【天貫き空駆ける蛇王】其の壱
梟の鳴き声が響く森の中、王都から脱出した俺たちは闇から地面に降り立つ。
「危なかったけどなんとかなったな――クリアか。よし」
『聖女を救うことができました。
【堕ちる祈りの先には】はクリアです。
クリア時間/2:24:10
報酬/聖女”ミリア”が仲間に加わる
総評/A』
『通知/
クエストをクリアしたので質問回数が二回追加されます。
現在の質問可能回数/2』
ようやくクリアか。
報酬は――聖女が仲間に加わる?
いやいやおかしいおかしい。
だって聖女は勇者パーティーのメンバーだぜ?
そもそも俺はこのクエストが終われば彼女を王都に戻してバイバイする予定だった。
聖女のいない勇者パーティーなんてネットの使えないスマホと同じじゃねえか!
それにゲームだからと前回は気にしなかったけれど、クエストクリアの報酬で”誰かを仲間にできる”のはおかしいよね?
そもそもクエストって何よ?
『はい。この世界において”クエスト”とは、一種の”道しるべ”です。
発生条件はランダムであり、プレイヤーの行動を制限・規定するものではありません。
また、報酬も固定ではありません。
クエストの結果、人物が仲間になることがあっても、それは世界の強制力などではありません。
クエスト後に報酬と判断されればそれが報酬になります。
ただし、主な報酬はランダムで生成される武器、遺物、魔道具、魔導書などのアイテムです。
なお”質問回数の追加”はそれとは別に処理されます』
あっ、やべ。
自問自答のつもりが、ミスって世界に質問してしまったぁぁぁ!!!!
ま、まあ何か有力な情報があるかもしれないし?
見てみる価値はあるかもだし?
決してやらかしたわけじゃないし?
えーっと、なるほど、クエストはランダムで開始されるのか。
ということは何だ?
王都に行った時、別の行動を取っていればさっきのクエストが発生しなかったということか?
報酬も、誰も仲間にならなければランダムでアイテムが生成されるのか。
ということは総評によっては出てくるアイテムの貴重度とか変わるかもしれない。
とりあえずこの世界の行動は決まったシナリオに従っているわけではないってことが分かっただけでも安心かな。
仲間に加わるってのも、あくまで自分の意思しだいというわけか。
いやー、なるほど聖女も自分の意思で俺の仲間に加わったということか〜。
そうか〜。
⋯⋯え?
なんで?
いやいやいやいやおかしいおかしい。
だって聖女は勇者パーティーのメンバーだぜ?
聖女が勇者と喧嘩していたのだってあれは好意から来たものだろう?
「あ、あのぉ、そろそろ降ろしていただけませんか?」
何か小さな声が聞こえたので顔を下に向ける。
――あ。
すっかり聖女をお姫様だっこしていたことを忘れていた。
俺の顔が真っ赤になるのが分かる。
なんとか謝ろうと口を開くが――
「⋯⋯すまん」
たった一言かよ!
勝手に聖女様をお姫様だっこしておいて、一言!
なんて俺は不器用なやつなんだ。
もっとちゃんと謝らないと⋯⋯
口を開こうとして閉じる。
ダメだ。
俺は女性と会話できない。
しかもこんなに綺麗な人なんて見たことがない。
透き通るような白い肌。
さらさらの美しい金髪。
全て癒やすかの穏やかな碧眼。
心なしか顔が赤いかのようにも思えるが、それは怒りによるものだろう。
⋯⋯って俺はなんでこんなにジロジロ見てるんだ?
そろりと彼女を降ろし、そそくさと距離をとる。
罪悪感で穴があったら入りたい気分だ。
「主、どうしたワン?」
訝しげに犬が訪ねてくるが、今はそれどころではない。
「く、クロ、その子を連れて一度どこかに行っといてくれ!」
そう言い残し、全速力で森を駆ける。
暗いせいで前がよく見えないが、力技で走り続ける。
なんか途中に魔物がいたが、それどころではない。
翼の生えたゴブリンなんかより俺のメンタルの方がよっぽど大事なのだ。
「うわぁっ!」
夜の湿った地面に足をとられ、たたらを踏む。
ビークールビークール。
あ、座れそうな倒木発見。
「ふぅ⋯⋯」
よし、少しずつ落ち着いてきた。
そうだ、確かもう一度ウインドウに質問ができるはず。
早く知っておくに越したことはないし、気になることを何か聞いてみるか。
現時点での疑問をまとめると、主に以下の通り。
一つ目の疑問は、俺はどうしてこの世界に転生したのか。
二つ目の疑問は、この世界からの脱出方法。
三つ目の疑問は、この世界は一体何なのか。
四つ目の疑問は、クエストのフラグを誰が決めているのか。
五つ目の疑問は、”暗黒無双”というゲームのコンセプト、テーマ、ジャンルについて。
六つ目の疑問は、ステータスというものがこの世界にあるかどうか。
「思ったより聞きたいこと多くね?」
そして今すぐにでも必要な情報は二つ目と五つ目の疑問。
「ぶっちゃけこの世界の仕組みとか興味はあるけど知ったところでどうしようもないんだよなー⋯⋯」
まず大事なのはこの世界から脱出するための情報。
そもそも俺が一度元の世界で死んでいれば脱出なんてものはできないし、費やす労力も無駄になる。
もう一つ知りたいのは、この世界での俺の行動の指針を決めるのに必要な、”暗黒無双”の詳細について。
このゲームがオープンワールドゲームなのか否か。
アクションゲームなのか戦略ゲームなのか。
もしこれがストーリーのあるゲームだったら俺の選択ミスでバグからの奈落ダイブもあり得る。
「どちらを質問するべきか⋯⋯」
しばらく悩んだ末、”元の世界へ帰還する方法”を聞くことにする。
よし、じゃあ⋯ウインドウ君、この世界から元の世界に帰る方法、教えてくだせえ!
『はi。RΣ:fa1|ed→∴∇熱Z:†qL_カワ9◎*≒]~エNδ
9bボワ碧ヲrェス`
0̸a∑_..d#ッ…──▧▧s://re:†††NO_末ESP』
「え――?」
――――俺の目の前に現れたウインドウに記載されていたのは、読むことのできない謎の文字列だった。
*・*・*・*・*
「よし、聖女、お主は今日から我を先輩と呼べ」
「なぜペット枠の貴方を敬わねばならないの?」
「我はペットなどではない!偉大なるカオス様の忠実なる下僕なのだ」
「そう。カオス様は素晴らしい御方だというのは全力で賛同するわね」
「お!お主見どころがあるな」
カオス様⋯⋯あの方だけが私を理解してくれる。
勇者なんて私を”役割”としか見ていなかった。
でもカオス様は違う。時に冷たく、時に暖かく、私を助けてくれる。
私をお姫様だっこしてくれた時も、ちょっと恥ずかしかったけれど、嬉しかった。
傷ついた私の心を癒やすかのように包んでくれた。
あぁ、もっと彼の近くにいたい⋯⋯!
でも、彼が私を見てくれなくなったらどうしよう?
いやだいやだいやだいやだ!!!!
あの人のためなら、命だって賭けられる!
だからお願い。私を見捨てないで。