第七話 強さの秘密
夜、奥田家に灯りが灯る。
亮は、梨緒と部屋にいた。
(二人っきり……なぜだろう? どうしても意識してしまう)
「ねえ、亮?」
梨緒は、甘えた声で言った。
「ん?」
「なんか、食べに行こうか?」
梨緒は亮を夜の街に連れ出した。
(都会の夜を、恋人気分で寄り添い歩くなんて)
梨緒は、亮の横顔を見た。瞳がウルウルとしている。
(私たち、どう見えるのかな?)
都会のざわめきも、飲食店の匂いも、きらめくヘッドライトも、亮と自分だけのもののように思えた。
梨緒は、手をつなぎたいとさえ思う。実の弟であることを忘れて歩きたかった。
が、恋人気分もここまでだった。
五十嵐が目の前に立っていた。
「クビにしやがって」
殺気を感じる。
怯える梨緒に比べて、亮はかなり冷静だった。
「自業自得では?」
亮の一言で、五十嵐は決意した。
(殺してもかまわない)
「ただですむと思うなよ」
五十嵐の背後に、人相の悪い男たちの姿があった。
「五十嵐さん」
梨緒の体が震えている。それを亮は知っていた。梨緒の肩に手を添える。
「思い知らせてやる」
「逃げて」
亮が梨緒の耳元で囁いた。
「でも」
ためらう梨緒。亮を残して逃げるなんて……。
亮は一瞬怖い表情をみせるが、すぐに柔らくなり、
「大丈夫、中学時代は短距離選手だったんだ」
と、噓をつく。
「逃げられるから、弟を信じて」
安心感のある顔だった。
「わかった」
と、梨緒は背を向け走り出した。
男は「待て」と追いかけようとするが、
亮が、足を引っかけ倒す。
「ヤロウ」
「僕は どうなってもかまいませんから」
急に弱気な態度に出る。
五十嵐は満面の笑み。
「いいだろう。ついてきな」
夜の街は、華やかな風景に彩られている。
そこに梨緒の姿。息を切らせて走ってきた。
(助けを……亮が……)
周囲を見回した。
誰もが自分のことしか考えていない様子で、救いを求めることができない。
そこへ研吾が派手な容姿の女性を連れて歩いていた。
(あの人に、助けを……)
「あれ?」
と、梨緒に気がつく。
「知り合い?」
と、女が研吾に訊ねる。
「じゃないけど」
と、ごまかすが、
「なんか様子が変じゃないか?」
研吾と女性は、梨緒に近づいた。
「どうかしました? 顔色が?」
「助けてください」
「え?!」
「弟が……悪い男たちに」
(弟って……)
「携帯を忘れて持っていないんです。警察に……」
「この人を頼む」
と、研吾は女に梨緒を預けた。
「ん? うん」
「俺が行きます。場所は?」
その頃、亮は男たちに囲まれていた。
「許してください」
亮は怖がっている様子。
「土下座をしろ」
五十嵐は勝ち誇ったように命令した。
少しの時間が過ぎ、研吾が走ってきた。
そこでは、男たちが倒れている。
一仕事終えたような様子で立っている亮、今度は余裕の表情で、顔に傷一つつけられていない。
「あれ研吾? なんで?」
(さすが……心配することもなかったか)
腹を痛そうに抱え、五十嵐が膝をついている。
「闇社会の最大勢力、霧獣会<ミストビースト>を敵にするつもりか?」
にらみを利かせる亮。
「闇……最大勢力……敵になんて……すみませんでした」
五十嵐は頭を下げた。
男たちは傷だらけで立ち上がる。
「話が違うじゃねえかよ」
男たちは五十嵐を睨む。
「会社にも近づくな」
亮が叫ぶと、震えあがる男たち。
亮と研吾は、惨めに逃げていく男たちを見ていた。
「派手にやったようだな」
「なんで、ここに?」
「偶然、おまえの姉貴に……むこうは俺のこと知らなかったけど」
「で、姉貴は?」
「大丈夫、俺の連れと一緒だから」
「よかった。どこで恨みを買うかわからないからな」
「それだけケンカが強けりゃ、怖いものなんて」
「ケンカじゃねえ、スポーツだ」
「相手をあんなにボコボコにしてスポーツねぇ……でも、地下格闘家らしい」
お互い笑っている。
(地下の格闘技場……俺は、そこで強くなった)
亮は、記憶を再生した。
少年院時代、亮は周囲からいじめられる存在だった。
周囲に溶け込めず、一匹狼といった態度に反感をもたれていた。
かといって、ケンカが強いわけでもなく。
顔を殴られ、蹴られる毎日。
その時、助けてくれたのが、黒木勝也だった。
勝也も新しく入ったばかりで仲間もいなかった。
「そのくらいにしておきな」
「なんだ、新入りが……おまえもこうなりたいのか」
男たちが勝也に襲いかかるが、簡単にたたきのめしてしまう。
拳と足蹴りの連続で、演武のようだった。
亮は、勝也の戦いに見惚れた。
「なんで、そんなに強いんですか?」
「地下闘技場にいたから」
「地下で格闘技?」
亮の瞳が光った。
勝也は、亮の瞳に光を見た。
「ここを出たら、行ってみるか?」
亮は、少年院の収容期間を終えると、勝也から預かった手紙を手に、地下闘技場・【 Z up A <ゼットユーピーエー>】(下から這い上がり頂点にのぼり詰める)を訪れた。
リングの上で、ほぼルールなしの格闘が行われていた。
打撃技、寝技、反則技、柔術や中国拳法まで、武器を使わなければなんでもありといった戦いで、男たちは熱戦を繰り広げていた。
技と技のぶつかりあいに、観客も熱狂している。
(すごいな)
亮は激しく命がけの試合、本物の戦闘というものを観て感動した。
「おまえか、勝也の知り合いというのは」
黒い眼帯をした男が声をかけてきた。
名前を、番条岳矢。
「俺も強くなりたい」
「なぜだ」
「やりたいことが……かなえたい夢が……いや、夢なんてきれいなものじゃない。野心……野望……その先にあるものを、この手につかみたい」
「気に入った。その目の輝きを、買おうじゃないか」
この男のもとで修行が始まった。
逆さづりの腹筋、高所の綱渡り、激流の水泳、岩を背負っての山登り、山中で熊やイノシシを素手で倒した。
いくつもの過酷な課題を乗り切った。
亮の心の奥に眠る野心が、潜在能力を引き出したのだろう。
特訓を終え、リングに立つと、連戦連勝の試合をした。
そして、ここでミストボックスの存在を知ることにもなる。




