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【天貫き空駆ける蛇王】其の肆

「着きましたね。この国の最高峰――ダク山脈に」


 目の前にそびえる山々を見上げる。

 緑があまり見当たらない、ゴツゴツとしている。

 そしてここは山と山の間、谷だ。


「俺は行きたくないんだけどなぁ」

「我の上でそんなこと言わないで欲しいワン」


 そう、俺とミリアは現在、クロに乗って移動している。

 始めは歩いて移動していたが、それでは全然目的地にたどり着けなかったからだ。


「本当にこの先が”秘境”なんでしょうね」

「噂で聞いたぐらいだワン」

「違ったらシバキますよ」

「なぁ、そもそも秘境ってどういう場所のことを言うんだ?何か基準とかはあるのか?」

「えーっと……カオス様はそもそも、この世界についてどこまで知っていますか?」

「俺は最近こっちに来たばか――」


 話している最中、俺は岩肌に魔物を見つけた。

 赤い蛇の魔物。

 完全に俺たちをロックオンしている。


 道中何度か魔物と遭遇したので対処には慣れた。


「――魔物だ!距離は⋯⋯まだある!構えろ!」


 しゅるしゅると岩壁を移動しながらこちらに向かってくる蛇には、一切の迷いがない。


「初めて見る魔物ですね。恐らくこの土地固有の魔物かと」

「俺が出る」


 ”影断刀アビスブレイド”を取り出しながら、蛇のもとへと跳躍する。

 谷を吹き抜ける風を感じながら、着地。


「syaaaaa!!」

「五月蝿い音だ――な!」


 勢いよく襲いかかってきた蛇を斬る。

 そして返す刃でもう一度。


「「「syaaaaaa!!」」」


 背後に気配を感じ振り向くと、そこには十を超える量の様々な蛇がいた。

 中には人の太もものサイズのものもいる。


「いや、さすがに多すぎだろ」


 こんなに蛇って群れるもんだったか?

 道すがら何度か魔物に襲われたが、ここまでの数はなかった。

 食べ物とかはどうしているんだろう。

 魔物だからそこらへん違うのだろうか。


「「「zyaaaaa!!」」」

「バカ正直に凸ってきても、俺には当たらんぞ」


 ――一閃。


 俺の放った一撃で、そこにいた蛇のほとんどが絶命する。

 飛びかかってきた蛇がボトボトと落下する。


「次で終わりだ」


 足元を強く踏み込み、鋭く連撃を放つ。

 この武器の効果――暗黒断絶により、為すすべもなく蛇たちは地面ごと切り裂かれた。


「やっぱチートなんだよな、この能力。どれだけ硬い鱗で守られていようが切れちゃうし」


 ブン、と影断刀を振り抜くと岩が半分に切れる。

 断面を見ると綺麗な平面になっていた。


「でも勇者みたいな猛者もいるし、油断は禁物かな」


 慢心をしないと心に誓い、暗黒武装アビス・ギアを解除する。

 その場を後にし、クロたちと合流する。


「見事な戦いぶりだったワン」


 身体能力フィジカルとチート能力のゴリ押しだったので褒められてもあまり嬉しくはなのだよ、クロ君。

 かといって技術を身に着けようとも思わないが。


「それで、どれぐらい進めば着くんだ?」

「”秘境”なので、かなり奥の方まで進まないと――あ、何か見えてきたワン!」


 谷の最奥の岩肌に、大人一人はいれそうな穴が空いているのを発見した。

 その奥は暗闇で中がどうなっているか分からない。


「穴?なんで?」


 ――と俺が首をかしげていると、ミリアが説明してくれる。


「文献にはこのような入口の”秘境”もるらしいです。」


 並の人間では立ち入ることすらできない地、入口が岩壁に空いた穴。

 ”秘境”とは一体なんなんだ?


「お、お邪魔しま~す」


 恐る恐る足を踏み入れた穴の中――そこにいたのは、先程の比ではない巨体の蛇だった。

 とぐろを巻いたままこちらを睨み、瞳孔がキラリと開く。

 次の瞬間、俺は反射的に飛び退いた。


「syaaaaaaaa!!」

「――フッ!」


 蛇の頭部が、さっきまで俺がいた場所を叩き潰す。

 薄暗いが、動きは十分に見える。


 デカいだけか?そんなもの俺のチート能力(暗黒断絶)の前では関係ない。

 刃に闇を宿し、その首めがけて一気に切り込む。


 ――が。


「な――!?」


 刃が届く直前、蛇の体が音もなく横へ()()()、俺の死角へ滑り込む。

 気がつけば、俺と蛇の距離はゼロになっていた。

 

 ――間合い。

  『間合いを制すものは戦いを制す』という言葉がある。

 俺はこれまで、魔物相手にそれを意識したことはなかった。

 速さと身体能力だけで、ただ刀を振れば勝てたからだ。


 だが今――俺は、蛇の間合いの中にいる。


 ばちゅっ。


 牙が腹に突き刺さる。

 肉が裂ける感触はあるが――


「痛……くない?」


 確かに牙が肌に食い込んだ感覚はあるがさほど痛みはない。

 すぐに斬れば――。


 胴体を切り裂くと、血を撒き散らしながら崩れ落ちた。

 勝った――


 はずだった。


 その口元から垂れる、半透明の液体を見た瞬間、視界がぐらりと傾く。

 耳鳴りがして、心音が自分の頭の中で爆音のように響く。

 指先の感覚がなくなり、刀の重さすらわからない。


「ど、く……か……」


 蛇の巨体の横に倒れ込む。

 息が吸えない。声がまともに出ない。

 さっきは慢心はしないと誓ったばかりなのに――滑稽だな。


 このまま植物人間になったりしたらどうしようか。

 一生自分の体も動かせず、元の世界に帰る方法もわからないまま死んでいく俺。

 無様だ。


「主!ご無事ですか!」

「カオス様!そんな!そんな……」


 クロとミリアが駆け込んでくる。

 ごめんな、二人共。

 こんな俺のせいで、迷惑かけて。

 折角ここまで一緒に来てくれたのに、俺の慢心で全て台無しだ。


 ついに瞼を開く力さえなくなり、俺の視界が闇に包まれる。


「主!気をしっかり保て!」

「息はまだあります!”万能治癒”!……ダメ、効かない」


 この世界に来てから、いろいろあったなぁ。


「何か手はないのか?」

「ここには医療道具もないから、私じゃ何もできない」


 クロと出会って、この世界の厨二病ぶりに驚いて。


「貴様!それでも聖女なのか!?」

「昔の話よ。それより何か、何か手はないの――!?」


 ミリアと出会って、勇者と戦って。


「我が麓の街まで運ぶ。お前は――」

「無理よ。ここの蛇は”秘境”固有種。そんな辺境の街に解毒剤なんてあるわけがないわ」


 三人で楽しく過ご――。


 ――え?


 俺は何を考えているんだ?

 俺の目的は、さっさとこの世界から脱出すること。

 だったら死ぬわけにはいかない。


 ふざけるな。

 ここで、こんな所で――!


「ふふ、こんな所で君たち何をしているんだい?」

「ッ!?貴方は?」

「ここのヌシに会いに来た、ただの一般人だよ。……そこに倒れている彼、連れかい?今は気分がいいから、助けてあげるよ」


 俺はもう、諦めたりなんかしない。

 ――絶対に、生き伸びてやる。

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