第33話 棺
俺達はアレシスと共に072に戻った。
アレシスの私室は宿舎にもうできている。使徒の一員としては数えられているようだ。異世界転生者の憑依なども懸念していたが、本人曰く。
「母ちゃん。異世界物語の読み過ぎだぜ。俺がもう少し若ければ前世の目覚めにも燃えてたんだけどな」
くっ、実質ゼロ歳児め!
冒険者ギルドの『さすすご』もすぐに見破ってきた。割れる水晶はうまくいったが、的撃ちは俺の渡した銃ですぐに気付いた。素質というよりもゼロスの教育の賜物だな。最後はアレシスのために作ったSSSランク冒険者ギルドカード。それに俺が永続化の付与をしてプレゼントだ。
まだジョブの決まっていないアレシスは安全を考えてギルドには登録していない。
このギルドに入るかどうかもまだ決めてねぇからな。
毎朝の食事は一緒にしているがこれもいつまで続くか。
アレシスは順調に成長している。
俺の異世界転生話を目を輝かせて聞いていた純真なアレシスはもういないんだな。
そしてアレスも旅立ってしまった。
ギルドカーではなく徒歩。勇者になったアレスなら問題ないが、ショタボディのままだ。それでも訳知り顔で旅慣れているようだった。
旅の目的その他、神の使命については聞かされていない。神が勇者の覚醒を促すぐらいだ。よっぽど厄介な案件の様だな。
そして俺は久々にゼロスと二人で街を歩いている。
俺はゼロスと腕を組むとその胸に顔を埋めた。
「ゼロスえも~ん。皆が俺を置いていくよぉ~」
「別にいいじゃねぇか」
それはそうなんだが。
「寂しいぞダンナ様。使徒の子供の成長が早すぎるぞ」
「俺が知るか。もう次って話じゃねぇだろうな?」
「言わねぇよ。アレシスが落ち着くまではな。そんなにポコポコ命を抱えられねぇよ」
「それがわかってるなら安心だぜ。取り合えず離れろ」
いけずな奴だ。
「アレシスも強くなっちまったしな」
早速ギルドの訓練場で戦ってみたが普通に戦える。日本式ライフルは使える。最初は剣とか言い出したがゼロスの説得(物理)に轟沈して銃だ。
ジョブの子供、わかりにくいからジョブチルドレンは色々なジョブの初期ストレージというべきものであるようだ。基本的なものには召喚にボーナスが付いている。ジョブを決めるまでのお試しだろうな。俺みたいな異世界転生者と違って選べるというだけでも使徒の子供は優遇されていると言えるだろう。
そして身体能力や思考能力も高い。一年経たずに実戦レベルにまではいけそうだ。
ここだけ聞くとチルドレンアーミーとか作れそうだが、この衆神環視惑星の使徒側でやる事じゃねぇな。・・・魔物側はどうだか知らないが。
ただ親の能力が引き継がれるかどうかはわからない。非凡な資質はあるが、それがアレシス個人のものなのか、マタニティ機能で受け継がれたものか。
こんな事があった。
ーーー
ここは訓練場。アレスの旅立ち前だ。
俺とアレシスの模擬戦の為にアレスがウォールの上位種キャッスルで地形を作り出す。この中で相手のプロテクションを抜ければ勝ちだ。
「スキル! 超集中!」
アレシスの声が聞こえる。単純に目ではなく思考で追うという意味だ。動きは変わっているが、まあ気持ちの問題ぐらいだろう。
そう、この世界はスキルがねぇな、と思っていたが、俺がアレシスを捉えているヘカトンケイルのセンサー。この短期形態進化がこの世界のスキルなんだな。俺はアレシスを真似て叫ぶ。
「スキル! ヘカトンセンサー! お前の姿は見えているぞアレシス!」
アレシスの動きが止まる。
そこにキュポーンと煙幕を放つ。
それを避けるとまた止まる。どうやら俺のスキルが本当かどうか試しているな。
俺はそれに乗ってアレシスの所へ煙幕グレを飛ばす。避けようとする場所に銃弾を叩き込む。これで居場所がバレているとわかっただろう。
「アレシス! シコルはお前の居場所がわかる。だが地形は見えていない。打つ手はあるぞ!」
ゼロスめ裏切りやがったァァァーーー!!!
