はお母さんのほうへ歩み寄った。
お母さんの表情は、とても真剣だった。
「アード。今、この世界の魔法に、いくつレベルがあるか知ってる?」
「うん、ママ。三つだよ! 初級、中級、上級!」
「それは半分正解ね……。
今は六つのレベルがあるの。初級、中級、上級、王級、至高級、そして破滅級。じゃあ、魔法の系統はいくつあるか知ってる?」
「知ってるよ、ママ。攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法、黒魔法、神聖魔法、召喚魔法!」
「よくできました、アード。ちゃんと勉強していたのね」
もちろんだよ、お母さん。
僕は二歳のころから勉強してるんだ…。
「今日は、その中から二種類の魔法を教えてあげる」
「どんな魔法、ママ?」
お母さんはすぐに、水の玉の呪文を唱え始めた。
「静寂が支配するところには、流れが応える。
清らかな水が野を洗い、混沌を押し流しますように——
『ウォーター・ボール』」
お母さんの手のひらに水の玉が形成され、そのまま壁に向かって飛んでいく。
その速度は、見ているだけでゾッとするほどだった。
水の玉が直撃し、壁はあっという間に吹き飛んだ。
その光景を見て、僕は心の底から衝撃を受けた。
お母さんには、一体どれほどの魔力があるんだろう?
「ヴァリーンの有名な魔術師」と呼ばれるのも当然だ……。
もう一つの魔法は――
それは――
(お母さん! 早くしてよ!)
僕は、お母さんが壊れた壁の近くまで歩いていくのを、じっと待つしかなかった。
「神聖なる光よ、病める者に立ち上がる力を与え——『ヒーリング』」
『ヒーリング』!
傷に最適な魔法だ。
壊れていた壁は、光に包まれながら元どおりに再生していった。
つまり、『ヒーリング』は人間だけを癒す魔法ではなく――
マナを含むあらゆるものを癒すことができるのだ。
例えば、木々でさえも。
「まずは『ヒーリング』から始めましょう、アード。詠唱は覚えてる?」
僕はこくりとうなずいた。
「じゃあ、始めましょう……」
僕は深く息を吸った。
一度。
二度。
三度――そして、詠唱を口にした。
「神聖なる光よ、病める者に立ち上がる力を与え——『ヒーリング』」
お母さんは、僕が魔法を試せるように、自分の指先に小さな切り傷をつけていた。
けれど、詠唱を終えても、緑色の光は現れなかった……。
どうして……?
集中しろ、アーデン……。
集中力を切らすな……!
「もっと集中して、アード! 全然集中できてないわ!」
僕は何度も、何度も、何度も試した。
それでも――成功しなかった。
「どうやら、あなたには治癒魔法の素質がないみたいね、アード……」
その言葉は、僕にとってかなりの衝撃だった……。
つまり、すべての魔法に素質があるわけではないということ。
それに、人はみんな、すべての魔法を習得できるわけじゃないの。
僕の表情は見るからに曇り、そのまま、どさりと地面に座り込んでしまった。
お母さんは僕の隣に腰を下ろし、そっと僕を抱き寄せた。
「アード、魔法っていうのは、とても複雑なものなの。
マナは誰もが生まれつき持っているけれど、すべての系統の魔法を扱える人なんて、ほとんどいないわ。
治癒魔法が使えないからって、落ち込まないで。
私だって、すべての魔法が使えるわけじゃないのよ」
「ママでさえ……?
ヴァリーンで有名な魔術師のママでさえ……?」
お母さんは少し照れたように、でも心からの笑みを浮かべた。
「そうよ、アード。
私でさえ――ヴァリーンで有名な魔術師である私でさえ、ね。
私の親和性は、水、氷、光、それから治癒魔法。
雷は一切使えないし、火は使えるけど……膨大なマナを消費するから、ほとんど使わないようにしているの」
すべては、僕が想像していたよりもずっと複雑だった……。
マナを使いすぎれば、限界を超えてしまい、
望ましくない副作用が出る可能性がある。
それに、扱うには『才能』も必要だ。
面倒くさいけど――それでも、試してみる価値はある。
僕は立ち上がり、手のひらを上に向けて腕を伸ばした。
「静寂が支配するところには、流れが応える。
清らかな水が野を洗い、混沌を押し流しますように——
『ウォーター・ボール』」
僕の手のひらに、水が溜まり始めた……。
それはどんどん大きくなり――
膨らんで……
膨らんで……
膨らみ続けていく――‼
お母さんは、僕が必死になっているのをすぐに察した。
「アード! 空に向かって投げなさい、今すぐ!」
僕は慌てて従い、水の玉を空へと放り投げた。
巨大な水の塊は空中で爆発し、僕たち二人は、頭の先からつま先までびしょ濡れになった。
僕はお母さんのほうを見た――
そして、見てはいけないものを見てしまった。
顔が一気に真っ赤になる。
その色――
「ピンク……」
お母さんは自分の体を見下ろし――そして気づいた瞬間、僕を追いかけ始めた。
「こら! アード、こっちにおいで!」
「やだ!」
「こっちに来なさい……早く!」
僕は走るのをやめ、振り返って両腕を広げた。
「でも、ママ……少なくとも、前より笑えるようになったよね!」
僕たちは顔を見合わせて笑い、そのままぎゅっと抱き合った。
そして僕はふと、疑問に思った。
(あれ……? お母さん、僕を追いかけてきたよな?
ついこの前まで、まともに歩くことすらできなかったのに……)
――もしかして、お母さんは自分に『ヒーリング』を使ったのだろうか?
「ママ……もう走れるの?」
「ああ、そうよ、アード。ママはもう走れるわ。
少しだけマナを回復させて、治癒魔法で体調を整えたの」
「『ヒーリング』を使ったの?」
「いいえ、もっと強力な治癒魔法を使ったの、アード。
『セイクリッド・ヒーリング』っていうの」
僕の顔は、興奮と羨望でいっぱいになっていた。
どうして僕には、治癒魔法の才能がないんだろう――
どうして?
「アード、さあ、家に戻ってシャワーを浴びましょう!」
「うん‼」
僕はお母さんのあとを追いかけて、家の中へ駆け込んだ。
日本語は完璧ではありませんが、一生懸命書いています。
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