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第29話 遅速

「シコル!」

 俺は二人、ギンガとアレスに抱き留められて意識を取り戻した。

 ゼロスが去った後の事は憶えている。

 ただその後、少しぼーっとしていたみたいだ。


「・・・やっぱりおかしいよな」

 俺は力なく呟く。それにアレスが応える。

「何がです?」

「俺が幸せになろうなんてさ」

「・・・」

「俺みたいなやつが転生して、ここに来て、人殺しちまって、あんな幸せだったカップルを死なせた。そんな俺が舞い上がってるなんてさ」

「・・・」

「ここが潮時なのかもしれねぇな。俺はもう十分幸せだった。毎日が凄く楽しかった。それで十分なのかもな」

「・・・」

 アレスは何も言わなかった。そんな俺に口を開いたのはギンガだった。


「シコル。逃げるのなら私はシコルと一緒に行くけど? 私はシコルと一緒に居る。アリアならきっと受け入れてくれる。そこでならこの幸せが続くんじゃない?」

 それは、そうだろう。

 俺とアリアとギンガの三人なら、きっと楽しくやっていける。

 ・・・。

「楽しいけど、幸せじゃねぇな」

 俺は顔を上げる。

「どうせ幸せなんて手に入らねぇんだ。いいさ。俺の変態を突き詰めてやる! ゼロスと女体の探索だ!!! 嫌だと言ったらシコリ倒してやる!!!」


「では急ぎましょう」

 俺の復帰と同時にアレスが珍しく焦りのある表情をして言葉を繋ぐ。

「いつかも言いましたが本当に死にたい人間は形態進化してしまいます。正直シコルさんよりもゼロスさんの方が心配です。シコルさん。見つけても慎重に。ここは惑星ファンタジーです。彼が、ゼロスさんがあの状態で形態進化しないのは間違いなくシコルさん。あなたが居るからです。決して迷わないでください」


ーーー


 ゼロスはすぐに見つかった。ヘカトンケイルのセンサーがあれば一発だったのだが、早い。本気で逃げるゼロスのスピードは誰も追いつけなかった。

 俺のヘカトンセンサーがあればウォールハック、つまり壁越しにゼロスの姿が捉えられる。だが追いつめようとするとその地形が、最短ルートが通れない。

 ゼロスのヤツ、これに気付いていたのか?

 俺はヘカトンセンサーのゼロスの姿に翻弄されている。目で追うせいで思考での追従が疎かになっている。

 俺はセンサーの目を閉じる。

 ゼロスの向かう先は何処だ? 最終目的地じゃない。いま、何処に行こうとしている?

 俺は目ではなく思考で追従し、ゼロスが向かうであろう小道に単発式煙幕グレネードを射出する。そしてセンサーの目を開くとゼロスが煙幕を避ける様子が見て取れた。思考での追従は成功している。

 ゼロスの動きが変わる。煙幕には突っ込まない。そのまま人通りのある道を通っている。流石に人が居る所には煙幕は撃ちこめない。ゼロスもわかっているのだろう。

 距離が縮まり城壁に近づく。

 これは誘いだ。乗るしかないな。


ーーー


「なにしにきた変態野郎。俺のケツが狙いか」

「わかってるじゃねぇか。一発入れて行けよ。それからでも遅くねぇだろ」

「ふざけるな。俺は、俺は、女を愛せねぇ。だからと言って男に走る趣味はねぇぞ」

「だったら丁度いいじゃねぇか。リハビリに付き合うって言ってんだ。ケツ向けろよ」

「・・・」

「俺はいつでもいいぜ。ゼロス。約束したじゃねぇか。ED治ったら処女はやるって。信じられねぇのかよ。証明だってしてやるさ。ベッドの上でな」

「・・・」

「なんだ? 掘ったら絶交とか最初の時の事でも気にしてんのか? 今更だろ。ベッドで寝ていたあの続きだ」

「・・・ああ。そんなことは気にしてねぇよ」

「だろ? なら一体何だってんだ? 俺が欲しくて仕方がないんだろう? ゼロス先生は」

「ああ、そうだ。シコル、お前が欲しくて仕方がない。お前を俺だけのものにしたいってな」

「なってやるって言ってんだろ」

「そこに愛はあるのか?」

「・・・」

 俺は返答に詰まる。

 これはどっちだ?

 愛があれば抱けるのか?

 愛がなければ抱けるのか?

