まさし 9歳
小学3年生になって1学期が過ぎ、もうすぐ夏休みがはじまる。
「おい、まさし。お前くさいんだから2学期は学校に来るなよ」
帰りの会が終わった直後、田沼が言い放った。
女子たちがクスクス笑っているのが視界の端っこに映る。
僕は田沼を無視して荷物を背負い、学校を出た。
僕がくさいって?あいつはなにを言っているんだ。馬鹿じゃないのか。
周りに人がいないことを確認して、着ていたTシャツの首元をつかみ顔をうずめ、自分のにおいを嗅いでみる。
くさくなんてないじゃないか。
あれ、でも自分のにおいって自分じゃわからないんだっけ。
でも誰からもくさいなんて言われたことないぞ。みんな言わないだけで本当は僕くさいの?
頭の中がぐるぐるする。どうすればいいんだろう。
帰ったらお母さんがいた。
「おかえり、まさし。1学期お疲れ様。楽しかった?」
楽しかった?と聞かれたときの返答で楽しかった以外の選択肢はあるのだろうか。
「うん。毎日最高だったよ」
僕がくさいのかどうか、お母さんに聞きたかったけど、聞けるわけがなかった。
本当にくさいとしてもお母さんはくさくないよと嘘を言うと思ったし、何よりもこの質問がお母さんを悲しませることは小学生の僕でも何となく予想がついた。
しばらくは夏休みだから学校に行かないで済む。田沼に何か言われることもない。
夏休みは家族で旅行にも行くし、楽しみなことがいっぱいだ。
なのに頭がずっとぐるぐるしている。
夏休みが終わったら僕はどうなるんだろう。
学校には行きたくないけど、行かないのは負けた気になるし、何よりもお母さんが悲しむ。
授業だって嫌いじゃないし、田沼以外のクラスメイトは普通に接してくれるから大きな問題はない。
きっと僕は何事もなかったように学校に行くけれど、はじまったばかりの夏休みが終わるのが怖くて仕方がない。
子供のころに浴びせられた心無い言葉ってずっと傷として残ったりしますよね。吐き出したいのに相談できないこと、誰でも1つや2つあると思います。
みなさんが楽しい日々を送れますように。