俺がヘカトンアームをアレシスの後ろに配備して直視しようとしたが、アレシスに撃ち落される。
「スキル! ヘカトンシャドー! 囮を出すぜ!」
俺はヘカトンアームにアサルトを持たせると人の動きをさせる。そして音を立てながら動かす。
二体な。俺は動かずに構える。
ヘカトンを使ったのはちゃんと宣言したからな。一体とは言っていない。
一体がやられて二体目を追いかけるアレシス。そのケツを俺が狙うわけだが、曲がり角から出て来たアレシスがこちらを向く。明らかに驚いているな。自分の想像が正しいとは思っていなかった顔だ。
慌てて下がるアレシスを俺が追う。勝利を確信した俺が何かにけつまづいた後、悠々と出て来たアレシスを先の囮ヘカトンで狙撃する。
どうやら俺の勝ちだな。
「チクショォーーー!!!」
アレシスの咆哮を聞きながら寂しさを覚える。もうこんなに戦えるんだな。
ーーー
回想終わり。
これがアレシス自体の力なのか教育の賜物か。まさかの短期形態進化がヘカトンオーガとかになればその証明になるが、今の所その兆候は見えない。
「人を育てるのって面白かったんだな」
「確かにな。だがそれにも資質はあるぜ? お前とアレシスは間違いなく動けるからな。何をしても動けない奴はいる。その時に同じセリフが出るか?」
「そっか。俺は本当に恵まれてるんだな。夫にも、子供にも」
「・・・お前な。それに俺はなんて答えればいい」
「何もいらねぇよ。こうしてくれるだけでいい。俺は、おま、ゼロ、スと会う、にたんだ・・・」
俺はゼロスに会うためにここに来たんだからな!
この一言が出てこねぇぇぇ!!!
「ブフォッ。シコル、お前、何を言おうとしているんだ」
クッ。
「俺はゼロスに会うためにここに来たんだからね! 勘違いしないでよね!」
ゼロスが何か一瞬遠くを見るような目で俺を見ると俺を優しく抱き留める。
「ああ。俺の女はシコル・ギウスただ一人だ。愛している。俺に会いに来てくれてありがとう」
グホォォォ!!!
こいつはたまに無防備な場所にクリティカルを決めてきやがるゥ!!!
「正確には俺はゼロスに会うためにここに来たんだからな! だ! 成功すればお前が顔真っ赤になる筈だったんだからな!」
「成功すれば成功していたな。俺のシコル・ギウス。自滅してちゃ意味ねぇがな。ブフォッ」
コイツ。こんなに笑う奴だったか?
はぁ。なんだか幸せなカップルだな。
なんだかこんな光景を一度見た気がする。
そう、何時だかだっけか。
俺は幸せそうなカップルを見つめていた。
それを、俺は。
俺が顔を上げると風が舞う。
そして後ろを振り返ると、大きな白いつば広帽子。
そしてその持ち主である女の子はピンク髪ピンク目の、シコレ・ギルス?
俺がもう一人いる。そしてその左手がこちらに向いている。
俺は、何かに撃ち抜かれた。
これは、俺は、報いか。
あの時、俺はあのカップルに何も言わず銃口を向けて引き金を引いた。
判断の速さじゃない。
あれは、俺は嫉妬していただけだったのかもな。
俺は醜い人殺しだ。
ーーー
俺の中に魔物球体がある。
それは俺の中央に、これはヘカトンアームでは取り出せない。
ヘカトンの中心は俺にある。魔物球体を引っ張り出す事は出来ても、押し出す事は出来ない。
これが報いか。
俺はサイボーグの胴体部分。この状況にお誂え向きのサイボーグ体があるのを知っている。
胴体部分から生えるコールドスリープの棺。
これならば肉体と魔物球体の接触を防げる。
だが自分で解くことはできない。
そして俺がこれに耐えられるかも、未知数だ。
ゼロスに魔物球体はない。あの時のカップルのものとは違うだろう。
また判断が早いとか言われちまうかもしれねぇが。
魔物堕ちしてからじゃそれこそ遅いしな。
キャリオンクローラー計画。
シコレ・ギルスじゃないシコレ・ギース。
もう一人の俺とその写真。
全部丸投げだな。
コールドスリープはゼロスなら解けるだろう。
魔物球体は、アリアなら何か知恵をくれそうだ。
きっと何とかなる。
俺は恵まれているからな。
俺はコールドスリープの棺を呼び出すとその中に納まる。
そして目を閉じ、硬く手を握る。
意識が呑まれ、体が食われていく。
俺はシコル・ギウス。
この世界で最も恵まれたTS転生者だ。
どうか。俺を憶えていてくれ。
ゼロス、ギンガ、アレス、アレシス、アリア、そして顔だけ知ってるその他。
どうか。また会えますように。
ーーー
Tips補足。
このコールドスリープ棺はシコルの妊娠中に語られた。妊娠出産の設定変更でカットされている。
あとカップルへの嫉妬はシコルがTSだから。男にも女にもなれない自分と比べて、固定された性別の関係性に嫉妬心が芽生えた。前世は関係ない。この勘違いが多かったので補足を。




