第23話 シコレ・ギルス
「私はシコレ・ギルス! とっても可愛い女の子!」
俺はそう宣言してその店を出る。
ここは072の商店街。ギンガに連れられて女装をしている。ギンガの発案でもっと女を楽しもう、という事だ。
という訳で俺はロングスカートになんかの清潔なブラウスに大きい白のつば広帽子。
ざっと見た感じお嬢様だ。避暑に来た深層の令嬢というのが俺の今考えた設定だ。
「ギンガ御姉様! ありがとう! 私も女の子を楽しんでみるね!」
俺は満面の笑みでギンガに振り返る。翻るスカートとつば広帽子を押さえながらだ。
「シコル、じゃないシコレ。危ないからもっとこっちに来て」
すっとギンガに手を引かれた俺がギンガの胸に収まる。
「ありがとう。御姉様・・・!」
俺が応えようとするとギンガの唇が俺の唇を塞ぐ。そして俺とギンガの手で抑えられた帽子が周りの視線からその光景を隠す。
「シコレ。危ないから帽子を結んであげる」
いや、この帽子に紐なんてないんだが。
ギンガの手が俺の顔を掴み更に唇を重ねてくる。
「ごめんねシコレ。この帽子は紐が無いみたい。だから両手で抱きしめる様にして持ってくれる?」
俺はギンガの言うがままに帽子を胸に抱く。
するとギンガそれを手で抑え、俺の顔が隠れるように上に上げると更にキスを重ねてくる。
「おい! 何回キスするんだよ!」
「駄目。今はシコレ。私の可愛いお人形」
「お前、この帽子に紐が無いのわざとだろ」
「うん。キスを隠すのに丁度いいの」
これ以上キスされてたまるか。
俺は紐無しつば広帽子を被り直すとギンガの盾にする。
「御姉様。素敵な帽子をありがとう」
それを聞いてキスの体勢に持ち込もうとするギンガを両手で抑えた帽子で牽制する。
「御姉様。今日は風が強いから離れてくださる? 危ないから」
少し散歩しているとゼロスの姿が見えた。
「マスターゼロス。お久しぶりです。遠くから遊びに来たシコレ・ギルスです」
「よく来たなシコレ。次は何の遊びだ?」
流石ゼロスは対応が早いぜ。
「はい。女の子の探求でギンガ御姉様に良くしてもらっています」
俺はさっきから抱きすくめようとしてくるギンガを帽子の影から牽制しながら答える。
だがなんだ? 帽子で視界が遮られているのにギンガの動きがわかる。何かに目覚めちまったのか俺は?
「シコレ。良くしてあげるからこっちにおいで」
しびれを切らしてギンガがさりげない抱擁から言葉からの懐柔に切り替える。
「イヤ、ですわ。危険な時はマスターゼロスの方が安全ですもの」
そういって俺は片手で帽子を押さえながら、もう片方の腕をゼロスに絡ませる。
「ウフフ。まるでデートみたいですわね」
「まさか目覚めたわけじゃねぇよなシコル」
「違ぇよ。目覚めないための女の消費だ。知らないうちに色んなものが溜まってそうなんだよな。この女の体にな」
「だったらいいが魔物堕ちは避けろよ。お前だけじゃなくてな」
ゼロスの視線でギンガの姿が見える。平静を装ってはいるが目がギラついている。
こっちは流石に気付かなかった。
俺はゼロスの腕を離して帽子を胸に抱く。
それを了承ととったギンガに路地裏に連れ込まれると、それこそ俺はお人形にされてしまった。
やっぱ女の子扱いされてると俺のギンガ分が増えねぇな。ギンガには悪いがこれは俺の趣味じゃねぇな。
ようやくギンガから解放された俺はたまたま見つけたアレスの元へ向かう。
それにしても紐無しつば広帽子は手を封じるには丁度良すぎだな。ワイヤーでもかけておくか。
「アレスお兄様。私の出立はどうですか? 可愛いですか?」
アレスに声を掛けると難しい顔をしている。
「今の私はシコレ・ギルス。深層の令嬢ですわ」
そう言ってふわっと一回り。スカートが広がる感覚が気持ちいい。
「駄目ですねこれは。まったく僕に刺さりません」
「そんなにか?」
「はい。見た目じゃなく魂が違う。僕はシコルさんじゃないとシコレませんね」
そんなに変わっているのか。
「・・・そっか。わたしじゃ可愛い格好なんて似合わないしな」
