第九話 悪の影
食品フェスタは開催された。
招待状を手に訪れる関連企業や料理研究家なども行き来している。
奥田商事のブースも盛況だった。
「それじゃあ、頼んだよ」
企画部係長・猪瀬満は、若い社員・スタッフに任せて会社に戻った。
派遣スタッフの千秋と京子が笑顔で商品説明をしている。
「派遣の二人、優秀ですね」
広報の由紀恵が、亮に接近し、話しかけた。
気になり間に割り込む真奈美。
「石清水さん、仕事が終わったら、打ち合わせでも」
「そうだね」
考え込む亮、思いついたように、
「みんなで食事会にしようか、派遣の人たちも一緒に」
二人きりになりたいのに……やや、不満そうな顔をする真奈美だった。
会場の灯りが消える頃、一同は居酒屋で食事となった。
「こんなところでよかったかな?」
と、派遣の千秋、京子に話しかける亮。
「私たちまで誘っていただいて」
「フェスタ終了まで、お世話になります」
亮の微笑みに、うっとり顔の千秋と京子だった。
その後、カラオケ店に移動する。
真奈美と由紀恵がマイクを奪い合いながら、一つの曲を交互に楽しそうに歌っていた。
その時、千秋のスマホにメールが届く。
メールを読んで、表情が曇る千秋。
「社長から?」
京子が耳元でつぶやく。
それまで明るかった二人の様子が変わる。
その変化に気づいた亮。
「どうかした?」
「いえ、なんでも」
千秋と京子は、作り笑いで内心を隠した。
フェスタ二日目、千秋は別の会社を担当することになったらしい。
「急で申し訳ありません。代わりのスタッフを手配しますので」
そう言って、高田は別のブースへ行ってしまった。
「せっかく仲良くなれたのにね」
「え、ええ」
真奈美が声をかけるが、元気のない京子だった。
亮は、京子の様子がおかしいと察知している。
着替えをしてきた京子。
「よろしくお願いします」
仕事が始まると京子も笑顔で来場者に応対していた。
千秋は、食品メーカーで大手の河東食品に勤務先を異動していた。
ブースで、千秋を指導する高田。なぜか辛そうな千秋の顔。
「わかっているね」
高田が千秋の耳元で小さく言った。
休憩時間、スタッフの休憩室に千秋と京子がいた。
人目を避けるように、物陰に隠れた。
千秋は泣いていた。なだめる京子だった。
その様子を亮は見ていた。
その日の終業時間になった。
「今日もみんなで」
亮が京子を誘った。
「すみません」
と、立ち去ろうとする。
「あの~」
京子は立ち止まる。
「なにか心配事でも?」
「え?」
「困ったことがあったら力になるけど」
「いえ、大丈夫ですから」
京子は悲しそうに去っていった。
(大丈夫じゃなさそうだけど)
「夕飯、食べに行きます?」
真奈美が近寄ってきた。
「ごめん、ちょっと」
亮は歩き出した。残念そうな真奈美。
会場の出口にタクシーが停まる。
別のブースで見かけた派遣スタッフが、そのブースの社員とタクシーに乗り込む。
若い女性スタッフと部長クラスの中年男性。夜の街に遊びに行く雰囲気。
その様子を不自然に見ている亮がいた。
次の日もフェスタは賑わっている。
休憩中の京子に声をかける亮。
「お友達は?」
「千秋ですか?」
「来ているの?」
「今日は休んだみたいで」
「体調でも?」
「私たちの会社、色々とありまして」
「色々?」
「すみません。聞かなかったことに」
京子は逃げようとする。
「あ、一つだけ……どこの会社のブースに代わったんだっけ」
「河東食品ですけど」
千秋は部屋で引きこもっていた。
が、会社から電話がかかってくる。
相手は高田だった。かなり怒っている。
「どうなっているんだ。イベントが終わるまでが勝負だ。社長の怖さを知っているよな。前の担当のように逃げても、追いかけ捕まえる」
千秋の頬に涙が流れる。
「その体を使って本人から聞き出す。無理ならスマホのデータを盗む。とにかく、指定した情報をつかんでこい」




