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【堕ちる祈りの先には】其の肆

 暗闇の中、幾度も火花が舞う。

 剣を薙ぐと、それに合わせ勇者が飛び退き、彼のいた地面に斬撃の跡が残る。

 だが、どれだけ勇者の回避が巧みでも、俺の間合いはこの暗黒に包まれた世界の全て。

 俺が手を宙にかざすと、現れた黒い竜の顎がその体を捉え、食いちぎる。


「クッ――!?」


 先程と立場が入れ替わった光景の中、俺は粛々と勇者に攻撃を加え続ける。


「ぐ、お前ら!」


 剣聖と賢者に助けを求める勇者だが、その二人は彼を助ける余裕はない。

 隙をつきその意識を刈り取る。


「ガアァ!!!」


 周囲を見るとそこで闇に紛れ込みながら鋭い爪による攻撃を放っていたのは――。


「これが虎狼族――」

「魔法が当たらないッ!」


『詳細説明/

 暗黒武装:虎狼族クロ

 ”夜獣奏ノクタルフ

 闇の帝王に忠誠を誓う夜獣に与えられし力。

 戦闘に適した肉体に変化する。

 能力:黒天円舞

 自身の体を周囲の闇と同化させる』


 俺と同じように暗黒武装を使えるようになったクロが、周囲の兵士を切り裂きながら剣聖と賢者を圧倒している。

 その光景は、まさに圧巻の一言だった。


「クロ!賢者を殺れ!」


 俺の”幽影移動ファントムウォーク”を妨害しているのは賢者だ。

 その賢者さえ倒せれば、余計な手間をかけずにクエストをクリアすることが可能になる。

 なので勇者は殺さない。

 それに下手に勇者を殺しかけて覚醒シナリオにでも入られたら再び形勢逆転されるかもしれない。

 油断せず、己のできる全力を持って目的を遂行する。

 これが分かったのが大きな収穫だろう。


 しかし流石は勇者パーティーの賢者と剣聖といった所か――。

 クロの猛攻も連携して対処している。

 爪による攻撃も剣聖がその剣技で防ぎ、賢者が後方から魔法で援護する。


 だがいかんせん分が悪い。

 剣聖の放つ美しい一撃も、賢者の撃つすさまじい魔法も、当たらなければ全く意味を為すことはない。

 加えてクロの暗黒武装の能力”黒天円舞”は俺の魔法”影幻展界アビトス”と同じように間合いの概念を覆す。

 闇と一つになったその肉体に攻撃は当たらず、あらゆる方向から致命の一撃を繰り出せる。


 今もまた、賢者の背後に出現し、その体を牙で貫く。

 華奢な肉体から鮮血が舞う。


「ノワール!」


 クロの闇に呑まれる賢者と剣聖の視線が交錯する。

 剣聖が手を伸ばすが、その腕は空を掴むことすらできなかった。

 地面に転がった剣聖の片腕を横目に、俺は剣についた血糊を払う。

 隙だらけだ。


 よし、聖女以外の勇者パーティーはこれで全員倒せたかな。


 戦闘不能になった勇者と剣聖をそのまま放置して、建物の影に隠れていた聖女の前に立つ。

 そして肩を掴もうとして、俺は手を止める。

 彼女は――泣いていた。


 それもそうか。

 彼女の恋人を傷つけられ、仲間の賢者も殺されたのだ。

 その涙を見ると、なんだか罪悪感を感じてしまう。


 ダメだ流されるな。

 ここはゲームの世界。

 俺はさっさと脱出しなければならないのだ。変に同情などする必要はない。


 ん?

 そういえば俺が追い詰められた時、傷を回復してくれたのは誰だ?


 周囲を見ても人影らしい人影はいない。

 前を見る。

 聖女がいる。違うな。彼女が俺を助けるハズがない。


 やはりあれは回復魔法――だったよな?

 まあいいか。

 さっさと脱出してクエストをクリアせねば。


 そこで俺はあることに気がつく。

 俺は女性を触ったことがない。

 元いた世界でももちろん彼女はいなかったし、高校、大学、社会人になってからは、まともに話したことだってない。


 一体どうやって攫えばいいのだろうか。

 ズタ袋にでも入れて運べばいいのか?

 生憎手元にはないが。

 かといって雑に扱うのも躊躇ってしまう。


 ⋯⋯どうしよう。

 無難なのはお姫様だっこ。

 この体なら難なく持ち上げれそうだが、羞恥でどうにかなってしまいそうな気がする。


 ⋯⋯。

 ええいままよ!


 彼女の背と膝裏にサッと手を伸ばし、持ち上げる。


 やばい。すごくいい香りがする。

 体もなんだか柔らかい。

 いや、ダメだ。なにもやましいことは考えてはいけない。

 俺はクールな誘拐犯。

 勇者を倒しヒロインを攫う悪役に徹する必要がある。


 とはいえ、発動していた”影幻展界アビトス”を放置していくのもあれなので解除する。

 俺はクールで自分の後始末はしっかりする誘拐犯。

 闇に包まれた世界が霧散し、ガヤガヤと町の喧騒が聞こえるようになる。

 

 ”暗黒纏ダークアーマー”は――まあこのままでもいいか。

 クロを近くに呼び、三人まとめて移動するイメージで”幽影移動ファントムウォーク”を使う。

 行き先はあの森。

 どのみちクエストをクリアしたら解放するつもりだが、周囲が騒がしいと面倒事が起こりそうだからだ。


「撤退だ」


*・*・*・*・*


「我、魔王なり」


 一人魔王城の部屋でポージングをとっていると、扉がノックされる。


「入れ」

「失礼します。重大な報告があります」

「すぐ帰って来るなんて何かあったのか?」

「勇者フォースがシャド王国の王都で倒されているのを発見しました」

「なんだと?あの勇者フォースが、だと?」

「はい。そして剣聖ヴァールガンも恐らく同じ者に、倒されていました」

「おいおいマジかよ」

「さらには賢者ノワールは死亡、聖女ミリアは誘拐されたと情報が入っています」

「え、勇者パーティーがやられたのか?ってことはボクもうあいつらに殺される心配なくなったじゃん。誰がやったか分かる?」

「東の桜楼院や彼岸組の可能性はゼロです。聖国やインフェルノ帝国は動くメリットもないようですし、ヴェールも最近は動いていないので、主要な勢力が動いたわけではないかと」

「うーん、レンジの奴らは逆に勇者が欲しいだろうし、確かにそうかもなあ。勇者を倒せる新興組織か。調査しといて。勇者の警戒はひとまず解いてもいいかもね。いやー、良かった良かった」

「承知いたしました。それと魔王様」

「どした?」

「素が出ています」

「――あ」


*・*・*・*・*


「何?勇者が敗北?」

「どうやらそうみたいだね」

「今代はあのフォースだろ?負けたのか?」

「勇者パーティーは全滅した模様」

「へぇ。面白いじゃん」

「しかも相手は不明だそうで」

「となると新興勢力か。Sランク持ちの可能性は?」

「勇者パーティーは全員Sランクレベルの実力者たちなのをお忘れかな。各クランも動いたという情報もないようだし」

「いいね。ちょっと見に行ってくるわ」

「まったく君ってやつは本当にブレないね。今は桜楼院との抗争中だってのに」

「あんな爺ども、俺が出る必要もねえだろ。じゃあ後はよろしく」

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