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【堕ちる祈りの先には】其の参

「く、クハハハハハハ!まさかこんな形で会うことがあろうとはな。かの伝説の存在と――!!」


 ――へ?


 目の前で高笑いをする勇者を見ながら俺は困惑する。

 だって勇者だぞ?

 人類の希望だぞ?

 それがこんな厨二病上級者だと誰が想像できるだろうか。


「どうせこれから魔王を倒しに行くのだ。その前座としては丁度いい。相手をしてやる。おいノワール!賢者の魔法でこいつらが逃げれないようにしておけ」

「任せて。”転移妨害”」


 賢者の声と同時に魔法陣が足元に形成される。

 参ったな。

 ”幽影移動ファントムウォーク”で楽に聖女を攫おうとしたのに、駄犬のせいで全て台無しだ。

 勇者という未知数の実力を持った相手。

 それほど悠長にしている余裕はないので俺も剣を召喚し構える。


「ほう、それがあの”暗黒武装アビス・ギア”か。面白い!」


 その言葉と同時に鋭い一閃が走る。

 その一撃を剣で流し、カウンターを放つが読まれていたのか避けられる。

 こいつ――これまでの相手とは一線を画す実力者だ。


 主に痛さの方で。

 どうしてあんな『面白い!』とかキザで痛いワードを言えるのかが俺にはさっぱり理解できない。

 適当にそれっぽいことを言い残し斬撃を放つとかベタすぎる厨二病患者だろ。


 もちろん戦闘能力もそれなりにあるようだ。

 凄まじい速さで繰り出される剣技の数々。

 これにはさすが勇者と言わざるをえない。


 一旦間合いを外し、距離を取る。

 勇者の攻撃もすさまじかったが、俺の体もまた驚異的なスペックを持っていた。

 膂力、体力、身体能力、反射神経。

 勇者相手に俺のような半引きこもりの人間が戦えていることからそれらの高さは一目瞭然だ。

 それに俺はまだこの”影断刀アビスブレイド”の能力”暗黒断絶”を使っていない。

 勇者を殺す?

 そんなことしたらどうせ騎士団なんかから狙われるのがオチだ。

 やだよ指名手配されて『あいつは何者だ?』みたいな展開になるの。


「なるほど、流石は闇の帝王。一筋縄ではいかないな」


 ニタリと勇者がその整った顔に笑みを浮かべる。


「だが俺にはとっておきの力がある。この剣は”勇者乃剣ルクス”といってな。歴代の勇者たちの想いが蓄積された業物なのだ。そしてこの剣の能力で歴代の最強とされる勇者四人の力を俺は自在に扱うことができる」


 出たよゲームあるある最強装備、勇者の剣。

 どうせ引っこ抜ければ勇者と認められるとかそんな設定だろう。

 能力は確かに強そうだが、そもそも最強が四人いる時点でおかしくないか?

 一番強くなければ最強とはいえないはずだ。

 明らかな矛盾、さすがクソゲー。

 俺が呆れている間に勇者が剣を突き上げる。


「霊光憑依”風凰シルフィード”――!!」


 突如勇者を中心に暴風が発生する。

 風が渦巻き、勇者に全て収束し、碧いオーラが彼を纏う。


「行くぞッ!」


 鋭く踏み込み距離を詰めてくる勇者。

 音すら置き去りにするような斬撃が目の前の空気を切り裂く――。

 咄嗟に回避することに成功するが、次に放たれた斬撃に体が反応する事ができずもろに食らってしまう。


「痛――ッ!?」


 遅れてやってくる痛覚。

 腕に視線を向けると、パックリと傷が開いており出血していた。


「余所見を――する余裕は――あるのか――!?」


 一瞬の隙をつかれ、連撃が俺を襲う。

 四肢を切り裂かれたせいで、思い通りに体が動かなくなる。

 俺の体が硬直した刹那、溜めをつくり剣を薙ぐ。

 剣を突き出し、その一撃を流すことに成功するが、手首が衝撃によりあらぬ方向に曲がる。

 なんとか間合いから逃れようとするが、勇者は俺にピタリと引っ付き距離を取ることは許されない。


 死のイメージが頭にちらつく。


 これが歴代最強といわれる勇者の力か――。

 強すぎる。

 俺は温存していた体力を使い、なんとか僅かな時間を稼ぐ。

 その限られた時間の中、俺は剣を構え、静かに呟いた。


「――暗黒断絶」


 それは、ありとあらゆるものを断つ力。

 手加減をしている余裕はもうない。

 勇者の死?面倒くさい?

 俺は生きて元の世界に戻りたいんだよ。

 たかがこんな所で死ぬわけにはいかない。

 最強の力を解放し、再び向けられた刃を防ぐ。


 しかし俺の刃は相手の武器を破壊することはできなかった。


 それもそうだ。

 俺の両腕はすでに使いものにならない。

 暗黒断絶の力で当てるだけで勇者の攻撃を弾くことに成功したわけだが、俺に次を防ぐ余力はもうない。


 ――本当にそうか?

 何か、この状況を打開できる方法は――


「血に濡れし者に救済を――”万能治癒”!」


 ッ!?

 どこからか声が聞こえ、俺の体中の傷がなくなる。

 痛みと怪我で動かすことのできなかった体が軽くなる。


 誰だか分からないが助かった。

 このチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 剣技だけで勝てる保証がない?

 なら魔法を使えばいいだけだ。


「――暗黒纏ダークアーマー


 欠損していたコートを影で再生する。

 イメージするのは、最強の防御力を持った防具。

 そして俺の知っている最強の存在は――。


 ――昔見たこのゲームのPVが頭に浮かぶ。

 あの痛々しいロングコートを着ていた主人公は、その映像の中で敵を屠り続けるまさしく最強の存在だった。

 厨二病だろうがなんだろうが、使えるものは使うしかない。


 己のプライドを捨て、創り出したしたコートを身に纏う。


 さらに俺は念には念を入れ、別の魔法を使う。

 俺が使える魔法はウインドウの表示によると3種類。

 ”幽影移動ファントムウォーク”――移動系魔法。

 ”暗黒纏ダークアーマー”――防御系魔法。

 そして――


影幻展界アビトス


 何をイメージすればいいのか分からないが、これまでのパターンから、闇や影にまつわる魔法のはずだ。

 ならば厨二病な想像で魔法が使えるはずだ。

 闇、漆黒、影、血、竜――とにかくなんでいいので想像する。

 他には厨二病なワードはないか?


 何か黒っぽいもの――夜!


 その瞬間、足元の――建物の壁の――夜の王都の――闇夜に広がる影がざわりと生物のように蠢く。

 闇が空間そのものを侵蝕しながら俺たちを包み込む。


「暗黒よ――全てを呑み込め」


 なんとなく頭に浮かんだその一言を唱えた直後、闇の世界が現れる――。

 なんとか魔法は成功した。


「な――!?なんだこの魔法は――」


 勇者が初めて、顔を強張らせる。

 もうここは俺の世界。俺のフィールドだ。


『魔法説明/

 魔法名:影幻展界アビトス

 範囲展開型の闇属性魔法。

 深淵を呼び、影を操り、夜を生み出す。

 その範囲内であれば想像したあらゆる事象を闇で創造することができる。

 消費魔力量は非常に多い。

 また、闇属性魔法の威力強化及び消費魔力量の減少効果もある。

 相克属性:光、炎』

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