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【堕ちる祈りの先には】其の弐

 王都の路地裏を駆け抜け、聖女を探す。

 道中邪魔になったローブを脱ぎ捨てたので、少し肌寒い。

 いったい聖女はどこに行ったんだ?

 何か彼女を探すのに使えそうなものは――。


『詳細説明/

 ”魔法”

 この世界では超常的な力が使える技術”魔法”が存在します。

 魔法は様々な種類があります。

 現在、プレイヤー”カオス”の使える魔法は

 ”幽影移動ファントムウォーク

 ”暗黒纏ダークアーマー

 ”影幻展界アビトス

 です。

 また、魔法は魔導書や修行、研究で習得したり開発したりすることができます。』


 ウインドウが表示される。

 厨二病要素その②。

 痛すぎるネーミングの魔法。

 制作者もよく考えたものだと少し尊敬しながらその効果を確認する。


 まずは”幽影移動ファントムウォーク”から。

 だが、いざ使おうとしたその時、俺は重大なことに気がつく。

 魔法ってどうすれば使えるんだ?

 適当に呪文でも唱えればいいのか?

 いや、ステータスが見れなかったように何も起きなければ恥ずかしい思いをすることになる。

 なら何かポーズをとれば――ってそれも恥ずかしいか。


「魔法があるならば魔力もありそうな気がするんだよな」


 魔力を操作して、魔法を使ったりできないかな。

 ただその魔力もあるかどうかすら分からないんだよなぁ⋯⋯。

 幽影移動は一旦置いといて、”暗黒纏ダークアーマー”を確かめる。

 これは名前のまんまな気がするけど――。


 脳内で影を纏うことをイメージしたその瞬間、俺の足元の影がグニャリと揺れた。


「お?いける?」


 そのままグニャグニャと影の形を変え、自分の体に纏わせる。

 イメージするのは先程まで着ていたローブ。

 痛い意匠をなくし、シンプルなデザインにする。


 これはいい。

 着心地もいいし、寒さもなくなった。

 イメージで魔法が使えるのであれば、幽影移動も場所さえ想像することができれば、使えるのでは?