「お前の答えを聞かせろよシコル。俺の答えじゃねぇ。お前は愛のない行為を受け入れられるのか?」

「・・・」

 俺の答え。それは決まっている。

「愛のない行為は嫌だ。そんなもんで気持ちよくなれるかよ。お前となら気持よくなるって言ってんだゼロス。お前は立てれば愛はいらねぇだろ」

「いるに決まってんだろ!!!」

 それは初めて聞くゼロスの絶叫だった。

「なんで俺は愛し合えなかった!!! なんで俺は気付けなかった!!! 俺がもう一度愛を叫べるわけねぇだろうが!!!」

 ゼロスの絶叫は続いた。その言葉は俺に届かせる言葉じゃない。それはゼロス自身に向けられていた。

「俺は空っぽで良い。もう何もいらない。そこに現れたのがお前だシコル。馬鹿な野郎だ。俺みたいなのを信じてついてくるんだからな。最初っっっからお前のケツ狙いさ。可愛かったよ。俺好みさ。やりてぇと思ったよ」

 ゼロスの俺に向けられた眼差しは憎しみすら感じられた。

「でも立たねぇ。俺はそれでいいと思ったさ。これでお前とバカみたいなオママゴトだ。それでいいと思ってたさ。だが立っちまった。お前を求めちまった。わかるか? 体じゃねぇんだよ。心が、感情が、お前を求めてる。一発やってサヨナラだ? それで終わる訳ねぇだろ」

 なんだそんな事か。

 俺はゼロスの独白を聞いてニヤニヤが止まらない。

「なんだゼロス先生も同じじゃないか」

「何がだ」

「俺も、ゼロス先生に入れて欲しかった。やられたかった」

「ッ馬鹿かッ! そうじゃねぇって言ってんだろ!」

「そうなんだよ。これからずっと、俺とゼロスで俺の女体の探求だ。これは終わらねぇ。一人じゃ出来ねぇ。俺とゼロスでないと出来ない旅だ。付き合ってくれんだろ? 俺のダンナ様は」

 俺はニヤケ面でゼロスに近づく。

「そうじゃねぇ!!!」

 そうは言ってもゼロスからは俺のダンナ様が顔を覗かせている。

「ゼロス。俺のダンナ様はそう言ってないぜ?」

 ゼロスの顔が赤く染まっている。これはもう怒りじゃねぇな。

「遅・速・で・シ・コ・ル・ギ・ウ・ス」

 俺は低速のシコル・ギウスで逃がさないようにシコリ上げる。

 ゼロスの溜まっていたものが次々と吐き出され、それは光になって消えていった。


ーーー


 俺とアレスはゼロスに肩を貸しながら帰途についていた。

 あれだけ走り回って放出すればさもありなん。

「悪いなアレス。シコルを付き合わせちまった」

「そこは気にしていませんよ。それよりも無事でよかったです」

「ああ。以後気を付けるぜ」

「・・・ゼロスさん。あなたの事ですよ。シコルさんは問題ありませんでした。鈍感なシコルさんでさえ気付くぐらいあなたの状態は酷い物でしたよ」

 誰が鈍感だ。

「ああ、俺の事か。そんなに気に掛ける事か?」

「・・・ゼロスさん。あなたはシコルさんの旦那さんですよ? あなたがひいてはシコルさんのダメージになるんです。ご自愛ください」

「お前はそれでいいのかアレス? 俺はお前が腹の中じゃ俺を殺そうとしているとばかり思っていたぜ」

「これですよシコルさん。これだから僕達変態は健常者とは分かり合えない。ゼロスさんがご自身を変態だと名乗れるのは10年以上先でしょうね」

 そこに俺が口を挟む。

「そんなにかからないぜアレス。何しろこれから女体の探求劇が始まるからな。ゼロスの変態性を暴いてやるぜ」

 そこに憮然としたゼロスが返す。

「俺の変態性はお前といるだけで知れてるだろうが。もう俺はTS好きのED詐称クソ野郎だって出回っているだろうぜ」

「ゼロスさん。浅いです。浅すぎます。変態が人の意見で左右されるというその前提が間違っています。これは一筋縄ではいきませんよシコルさん」

「確かにな。なんでゼロスみたいな健常者が俺のことを好きになるんだ?」

「俺が知るか。案外ただ体が反応しただけかもしれないぜ?」

「そんなに俺はゼロスの好みなのか?」

「さあな。それと忘れてるかもしれねぇがEDが完治したかどうかはわからねぇぞ。立っただけで使えるかどうか。これでTSに拒否反応が出ても恨むなよ。俺もTSとやったことはねぇからな」

「なんだ。ゼロス先生の初TSも俺のモノか。駄目でも安心しろよ。そんときゃ仕方ねぇ諦めるぜ!」

 俺がサムズアップをすると男二人が渋い顔をする。

「なんだよ」

 何かおかしなことを言ったか?

「うるせぇ! 立たなかったら立つまで入れ続けるぞシコル!」

「シコルさん。今のはないわー。安心しろよダンナ様♡の流れでしょう」

 あ、そうか。

「悪ぃ。自信がないのがバレちまったな!」

 俺が無理して笑顔を作ると男二人が顔を伏せる。

「おいどうした二人とも」

 男二人が妙な空気になる。

「ゼロスさん。お幸せに。でなければ殺します」

「ああ。わかってる。幸せにするさ」

 なんだ? この二人が気が合うのは珍しいな。


 ・・・もしかして俺はもう男ではなくなっているのか?


 これもTS体験の一つなのかもな。

 そして俺達は宿舎に着いた。

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