第11話 サイボーグ少女
「サイボーグだ!」
ジリ貧の俺達にようやく援軍が来た。城壁の外からバーニア炎をなびかせたサイボーグ少女だ。黒のツインテをなびかせて戦場にインしてくる。
太もものバーニア推進で両手両足の先に延びるレーザーブレードが輝く。
「凄ぇな。あんなのあるのかよ。ジョブはサイボーグか?」
「いえ、あれはソルジャーでしょう。あの手足が召喚魔法とみましたね。回復が効くのは胴体部分。フィジカルアップは控えた方が良さそうです」
俺の呟きにアレスが答える。
「わかるのか?」
「予想ですけどね。あの手足は回復が効かないという事はわかります。何より中に手足がない。肉体は胴体のみ。この世界で肉体の欠損は考えられません。ソルジャーに自身の手足と交換で呼び出せる武器があると聞きましたがそれでしょう」
「って事は俺でも出来るのか!?」
「出来ると思いますが、シコルさん、アレを使いこなせそうですか?」
アレスの視線の先にはミノタウロスにまとわりつくサイボーグ少女が居る。攻撃は散発的だ。安全圏からレーザーブレードを入れて回避に専念している。それにつられて魔物の一部がサイボーグ少女を追いかけている。あのレーザーブレードも固体ではなくバーナーみたいなものだな。当てても動きが鈍らない。
完全にタンクだ。俗にいう回避タンク。いくら空が飛べるとはいえ敵の只中を掻い潜る姿は気持ちよさよりもお鎮鎮が縮み上がりそうだ。
「くっ! 流石に付与で強化しても無理か! ケツに火がついて飛び回るとか無理だ!」
俺はサイボーグ少女のケツを追っかけている魔物を狙っていく。ヘイトがないならレーザーライフルは強いな。何よりタンクが落ちるのはマズイ。
「ですが回避タンクはヒーラーにとってありがたいですね。今のようなジリ貧状態なら尚更です」
「ありがてぇけどケツに火が付き過ぎじゃねぇか? 落ちたらリカバリーがきかねぇだろ。単騎運用するジョブか?」
「確かに。彼女一人はおかしいですね。カバーも援護もなしであそこまで切り込むものでしょうか?」
「だな。一発食らわせてみるか」
俺はミサイルグレネードを召喚すると大声で叫ぶ。
「ミサイルグレネード撃つぞぉ!!! 避けろよぉ!!! 上から来るぜぇ!!!」
ーーー
「ちょっと! 何してくれんのよアンタは!」
ケツにミサイルグレネードの爆風を受けたサイボーグ少女がやってきた。
「単騎突撃はアブねぇぞって言いたかった」
俺の返答を聞くとサイボーグ少女が顔を真っ赤にして怒り出す。
「ふざけてんのアンタ! こっちはギリギリだってのに余計な事して! もうMPが空なのよ!」
「あ? 尚更駄目じゃねぇか。死にに来たのか?」
「そうよ! 最後に一華咲かせに来たのよ! 悪い!?」
おいおい。
「悪いわ! 死にたいなら他所でやれ他所で! お前のせいで突撃する所だったじゃねぇか!」
「誰も頼んでない! あたしはここで、イツッ!」
威勢が良かったサイボーグ少女の手足が消えていき、生身の手足に戻る。
そうなるのか。
へたり込む元サイボーグ少女の腕を引く。
「タンクが抜けて敵がこっちに来ているんだ。臍を曲げてる場合じゃないんだが?」
「動かないのよ! うまく動かせないの! もうほっといて! あたしはここで死ぬの!」
それで自暴自棄か。
「フィジカルアップストレングス!」
俺が振り替える間もなくアレスの声が響くと自身の筋力強化をしているようだ。そのままアレスがサイボーグ少女をファイヤーマンズキャリーで担ぐ。
「置いていってよ! 足手纏いの役立たずでしょう!?」
「うるせぇ! わかってるなら暴れんな!」
「本当に死にたいなら!!!」
!? 急の怒鳴り声はアレスか。
「本当に死にたいならあなたはとっくに形態進化しています。僕はアレス。あなたは?」
「ア、アリア」
「アリアさん。お荷物は発言しないでください。僕達の邪魔です」
凄ぇな。あのじゃじゃ馬が一瞬で大人しくなった。
ーーー
「シ、シコル。助けて・・・」
ん? 声の主を探すとさっきのサイボーグ少女のアリアだ。名乗った覚えはないが聞いていたのか。
「手足は動くようになったのか?」
こちらに手を伸ばそうとするアリアの手が震えているが動いてはいる。
「大丈夫だから、ここから降ろして・・・!」
なんでこっちに? と思ったが少し怯えている。
ああ。アレスが怖いのか。
「アレス。アリアが苦しそうだ。降ろしてくれ」
アレスから降りたアリアはふらついてはいたが俺が支えれば歩けそうだ。
「行けそうか?」
「あたしなら大丈夫。大丈夫だけど、掴まらせて」
「素直じゃねぇな。何するとそんなガクガクになるんだよ?」