ぞわっと音が鳴るように影が走る。これはアレスのお鎮鎮だ。
「シ・コ・ル・さんーーーーー♂♂♂」
「悪ぃ! 今のは素だったでシコル・ギウス!!!」
「僕を萌え死にさせる気ですかぁぁぁーーー♂♂♂」
しまった。オネが可愛い格好をして『わたしには似合わないよね』シチュエーションは流石に刺さっただろう。
荒い息を吐くアレス。
「真正面からバックスタブを入れてくるのは止めてください」
「悪ぃ。今のは完全に素だった。でもな、お前もだ。完全に興味無さそうにするからだぜ」
「完全無防備からの急所の一撃を食らわされた僕の身にもなってください。わかりました。次は興味がなくても可愛いと言う事にしましょう」
「ああそうしてくれ。流石の俺も落ち込むぞ」
「それ気に入ってるんですか?」
「ああ。この帽子を手で抑えてロングスカートを翻す奴。これ凄く良いな。俺も好みじゃねぇけどやってる分には楽しいぜ」
「シコルさんが着る分には何も問題ないんですがね。さっきのシコレは別人でした」
「そっか。俺というよりこの体をイメージして作ったキャラだからな。俺を完全に消してシコレ・ギルスという女の子になりきっていたぜ」
「少し怖いぐらいに消えていましたよ。あのサイボーグ腕を思い出していました」
それで怖い顔をしていたのか。
「お前がそこまで言うって事はそれほどかよ」
俺は返事を返しながらヘカトンケイルを呼び出す。いい加減帽子を押さえているのが面倒くさい。つばの端をヘカトンアームで抑える。
「はい。もしもシコルさんが消えるような事があった場合は、この体を切り刻みますよシコレさん」
アレスが俺の顔を両手で包んで宣言する。視線は俺を捉えているが俺じゃない何かを見ている。そんな感じだ。
「そんなにメス堕ちが嫌かよ。そっちは俺の趣味じゃないから安心しろ。ギンガのお人形も、俺が気持ちよくなれねぇしな。女扱いはやっぱ違ぇわ」
それを聞くとアレスが後ろから俺を抱きすくめてくる。
「シコルさんが幸せならそれでいいんですよ。でも不幸せなら、僕は逆NTRを敢行します。僕のオネショタは崩壊して、僕がシコルさんを略奪します」
俺は振り返るが帽子でアレスの顔が見えない。
「その時はシコルさんを僕の鞘にします」
「おい!? あのアレス・カリバーンの鞘にする気か!?」
「はい。シコルさんが鍛えたお鎮鎮ですよ。鞘もあなたで作るのが最適では?」
「まてまてまて! それはお前の魔物堕ちの副作用だろう!?」
「もうこれを止められるのはシコルさんだけでしょう。オネショタ以外の全てをシコルさんに捧げる。それは嘘でも冗談でもない。必然です」
「お前な。流石にそれは・・・!」
帽子をどけてアレスに文句を言おうとするとそのアレスの顔が落ちてきて俺の唇を塞ぐ。それが離れるとアレスが晴れやかな表情で言葉を続ける。
「ただ、それはシコルさんのバッドルートの話ですよ。シコルさんがシコルさんでいる限り、僕は自分でシコります。シコルさんは安心してお鎮鎮の探求を続けてください」
「お前って俺にキスするときはお鎮鎮が動かねぇのな」
「本気の告白で立ち上がる方がおかしいでしょう」
確かに。
「アレス。お前はお姉ちゃんであるわたしに甘えすぎだゾ。こんな甘えん坊なおこちゃまアレスじゃ、わたしは安心してお嫁にいけないゾ」
俺の体がお鎮鎮ライドォォォ!!!
「お姉ちゃんがお前如きに好きにされると思うなよ! わたしはいつだってお前のお姉ちゃんだ!」
俺の言葉にアレスが言葉にならない咆哮を迸らせる。
そして俺はアレス・カリバーンを握るとそれを軸に回転する。
「生意気な弟は生イキでシコル・ギウス!!!」
「僕を殺す気ですかァァァーーー♂♂♂」
なに言ってやがる。これで堕ちるようなアレス・カリバーンじゃねぇだろうに。
「やっぱりアレスお兄様と居るときはシコレ・ギルスでいる方が安全ですわね。お兄様。さっさと立ち上がって下さいまし。そっちの方はもう立ち上がらないでしょう?」
まったく手のかかる奴だ。