 早速あの犬と出会った森をイメージしてみると、影が俺を包み込み、視界が黒一色になる。

 そして次の瞬間には移動していた。


 成功だ。これで移動が楽になったと思わずガッツポーズを決める。

 だがこの魔法はどうやら行ったことのある場所にしか行けないようで、聖女のいる場所に行けるわけではないようだ。

 聖女のいる場所を見つけなければ、クエストはクリアできそうにない。

 ひとまず人が少ない王都の外へ出て情報を集めるか。


 しかしどうやら、この時の俺は浮かれていたようで、後で後悔する行動を取ってしまう。

 それも思い出すだけで悶え苦しむような。

 かなりカッコつけて、決めポーズを取りながら言った。

 言ってしまった。


幽影移動ダークアーマー(キリッ)」


 闇に包まれる俺。


 完全に油断していた。

 深呼吸。俺は正常だ。俺は正常だ。

 もう二度と同じような過ちは繰り返さない。


 よし、と顔を上げるとそこは王都の少し外れだった。


「主よ、遅かったではないかワン」

「お前まだいたのかよ」


 なんとそこには、いらないから好きな所にでも行け、と放置しておいた犬がいた。

 扱いが雑?だって所詮ゲームだし。

 だがタイミング的にはちょうどいい。


「よし、犬、俺を乗せてくれ」

「あ、主が、我の背中に⋯⋯ワン?」


 なぜかうるっとした目で確認をしてくる犬。

 コイツと話していても疲れるだけなので無視してそのままその背に乗る。


「よし、聖女を見つけたいから手を貸してくれ」

「やったぜ!主が頼ってくれた⋯⋯あ、ワン」


 犬。

 お前ワン忘れてんちゃうぞおい。

 あと厨二病設定どうした。

 故意にやってんのなら話は違うぞ。


 ――と、犬は自分のミスを誤魔化すかのようにグッと地面にかがみ込み、そのまま一気に王都の上空へ跳躍する。


「たっか⋯⋯」


 一瞬で王都の夜景が一望できる高さまで到達する。

 澄んだ空気を感じながらじっと目を凝らすと、王都を挟んで反対側に鎧を着込んだ兵士たちが集まっているのが見える。


「おい犬、あそこに行ってくれないか?」

「任せろワン」


 ふわりと地面に着地し、再び跳躍する。

 しかし今度は上ではなく、前に向かってだ。

 建物の屋根を次々と足場に、周りの風景を置き去りにするような速さで町を駆け抜けてゆく俺たちは、あまり人に見られることもなく目的地に近づいていく。

 この犬の体毛が黒いおかげだな。


 今まで気づかなかったが、この犬、かなりスペックが高い。

 洗練された美しい巨躯を覆う手触りの良い毛並み。

 そして軽々と空まで跳躍できたようにその身体能力は圧倒的だ。

 加えて知能もそこそこある。

 厨二病な喋り方をすることに目をつぶればかなり有能なのではないだろうか。


「犬。なんか今まで雑に扱ってごめんな」


 自分でもすごく現金な奴だと思いながらも謝罪を口にする。


「問題ないワン。主は我を助けてくれたワン。だからどんな扱いをされようとも我は主に仕え続けるワン」


 傷ついているはずなのに素直に許してくれる犬を見て胸が痛くなる。

 そもそも俺がこの犬を助けたのだって、クエストをクリアするためだ。

 それを恩と勘違いして懸命に俺を支えようとしてくれるのはなんだか申し訳ない。


 俺の存在についてもちゃんと話した方がいいのか?

 暗黒無双、クエスト、ゲームクリア、転生。

 分からないことだらけが、現状何をすればいいか分からない以上誰かの協力は必須だろう。

 とりあえず少しでも仲を深めるためにも自己紹介をする。


「なあ犬、俺の名前まだ言ってなかったよな。俺の名前はカオス。よろしくな」


 俺の目的についての詳しい説明はこのクエストが終わってからでもいいだろう。

 それを言ってしまえばもうこの犬は俺に付いてくることはなくなるだろうが、もやもやとした気持ちを抱えたままよりかは全然いい。


「なんと、主の名はカオスというのかワン!すごくいい名前だワン。我の名はクロ。虎狼族の最後の生き残りだワン」

「分かった。これからはしっかりクロと呼ぶことにするよ」


 カオスは適当にその時の俺の感情を名前にしただけなのだが、褒められるのも悪くないな。

 虎狼族の最後の生き残り、ね。

 出会った時も兵士たちに囲まれて傷ついていたようだし、何か訳ありか。

 しばらくお互いのことを話しているうちに、目的地へと到着した。


 この辺りで一番高い屋根の上から見下ろす先には、一人の少女と彼女を問い詰める勇者。

 そして兵士や剣聖、賢者たちの取り巻きが二人を囲っていた。


「ミリア、どうして俺をいつも避ける。幼馴染の俺達の仲だろう」

「い、いやです。貴方は私の肉体、能力、そして聖女というブランドしか見ていない。私――ミリアとしての性格や人柄、個性を全て否定してきたではないですか!」


 なかなかの修羅場だな。

 本当は彼ら自身で解決するべきで、邪魔をするのは野暮というものだろうが、俺とクロは二人の間に割り込む。


「誰だお前たちは?」


 勇者が剣を抜き、俺に突きつける。

 周りの取り巻きも一斉に気を引き締め、俺たちを警戒する。


「俺は――」

「こちらにおわすお方は我が主にして闇の帝王、カオス様にあらせられる。そして我は忠実なるカオス様の下僕――虎狼族のクロだ」


 俺の話を遮って、クロが痛すぎる設定で名乗る。


 重要なことなのでもう一度言う。痛すぎる設定で名乗る。


 闇の帝王ってなんだよ。

 語尾もワンがなくなっているし、やっぱりこいつ重度の厨二病だわ。

 せっかく普通に会話しようとしたのに、この駄犬が余計な邪魔をしてくれたせいで頭痛がする。


「なんと、闇の帝王だと!?」

「く、なんと禍々しい気配、間違いない、確かに闇を統べる伝説の――!!」

「まさかあの虎狼族を従えているとでもいうのか!?」


 厨二病ワードにすぐに食いつく周りの取り巻きたち。

 やはりこの世界の住人は全て病を患っているのだろうかか。


「私のことは放っておいて逃げて!これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないの!彼には誰も勝つことはできないわ――!」


 おい聖女。

 変なフラグ立てようとするなし。

 いや、流石に俺の目の前にいる勇者はそうではないはずだ。

 頼むよマジで。




「く、クハハハハハハ!まさかこんな形で会うことがあろうとはな。かの伝説の存在と――!!」




 ――へ?

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