「サイボーグの使い過ぎよ。もう動かないかと思ったけど荒療治が効いたみたいね」
そういうとアリアはブルっと身を震わす。
男に触られて危機感かよ。随分と安い荒療治だな。
「生身に纏わせるんじゃだめなのか?」
「そんなの飛べないわよ。反応速度もあるけど単純に痛いでしょ。サイボーグ部分は痛覚が無いから」
え、マジか。
「あたし、生身の手足の過剰なフィードバックが駄目なのよね。動かないんじゃなくて繋ぎたくなかった。今ならわかる」
心因的なものか。使徒の体なら肉体的な不備はないだろう。
「あたしは、サイボーグ体という新しい体に形態進化したかったのよね。別に死にたいわけじゃなかった」
「ああ。無茶すりゃサイボーグ体に形態進化できたかもって話か」
「・・・言葉にするとバカみたいね。ありがと。死ななくてよかったわ」
「気にすんな。それよりも俺もサイボーグを使ってみたいんだがお勧めはあるか?」
「悪いことは言わないからやめた方がいいわ。手足の感覚がなくなって発狂する子も多いから。そういう経験はある?」
「まさにあったぜ。グレを口いっぱいにいれたオーガに巻き込まれて手足が吹き飛んだ。痛みすらなかったからなー」
「アンタ。それに恐怖を感じないなら逆にやめた方がいいわね。あたし以上に戻れなくなるかも」
「じゃあ生やすのはありか?」
ここが俺の一番の興味処だ。
サイボーグお鎮鎮の可能性は如何に!
「あるけど難しいわよ。自分の髪の毛に神経を通すようなものだもの。そして存在しない器官だからフィードバックも勿論ない。気付いたら自分に刺さっていてもおかしくないような代物よ」
・・・存在しない器官は駄目か。
「素直に外骨格がいいかもね。サイボーグには遠く及ばないけど安全性はピカ一だしね。あ、それと精神崩壊したくないなら胴体は止めた方がいいわよ。これに耐えられるような人間ならもう形態進化済みでしょうね」
「聞けば聞くほどサイボーグヤバくね?」
「当ったり前でしょう。手足の交換なんて時点であたしみたいな特別な人間じゃないと無理なの。あたしの戦い見てたんでしょ? アレが出来るとは思わないで。あんなことができるのは、あたしだけだから・・・」
また落ち込んでしまったな。
アリアは自信家ではないな。無理無茶無謀も今だけだ。
・・・答えは簡単だな。一人でできない戦い方で自暴自棄となれば仲間を失ったのか。
死ぬか形態進化するか。それぐらいに追い込まれていた。
この状態で魔物堕ちしないだけでも大したもんだ。
「アリア。銃は使えるか?」
「引き金を引くだけなら」
不安しかないが俺はアリアにスリングをかけると斧ブルパップを召喚して渡す。
「ええ、何これ?」
アリアがブルパップのマガジンに右手の指を掛ける。左手がトリガーに。
マズイ。これはマズイ。間違いなく味方を誤射する奴だ。
俺はさっとスリングを外すとアリアの持つブルパップが消える。
「ちょっと!」
俺はアリアの抗議を無視する。
「オーケー。もう走れるか?」
「足は大丈夫よ。ソルジャーなんだから銃も出せるわ」
「MPは温存だ。三歩下がって付いてきてくれ」
冗談じゃねぇ。あの構えじゃハンドガンさえ危ないぞ。
ーーー
「あたしたちの母艦。アレグシオンよ!」
アリアの声に目を向けると魔物に開けられた城壁に船の舳先が突っ込んでいる。
それが蓋になっているのはわかるがどういう状況だぜ。
船の方も戦闘をしているようだ。外の魔物を食い止めているだけの状態か。
「サイアーム、ジョイント。サイレッグ、ブーストジョイント」
アリアの召喚魔法だ。腕が消えて肩口からジョイントのようなものが生えている。足はバーニアにランディングギアが着いただけの簡素なものだ。
「シコル。あたしは船に戻る。あそこならこれに繋げる武器があるからそれで戦える」
アリアがジョイントになった腕を揺らす。
「それ不便じゃないのか?」
思わず感想が俺の口を付く。
「まさか。腕なんてない方が楽なのよ。こっちが本当のあたしの姿。それじゃあね。シコル。サイボーグに興味が湧いたらいつでも相談に乗るわよ」
「ああ。その時は頼むぜ」
「任せて。ただアンタはサイボーグとの親和性が高すぎるかも。使う時がきたらこれを思い出して。自分と機械の境目を忘れないで。絶対に胴体はサイボーグ化しない事。恐怖がないぶん呑まれるときは一気に食われる。もう一度言うわ。機械に飲み込まれて体を食われる。自分と機械の境目を忘れないで。これを思い出してね。それじゃ!」
▽
Tips
アリアのサイボーグ足はバーニア。姿勢制御用の小型スラスター。
純粋な推進機ではない。
人型であれば推力は十分な上、推進機は高熱で生身の肉体が耐えられない。




